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紅き剣と蒼き盾の物語(コミュ障魔王と残念エルフの救世サーガ)  作者: 困ったちゃん
第40章 それぞれの道が見えてきます
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第413話 殲滅の死神、再び

今回は、久しぶりに戦闘シーンがあります。

(3月5日のままです。)

  指揮官は、ゴロタの質問を無視して、自分の持論を滔々と述べている。ゴロタは、爺いの演説には興味がない。近くにいた、若い将校に狙いを定めた。


  「あなた達が拐って行った女性達は、どうしたのですか?」


  ピンポイントで威嚇をかける。


  「ヒッ!女どもは、全員死にました。」


  周囲にいた将校が、驚いた顔で若い将校を見た。こいつ、何、正直に喋ってんだ、という顔だ。若い将校は、小便でズボンにシミを作りながら、全てを話した。


  定期的に食料調達で集落を襲った時、若い女は片っ端から拐ってきた。最初は、指揮官と将校達の慰みものになり、次は下士官、兵長と下げ渡される。新兵の所に来た時には、精神がおかしくなっていて、完全用済み後は、殺されて埋められたらしい。


  流石に、小学生の低学年らしい子の時は、まずいなと思ったが、無理矢理押し込んだ。この子は、下士官の所に行く前に死んでしまったらしい。


  今夜あたり、また集落を襲い、10人位の女を拐ってくる予定だったらしい。聖騎士隊は、全く脅威ではなく、逆に女性聖騎士隊員は、標的にしてきたらしい。勿論、殺さずに連れ帰るためだ。


  「陛下、陛下はたったお一人でここに来て、無事に帰れると思っておるんですか。」


  指揮官は、哀れみの目でゴロタを見ている。ゴロタは、少しだけ『威嚇』の範囲を広げた。


  「貴方の名前を聞いていませんでしたが、貴方はどなたですか?」


  「儂は、中央フェニック帝国のドメイン伯爵じゃ。」


  あえて、ゴロタ帝国と言わないのは、ドメイン伯爵の意地だろう。


  「後、お貴族様は何人いるのですか。」


  「少佐以上の上級将校は、皆、準男爵以上の貴族じゃ。」


  「皆様が亡くなられると、今、貰っている年金が無くなってしまいますが、それでもよろしいのですか?」


  「何を言ってる、死ぬのは貴様だ。」


  ゴロタは、『威嚇』を解除した。『威嚇』で動けない相手を倒すのは、どうも好きになれない。


  皆が、一斉に襲いかかってきた。ゴロタは、背中の『オロチの刃』を左手で抜刀すると同時に、目前の相手の左肩から右腰にかけて切り下ろした。


  直ぐに両手で握って、脇の男の胸を突き刺す。その刀を抜き様に、背後の敵の首を落とした。


  後は、もう殺戮の嵐だ。『瞬動』で、位置をずらす。刃の届く範囲の敵は、生きてはいられない。明鏡止水流の極意、『閃風の舞』だ。


  決して止まらず、決して急がない。水が高きから低きに流れるように、自然の摂理に逆らわず、心は常に平静にして、荒ぶらない。


  『オロチの刃』の刃体が赤く光っている。全ての物質を切り裂いている。敵の刃と鎧と胴体を、二つに分けていく。


  ゴロタは、1キロ四方のシールドを張っている。敵の侵入を防ぐためではない。全員を殲滅するために、逃がさないようにするためだ。


  ドメイン伯爵は、初めて自分が何を相手にしているかを知った。人間ではない。人間の皮をかぶった魔物だ。それも飛び切り強力な。ドメイン伯爵は、単独、南の方に向かって細い街道を逃げていた。2分程走ったところで、何か目に見えない障壁に、思いっきり衝突してしまった。鼻をいやというほど打ち付けてしまい、鼻の骨が曲がって鼻血が噴き出ている。はるか後方では、部下たちの断末魔が聞こえている。ドメイン伯爵は、初めて恐怖を感じた。


  ゴロタは、ゆっくり歩いて南の方に向かった。北の方向へ逃げていった兵士たちは、イフちゃんに頼んだ。イフちゃんは、体長30m程のイフリートの姿で現れ、片っ端から兵士たちを紅蓮の炎で焼き尽くしていく。人が死ぬときの苦痛や恐怖それと阿鼻叫喚は、イフリートの最も好む所だ。


  ゴロタは、目に入る兵士や将校たちを次々と餌食にしていく。真っ赤に焼けた刃で、心臓を突き刺す。心臓は、瞬時に活動を停止するが、傷跡が火傷で塞がってしまい、血は噴き出さない。


  そのまま、ドメイン伯爵を追い詰めていく。ドメイン伯爵は、木の陰に隠れて震えていた。ゴロタは、静かに質問をした。


  「ドメイン伯爵、あなたの爵位をこの時点で剥奪します。これから、残りの人生を生きていきますか。それとも死を選びますか?」


  ドメイン伯爵は、恐怖の顔から瞬時に生気が戻ってきた。


  「わ、儂を許してくれるのか?命だけは助けてくれるのか?なら、これから何でも言うことを聞くから、命だけは助けてくれ。」


  「目の他に、両手がいいですか?両足がいいですか?」


  ドメイン伯爵は、キョトンとした。この若者は、何を言っているのだろうか。ハッと気が付いた。生きて行くということは、このまま生きて行くということではない。目をつぶされ、両手か両足のない不具として生きて行くと言うことだと。


  「待て、待ってくれ。なんでもするから、それだけは勘弁してくれ。」


  「返事がないようなので、両方にします。」


  ドメイン伯爵は、目玉が消失した。そして、自分のそばには、今まで自分の肩に付いていた両腕と。太ももの付け根からの足が両方とも切離されてしまった。地面に転がったドメイン伯爵は、芋虫のように這いずり回るしかなかった。


  ゴロタは、ドメイン伯爵をシールドの外に蹴飛ばして放り出してから、『飛翔』スキルで空に浮かび上がる。どんどん浮かび上がる。1000m位上空まで行ったところで、ミニ太陽を地上100m位の所に生じさせた。この地方は、今は、残暑が厳しい季節だが、ミニ太陽のせいで、ものすごく暑くなっている。ゴロタは、ミニ太陽を圧縮していく。どんどん圧縮していく。もうすべての物質が、素粒子に分解され、新しい物質に生まれ変わろうとして、膨大なエネルギーを発生させた。シールド内に存在するすべての生き物も同様の運命となってしまった。生き残ったのは、シールドの外に放り出されたドメイン伯爵のみであった。


  地上6000mまできのこ雲が立ち上り、シールド内の火球はいつまでも消えることがなかった。ゴロタは、火球の熱エネルギーを吸収して、全てを収束させた。地上には、1キロ四方の広さで、深さ50メートルほどのくぼ地が出来上がった。


  ゴロタはくぼ地の真ん中に、深い井戸を掘った。穴から、地下水が吹きあがってくる。きっと、このくぼ地は沼のようになるであろう。


  ゴロタは、ドメイン伯爵を、中央フェニック州の旧皇帝居城、今の太守館に『転移』させた。目は見えないが、耳と口は大丈夫なのだ。太守直属の司法官に取り調べさせることにしたのだ。


  太守館では、消息が分からなかったドメイン伯爵の無残な姿に、パニックになっていた。ガダリロ宰相以下、閣僚達はゴロタ皇帝陛下の真の恐ろしさを再認識していた。『殲滅の死神』の二つ名が、何故付けられたか、その理由が納得できたようだった。


  その後、サウスミカエル町に戻ったゴロタは、ザビエールさんに『もう、脅威は無くなった。』と伝えた。この町からも、南の空が明るくなり、きのこ雲が上がったのが見えたので、きっと何かしたのだろうとは予想していたが、まさか、侵略部隊が壊滅いや消滅したなどとは思いもしなかったようだ。


  この日の夜、ザビエールさんと一緒に夕食を食べたが、フランはザビエールさんに食事のマナーなどについて口うるさく小言を貰っていた。いつまでも『爺』は『爺』だった。


  次の日、大司教国の首都にある大聖堂を訪問する。現在の大司教ジェリーちゃんに会いに行く。もう22歳にもなる女性をいつまでも『ちゃん』づけもできないが、最初からジェリーちゃんだったので、その呼び方が出てしまう。ジェリーちゃんは、久しぶりのゴロタとの再会に、尻尾を振って喜んでいたが、南部地方の異変について教えてあげると、顔を曇らせていた。


  今は、大司教国聖騎士団の副団長をしているお兄さんのトム君と聖騎士団長それに帝国の宰相に相当する司教長らが一堂に会して、今後の大司教国について、討議することになった。


  ゴロタは、シルフを呼んだ。このような会議は、シルフの知識がなければうまい解決方法などあるわけがなかった。シルフは、いくつかのプランを出したが、一番、この国の在り方としては、『永世中立国宣言』を出すことだった。


  大司教国は、必要最小限の軍備しか有せず、自衛のための戦争しか交戦権を有しない。


  大司教国は、どの国の勢力にも加担せず、あくまでも宗教上の権威のみを神の御心のためにのみ行使する。


  大司教国は、諸国の公正な信義に基づき、その存続をゆだねるものとし、永久平和を希求する。


  この宣言には、付帯文がついており、大司教国に侵攻する国及び戦闘集団は、ゴロタ帝国に宣戦布告をしたものとみなし、ゴロタ帝国は、あらゆる平和的解決を拒否し、『殲滅』による解決を求めるものとする。


  これにより、大司教国は、独立国でありながら、敵国や今回のような私兵による侵略に対して、ゴロタ帝国と協力して排除することとなったのである。


 まあ、現在、ゴロタの知る範囲で、ゴロタ帝国に反旗を翻す国はないはずなので、大司教国の平和は維持できるだろうと思う。この際なので、いくつかの提案がシルフからなされた。


  ゴロタ帝国と大司教国では、入国許可が不要な最恵国待遇とする。また、ゴロタ帝国の首都に建設中のゼロス教聖堂の司教には、大司教様の次に高位な『司教長』クラスを派遣して貰いたい。また、聖騎士団の士官以上は、ゴロタ帝国の防衛大学に入学して、近代兵器による戦闘を学んでもらいたい。


 あと、いろいろと細かなことがあったが、それは、後日、交換文書で明確に規定していく予定であった。


  これで、大司教国は、永世中立国となったのである。

ゴロタの明鏡止水流は、完成の域に達しています。

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