表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅き剣と蒼き盾の物語(コミュ障魔王と残念エルフの救世サーガ)  作者: 困ったちゃん
第40章 それぞれの道が見えてきます
413/753

第411話 桜3月それぞれの道

3月は、試練の月でもあり、別れの月でもあります。15の春と、18の春。それに6歳の春に、それぞれのターニングポイントがあるようです。

(3月3日です。)

  今日は、ジルちゃんの大学受験の日だ。ジルちゃんは、タイタン学院の法学部を受験する。高等部に入った時は、魔法科を専攻したが、魔法科か家庭科の先生になるのが夢だった。その後、大学に理工学部ができたので、数学か理科の先生になってもいいかなと思っていた。しかし、ゴロタ帝国に併合される国々の民衆の惨状を見ていると、学校の先生よりも、もっと直接的に社会の不正を排除し、正義を貫く職業に就きたいと思い始めてきた。それが、裁判所の判事という仕事だ。弱い人、迫害されている人に法の救いの手を差し伸べたい。そう考え始めていた。原体験は、15歳の時、実家の都合で望まない結婚をさせられそうだったことだ。


  ゴロタさんに助けて貰わなければ今頃、どんな暮らしをしていただろうか?貧困は、人を不幸にするが、貧困で人間性を失う事が、もっと人を不幸にするということは最近思うことだった。


  ジルちゃんは、貧しくても夫婦、親子そして兄弟が仲良く暮らす社会を実現したい。そのために裁判官を目指すのだ。ジルちゃんは、成績は良いし、推薦でタイタン大学法学部への入学もできるのだが、受験で成績優秀者には学費免除の特待生制度があるので、ジルちゃんは一般受験を希望したのだ。今の父親の収入では、大学費用位負担にならないだろうか、少しでも両親の負担を軽くしてやりたいのだ。シェルさんからは、毎月100万ギルの生活補助費を貰っているが、必要な時にシェルさんに言って現金を貰ったり支払いをしてもらっている。現在、貯金額は3千万ギル以上あるみたいだ。


  受験をしてみて驚いた。ほとんどが男子学生だ。女性で大学に進学するのは、貴族でもなかなかいないようだし、大商人の娘も、15歳で結婚したり、婚約して、花嫁道具として高校に進学する子が多いようだ。今度のゴロタ帝国で制定される民法では、男女ともに16歳以上でなければ結婚できず、また18歳未満の男女が結婚するためには保護者の同意が必要である。これは、早すぎる結婚を強いられる弱い女性を守るためであり、男性に対しては、生活基盤のないままに早期の結婚をさせないためであった。


  ジルちゃんは、タイタン学院高等部では生徒会副委員長をしている。中学でもそうだったが、ジルちゃんの美貌と聡明さで、他の女子を圧倒していた。しかも、他の女生徒のように男子とデートしたり、将来を約束したりと言う事はまったく無かった。クラスメイトの女子と『恋ばな』をしても、ジルは聞くばかりで、自分から話すことは何もなかった。


  まあ、この国の皇帝陛下と婚約中なのだから、当たり前と言えば当たり前だが、そんな事情を知らないクラスメイト達は、ジルちゃんは男子に興味のない子と言う事で通っている。


  クラスメイトのほとんどは、20歳までには結婚してしまうようだ。何人かの女子は、大学進学をするらしいが、彼女達も、すでに婚約者はいるし、中には同棲している子もいる。ジルちゃんも、ゴロタと婚約しているが、本当に結婚できるのか、自分でも良く分からない。


  確かに、クラスメイトの男子の中で、ゴロタさんと比較できる者など一人もいない。きっと、世界中探してもいないだろう。そんな超絶美男子超金持ち絶対王者のゴロタさんと自分が結婚なんて、きっとできないだろうと思い始めていた。


  シェルさんやエーデルさんそれにジェリーちゃんなんかは家柄も良いし、超美人、超美少女ばかりだし、それに信じられない位強いし、自分なんか少しだけ魔法が使えるくらいで、優れているところなんか何もない平凡な女性、家柄も容姿も能力も、すべて劣っていると感じてしまう。それだから、法律を勉強して、社会のためになる仕事をするつもりなのだ。


  ジルちゃんの父親は、ゴロタ帝国タイタン州連合の司法長官をしている。将来は、ゴロタ帝国最高裁判所長官をすることになっているみたいだ。最高裁判所長官は、宰相と並ぶ国の重鎮だ。行政での憲法違反や法律違反を正す最後の関門だ。皇帝は、憲法および法律から超越した存在であるが、宰相以下の各官公庁および警察組織や国防軍は、憲法及び法律の遵守義務が課せられている。そのため、裁判所が、国民の訴えに基づき、違憲立法審査権を行使するのだ。


  ジルちゃんは、結局、全受験生の中で首席で合格した。当然、学費免除の特待生で、かつ学生生活に必要な奨学金も無償貸与つまりタダで貰えることになった。帝立タイタン学院大学では、受験生の中の上位十位以内は、特待生として学費免除だが、学生生活を送るための奨学金を受けられるのは、わずか3名のみで、あとは、上位100名までは無利子の貸与となり、大学卒業後20年ローンとなる。ただし、国家公務員として、ゴロタ帝国の各省庁に勤め、10年以上経過した段階で、以後の支払いが免除されることになっている。これは、優秀な学生を公務員として採用したいゴロタ帝国の陰謀である。そのため、一般企業は、奨学金ももらえないレベルの学生が行くことになっている。


  大学の合格発表後、ジルちゃんは、TIT48の仕事を辞めたいと言ってきた。大学4年間で司法試験に合格したいために勉強に専念したいそうだ。シェルは、ジルちゃんの申し入れを受け、4月10日の入学式までは、TIT48の仕事を継続して貰いたいと言っていた。ジルちゃんは、TIT48のセンターを務めているので、お別れコンサートをしなければならないらしい。


  ラジオ放送で、ジルちゃんが出演し、退団することとお別れコンサートについて発表してからが大変だった。タイタン劇場に併設されている『チケット・スクエア』という予約センタには、もうチケット予約のための列ができてしまった。チケット予約開始まで、まだ4日もあるのに、寝袋とパイプ椅子を持参で路上で寝泊まりするのだ。


  はっきり言って、このままでは治安上よくないので、すぐに予約抽選券を配布した。TIT48の『ジルちゃん退団さよならコンサート』は、先着順ではなく抽選での予約となったのだ。


  あと、今年のタイタン学院大学法学部の入試倍率は、例年の10倍で、定員100名に対し、受験生は3200名余りもいた。32倍の狭き門だ。あまりの多さに、他の学部とは切り離して、法学部のみ、別の日に実施した。勿論、タイタン大学のみではキャパ・オーバーだったので、高等部の教室と、タイタン市立高校の教室も借りて実施することになってしまったのだった。ジルちゃん人気はとどまるところを知らなかったのである。


-----/------------/----------/----------


  キティちゃんは、今度の4月で、学齢となるのだが、すでに飛び級で1年生だ。学力的には、まったく問題がなかったが、精神面では、まだまだ子供で、仲の良いクラスメイトもいない。極端に体が小さいので、すぐに馬鹿にされてしまうらしい。それに、授業も、特別に高学年の授業を受けているので、皆も自分とは違う子だと気づくみたいだった。


  キティちゃんは、低学年の部の学年委員長だ。普通は、3年生の子がなるのだが、誰も文句はなかったようだ。授業の準備や補助もする。体育は、全学年、キティちゃんが教えている。他の生徒や保護者達は、キティちゃんの肌の色が違うので、幼児体形の人種で、年齢は成人なのだろうと思われているようだった。


  キティちゃんの勉強方法は変わっている。夕方、教科書や参考書に目を通すだけなのだ。ベッドに入ってから、枕もとのスピーカーからシルフの声が流れてくる。苦手な社会や国語も、今では中学生レベルに達している。いくら、睡眠学習が効果があるといっても異常だ。


  試しに、シルフがキティちゃんの知能指数を計測してみた。驚いたことに、190以上の数値をたたき出した。その昔、相対性理論を生み出した天才科学者と同等かそれ以上の可能性がある。しかし、精神年齢は、かなり低く、やはり一度、きちんと学校生活をするべきと思われた。学校に『MP5』を持っていくのはしょうがないが、ポイズンダガーを持っていくことは禁止されている。


  今日は、お試しで、小学校1年生の算数の授業を教えることになった。最初、クラスの子たちは、ザワザワしていた。体育以外の授業を教わるのは初めてだったからだ。


  小学校1年でも学年末なので、2桁の足し算と引き算を教えることになった。教壇に立つと、机が邪魔をして前が見えない。しょうがないので、机の脇に立って、授業を開始する。


  「皆さん、今日から、皆さんに算数を教えます。少ししか一緒に勉強できないけど、がんぼろうね。」


  うん、あいさつはまずまずだった。背中には、いつものように『MP5』を背負っている。早速、一人の生徒が手を挙げる。


  「キティちゃん、後ろに背負っているのは何ですか?」


  「うん、これは、キティの分身なの。主の教えにより、いつも一緒にいなければならないの。」


  皆が納得したのか、それ以上の質問はなかった。早速、授業が始まった。担任の先生は、後ろで見ている。


  「皆さん、数はいくつまで数えられますか?」


  すべての子が、100まで数えられると自慢していた。


  「では、11を指で表してください。」


  皆、右手の親指を折り曲げて見せてくれた。


  「はい、みんな同じ形ですね。では、その曲げている親指が数字の1だとして、残りの10は、どこに行ったのですか?」


  この日、キティちゃんは、数字の1の位と10の位をきちんと教え、繰り上がりについても再確認させていた。あとは、筆算のやり方だ。中には、指を折って数えている子もいた。そういう子たちは、別のグループにして、足して二桁になる数の足し算を徹底してやらせた。指を使わないで、計算できる子には、繰り上がりについて理解できる足し算を徹底してやらせる。


  この日、算数の宿題は、縦10行、横10列のマスに上と左の数を足した数を描くプリント1枚だった。


  3月3日は、フランとデビちゃんの誕生日だ。それにキティちゃんも2週間後には誕生日なので、今日、全員の誕生パーティをすることになった。フランちゃんは、誕生旅行に聖ゼロス大司教国をゆっくり旅してみたいと言う事だったので、明日から2泊3日で旅行に行く予定だ。デビちゃんとキティちゃんには誕生旅行は当然なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ