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第408話 チョコレートの日って大嫌い

タイタン離宮では、かつてなかった事が起きています。

(2月14日です。)

  今日は、女の子からチョコレートのプレゼントが貰える日だ。2〜3日前から、タイタン離宮の女性陣やメイドさん達が、手作りチョコレートを作っている。


  今日は、学校がある日なので、フェルマー王子も、当然、学校に行く。ドミノちゃんからは、朝の内に大きな手作りチョコを貰っていた。


  フェルマー王子は、顔を真っ赤にして受け取った。ついでに、ドミノちゃんがフェルマー王子のほっぺたにチュッとした。これが、2人の初チューなのだが、ドミノちゃんもフェルマー王子も興奮していたので、その事に気が付かなかった様だ。


  キティちゃんやキキちゃんからも貰ったが、『クレスタの想い出』で売っている市販品だった。


  小学校に行ったら、校門のところに5人位クラスメイトの女子が待っていた。手には、それぞれプレゼントを持っている。フェルマー王子に渡すつもりなのだ。


  ドミノちゃんは、そっぽを向いて先に行ってしまった。女の子達は、チョコレートを渡した後で、握手を求めてきたので、握手位ならと気軽に応じてあげた。


  玄関脇の下駄箱は、大変な事になっていた。チョコレートが、溢れていた。


  もう、バッグに入り切れない。教員室で大きな紙袋を貰って入れた。教室に入ると、机の上もチョコレートが山積みだった。


  フェルマー王子は、また教員室に戻って紙袋を貰ってくる事になってしまった。


  午後、『クレスタの想い出』では、チョコレート特別販売日だ。去年までは、ゴロタが店頭に立ったが、皇帝となった今、そうは行かない。


  今日は、『TIT48』のメンバーがチョコの売り子だ。他の店員が、チョコレートプレゼント券を、1枚2000ギルで売っている。券には、メンバーの名前が書かれている。その子から、チョコレートがプレゼントされ、握手をして貰える。


  1番人気は、ジェリーちゃんだった。次は、ジルちゃんとデビちゃんだった。キキちゃんとブリちゃんは同じくらいだった。デリカちゃんも、最近『TIT48』に入団したらしい。どうも高ビーなところが敬遠されているのか、知名度が足りないのか、今一歩の売り上げだった。握手も形式的で愛想が無かった。


  ドミノちゃんは、参加を嫌がっていた。やはり、チョコを渡すのは一人だけと決めているようだった。チョコ売り場の脇では、『TIT48』の新曲や直径30センチもある大きなレコード盤を売っているが、売れ行きも上々だった。


  特別イベントとして、特設ステージでフェルマー王子の弾き語りが演奏されていた。1曲歌い終わる度に、女の子達からチョコレートを受け取っている。勿論、『クレスタの想い出』で売っている1個3000円のチョコ限定だ。フェルマー王子の写真とメッセージカードがおまけについている。ステージの脇では、チョコが山積みとなっていた。


  ドミノちゃんは、ピアノの伴奏だったが、ものすごく面白くなかった。フェルマー王子のニコニコ顔が気に入らないのだ。フェルマー王子としては、営業スマイルのつもりなのだが、ドミノちゃんには、どうしても女の子にデレデレしているようにしか見えないようだ。


  歌っている曲は、あの有名な曲ばかりだった。


    『昨日架けてしまった橋』


    『スカボロ市』


    『イエスタディをもう一度』


    『サウンド オブ 静寂』


    『真冬の遊歩道』


  大勢の人たちが集まってきた。ギターのぎこちなさもピアノがカバーしていた。しかし、フェルマー王子は気が気ではなかった。さっきから、ドミノちゃんが怒っているのだ。念話でずっとしゃべり続けている。


  『フェルマー君の馬鹿、馬鹿。鼻の下を伸ばして。フェルマー君の大馬鹿。大っ嫌い。』


  シェルさんから、チョコが売り切れるまで歌い続けるように言われていたが、もう無理だ。1時間ほどで、歌うのをやめにした。ステージを降りたら、アンコールが物凄かった。ドミノちゃんと別邸に帰りたかったが、しょうがないので1曲だけ歌うことにした。曲は、太古の民謡『ハゲワシは飛んでいく』だ。


  ♪もしもなれるものなら

  ♪カタツムリなんかより雀がいい

  ♪もしもなれるものなら

  ♪釘なんかよりハンマーかな

  ♪どこか遠い所へ船を出す

  ♪こんな所にいてもしょうがない

  ♪泣くくらいなら旅立ちたい

  ♪アアア アアア


  ♪足元に続く長い道よりも

  ♪道端に生えている木のほうが素敵だ

  ♪足元の大地が嫌いなわけじゃない

  ♪大地になれたらなんでもできる

  ♪どこか遠い所へ船を出す

  ♪こんな所にいてもしょうがない

  ♪泣くくらいなら旅立ちたい

  ♪アアア アアア


  町中に、美しい歌声が響く。このステージは、ライブで全国放送、いや世界放送だ。ステージの脇では、今日の上演曲が30センチレコードで売り出している。ジャケットには、フェルマー王子と、ドミノちゃんが並んでいる写真が、印刷されていた。


  今日だけで600枚も売り上げた。『TIT48』のレコードも500枚以上売れている。しかし、やはり生演奏には敵わなかったようだ。


  ドミノちゃんと2人で、離宮に帰る途中、ドミノちゃんは、フェルマー王子に聞いていた。


  「フェルマー君、みんなからチョコ貰って嬉しかったでしょ?」


  「えーと、あまり仲良くない人から貰っても、嬉しくないかな。でも、シェル様が、『一杯チョコを貰う様に頑張りなさい。』って言っていたから、ニコニコしたり握手をしていたんだ。』


  『ふーん、そうなんだ。私、チョコレートって大っ嫌い。」


  後は、別館に帰るまで口をきかないドミノちゃんだった。


  夕方、離宮の大広間ではゴロタへのプレゼント・セレモニーが始まった。シェルから始まって、エーデル姫、ビラ、ノエルと続く。グレーテル市の屋敷から、ミキさんがレオナ姫を連れて来ていた。ミキさん手作りのチョコだった。シェルが、超警戒していた。しかし、ハッシュ町から、リバさんが刺激的な服装で来た時には、女性陣全員が戦闘態勢に入っていた。最後は、シルフとクレスタだった。


  この日、ゴロタにチョコレートをあげなかったのは、カテリーナさんとシンシアちゃん、、キティちゃんとリサちゃんだけだった。


  いや、もう1人いた。ドミノちゃんだ。そういえば、ずっと前、ドミノちゃんのママのデミアさんと一緒に住み始めてからは、ゴロタと一緒には寝ていない。まあ、寝ても何も無かったのだが。


  今日貰ったチョコは、長い期間、オヤツとして食べ続けるが、フェルマー王子の集めたチョコは、孤児院へ寄付する事になっていた。勿論、ドミノちゃん達から貰ったチョコは別だった。


  夕食後、部屋のベッドに座って、ギターの練習をしていると、ドミノちゃんが入ってきた。何か、話がある様だった。


  「ねえ、フェルマー君。ちょっと、いい?」


  「うん、なあに?」


  フェルマー君は、抱えていたギターを脇に置いた。ドミノちゃんは、フェルマー王子の隣に座った。


  「ねえ、フェルマー君、今日の朝のこと、どう思った?」


  「え、チョコのこと?嬉しかったよ。」


  「違うわよ。その後のことよ。」


  フェルマー王子は、何のことかピンと来た。恥ずかしさで、顔が真っ赤になった。


  「私ねえ、男の人に自分からキスしたのって、初めてなのよ。それって、どう思う?」


  「どうって。」


  フェルマー王子は、ハッと気が付いた。答え方を間違えると、この前の二の舞だ。知らんぷりは出来ない。答えを求められている。ここは、本心を言おうと思った。


  「うん、嬉しかったよ。有難う。」


  ドミノちゃんの顔が輝いた。余程嬉しかった様だ。


  「それでね、フェルマー君。今日の朝は、私からキスしたでしょ。ちゃんと、お返しをして頂戴。」


  ドミノちゃんの顔が、真っ赤だ。フェルマー王子も顔が赤くなっているのが分かったが、絶対に嫌とは言えない。フェルマー王子は、ドミノちゃんの肩に手を回した。ドミノちゃんは、目を閉じている。フェルマー王子は、ドミノちゃんの右頬に軽くキスをした。


  「そこじゃないの!」


  ドミノちゃんが、小さな声で叱った。ドキドキしながら、ドミノちゃんの可愛らしい唇にチュッと口付けをした。2人とも、顔が真っ赤だった。


  ドミノちゃんは、片腕をフェルマー王子に回して、押し倒し、上に覆い被さってきた。自分の唇をフェルマー王子の唇に強く押し付けてきた。30秒位、そのままだった。


    プハーッ!


  ドミノちゃんは、唇を離して、息を吐き出した。


  フェルマー王子の目の前に、ドミノちゃんの長い睫毛に囲まれた、クルッとした可愛らしい目があった。


  パッと離れたドミノちゃんは、『お休み。』と言って、部屋を出て行った。後には、ドミノちゃんの甘い香りが残っていた。うん、ドミノちゃん、今までチョコレートを食べていたね。


  その日、中々、眠れない2人だった。


  翌日、早朝稽古を終えてから、別館に戻ると、珍しく既にドミノちゃんが起きていた。


  「お早う。」


  何故か、顔が赤くなってしまう。ドミノちゃんも、顔が赤い。


  いつもはデミアさんが入れてくれるお茶を、ドミノちゃんが入れてくれた。デミアさんは、ニコニコしながら、2人を見ていた。


  キキちゃんは、相変わらずリサちゃんの世話で忙しそうだった。カテリーナさんは、最近、随分お行儀が良くなった。階段の掃除もたまにしかしなくなったし、片言だが、言葉も喋り始めた。シンシアちゃんが、カテリーナさんに色々教えている。


  キティちゃんは、デミアさんと一緒に、皆の食事の準備をしている。でも、フェルマー王子とドミノちゃん、いつもと何か違う雰囲気を感じた。何だろうと思ったが、全然気が付かないキティちゃんだった。まあ、まだ6歳だから、気づかなくても当然だった。


小学校6年生のフェルマー王子とドミノちゃん、とても初心な二人でした。

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