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第39話 キマイラ またの名をキメラ

今日は、キマイラとの闘いです。さすがに秒殺とはいきませんが、それなりに皆頑張ってくれます。

(4月5日です。)

  『キマイラ』


  あのスタンピードを起こした、北のダンジョンの主。


  あの時は、イフちゃんがいたので、一瞬で殲滅したのだが、今日はイフちゃんはいない。それに地下の研究施設の広さは知らないが、あの時の力を開放したら、きっと高等部の校舎が無くなってしまうだろう。


  詳しいことを聞くと、そのキマイラは、通常種のようで、飛翔能力はないそうである。ただ、かなり強力で、現在の大学部、研究室教授の魔力では、ほとんどダメージを与えられないそうだ。


  首席教授が冒険者組合に相談したら、『現在、王都にいる冒険者で、そのレベルを討伐できるのは、ゴロタ殿だけであるが、最近、まったく活動をしていないので、依頼に応じてくれるかどうか分からない。』との事だったそうだ。それで、国王陛下に相談したら、今日、ゴロタ殿が来てくれたとの事だった。


  キマイラ相手では、シェルさんやエーデル姫を巻き込むわけには行かない。でも、自分一人で対応ができるか、自信がない。


  僕は、『念話』でイフちゃんに話しかけてみる。


  『イフちゃん、聞こえますか?』


  『何じゃ、今、忙しいのじゃ。』


  『実は、今、キマイラを討伐しなくちゃならなくて。イフちゃん、来れますか?』


  『そうか、お主、我を必要としているのか。ウフフ。よし、あい分かった。しばし、待たれよ。何、30分もあれば、このダンジョン程度、完クリじゃ。それから、そちらに向かおうぞ。』


  僕は、ノエルに今の話を伝えた。ノエルは、僕から聞いたことをマリアンヌ首席教授に伝える。


  「分かりました。今しばらくお待ちください。準備が整い次第、討伐に向かいます。」


  「おお、引き受けていただけますか。このお礼はしっかりさせていただきますわ。」


  僕達は、主席教授室で、まったりとお茶を飲みながら、イフちゃんの到着を待っていた。


  出てきた紅茶は、上等なものだったが、お茶請けが砂糖菓子というのがいただけなかった。


  王国の砂糖菓子は、甘いだけで、固く風味も少ないのだ。僕が小さい時にシルが作ってくれた砂糖菓子が懐かしい。星のような形をして、口に入れるとフワッと溶けてしまうものだった。


  僕は、変な感傷に浸ってしまって、気が付くと涙が一筋零れていた。




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  主席教授のマリアンヌさんは、内心ガッカリするやら、呆れるやらだった。


  『ああ、本当に困っているのに。国王陛下ったら、こんな子供達をよこして。』


  『前に物凄い魔物を倒したというから、凄い戦士か魔導士が来ると思ったのに、何、この子たち。殆ど子供じゃない。』


  『あら、このノエルって子、知ってるわ。確か、去年の春に、すごい子が中等部に入って来たって噂になった子ね。3種類の魔法適性を持っているとか言って。でも、家庭の事情とか何とかで、直ぐ辞めたって聞いたけど。』


  『何、するとこの子、今、13歳じゃない。こんな子に何ができるの。』


  『それよりも、このゴロタって子。何か着ている物もみすぼらしいし。どう見ても10歳位じゃない。きっと、キマイラなんか見たら泣いちゃうわ。あら、もう泣いてるじゃない。』


  『国王陛下。陛下は、この学院を、お見捨てになられたのですか?』





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  僕は、何も考えずにイフちゃんを待った。きっと、イフちゃんが居なくても、大丈夫だと思う。あの北のダンジョンで、キマイラの特殊個体と対峙した時も、脅威は感じなかった。小さい時から、逃げるべき魔物と、戦うべき魔物を峻別してきた。


  僕は、その感覚を信じている。ならば、通常個体に過ぎない今回のキマイラ、きっと僕にとっての敵になり得ない存在だろう。


  しかし、キマイラが吐き出す『煉獄の炎』と確実に体力を奪う『猛毒のブレス』。


  自分の『シールド』が、効果があるかどうか試した事は無いので分からないが、試さなければならないと思う。これからの戦いで、きっと必要になる気がするから。


  『ゴロタよ。終わったぞ。そちらに行くのじゃが、シェル達はどうする。連れて行くことは可能じゃぞ。』


  『連れて来れるんですか。じゃあ、連れて来て下さい。』


  それから30分位して、汗まみれの二人を連れたイフちゃんが、主席教授室に現れた。イフちゃんが真ん中で、3人仲良く手を繋いでいた。


  突然、何も無い空間に現れた3人を見て、マリアンヌ首席教授は言葉を失った。


  『空間転移魔法』。存在は知られていたが、現実に見た事は無い。既に、失われた魔法とされている。ダンジョンの最下層から1階の入り口まで戻る帰還石も、同じ魔法構造の筈だが、もう何十年いや何百年と研究しても解明できていないのだ。


  それを、こんな10歳位の女の子が、使ったなんて。マリアンヌ首席教授は、頭がクラクラして来て、取り敢えず、お茶の準備をするように給仕に命じるのであった。


  「もう、何よ!せっかく倒した魔物から魔石を回収している最中に来てくれなんて。」


  「キマイラを討伐しなければならなくなったんです。それで、ゴロタさんは、皆さんに来ていただいたわけです。」


  「キマイラ如き、我の地獄の炎で焼き尽くしてくれるわ。」


  「で、どこにいるのですか。そのキマイラと言う魔物は。私は、この前のキマイラを良く見ていなかったので、今度こそ良く見るのです。」


  なんか、博物館か動物園に行くみたいなモードになってるし。イフちゃん、瞬殺・完全燃焼させないでくださいね。魔石も回収したいし。


  「最初、僕が行くから、皆はバックアップをお願いします。僕は、シールドを使って、敵の炎と毒の攻撃を防いでみます。」


  僕も、仲間内では思ったことをキチンと伝えられる。別に、言語能力が劣っているわけではないのだから。


  皆は、地下の訓練場へ向かった。





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  地下の訓練場に行ったら、ドアの向こうで、魔物が吠えているような声がした。魔物というより、ライオンが吠えているような感じだ。時々、ドガンと何かがぶつかる音がするが、ドアが破られるような様子はない。


マリアンヌ主席教授が、


  「今、結界でドアと壁を守っていますが、いつまで持つか?」


  と不安そうに言った。


  僕は、防御魔法を張る準備動作をした。右の手の平が白く光っている。防御魔法は、色々あるが、僕は今、聖魔法のシールドを使おうとしている。


  僕の右手が ドンドン白く大きくなり、まぶしくて見ていられなくなる程だった。 


  僕は、静かにドアを開けた。中に入ると、至るところで火が燻っており、また、猛毒の甘酸っぱい匂いが立ち込めていた。


    「シールド」


  僕が、右手を前にかざして、魔法名を口にすると、大きく白い円状の光が目の前に広がった。分厚く、白く輝いている円盤がゆっくりと回転している。


  キマイラは、何が起きたか理解しなかったが、とにかく、自分の存在を掛けて炎のブレスを吐き出した。


    ドゴーン!! キュルルン!!


  炎のブレスが、シールドにぶつかると同時に消滅する音だった。だが、シールドには少しの傷もついていない。


  僕は、『ベルの剣』を抜いた。と、同時にもう一度『シールド』と唱えた。今回は、ほぼ無詠唱であった。しかし、僕は、身体全体が『シールド』の盾と同じような色の光に包まれている。


  イフちゃん以外の皆は、円盤状のシールドの陰に隠れていた。僕がシールドの陰から出て行ったので、シェルさんは、弓矢を構え、1本の矢をグーンと引いた。シェルさんの身体が赤く光っている。


  矢じりも青く光り始めている。


  僕が、キマイラと『1刀足』の間合いに入ったと同時に、シェルさんは、矢を放った。矢は、青い光線となって、キマイラの額の真ん中に刺さった。しかし、致命傷ではない。キマイラは首を大きく後方に持ち上げて、また『炎のブレス』を吐こうとしている。その瞬間、僕の持った『ベルの剣』が横に一閃した。


    ズバン!


  キマイラの前足2本が同時に切断された。もんどり打って倒れたキマイラは、ライオンの口から『炎のブレス』、後ろの蛇の尻尾からは紫色の『猛毒』を吐き出している。しかし、シールドを纏っている僕には、まったく効果がない。


  僕は、キマイラの後ろに『瞬動』で動き、今度は尻尾の先の蛇の首を切断する。


    シュパン!


  ほぼ、戦闘は終わった。ライオンの口からは、チロチロと炎が漏れるだけで、ブレスを撃つことはできなくなっていた。また、切断された尻尾は、パタパタと背中の方を叩くだけで、何の魔法も放てない状態だった。


  僕は、最初に張った『シールド』を確認した。ブレスと猛毒攻撃を何度か受けたはずであるが、まだまだ、厚みを維持していた。


  僕が、『シールド』の陰に戻ったころ、シェルさんの弓矢攻撃、エーデル姫とノエルのファイア・ボール攻撃が続いていた。そして、ついにキマイラは息絶えた。


  「何じゃ、我は、必要なかったのう。」


  イフちゃんが、少しひがんでいる。僕は、イフちゃんにしきりに謝った。部屋が静かになったので、マリアンヌ主席教授が入って来ようとしたので、シェルさんが、


  「防毒の魔法をかけてください。」


  と、声を掛けた。


    「アンチ・ポイズン」


  マリアンヌ主席教授が緑色に光っている。水属性の防毒魔法だ。


  こんがりと焼かれて倒れているキマイラを見て声を失った。チームの損耗ゼロ。結界を張った訓練場の損害もゼロ、これ以上望めないほどの成果だ。マリアンヌ主席教授の後から、ゾロゾロと他の教授や、教師が訓練場に入ってきた。しきりに、倒し方をシェルさんに聞いてきたが、シェルさんの自慢げな話の割には、中身が無さ過ぎて、参考にならない。


  まあ、ピカッと光っただの、ズバンと切っただのだけじゃ、分かりませんよね。主席教授室に戻って、もう一度おいしい紅茶を飲んで帰ることにした。学院の出口付近で、この前のガキ大将達が、ノエルを待っていた。


  ノエルが、彼らと少し話をして、全員と握手をして帰って来た。目には、涙を浮かべていた。よほど、仲直りできたことが嬉しかったみたいだ。



結局、イフちゃん、何しに来たのかな。でも、イフちゃんが来なければ、皆も来れなかったから、それだけでも約立っています。ゴロタが、本当の空間移動魔法を覚えるのは、まだまだ先です。

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