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第407話 フェルマー王子の1日

フェルマー王子は、音楽学校に行くことにしましたが、本当はドミノちゃんと一緒にいることが好きなのです。

(2月10日です。)

  フェルマー王子は、早朝稽古で、大剣での型を一通り出来るようになった。毎日、続けている千本素振りのおかげだ。


  この前、ゴロタからプレゼントして貰ったショートソードも使ってみる。一つの型が終わって、剣の止めの時、剣先から赤い光が迸る。


  後ろに下がりながら、相手の剣を打ち払い、前に出て面を打つ型をしてみる。剣先が中段でピタッと止まった瞬間、赤い『斬撃』が前に飛んで行く。柄頭に火属性の魔石を嵌めると、周囲に被害が及ぶので、必ず外している。


  稽古が終わると、ドミノちゃんを起こしに行く。最近は、フェルマー王子が起こさないと、機嫌が悪いのだ。


  別館のダイニングで朝食が終わると、フェルマー王子はピアノの練習だ。朝は、ドミノちゃんがグランドピアノを使わないので、フェルマー王子が使わせて貰っている。


  音楽学院では、全ての学生にピアノの授業がある。専門外でも、音楽演奏の基本ということで必修科目なのだ。まだバイエルとハノンの初歩だが、音感が良いので、上達は早いそうだ。


  1時間ばかり練習した頃、ドミノちゃんの学校の準備がようやく終わって、一緒に学校に行く。学校は、8時半からなので少し急いで歩く。ドミノちゃんは、フェルマー王子に手を引かれて歩いているので楽なものだ。フェルマー王子の方は、学校に着く頃にはひと汗かいてしまう。


  流石に、学校の近くでは手を離すが、帰りは、手を引くどころかオンブすることもある。その時は、ランドセルを前に回し、ドミノちゃんはランドセルを背負ったままなので、非常に歩きにくい。でも、バランスをとりながら歩くのも鍛錬と思い、不満などなかった。


  と言うか、ドミノちゃんと密着していると、ドキドキすると同時に何となく嬉しい気持ちになるのだ。後ろに回した手のひらが、ドミノちゃんのお尻の辺りに当たるのも刺激的だった。別の意味で、汗をかいてしまう。


  学校では、フェルマー王子は女子に人気者だった。席に着くと、すぐに同級生の女子に囲まれる。時には、別のクラスの女子も来ていることがあった。


  ドミノちゃんからは、ほかの女子と口を聞いてはいけないと言われているので、いつもニコニコしているだけだ。


  ドミノちゃんも、男子に人気があるようだが、フェルマー王子と仲が良いようなので、遠慮して誰も近づかなかった。


  授業は、何も問題がなかった。歴史の授業は、北と南では見方が違うことに気付かされたが、そんなもんだろうと思うだけだった。


  体育は、最近では、超得意科目だ。来たばかりの時は、体も小さく足も遅かったが、この3か月、身体もひと回り大きくなった。駆け足も、同級生の中ではダントツに早くなっていた。


  放課後、音楽の先生にピアノの練習の成果を見て貰ってからドミノちゃんと一緒に帰宅する。しかし、いつも街のスイート屋さんや洋服屋さん、それに最近できた小物屋さんに寄りたがった。


  フェルマー王子は、全然お金を持っていなかったが、ドミノちゃんはいつも十分な額を持ち歩いていた。御馳走されるのは、いつもフェルマー王子だった。


  夕方4時半には、別館に帰るが、すぐにドミノちゃんはピアノの練習を始める。フェルマー王子は、部屋でピアノの練習だ。音楽院に合格してから、フェルマー王子の部屋にもピアノが置かれている。流石にグランドピアノと言う訳には行かないので、アップライトピアノだ。スタインウエイさんが作ったもので、600万ギル位したものだ。


  夕食後は、ギターの練習をしている。ギターとピアノ。どちらも難しいが、もっと問題があった。ギターがスチール弦のため、あまり練習をすると指先が切れてしまい、ピアノの繊細なキータッチができないのだ。


  でも、先生から『慣れれば大丈夫。』と言う言葉を信じて練習を重ねている。午後8時からは宿題だ。宿題がない時は、そのままギターの練習だ。今度レコーディングする曲の練習だ。


  昔、男の人二人組で歌っていた曲で、どこかの市場に行く時に、買って貰いたい物を注文すると言う内容の曲だ。元々は、失われた国の民謡歌だったらしい。題名は『スカボロウ・フェア』だ。


  ♪スカボローの市へ行くの?

  ♪パセリ、セージ、ローズマリーそれにタイム

  ♪ある女の人によろしく伝えて

  ♪彼女は私の大事な人だったから


  物悲しい曲だったが、綺麗なフレーズで、フェルマー王子は気に入っていた。イメージの中で、ドミノちゃんの姿が見えた。話しかけるように歌った。


  突然、ドアが開いた。ドミノちゃんが立っていた。目に涙を浮かべていた。


  「何故、そんな悲しい気持ちなの。1人で大丈夫?」


  ドミノちゃんは、ピアノの練習をしていた時、フェルマー王子の悲しげな呼びかけを聞いたのだ。


  『ドミノちゃん、どこにいるの?僕のそばに来て。』


  ピアノの練習を中断して、フェルマー王子の部屋のドアを開けたのだった。フェルマー王子は、吃驚したが、自分の思いが声に出ていたのかと思い、顔が真っ赤になってしまった。


  翌日の朝、フェルマー王子はシェルさんに相談してみた。時々、2人の意識が混ざる時がある。これは、良くない事なのかも知れないと思ったのだ。


  シェルさんは、ニコニコ笑いながら、『念話』について教えてくれた。シェルさんもゴロタ君とだけ念話ができると教えてくれた。


  試しに、フェルマー王子が屋敷の外に出て、お互いに話しかけてみる。最初はうまく行かなかったが、フェルマー王子が、ドミノちゃんのイメージを想い浮かばて強く話しかけてみる。


  ドミノちゃんは、はっきりフェルマー王子の声が聞こえた。


  「なあに、フェルマー君。呼んだの?」


  フェルマー王子も、ドミノちゃんの声が、頭の中に響いた。それからは、誰もいないのに、ブツブツ話したり、笑ったりしていた。見ていて気持ちが悪い。シェルは、自分が念話を使う時は、絶対に声は出さないようにしようと思ったのだった。


  今日は、金曜日だ。午前中にカーマン州連合の閣議がある。ゴロタとシルフ、それにフェルマー王子が出席する。今日の議題は、福利厚生行政の新年度計画だ。各市に孤児院と救護院それに施薬院を設置する。


  町には孤児院と施薬院を作る。村には、今まで通り、村子として教会で育ててもらうが、12歳までの養育費を交付する。


  シルフが、12歳未満の児童の労働禁止と小学校の義務教育、15歳で成人するまでの生活補助の法律を提案した。『児童福祉及び年少者生活保護法』だ。


  また、12歳から働いた場合の最低賃金を決めた。衣食住費の天引き最高額まで決めたので、見習いとしての無給労働はできないようにした。この法律は、ゴロタ帝国全土に公布することにしている。


  閣議の途中、ドミノちゃんからフェルマー王子に『念話』が届いた。授業で誰かが失敗したとか、先生の話が面白いとか、たわいの無い話だ。フェルマー王子は、笑いを抑えるのに必死だった。当然、閣議の後、ゴロタに叱られてしまった。


-------/------------/----------/-------


  フェルマー王子は、土曜日の午前中、ダンジョンに潜ることにしている。


  この前までは、シルフと2人だったが、今日はドミノちゃんも一緒だ。一気に地下第3階層まで行く。剣術については、足捌きだけゴロタ殿から教えて貰っている。


  素早い足捌き、次の位置への移動を無意識で行う。イメージでは、移動ではなく変化だ。その変化の中に、空間まで入れば『瞬動』だ。


  オークソルジャーの群れが現れた。ショートソードを抜く。ダッシュさんが『斬鉄剣・紅』と言う名前を教えてくれた。また、敵が多い時は、とどめを刺そうとするな。戦闘能力を奪うことだけを考えろと。


  移動速度を最大に上げる。1人目を定めて、その左に移動するとともに足首を切り離す。次は、4m左後ろに位置している、敵の右足首を切り離した。移動するたびに、速度が上がっていく。


  12体目からは移動している感覚は無かった。次の位置へのイメージをするだけで、その場に移動していた。足の一歩も動かしていない。


  後は、殲滅までの時間勝負だった。終わってから、シルフが、『MP5』でとどめを刺している。魔石などには見向きもしない。


  ドミノちゃんは、散発的に『シールド』を張ったり、『パラライズ』や『ポイズン』で、攻撃補助をしている。クレスタが使っていた『リルケの杖』を使ってブーストしているので、相手に効かないと言うことはなかった。


  地下4階は恐竜ゾーンだった。この前まで、スケルトンゾーンだった筈だが、一定期間で変化するようだ。


  大きな肉食恐竜に対しては、『斬撃』で攻撃する。『斬鉄剣・紅』は、『斬撃』を何度出しても刃体にキズ一つ付かない。


  『斬撃』は、、素晴らしい効果があった。赤い光の弧が飛んでいって、体長20mもある恐竜の首を切り落としていた。空を飛んでいる翼竜は、身体が真っ二つになってしまった。


  この階層では、敵となる魔物はいなかった。地下第5層は、ゾンビゾーンだった。ここは、ドミノちゃんの独壇場だった。大きな『ホーリー・バーン』を連発して、群れ単位で消滅していく。階層ボスのゾンビ・ドラゴンなど、『リルケの杖』の一振りで、『聖なる斬撃』が飛んでいった。


  大きな魔石は、真っ黒な闇魔石だった。後、ドロップ品は、小さなワンドだった。しかし魔石を嵌めるスロットが3つもある。材質は何だろう。物凄く軽いのに、硬そうだった。シルフが、オリハルコンのようだと言っていた。


  来週、ドミノちゃんが魔法学院に行った時、教授に調べて貰う事にした。今日は、これ位にして、地上に戻った。


  地上では、多くの冒険者が屯していた。ダンジョンから、どう見ても小学生の男女と、中学生位の女の子が出てきたのだ。皆、ギョッとしていた。誰かが、小声で『お屋敷の子達だ。』と言っていた。それを聞いて、皆、遠巻きに見ていた。


  帰り道は、10キロ位だったが、シルフは、ゲートで帰ってしまった。フェルマー王子は、ドミノちゃんを背負って帰ることにした。土曜日まで、ドミノちゃんを背負う事になるが、ちっとも苦で無かった。


  1時間ほどで、街まで帰ることができた。『クレスタの想い出』の2階で、お昼を食べてから、音楽堂で合唱団の練習だ。


  今日は、きっとずっとドミノちゃんと一緒にいられるんだなと、嬉しくなっているフェルマー王子だった。

ドミノちゃんは、もうドエス魔女です。

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