第406話 マングローブ帝国使節団
マングローブ帝国の特産品は、南国の果樹と鉱石です。
(1月31日です。)
今日は、セント・グローブ市の有力商人達をタイタン市まで案内する日だ。昨日のテルーちゃんは、あの後、孤児院にお願いをしてきた。
当面の経費として、孤児院に金貨10枚を寄進しておいた。タイタン市の孤児院でも良かったが、言葉の問題があるので、ここの孤児院の方がテルーちゃんのためになるだろう。
朝、約束の時間に帝都の北門に行くと、ベゼさんを始め20人程の人達が集まっていた。皆、大きな旅行鞄を持っている。中には、野営セットを背負っている人もいた。
ゴロタは、『タイタニック号』をイフクロークから取り出した。と言うか、空中に出現させた。銀色に輝き、周囲の風景が機体に写り込んでいる、曲面を多用した空気抵抗の少ない機体だ。あの異世界で見た飛行機に似ている。
入り口ドアの下から、タラップが降りてきた。シェルが、タラップを昇って行く。今日の服装は、紺色の制服姿だ。紺色の帽子を被り、赤と黄色の縞のスカーフを首に巻いている。
当然、ゴロタは機長の制服だ。何も入っていない黒色のアタッシュケースを持っている。帽子とサングラスで、ちょっと見にはゴロタと分からない。この服装は、全てシルフのコーディネートだ。
ベゼさん達は、信じられないと言う顔で、動こうとしない。ゴロタは、皆に説明する。
「これは、飛翔魔法で空を飛ぶ船です。室内は、手荷物以外、持ち込み禁止ですので、こちらでお預かりします。」
ゴロタは、次々と皆の荷物をイフクロークに預かって行く。預かり証はない。念ずるだけで、イフクロークが荷物を選別してくれるのだ。
搭乗が終わると、フライト開始だ。操縦は、ゴロタ型パイロット専用アンドロイドだ。パイロットからアナウンスが入る。
「皆様、本日はご搭乗ありがとうございます。この機は10:00発タイタン空港行きタイタニック号です。タイタン空港まで、1万2千キロ、概ね9時間の飛行です。途中、気流の関係で機体が揺れる時があります。座席上部のシートベルト着用サインが出ましたら、シートベルトをお締め下さい。」
シルフ型CAが、シートベルトのつけ方を教えていた。本来、『タイタニック号』は、全長40m、72人乗りの汎用機『翼改』と大きさがほぼ同じだ。しかし、『タイタニック号』は、通常でも豪華ソファ仕様にしているので48人乗りだ。今日はVIP仕様にしているので、中央寄り2列を外しているので、24人乗りになっている。
ゴロタとシルフは、一番後ろに座った。フェルマー王子は、機長服で、副操縦席に座る。かなり緊張している。シルフからは、絶対に操作してはいけないと言われている。
いつもは操縦席にゴロタ、副操縦席にシェルが座っているので、フェルマー王子にとっては、初めての経験だった。
静かに、垂直上昇を始めた。高度1000mで水平飛行に移る。『タイタニック号』の最大速度は、マッハ2だが、今は巡航速度マッハ1.5で飛行する。
無事に水平飛行に移ったところで、シートベルト着用ランプが消えた。機内には、ピアノソナタのBGMが流れてきた。演奏はドミノちゃんだ。当然、レコード再生だ。
乗客から、この飛行機の最高速度や搭載能力を聞かれたが、シェルが軍事機密と言って教えなかった。
この飛行機を売ってくれないかと言ってきたが、これは特注品で世界で1機だけですが、汎用機は、1機大金貨280枚で注文できると教えてあげた。その値段は、機体本体のみで、シートの設置やパイロットの訓練、整備士の斡旋など全てオプションだと言うことは内緒にしていた。
最も重要な『飛空石』については、非売品であることも秘密だった。『飛空石』未搭載だと、通常飛行のみとなり、2キロ以上の滑走路が必要となるのだが、その事も今は内緒だった。
お昼の機内サービスは、豪華ランチセットだ。温かいスープにオムライスそれと生ハムサラダだ。初めて食べる人もいて、いろいろ質問していたが、シルフ型CAが丁寧に答えていた。
シルフ型CAは3体搭乗していたが、皆、三つ子の姉妹だと思っていたようだ。
午後は、皆、熟睡していたが、午後5時に簡単なサンドイッチを出した。午後7時にタイタン空港に到着するが、タイタン市の時間では、午後1時過ぎなので、そのまま市内観光に出る予定だ。
マングローブ帝国時間で午後7時、タイタン時間で午後1時にタイタン空港上空に到着した。着陸は通常飛行で行ったが、全長4000mの滑走路では、余裕で着陸できた。着陸時のタイヤが『ギュッ』となる音と衝撃で、悲鳴が上がったが、無事着陸できたことを知ると、皆ホッとした顔をしていた。
皆、あらかじめ準備したコートなどを着て、タラップを降りていく。荷物は、空港ロビーでそれぞれに渡した。
それからは、路面電車で、タイタン市中心街まで行く。完全舗装道路、街路灯、路面電車そして統一感のある新しい建物。一行には、とても魅力的な街に見えたことだろう。
市内の案内は、シルフが行うことになっている。シルフなら、すべての質問にマングローブ語で回答することができるからだ。あと、シスターのシタさんも昨日のうちに手伝いをお願いしておいた。
今日は、シタさんはシスターの僧衣ではなく、明るいピンクのミニスカスタイルだ。綺麗な足が目にまぶしい。
今日の宿泊は、市内の最高級ホテルだ。夕食は、タイタン離宮で歓迎晩さん会を開く予定だ。タイタン離宮までは、歩いて来て貰うが、きれいに除雪されている一本道の舗装道路に皆、感嘆していた。
まあ、除雪用の温水シャワーもあるし、シャベルを持ったゴーレム達が24時間除雪し続けているので、きれいなのは当たり前だ。
タイタン離宮を見て、一行は、初めて、ゴロタが普通の人ではないことに気づいたようだ。ベゼさんがシルフに聞いている。
「あのう、シルフさん、ゴロタ殿って、この国では偉い方なのですか?」
ベゼさんは、ゴロタを上級貴族位に考えているようだった。
「はい、ゴロタ殿は、この帝国の皇帝陛下です。御名前を『ゴーレシア・ロード・オブ・タイタン1世』と申します。」
みな、顔が青くなった。帝国の皇帝陛下、商人風情が口を利くなどもってのほか、どんなに高額納税者でも、3部屋位離れた所からでなければ拝謁できないほどの存在だ。
「そ、それで御国の領土はどれくらい広いのでしょうか?」
「はい、衛星写真で調査した結果、広さは、5476万平方キロメートル程です。マングローブ大陸のおよそ4倍ほどです。」
皆は、開いた口が塞がらなかった。離宮大広間では、歓迎のための宴席が設けられていた。シェルをはじめ、成人女性たちが煌びやかに正装している。持っている宝飾類をすべて付けているのだ。中でも、シェルが被っているティアラは、一般人が絶対に見ることができない国宝級の大きさのダイヤがメインに飾られているものだった。
ゴロタは、普通の貴族服だ。別に、ここで威厳を見せてもしょうがない。BGMは、ジェリーちゃんやドミノちゃんが弾いている。
今日の晩餐会では、ゴロタ帝国の特産品がメインだ。旧カーマン王国の名産は、チーズとワインだ。特にカーマンベールというチーズは、他にはない独特のチーズだった。
ここ、タイタン州では、森の産物だ。キノコに木の実などだが、トリュフというキノコが特に美味しいらしい。また、将来的には鉄道と航空機を輸出できるだろう。
ハルバラ州では、北の海の魚特にサーモンが別格だ。燻製にしても塩漬けも美味しい。それと、大きなタラバガニの塩ゆでは絶品だった。
旧フェニック帝国では、勿論石油精製品だ。特に樹脂製品は、原料も成型品も需要は計り知れない。
そして、旧ゴーダー共和国、現帝国中枢部のでは、鉱物資源に農産物それに造船が輸出品になるだろう。
晩さん会は、無事に終わった。迎えの馬車は、最近、シルフが開発した無人誘導馬車だ。異世界では『バス』と言っていたはずだ。電動なので、まったく音がしない。乗り心地も最高だ。
しかし、シルフは、このバスを大量生産する気はないようだ。今運行している鉄道と路面電車の借金がゼロになるまでは、新しい乗り物は生産しないつもりらしい。過去の歴史を参考に発展をコントロールしているようだ。
明日は、ドエス商事のドエス社長らを紹介するつもりだ。最後に、ゴロタ帝国の交易港と造船所を見せて帰ってもらう。ゴロタの仕事は、これで終わりの予定だ。
1人の商人が、シェルたちが履いているストッキングに注目していた。このストッキングを見せてもらいたいというのだ。シルフが新品のストッキングを見せてあげた。いま、市中で大人気の1足1000ギルのナイロンストッキングだ。
このストッキングを売っている場所を教えてもらいたいと言う。街では普通に売っている商品だが、とりあえず洋品店を紹介してあげた。
この人は、ストッキングを100足買い上げて持って帰ることにしたようだ。持ってきた荷物のほとんどは捨ててしまって、ストッキングの入っている大きな箱を2箱、持って帰ることにしたようだ。
商人たる者、そうでなければならないそうだ。儲けるチャンスがあったら、全てを投げ打っても投資する。それが秘訣だそうだ。
ドエスさんとは、いろんな人が商売について話し合っていた。1日では終わりそうになかった。しかし、まだ交易船もできていないのだ。今日、全てを決める必要はなかった。
2日目の夜は、ニースタウンのホテルに泊まることにした。料理、サービス共に満足してもらったようだ。特に、色街から派遣して貰ったコンパニオンは好評で、ジャンケンしたりダンスをしたりと大騒ぎだったそうだ。
翌日は、帝国の造船所を視察した。10万トン級の船まで造船できる巨大ドッグを見て感心したり、新造の豪華客船を見てため息をついたりと忙しい方々だった。
全ての視察を終え、マングローブ帝国へ送ろうとしたら、ベゼさんが帝都にデパートを作りたいので、グレーテル語を勉強したいと言ってきた。適当な学校もないので、シタさんから習ってほしいと言ったら、渋々納得していた。本当は、短期留学をしたかったのだろう。シタさんも吃驚していたが、ちゃんと授業料をいただけると言うことで、納得してもらった。
マングローブの使節団は、成果があったようです。でも、交易までは、まだ時間があるようです。




