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第399話 ドミノちゃんは魔人でした。

今回は、フェルマー君とドミノちゃんのデートを邪魔するバカがやっつけられます。

(まだ1月1日です。)

  今日のドミノちゃんの服装は、黄色の半袖ニットセーターと紺色のミニスカートだ。ニットセーターは、体にピタッとしているので、少し大きくなってきている胸が眩しい。フェルマー王子は、地味目の冒険者服だが、暑さを逃がすように随所にメッシュが入っているものだ。ドミノちゃんのモンド王国は、極地に近いので、お正月と言ってもそんなに暑くないが、ここシャウルス市は、完全に真夏だった。


  1月から3月は、半袖でなければ過ごせない暑さだ。しかし、湿度がないので、日陰に入れば、かなり過ごしやすい。


  人々は、少し歩くと日陰を求めて、公園等に入っていく。フェルマー王子達も公園の中の遊歩道を散歩することにした。ドミノちゃんが腕を組んでくる。さっきからドミノちゃんの小さな胸が、フェルマー王子の左腕に当たって、それだけで汗が出てしまう。


  人通りが少なくなってきた。やはり、お正月元旦だ。こんな日に公園の奥まで入ってくる人はいない。


  「ねえ、フェルマー君。」


  「なに?」


  「キスしたことある?」


  ドキッとした。当然、ある訳がない。まだ小学6年生だ。しかも、去年までは、王城の中で、いつも監視されて育っているのだ。


  チャンスがある訳がないのだ。でも、ないというと馬鹿にされそうだったので、見栄を張ってしまう。


  「あるよ。」


  「えーッ、本当?いつ?誰と?」


  しつこく聞いてくる。しょうがないので、『5歳の時にお付きのメイドとした。』と答えた。それを聞いたドミノちゃんは大笑いした。顔が真っ赤になったフェルマー王子は、逆に質問した。


  「そういう、ドミノちゃんはどうなのさ?」


  「当然、あるに決まっているじゃない。相手は、ゴロタ様よ。」


  フェルマー王子は、胸が熱くなるのを感じた。目の前が暗くなってきた。


  「いつ、どうやって」


  「2年前からよ。いつも一緒に寝るときにほっぺたにチュッとしてくれるの。」


  「えー、一緒に寝ているの?」


  「そうよ、お母様が来る前は10日に1度位は、一緒に寝たのよ。」


  「そ、それって、何で?」


  「馬鹿ねえ。妻になる予定の者として当然じゃない。でも、ゴロタ様は、それからすぐにいなくなってしまうの。どこに行ってしまうのかしら?」


  フェルマー王子は、黙ってしまった。頭の中では、あるワードが繰り返し聞こえている。


  『妻になる予定、妻になる予定。』


  フェルマー王子は、思い切って聞いてみた。


  「ねえ、ドミノちゃん、今でもゴロタ様の妻になりたい?」


  ドミノちゃんは、答えなかった。答えは決まっていたが、女の子は、自分の気持ちをすぐに話してはいけないと聞いていたのだ。誰に聞いたかは、思い出せないけど。


  その時だった。後ろから声を掛けられた。


  「坊ちゃん達、ちょっと待ってくれねえかな。」


  フェルマー王子は、振り返った。いかにも悪人ですと言う風態の男3人が立っていた。


  「何かご用ですか?」


  「いや、用って程の事はねえんだが、こんな人気のない所に来て、何をしようてのかな?え、ガキのくせに。」


  男の言ってる意味を理解したフェルマー王子は、顔が真っ赤になってしまった。


  「僕達は、何もしません。おじさん達、変な言いがかりはやめて下さい。」


  羞恥心が邪魔をして『威嚇』が発動できない。しょうが無い。今日は、武器になるような物を何も持っていない。ドミノちゃんを、自分の後ろに庇う。


  「君達、不純異性交遊で調べたいので、一緒に来てくれないかな?」


  「おじさん達は、警察の人ですか?それなら、身分証明書を見せてくれませんか?」


  「いや、警察じゃあないんだけど、青少年の健全育成の観点から、学校に通報しなければと思ってね。」


  健全育成とは全く関係のない人生を送ってきたような大人に言われたく無かった。フェルマー王子は、早くこの場を立ち去る事にした。


  ドミノちゃんの腕を取って、後ろに振り返り、立ち去ろうとした。その時、後ろから迫ってくる気配を感じたので、一瞬で5m先まで移動した。男達は、驚いている。


  「気を付けろ。このガキども、魔法を使うぞ。」


  確かに、魔法は使えるが、これは魔法では無い。身体能力だ。


  フェルマー王子は、振り返って、相手との間合いを保っている。


  「何をするんですか?」


  「うるせえ、こっちに一緒に来るんだ。」


  この時、こいつらの目的が分かった。人攫いだ。このまま返してくれそうに無い。


  フェルマー王子は、ドミノちゃんに下がっているように言ってから、右手で手刀を作った。気づかれないように『火魔法』を纏っている。


  相手が、間合いを詰めてくる。2人は、ほぼ素人の構えだが、七三は、武道の心得があるのか、構えに隙がない。


  最初に行動を起こしたのは、フェルマー王子だった。大男のそばまで飛び込み、手刀を相手の眉間に打ち込んだ。当然、断ち切れるわけがないが、相手は目を白くして転倒したオデコに火傷の跡が付いている。


  そのまま右回転し、狐目の水月を狙って、手刀の突きを繰り出した。相手の顎に強力な突きが決まった。こいつも白目を向いて昏倒する。脳震盪を起こしているはずだ。


  七三は、構えを一旦崩した。


  「坊や、強いねえ。じゃあ、これ使っちゃうよ。」


  懐から、ナイフと短剣の中間位の刃物を出した。不味い、受け止めると、絶対に怪我をしてしまう。どうしようか悩んでいると、ガシッと腕を押さえられた。大男が、もう気が付いていたのだ。


  振り解こうとしても、男の力が物凄く、全く振り解けない。七三が、刃物をしまって、フェルマーの鳩尾にパンチを入れた。胃の内容物が出てきた。苦しい。


  鼻っ柱にパンチが来た。ゴキッという音がした。鼻が折れたのだろう。鼻血で息が苦しい。どうしよう。このままではやられっぱなしだ。


  次々と、顔面にパンチが来る。『火魔法』の詠唱をさせてくれない。やはり、武器がないのが痛い。


  この大男の馬鹿力、全く動けない。なんとか振り解こうとしたその時だった。


   ギャー!


  大男が、悲鳴を上げて手を離した。見ると、顔が燃え上がっている。本当に燃えているのだ。


  七三が、振り返る。ドミノちゃんが、右手を前にかざしている。髪が逆立っている。目が赤い。充血しているのだ。


  七三の男の前に黒い穴が空いている。そこから黒い触手が伸びてきて、男の両足、両腕を掴む。もう自由が効かない。


  最後の一本が、伸びてきて、男の首を掴む。みるみる男の顔が青黒くなってくる。不味い。このままでは死んじゃう。


  「ドミノちゃん、駄目。殺さないで!」


  フェルマー王子が叫ぶ。ドミノちゃんがフェルマー王子を見る。血の涙を流している。フェルマー王子は、潰れ掛かった眼を何とか開けて、ドミノちゃんのそばに近づく。伸ばしていた腕を掴んで降ろしてあげる。


  「もう帰ろう。」


  ドミノちゃんは、元に戻った。泣いている。泣きながらフェルマー王子にキスをしてきた。絶対、このキスは血の味だ。ごめんね、初めてのキスが血の味で。フェルマー王子は、気を失ってしまった。


-------/----------/----------/----------/-----


  気が付いたら、王城の中だった。どこも痛くない。鼻に手をやる。全く潰れていない。鼻骨が砕けたと思ったが、何ともなかった。


  ベッドの横には、ドミノちゃんがいた。ゴロタ陛下とシェルさん、フランさんもいる。シルフさんもいた。


  ドミノちゃんが、フェルマー王子の手を握っている。恥ずかしいので、引っ込めようとするが、離してくれない。涙をいっぱい溜めた顔で、フェルマー王子を見つめている。


  「フェルマー君の馬鹿。死んだらどうするのよ。」


  「ごめん。守れなくて。」


  「馬鹿!」


  ドミノちゃんが大泣きしている。フェルマー王子は、黙っているしかなかった。ゴロタ陛下達は、部屋から出て行った。ドミノちゃんだけを残して。


  後で知ったのだが、あの後、ドミノちゃんは、通報で駆けつけた警察官に男どもを引き渡すとともに、身分を明かして、保護して貰ったのだ。知らせを受けたゴロタ陛下達が、フェルマー王子を王城の自室に運び治療をしてくれた。


  フェルマー王子の怪我は致死的だった。内臓損傷、脳挫傷、鼻骨を含む顔面骨折それと頭蓋骨陥没だった。ゴロタ陛下が、『復元』で損傷箇所を修復し、シェルの『治癒』スキルで完全回復させてくれたようだ。問題は、ドミノちゃんだった。


  ノエルが調べたところ、最後に使った魔法は、人間には使えない魔法だそうだ。と言うか使ってはいけない魔法だ。冥界のあの男が使う、特級の闇魔法だ。魔法名は『地獄の触手、闇の世界に誘う者達』と言うそうだ。


  ドミノちゃんは、その魔法の障害で、今は、目が殆ど見えないそうだ。『魔障』と言うそうだ。治療法は分からない。闇魔法そのものが、今、研究されている最中だそうだ。


  フェルマー王子は、涙を流しながら、


  「僕のせいだ。僕がもっと強かったら。僕が、ドミノちゃんを守ってあげられなかったから。」


  フェルマー王子は、ドミノちゃんの肩を抱いて泣き続けた。ドミノちゃんは、何も言わない。うっすらとしか見えない目で、ジッとフェルマー王子を見つめている。


  フェルマー王子は、体の奥から何かがわき起こってくるのを感じた。これは何だろう。この温かい光の力をドミノちゃんの身体に流し込む。


  ドミノちゃんの身体は、真っ白な光に包まれる。フェルマー王子は、光の先に暗黒の闇があるような感じがした。この闇を光で覆い尽くす。見えているわけではない。そんな感じがするだけだ。


  ドミノちゃんが、フェルマー王子に強く抱きついてくる。フェルマー王子も強く抱き返す。怖いのだ。ドミノちゃんに、また、あの力が湧き起こって来るような気がしている。


  フェルマー王子は、広い青空の中で、聖なる光をたっぷり受けてるドミノちゃんをイメージしている。光の中で、ドミノちゃんの笑顔が見えた。


  ふと気が付くと、腕の中でドミノちゃんが笑っていた。


  「フェルマー君、肩が痛い。」


  ドミノちゃんの目は治っていた。

  ドミノちゃんは‼聖魔法と闇魔法の両方が使えますが、これは非常に珍しいことです。

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