第398話 2029年ゴロタ帝国の新年
いよいよ2019年になります。
(2029年1月1日です。)
ゴロタ帝国セント・ゴロタ市では、暗い新年を迎えた。新宰相のカノッサダレスさんが、現閣僚に、昨日つまり12月31日までに、総辞職を申し渡していたのだ。
実際には、1月9日に新閣僚が任命されるまでは、現任務を続行できるが、新閣僚予定者の名簿の中に、現閣僚の名前はカノッサダレスさん以外1人もいなかった。前宰相のワイマーさんは、10月末に退任している。新宰相となったのが、カノッサダレスさんだった。
新閣僚は、当分の間、ゴロタ帝国領のハルバラ州から選抜された官僚が代行する。新憲法をはじめ、所掌事務に関する法律に明るく、また、国家建設に情熱を傾ける者ばかりだった。唯一、困ったことは、1日12時間以上働こうとすることだった。朝の午前7時、職員が誰もいない官庁に出勤し、通常で体調時間は午後7時だ。どうにかすると、午後7時から会議を開催することがある。職員は、今までのぬるま湯的な公務員では務まらないのだと意識改革が必要だった。これには、一つの理由があった。
各閣僚は、所掌行政庁の職員の選抜を行っている。10月1日に全員が、公務員試験を受けている。今年の3月末で退任する予定者を絞っている最中だった。それにより、来年度の新規採用が決まるのだ。
総務省、財務省、国土交通省、厚生労働省、法務省、外務省、経済産業省、文部科学省、農業水産省、国防省の10省だ。総務省の大臣は、カノッサダレスさんが兼務している。このほかに、警察庁という組織を作った。これは、各州、市にある衛士隊本部を統一的に管理する組織で、衛士隊もこれからは、警察本部という名称にする。各市町村には、警察署を置き、署長は、旧衛士隊本部長及び大佐級の人を当てる。任期は1年ないし2年で、後任者は、各警察本部内で行われる証人選考によって決められる。
警察本部の下部組織には、消防本部と鉄道警察隊を設けている。
国防軍は、3軍統括本部長が指揮命令権の最上位であるが、予算、人事等は国防大臣の権限で、統括本部長は、あくまでも作戦遂行上の最高司令官という立場だ。しかし、帝国軍という性格上、皇帝陛下が最高命令権者であることは、憲法上の権能であり、神聖にして犯すことのできないものであるとされている。
国防軍は、方面軍に区分けされ、州単位に配置される。そして、その州内でいくつかの駐屯部隊に分かれるのだ。例えば、ゴロタ帝国軍タイタン州方面軍タイタン市駐屯部隊連隊本部となるのだ。
国防軍のユニットは、伍長、軍曹が長の分隊、尉官が長の小隊、少佐クラスが長の中隊、中佐や大佐クラスが長の大隊と別れている。2個大隊以上で連隊、2個連隊以上で師団と呼び上級大佐以上の階級にある者が長に任ぜられる。陸、海、空の本部長は、大将、元帥が任官するが、部隊への直接命令権はない。あくまでも、隊長への指揮命令権を持つだけであった。
前の宰相は、10月1日の公務員試験結果により、どこかの行政機関に配属される可能性はあるが、それまでは無職だ。以前なら、国の行政機関参加の法人組織の理事長位にはなれたろうが、原則、天下りの禁止という通達が出され、行くところが無くなった。現理事長達も、今年の3月末で全員退任となる。
軍隊は、階級に応じての給料表が適用され、以前のように伍長でありながら、大佐クラスの給料を貰うということはなくなった。また、隊員の官舎も給料の一部として無償供与されるので、その分、給与が低くなっている。
隊員の中には、不満があり、クーデターという意見もあるようだが、あのゴロタ皇帝陛下だ。殲滅されるのがオチだとあきらめている。
ワイマー元宰相は、来年度、新規に採用されることに一縷の望みを託している。
-----/----------------------------/----------------------/-------------------
ハルバラ州では、昨年の農作物の収量が近年にないほどの大豊作のため、皆、ニコニコしている。それに、鉄道建設や港湾建設、行政庁舎に学校、治療院そしてハルバラ離宮の建設と公共工事が目白押しだ。労務賃金も今までとは比べ物にならないほど高く、中間搾取もないことから、皆、越年費用に余裕があった。
州内は、結婚ブームだ。新築の安い団地の抽選が始まったのだ。団地の入居条件は、夫婦以上の家庭であることだ。団地の広さは、新婚用で2LDK、家族4人以上は、4LDKだ。すべて鉄筋コンクリート作り4階建てで、団地の周囲には、公園や緑地が設けられ、学校、医療所も開設されている。
電気、水道、下水道が完備されており、空調まで全館空調になっている。旧市街から転居を目指している人が殺到しているみたいだ。
新年のカーニバルが計画されている。各市町村対抗の仮装ダンスパレードだ。州都ハルバラ市で行われる。これには、ゴロタ皇帝陛下もご臨席されるそうだ。皆、張り切って趣向を凝らしているようだった。州知事には、前の北西軍長官だった2等上級認証官クロイツホルブさんだ。貴族ではないが、ゆくゆくは、カノッサダレスさんと一緒に叙爵する予定だ。
-----/-----------/----------/-----
フェニック州連合では、太守のセディナ大公爵が各州の州知事から新年の挨拶を受けている。皆、獣人のなかセバス侯爵だけは人間だった。しかし、この並み居る州知事の中で、最も力を持っているのもこのセバス侯爵だ。ゴロタ皇帝陛下の直属部下だからだ。麾下の貴族にイチロー子爵とサクラ男爵がいる。しかし、そんなそぶりは全く見せずに周囲の侯爵、伯爵とあいさつを交わしている。聞くところによると、彼は、猫族の忍びを各州に放って情報収集をしているらしい。その情報は、当然にゴロタ皇帝陛下のもとに報告されるだろう。
現在、各貴族の爵位は、世襲ではなく、一代限りとされている。領地も没収されており、財産と言えば、わずかな貴族屋敷だけだ。まあ、それでも州知事として州を任されている貴族ならいいが、そうではない貴族は、貴族年金で暮らしていかなければならない。男爵で年600万ギル、子爵で800万ギル、侯爵で1200万ギルだ。そのほかに、家令雇用費として、3人分1200萬ギルが支給される。
それ以上の家令を雇うとしたら、自分の持ち出しだ。市長以上の地方行政官か、国の行政官をやらなければ、前の家格を維持できない。
彼らに根本的に欠けているのは、自分で商売をするなり、勤めるなり、農地を耕すなど、自ら収入を得ようという努力だった。
年金収入しかなかった貴族達は、大みそかの夜のカウントダウンパーティーができないことを悔しがっているが、金さえかけなければ十分にできたはずだ。彼らには、一般庶民には望めないような広大な屋敷と夢のような額の年金が支給されているのだから。
貴族の子息たちは、自分が将来生き残るために、勉強と剣術に血道を上げている。自分の能力を高め、国の高官となる道を模索しているのだ。
ゴロタ皇帝陛下のお考えでは、貴族は一代限り。世襲は認めないとされているが、能力さえあれば、貴族として役職に登用する可能性を否定していない。というか、優秀な貴族を探しているとのうわさが流れてきている。
それは事実だった。反乱を犯した貴族たちの領地を統治する貴族が必要だったし、帝国本国の州知事ポストも空席だ。若くて優秀な貴族はいくらいても多すぎるということはない。
貴族と一般公務員の差は、皇帝陛下に永世忠誠を誓うかどうかだ。能力もそうだが、貴族としての品格と、命を賭しても皇帝を守るという気概、そのような一般公務員に望めない資質があるからこそ、特権階級としての貴族に叙せられるのだ。
ゴロタ帝国軍も士官不足だった。まだ、セディナ大公爵の近衛連隊長も決まっていない。また、新設される航空防衛軍の司令官も決まっていない。年功序列ではなく、真に優秀な貴族から選任するつもりだと聞いているのだ。武芸に秀でている者は、貴賤の別なく登用することにしている。
正月だというのに、街の道場では、朝から稽古の声が聞こえてきていた。
-----/-----------/-----------/--------
カーマン連合州の王都シャウルス市では、フェルマー王子がドミノちゃんを市内観光に案内していた。まさか王子が徒歩で街中を歩いているわけないと思っているのか、誰も注意を惹かない。ただ、可愛い美少年と美少女が手を繋いで歩いているなと、ほほえましく見ているだけだった。
しかし、二人を別の眼で見ている者がいた。見るからに裏の世界の人間だと分かる男たちだ。一人は、身長が190センチ以上、体重は140キロはありそうな大男だ。しかし、眼の中に愚鈍の光が宿っている。
もう一人は、大人にしては極端に背の小さな狐目の男だ。狡そうな目をキョロキョロしている。最後の男は、身なりもきちんとしていて、髪も七三にわけているが、目つきだけが卑しさを隠しきれていなかった。
「兄貴、あのガキども、いい値段で売れますよ」
「シーッ!声がでけえ。誰かに聞かれたらどうすんだよ。今、人身売買がばれたら、死刑じゃ済まねえぞ。」
「兄貴、そんなに心配しなくたって大丈夫だよ。おいら達のボスは、用心深いから。」
「まあ、待て、もう少し追いかけて、人通りが少なくなったら、一気に行くぞ。テツ、お前は男のガキだ。キョロ、お前は女を掻っ攫え。」
兄貴分の七三が指示をしている。そんなこととは知らない二人は、あっちのスイーツ屋さんや、こっちのブランドショップといろいろ見て回っている。
普通、商店は、正月3が日は休む所が多いが、ここ、ギンザストリートでは、正月の買い物客を狙って多くの店が営業している。ギンザという名前は、各国、各市町にあり、一番の繁華街を指す言葉になっている。
今日は、フェルマー王子はドミノちゃんに指の柔軟クリームを買ってあげる予定だ。ピアノの練習が激しいのか、指先が固くなって割れてしまうのだ。この前、ドミノちゃんにギターのストラップベルトを買って貰ったお礼だ。明日は、旧カーマン王国の王城参賀があるので、今日くらいしか二人で買い物に来れないのだ。
フェルマー王子は、ドミノちゃんと二人っきりの買い物が楽しみでしょうがなかった。周りには、知っている者が誰もいない。もしかして、これって『デート』?自然に顔がにやけてしまうフェルマー王子だった。
ついにエピソードも入れて、400話目になりました。去年の7月に初投稿してから、1日に1~2話掲載のペースでここまで来ました。このお話は、もうそろそろ終わらせようかと思いますが、結末までのあらすじは、ほぼできています。後は、肉付けだけです。