第394話 フェルマー王子の危機
フェルマー王子は、初めての学校生活に戸惑っています。
(12月5日です。)
今日の午後、フェルマー王子は魔法実習の授業だった。講師は、ドミノちゃんだ。ドミノちゃんは、週2回、火曜日と木曜日の午後、グレーテル王都にある王立魔法学院に行って勉強している。
ドミノちゃんは、ピアノも上手だし、頭も良かった。顔も可愛いし。神様って不公平なんだなと思うことがあるフェルマー王子だ。しかし、自分も、その不公平なグループの一員だということに、気が付いていないフェルマー王子だった。
魔法は、どちらかというと不得意だった。最近、使えるようになって来たが、未だ呪文もよく分からない。カーマン王国では、魔法など王族が使うものではないと言われていたし。
ドミノちゃんは、次々と魔法を使っているが、詠唱しているところは見たことがない。ノエルさんに、詠唱をしてはいけないと言われているそうだ。
今日は、大きな杖を持っている。長さが170センチ近くあるので、ドミノちゃんの頭よりも50センチ位上まである。
この杖は『リルケの杖』と言って、クレスタさんが使っていたものらしい。え、クレスタさん、『M16』を使っているんですけど。使っている魔法は、『空間魔法』だけのような気がするし。
授業は、魔法の連発という課題だった。良かった。難しい課題じゃ無くて。
えーと、火魔法は、火の精霊の特性を考え、その精霊の力を特定して、それから自分が誰かを教えて、最後に命令するはずだ。でも、連発ってどうするんだろう。最後の呪文を連呼するのかな。あ、僕の番か。えーと?
「万物を焼き尽くす業火の精霊よ、その力で我に仇なすものを地獄の業火で葬らん。我が名はフェルマー。創造主に代わりて我は命ずる。」
「ファイアボール、ファイアボール、ファイアボール。」
極大の魔法が3発放たれた。魔法人形どころではない。遥か後方の体育館が全焼しかかった。ドミノちゃんが、慌ててシールドを体育館に掛けたので、屋根が燃えただけで済んだ。魔法の授業は、中止になってしまった。
夕方、ノエルが王都から戻って来て、フェルマー王子の魔法能力を詳しく調べていた。フェルマー王子は、魔法力との親和性が極めて高いらしい。
今、研究中だが、魔力値、魔法適性の他に魔法の発動のしやすさなどの親和性というのがあるらしい。これが高いと、思っただけで発動するらしい。そういう子が呪文を詠唱すると、極大級になりやすいそうだ。
フェルマー王子も、詠唱禁止になってしまった。
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キキちゃんが、来週から、別館の2階に住むことになった。来年のタイタン学院の高等部受験のためと、土日のTIT48の練習が忙しくなったからだそうだ。
キキちゃんは、グレーテル王都のゴロタ帝国グレーテル御用邸に住んでいた。シロッコさんという、シズさんのお祖母ちゃんが後見人になっていたが、タイタン学院中等部へ転入したので、後見人は必要なくなっていた。お兄ちゃんのココちゃんは結婚して王都に住んでいるが、新婚さんの邪魔をしてはいけないと、あまり行かないらしい。それよりは、タイタン市に住んで、学業とアルバイト?に専念した方が良いということになったのだ。
キキちゃんは、ゴロタの夫人候補と思い込んでいるが、ゴロタにその気はさらさらない。
別館も人数が増えてきた。1階には、クレスタとマリアちゃん、フェルマー王子の3人だ。2階には、ドミノちゃんとキティちゃんで2部屋を使い、ドミノちゃんの母親のデミアさんが1部屋、デリカちゃんが1部屋、それにカテリーナさんとシンシアちゃんが1部屋だ。それに、今回キキちゃんが入居して来た。
もうそろそろ手狭になって来た。本来なら、セント・ゴロタ市にできる新宮殿ゴロタ・パレスに皆が住めれば良いのだが、完成は2030年1月の予定だ。未だ1年以上ある。大学の改革も未だだし、この際だから、別館を増築することにした。
別館は、煉瓦作り3階建ての8LLDDKKだ。屋敷の正門に行く道の南側に北に向けて建てられている。その東側に上下7部屋増設してもらう。1階部分は1部屋、2階部分は4部屋、3階部分に2部屋だ。これで、全部で15部屋だ。1階部分には、LDKの他に、大きな貴賓室が3部屋になる。2階は、振り分け廊下を挟んで、南側に3部屋、北側に4部屋になる。3階は、倉庫や作業室それと従業員用のLDKの他に、執事とメイドの居室が5部屋だ。基本、1部屋を2人で使うが、4人で使っても十分な広さがある。しかし、執事さんやメイドさん達は、使用人棟から通っているので、当番のメイドさんが寝泊りしているだけだ。
これだけ大工事なのに、4か月あれば可能だという。プレカット工法という技術を使うらしい。増築費用は、新宮殿新築費用と一緒に請求するので、今回はいらないそうだ。まあ、バンブー・セントラル建設には、もういくら払っているか分からない。
カテリーナさんは、最近は、フミさんの孤児院で働き始めた。子供たちと一緒に遊んでいると、脳の発育にいいらしい。シルフが、人口鼓膜と3種類の耳骨を作っているが、まだ実験段階なので、手術はできないようだ。
精密な透視写真がないので、よく分からないが、骨伝導では聞こえるみたいなので、内耳には異常がないようだ。外耳から覗くと、鼓膜部分がふさがっているので、きっと中耳が欠損しているみたいだ。耳管はあるようなので、あとは、外耳から内耳までの空洞を形成し、人口鼓膜と耳骨を埋め込めば聞こえるようになるだろうとのことだった。
それは、どうやって作るのだろうと思ったら、耳の奥の部分の細胞を採取して、DNA操作で成形するそうだ。異世界では一般的な技術で、脳でさえ作れるらしい。
ただし、すべてではなく欠損している部分のみだそうだ。理論的には、ホムンクルスも作成できるだろうが、倫理的に禁止されているそうだ。
ゴロタにはよく分からないが、それならクレスタを作ってもらうこともできるのだろうか。そう聞いたら、今のクレスタに不満があるのですかと叱られてしまった。
あと、現在は、骨伝導の補聴器を使っているが、話す能力は、小さな幼児と生活することによって向上するそうだ。それで、シンシアちゃんも一緒に孤児院でお勉強することになっている。
そういえば、シンシアちゃん、今4歳だから小学校入学はまだまだ先なのだが、来春から、ピアノを習わせるそうだ。ドミノちゃんもそうだったように、小さい時から習い事をすれば、才能が花開くこともあるそうだ。まあ、シェルがそう言うし、可能性があるなら、やらせてみるのも悪くない。
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フェルマー王子は、最近だいぶ逞しくなってきた。小学校6年生としては、体も小さかったのが、がっしりしてきたような気がする。やはり、ダンジョン等で死地をくぐると能力値も上がるらしい。能力値が上がると、より強い魔物と戦えるようになるという、相乗効果だろう。
フェルマー王子は、学校の成績もよく、タイタン学院中等部普通科へ推薦で進学できるそうだ。ドミノちゃんも普通科なら試験を受けなくても良いが、新しくできる音楽科に進学を希望しているので、実技試験があるそうだ。
グレーテル王国ピアノコンクール高校生の部で優勝しているので、当然に加点するが実技試験免除の規程はないらしい。まあ、形式だけだろうが、その前に、少年少女合唱団のコンサートと、新年には大きなコンクールがあるらしい。
その練習で、ほぼ毎日、遅くまで練習をしている。何回も弾き直している。フェルマー王子には、とてもうまく聞こえるのだが、どうも少し違うらしい。
キティちゃんとシンシアちゃんがずっと聞いている。でも、午後8時になると、シンシアちゃんがお眠になり、キティちゃんも小学6年生分の宿題が終わったら寝なければならないので、フェルマー王子が1人で聞いている。
一生懸命弾いているドミノちゃんを見ていると心がホッとする。あれ、なんでだろう。ドミノちゃんがうまく弾けると嬉しいし、失敗すると心配になってしまう。
ずっと練習曲を聞いていると、間違えた個所がすぐ分かってくる。楽譜は読めないが、旋律の流れやリズムが変わってしまうのだ。
今度のコンサートとコンクール、うまくいけばいいのに。ソファに座って、ぼんやりと聞いている。12月でも、大広間は暖炉がたかれていて暖かい。眠くなってしまう。眠く。ああ、もう眠ってしまう。・・・・
ふと気が付くと、ドミノちゃんが、フェルマー王子の膝に頭を付けて眠っていた。きっと、疲れて、ソファに座っていて眠ってしまったんだろう。
じっとドミノちゃんの寝顔を見ていた。なんて綺麗な顔なんだろう。魔人の子って、初めて見たけど、みんなこんなに綺麗なんだろうか。
そういえば、2階のデリカさんや、隣の本館に住んでいるブリさんやビラさんもとても綺麗だし、ドミノちゃんのお母さんのデミアさんも、とても綺麗だ。目が大きくって、鼻筋がスーッと通って。魔人族って、みんな綺麗な人ばかりなんだ。
フェルマー王子は、ドミノちゃんの黒くて艶のある角を見ていた。節が少なくクルンと回っている。フェルマー王子は、つい、ドミノちゃんの角を撫でてしまった。ドミノちゃんが、パチリと眼を覚ました。
「何をしたの?」
ドミノちゃんの顔が真っ赤になっている。怒っているんだ。フェルマー王子は、慌てて言い訳をした。
「いや、ドミノちゃんの角がきれいなので、つい触ってしまったんだ。ごめんね。気を悪くした?」
「違うわ、撫でていたでしょう?」
「うん、つい、撫でたくなってしまって。ほんとにゴメン。」
「謝らないで。フェルマー君の馬鹿!」
ドミノちゃんは、泣きながら、走って2階の自分の部屋に戻っていった。フェルマー王子は、呆然としている。一体、どうしたのだろう。こんな時、シルフさんがいたらいいのに。シルフさんは、ゴロタ陛下と一緒にゴロタ帝国の閣議に出席している。
デミアさんが、2階から降りて来た。フェルマー王子は、立ち上がって、デミアさんを迎えた。デミアさんは、フェルマー王子の向かい側に座った。フェルマー王子にも座るように合図をした。
魔人族にとって、角は特別な意味を持っている。辱めを受ける例えを『角を折られる』と言うし、うれしい時の例えは『角が伸びる』というのだそうだ。そして、男女間でお互いの角を撫でるのは、愛の告白以上、性的な意味を持っているらしい。
特に鋭敏な性感帯があるわけではないが、古来からの風習で、角を撫でられた女性は、嫌いでない限り、結婚しなければならない。
もし、結婚するのが嫌なら、自らの角を折るか、相手の角を折らなければならない。最近は、結構自由だが、王家の人間は、この伝統を守り続けている。
「僕のように角がない場合は、どうするんですか。」
その場合は、男の大切なところをちょん切るらしい。フェルマー王子は、顔が青ざめた。一体どうしたらいいのだろうか。もう、自分では判断がつかない。シェルさんに相談することにした。
フェルマー王子に魔の手が延びています。