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第393話 タイタン市少年少女合唱団

今回は、まったく戦いはありません。と言うか、フェルマー君、君は何になる気ですか?

(12月1日です。)

  今日の午後、タイタン市の音楽堂で、タイタン市少年少女合唱団の練習があった。合唱団は、西タイタン州在住の14歳未満の少年少女が参加できる。


  勿論、入団審査があるが、団長の特別推薦があれば別だ。実は、タイタン学院初等部の音楽教師は、この団長を兼務しているのだ。


  他の団員は、紺色のセーラー服だ。男子は半ズボン、女子はミニスカートだ。頭にベレー帽をかぶっている。靴は、赤色のパンプスで、白色のハイソックスだ。かなりレトロで可愛い。この制服もあって、入団希望者が殺到している。


  4月に入団審査が有ったが、倍率は50倍以上だったそうだ。そのため、団員は少なからずエリート意識を持っている。しかし、フェルマー王子とドミノちゃんは、審査なしの中途入団だ。しかもフェルマー王子は、皆の憧れのソロパートだ。


  一体、どんな奴だ。皆、敵愾心に燃えている。そこに、未だ、あどけない顔のフェルマー王子が入ってきたのだ。こんな奴のどこがいいんだ。そう思われても無理は無かった。


  入団の挨拶をした後、指定した席に座ろうとしたら、後ろの子が椅子を引いた。普通は、尻餅をつく所だが、そうはならなかった。空中で空気椅子に座った。フェルマー王子の今の体力なら、1時間でも2時間でも空気椅子ができる。


  練習が始まった。今日、練習する曲は、聖夜の日に歌う曲の一つだ。


  賛美歌158番『ジョイフル・ジョイフル』だ。この曲は、聖夜によく聞いていたので知っている。早速、団長先生からソロパートを歌わせられた。勿論、伴奏はドミノちゃんだ。


  最初は皆と合唱だ。


  ♪ 晴たる青空 ただよう雲よ

  ♪小鳥は歌えり 林に森に

  ♪心はほがらか 喜び満ちて

  ♪見かわす 我らの明るき笑顔


  続いて、フェルマー王子のソロパートだ。


  ♪ジョイフル ジョイフル 汝をあがめ

  ♪輝く神は 愛の恵みよ

  ♪あなたのみ前では 花さえ開く

  ♪恵みのお日様 今昇りゆく


  ♪罪と悲しみの み雲を散らし

  ♪疑いの闇が 今払われる

  ♪滅びぬ喜び 与える神よ

  ♪我らは光で 満ち満ちている


  変声期前の中性的な高音だが、音楽堂一杯に歌声が響き渡る。他の団員達は、知らず知らずのうちに、涙が溢れていた。


  練習中は、立ち入り禁止のはずだったが、歌声が漏れたのか部外者が20人位、観客席に座っていた。


  会場内全ての人達が拍手をしていた。中学2年生の合唱団キャプテンがフェルマー王子のところに来た。顔が涙でくちゃくちゃだ。握手を求めてきた。フェルマー王子は、顔を真っ赤にして握手を返した。拍手が、鳴り止まなかった。


  ドミノちゃんが、ピアノをソロで弾き始めた。『カンパネラ』だ。超絶技法を難なく弾いている。皆、聞き惚れている。会場には、部外者が既に300人位入っている。もうミニコンサートだ。


  『カンパネラ』の演奏が終わったら、皆、総立ちだ。万雷の拍手だ。ドミノちゃんは、ゆっくり立ち上がって、観客にお辞儀をした。


  もう止まらない。またピアノの前に座って前奏を弾き始めた。この前習った『冬景色』だ。


  フェルマー王子が歌っている間、寒くさみしい港の風景が、皆の脳裏に浮かんだ。何故か知らないが、涙が出て来た。この歌って、こんな歌だったのだろうか。


  歌い終わったら、椅子に座っていた観客は誰も立てなかった。立つのを忘れていたのだ。観客席の後ろの方、立ち見の人達の中から拍手が始まった。


  それからが大変だった。練習終了後、ドエス企画タイタン事務所の方が、団長にコンサート計画を打診して来たのだ。『グレーテル王国の大音楽ホールで、コンサートをしたいので是非契約を。』と言って来ている。団長は困っているようだった。


  結局、全員の保護者の許可と団の代表つまりシェルさんの許可がなければ、契約ができないと言って、一旦引き下がって貰った。


  団員の皆は、もうグレーテル王都に行く気になっている。やはり、旧宗主国の王都、行ってみたいに決まっているのだ。


  今日の練習は、これで終わりになってしまった。団長に音楽堂のオーナーから相談があった。今後の練習は、公開練習にしてくれないかと言うのだ。


  どうやら、飲食物の売り上げがバカにならなかったそうだ。練習は、音楽堂の施設をタダで使わせてもらっているので、無碍に断れない。


  団長がフェルマー王子に無茶な要求をして来た。毎回、団の練習曲以外に2曲覚えて来るようにと言うのだ。


  フェルマー王子は、歌が好きだから断る気は無いが、団長と音楽堂のオーナーがコソコソ話していることが気になった。


  練習後、親が迎えに来ていない団員18名位と一緒に『クレスタの想い出』の2階カフェでケーキを食べた。ドミノちゃんが、全部支払っていたが、何であんなにお金を持っているんだろうか。


  フェルマー王子も、この前のダイヤの原石を売却した大金貨280枚を持っているが、1ギルも貰っていない。ゴロタさんに、これからダンジョンや採集でお金を稼いでも、カーマン州連合に帰るまでは1ギルも使えないとの事だった。


  やはりドミノちゃんと自分では、立場が違うのかなと思い、子供なりに寂しさを感じてしまっていた。


  フェルマー王子の周りには、女の子が集まっていた。皆、南の大陸の話を聞きたがっていた。それに、フェルマー王子は、栗色の巻毛と緑色の瞳が可愛らしい。言われなければ、まんま女の子だ。


  小学校6年生といえば、早熟な女の子もいる。膨らみかけた胸を、フェルマー王子の腕に押し付けたり、自分の太腿の上にフェルマー王子の手を引っ張り込もうとする子もいる。


  ドミノちゃんは、フェルマー王子に興味は無かったが、このまま放置すればシェルさんに叱られる。さっきから、白薔薇会のお姉さんがチラチラとフェルマー王子の方を見ている。


  「あ、フェルマー君。あまり遅くなるとシェルさんに怒られるから、もう帰ろう。」


  皆の不満そうな顔を無視して、フェルマー王子の手を取って店を出た。お勘定は、16800ギルだったが、お札があるので、支払いは簡単だった。


  皆は、未だお店で喋っていたが、もう皆を誘うのはやめようと思ったドミノちゃんだった。


  「あのう。」


  「なあに?フェルマー君。」


  「いつまで、手を握っているんでしょうか」


  ハッと気がついたドミノちゃんは、慌てて手を離した。2人とも顔が真っ赤になってしまった。


  この日の夜、シェルにたっぷり叱られ、ベソを描いていたドミノちゃんだった。


  次の日、フェルマー王子は、キティちゃんと一緒に北のダンジョンに潜っていた。勿論、シルフも一緒だ。


  キティちゃんの姿は、シルフと一緒の迷彩上下だ。違うのは、ヘルメットが鉄製ではなくプラスチック製だということと、拳銃の代わりに下げているナイフが、高級そうなことだけだった。


  地下3階層までは、フェルマー王子とキティちゃんの競争だった。フェルマー王子の『斬撃』が早いか、キティちゃんの『ミニMP5爆裂弾』が早いかだ。


  最後は、フェルマー王子が、トロールの群れの中に『瞬動』で移動した。もうキティちゃんは撃てないだろう。フェルマー王子は、ショートソードに炎を纏わせて、周囲のトロールを次々と殲滅して行った。炎の熱で、切り口を焼いているので、出血はわずかだった。


  ある程度倒して、『瞬動』で元の位置に戻る。その後は、キティちゃんとシルフさんの弾幕により、1匹たりとも逃さない。


  地下第3階層のボスはオーガ2体だった。フェルマー王子は、ショートソードに『炎』の気を込めていく。ドンドン剣が赤い炎に包まれる。剣が真っ赤になってくる。剣を横に払った。


    ズバン!


  赤い炎が、ヤイバとなってオーガを襲う。胴体で、上下に分かれたオーガ達は、その場で燃え上がってしまった。


  これから下に向かっても良かったが、お昼までには離宮に戻る予定だったので、帰ることにした。通常なら、シルフさんのゲートで帰る所だが、訓練だ。徒歩で入り口まで戻る。結局、この日、討伐した魔物は、オーガ2体、トロール・ソルジャー7体、トロール32体、オーク・ロード4体、オーク・ソルジャー18体、標準タイプのオークとゴブリンは数えていないというかあまりにも多すぎて数えきれなかった。


  帰りの途中、魔物を切っていて、フェルマー王子は、剣の切れ味が落ちて来たことを感じた。『炎』の斬撃が刃体に影響を与えたのだろう。


  フェルマー王子のショートソードは、ヒヒイロカネの刃に、ミスリルで包んだもので、ガチンコさんでなければ研ぎ直しが出来ないそうだ。これからは大切に使うことにしよう。


  タイタン離宮には、ドエス企画タイタン事務所のエージェントがシェルと商談中だった。シェルはタイタン市少年少女合唱団の代表とタイタン学院の理事長をしているのだ。


  「それで、専属契約をすると言っても、あの子達は未成年です。自由に働くことはできません。それと夜間のコンサートも出来ませんよ。」


  「ええ、存じています。しかし、年少者労働基準法では、芸術活動については、就労制限から外れていますし、午後8時までの活動は許されているはずですが。その範囲の中で活動させますので。」


  「でも、親御さん達が反対するのでは?」


  「この同意書にサインして貰った子だけを出演させますので問題ないかと。」


  それから、報酬の話や年間スケジール、レコード吹き込みなど大人の相談が続いて行った。


  そんなことは知らずに、ドミノちゃんの伴奏で賛美歌を練習しているフェルマー王子だった。


  曲目は、賛美歌のスタンダード曲である、


  98番天には栄え


  109番 きよしこのよる


  112番 もろびとこぞりて


  167番 アメイジング・グレイス


  の4曲だった。キティちゃんやシンシアちゃん、カテリーナさんまでソファに座って聞いている。執事さんが、メイドさん達に仕事をするように叱っていた。


  フェルマー王子は、歌っていながら、なんか、ここに来た目的が違って来たような気がしていた。

讃美歌は、基本的にはキリスト教ですが、四大精霊の教えも兼ねています。違うという方は、お許しください。宗教には、とんと知識がないもので(汗)

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