第391話 フェルマー王子の成長
フェルマー王子は、12歳、未だ小学6年生です。
(11月25日です。)
今日と明日は、学校が休みなので、皆でダンジョンに潜ることになった。シルフとクレスタ、それにキティちゃんとフェルマー王子だ。
ドミノちゃんは、ピアノの集中稽古が入っていた。新年ピアノコンサートに出場するらしい。
高校生チームとキキちゃんは、TIT劇場の出演日なので、忙しいそうだ。ダンジョン攻略の引率責任者は、シズさんだ。
今日は、南のダンジョンに潜らせる。基本的には、北のダンジョンと一緒だ。ゴロタさんからは、地下第7階層のシーサイドエリア手前で帰ってくるようにと言われている。シズさんはすぐに理解していたようだ。
フェルマー王子達が、ダンジョンの第1階層に入っていった。ここは、ゴブリンの巣窟だ。北のシェル・ダンジョンよりも、強力なゴブリンが出現する。
ここでは、ゴブリン・ソルジャーが雑魚キャラとなっていて、ゴブリンメイジのファイア攻撃とサンダー攻撃が結構きつい。敵の数が多いだいけに、魔法攻撃も途切れないのだ。
シズさんがシールドを貼る。何とか持ちこたえている。キティちゃんの『ミニMP5』が炸裂する。爆裂スキルは付与していないが、かなりのダメージだ。
倒れたゴブリンメイジにフェルマー王子が駆け寄り、首を切断する。切れ味抜群のショートソードだ。
わらわらと湧いてくるゴブリン・ソルジャーは、動きが遅いのか、フェルマー王子の剣風でバタバタ倒れていく。どうやら、相手の動きをけん制する『威嚇』を併用しているみたいだ。
すぐに魔石を回収だ。あと、敵の装備品も回収して、シルフさんがイフクロークに収納する。
地下第2階層は、トロールのエリアだ。トロールも通常の緑色の皮膚ではなく、紫色の皮膚だ。相変わらず毒攻撃をしてくる。周囲に毒霧を纏っているので、直接攻撃をしづらい。
狼人がトロール化したみたいで、攻撃と防御が非常に素早い。シズさんが、『デスポイズン』魔法を詠唱する。見る見る毒霧が消えていく。毒さえなくなれば、こっちのものだ。フェルマー王子が何度か切りかかっていくが、ヒットはしても致命傷にはならないみたいだ。
しかし、だんだんと弱っていくのが分かる。最後のとどめは、キティちゃんの『ミニMP5爆裂弾』だ。うん、頭が無くなってしまった。しかし、魔石の回収には問題がなかった。
階層ボスは、トロールと言うよりもオーガ級の大きさだ。頭が2つの狼のものになっており、狼人がトロール化したみたいだ。
こいつは、攻撃と防御が非常に素早い。いやらしい相手だ。キティちゃんの『ミニMP5』の攻撃をうまく躱して、先頭のフェルマー王子に切りかかってくる。フェルマー王子は、ショートソードで受けたが、体重差が大きく、吹っ飛ばされてしまった。しかし、その瞬間、フェルマー王子が、狼トロールのアキレス腱を切断していた。
壁に激突したフェルマー王子は、息が出来ないくらい苦しかったが、休んでなんかいられない、口の中にたまった血だまりを吐き出し、敵に向かって走り込んだ。
アキレスを切られて動けなくなった狼トロールは、キティちゃんの『ミニMP5爆裂弾』をすべて受けてしまい、フェルマー王子が傍に寄ったときには、肉の破片しか残っていなかった。でも、魔石だけはきちんと回収することができた。
クレスタさんが、『ポーション』でフェルマー王子の傷を回復している。どうやら、大したことはなかったみたいで、すぐに元気になった。しかし、さっきの血は、きっと肺から吐き出されたものだろう。きっと肋骨の何本かは折れていたのかも知れない。
地下3階層は、荒野エリアで、古代恐竜プテラノドンが飛び回っている。ここは、キティちゃんとシズさんの独壇場だ。
敵は、空を縦横無尽に飛び交い、素早い動きだが、シズさんは、『竜のアギト』を抜き、雷属性の『斬撃』を放った。プテラノドンの胴体が真っ二つになるとともに切り口から煙が上がっていた。
フェルマー王子は、今の『斬撃』の真似をしてみる。『威嚇』の気を剣に流し込んでみた。剣が青白く光り始めた。空に向かってはなってみる。聖なる光がほとばしっていく。うん、これは役に立つ場面が限定される。
シズさんは、フェルマー王子に、『火』を感じて練ってみるようにと指導してみた。最初はなかなかできなかったが、そのうち、剣が赤く光り始めた。
シズさんが、遠くへ火を飛ばすつもりで、剣を振るように指導してくれた。か細い炎が剣の先に飛んで行った。あとは、慣れだけだ。
今回のパーティには、ヒーラーがいないのであまり無理はできない。ポーションの治癒力には限界があるのだ。本当は、フェルマー王子もヒーラーのはずだが、魔法詠唱を使ったことがないので、今のところ、聖魔法は使えない。
地下3階層のボスは、さっきのプテラノドンが2体だ。そう思っていたが、なんと4体もいた。しかもかなりでかい。どうしようかと思ったが、しょうがない。シズさんが『斬撃』で1体、クレスタさんと、シルフさんが『グレネードランチャー』で2体を始末した。
キティちゃんが、『ミニMP5爆裂弾』で、空中からプテラノドンを落とす。すかさず、フェルマー王子が近づき、『火』を纏ったソードで、プテラノドンの首を切り落とした。剣そのものでは、半分くらいしか食い込まなかったが、あとは『火』の弱い『斬撃』で、首を焼き切っていた。
今日は、これくらいにして帰ることにした。
帰りに皆で、別荘により、露天風呂に入ることにしたが、フェルマー王子は、ずっと壁の方を向いていた。皆でからかっていたが、最後まで、振り向かなかった。
屋敷に帰ってから、フェルマー王子は夕飯時まで、『炎の気』を剣に込める練習をしていた。本人は気づかなかったが、身体全体が赤く光り、足元の枯れ草が焦げてしまっていた。
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翌朝の早朝稽古では、初めて大剣の木刀で素振りをさせてもらった。かなり良い感じで、素振りができた。ゴロタさんのようには行かないが、小学6年生のレベルではなかった。
素振りが終わると、魔法の練習をさせられた。ゴロタさんが、フェルマー王子の背中に手を当てて、魔力を流し込む。暖かい。気持ちの良い魔力だ。手を正面にかざす。魔力が手の先、指の先に集まる感覚で手の先に集中する。ふっと力が抜けた。
手の先が白く光る。ゴロタさんが、小さな声で囁く。
「いにしえの力なる聖なるアリエス、爾その力を示し生きとし生けるものの根源たる癒しの力を我に与えたまえ。我の名はフェルマー。我は命ずる。その力をを示せ。ヒール。」
フェルマー王子の手から、白い光が虚空に消えていった。この詠唱は、例に過ぎない。囚われないようにと注意された。しかし、初めての魔法が身体を通り抜ける感覚、不思議な感覚だった。魔法を魔道具に流し込むのとは違う。
何度も、先程の詠唱を思い出しながら、言葉にする。何となく分かってきた。魔法の力は、自然の力だ。イメージすることによって、具現化できる。呪文は、そのイメージのきっかけに過ぎないのだ。
何度か練習していると、朝食の時間になってしまった。別館に戻って、ドミノちゃんと一緒に食事だ。
最近、カテリーナさんは手掴みをしないで食事をするようになってきた。まあ、お魚などの面倒臭い食材は、滅多に出ないからかも知れない。でも、パンにバターやジャムを塗るのはメイドさんの仕事だ。
カテリーナさんは、フェルマー王子の継母に当たるのだろうか。良く分からない。フェルマー王子の母は、幼い時に病死してしまった。カーマン家の遠い親戚の公爵家から来たらしい。しかし記憶にないので、どんな人だったか分からない。とても綺麗な人だったと乳母が言っていたっけ。
カテリーナさんを見ていると、母もこんな綺麗な人だったのかなと思うことがある。クレスタさんだって、王国出身とはいえ、今まで見たことがないほど綺麗な人だ。クレスタさんは29歳と言うから、生きていれば母も同じくらいの歳だったろう。
今日フェルマー王子は、シルフさんと2人で北の森の警戒に行く事になっている。ゴロタさんから獣は、武器を使わずに追い払うように言われている。心の中の力を感じて相手を睨むそうだ。フェルマー王子は、何となく出来そうな気がしていた。
それと、北の谷に行って、石を1個拾ってきてくるように言われ、長いロープを1本、渡された。
フェルマー王子は、石なんか何に使うのだろうかと思ったが、言われたからには、キチンと達成するつもりだった。
北の森の中は、冬の木々が寂しげで、冬の渡り鳥が鳴くだけだった。逆に、夏場は深い葉に隠れてしまう小動物達が、今は簡単に見つかる。
フェルマー王子は、シルフさんと2人きりになる事で、ドキドキしている。シルフさんの格好は、迷彩の戦闘服上下で、黒革ブーツ、鉄製のヘルメットだ。ヘルメットには、同じ迷彩柄のカバーとネットが掛けられている。
武器は、『MP5』と『シグP320サブコンパクト』だ。グリップは、小柄な女性用のものに交換されている。銃身長は3.6インチで9ミリ弾を12発装填している。
フェルマー王子は、いつもの冒険者服にミスリル製軽鎧セットだ。背中にザックを背負っている。今日のお昼、チキンサンドとミルクのポットが入っている。
最初は、猪が現れた。フェルマー王子達に気がついたら脱兎の如く逃げ出した。通常、野生動物は人間と出会うと逃げ出す。猪が人間を襲うのは、自分や子供を守ろうとするときだけだ。
兎、鹿なども会うと同時に逃げ出した。未だ何もしていない。しばらく進むと、木の上から、大きな枝が落ちてきた。
見上げると、猿が樹上に群れている。夥しい数だ。しかし、どうも様子がおかしい。その猿達は、牙が異様に長いのだ。魔物だ。フェルマー王子達は、魔物の猿達に囲まれた。
シルフが『ファング・エイプ』だと教えてくれた。まんまの名前だ。
フェルマー王子は、剣を抜き、右手に下げたまま、群の後ろの一際大きなファング・エイプを睨みつけた。お腹の辺りに力が湧き立ってくる。他の猿どもに警戒しながら、睨み続けた。
そのボス猿は、長い牙を見せてフェルマー王子を威嚇してくるが、フェルマー王子は、自分の『威嚇』の圧力をドンドン強くしていく。さあ、いつでも切り捨てるぞと言う気迫だ。
ボス猿は、後ろを向いて逃げ出した。他の猿どもがそれに続いた。うむ、うまく行った。
谷に近くなった。渓流の音が聞こえる。もう、渇水期なのだろう。それほど激しい音ではない。
嫌な気配を感じた。フェルマー王子は、上を見上げた。鷲だ。嫌、鷲よりも格段に大きい。首がおかしい。顔がある。と言うか、首から上が猿の頭だ。シルフが、エイプ・コンドルだと教えてくれる。急降下で襲って来た。危ない。
フェルマー王子は、避けようと思ったが、どこへ?5mくらい先の樹の陰だ。
思いっきり走ろうとした。一瞬、周囲の動きが止まった感覚になった。走り込んだ気はしなかったが、樹の陰だった。後方で、エイプ・コンドルの羽音が聞こえた。振り返ると、エイプ・コンドルが地面から飛び立とうとしていた。
フェルマー王子は、『炎』をイメージしながらショートソードを抜き放った。『炎』が刃先から迸って、エイプ・コンドルの頭が焼け落ちた。
ほぼ無意識の戦いだった。自然と体と意識が動いていた。フェルマー王子は、ボーッとしていた。エイプ・コンドルの魔石はシルフさんが回収していた。
フェルマー王子の初ダンジョン経験、チート冒険者になる要素盛沢山です。