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第389話 ベール侯爵は不満です

改革には、必ず不満が出ます。

(11月15日です。)

  シャウルス市内の貴族街にあるベール公爵邸内では、ベール侯爵と麾下の子爵、男爵が集まっていた。


  ベール公爵は、70歳近い老人だったが、血色もよく、大柄な身体からは、或る種のオーラが発せられているようだった。


  子爵達はオロオロしていた。ベール侯爵は大声で怒鳴っている。


  「今回の新皇帝の措置はおかしいじゃろ。何で、儂が審査を受けんとならんのじゃ。しかも、領地は召し上げじゃと?ふざけるな。儂を誰じゃと思っておるんじゃ。」


  ベール侯爵は、カーマン王国南部の有力貴族で、ブリザード侯爵に次ぐ広大な領地を持っていた。しかし、麾下の地方都市男爵だったガーリックが公爵にまで出世し、今では、領地が3分の2になってしまった。それが、今度は屋敷以外の領地が召し上げられるとは、馬鹿にするにも程がある。


  しかも侯爵軍を解散し、帝国軍にするじゃと。儂が丹精込めて精鋭を揃えた騎士達だ。ふざけるな。あの若造。こうなったら戦争じゃ。協力する貴族の10人や20人、直ぐ集めてみせるわい。


  そう思っていると、子飼いの男爵が口を開いた。


  「新皇帝陛下は、この前、1人で風俗街の店を6店、潰したそうです。その中には、あの暗黒街のドン、フェリーニの組織もあったのですが、瞬時に壊滅してしまい、死亡もしくは不具にされた男達は80名を超えているそうです。」


  別の子爵が、続いて説明した。


  「隣国の中央フェニック帝国では、ゴロタ新皇帝の措置に不満を持った反乱軍が、たった2日で敗退してしまい、戦争にならなかったそうです。」


  「うーむ、何と恐ろしい男だ。では、どうするのじゃ。」


  貴族達は、最悪、審査不合格の場合の事を考え、財産を隠す事を相談していた。しかし、その会話は、ゴロタが放った、忍びのジローとサブローにしっかりと聞かれていたのだ。


  その頃、ゴロタは、フェルマー王子とシルフを連れて、中央ベール市に来ていた。最初に行ったのは、衛士隊本部だ。ここの衛士隊は、王国の採用ではなく、ベール侯爵が採用している。いわゆる私設衛士隊だ。


  衛士隊本部は、木造2階建てだが、通常、衛士隊には必ずある道場と練兵場がなかった。隊本部の入り口には、若い衛士が1人立っているが、姿勢も悪く、壁に寄りかかって立っている。ゴロタ達が隊本部に入ろうとしても、チラッと見ただけで、興味を失ったようだ。


  今日は、全員、冒険者服だ。フェルマー王子は、鎧も装備している。あれから、毎日、早朝稽古をしているが、なかなか上達しないようだ。技術的には、明鏡止水流2段と言うことで、上級者レベルなのだが、これからは実践を積んでいかなければならない。


  今日は、実戦のつもりで、フェルマー王子を連れてきている。相手は、街のゴロツキの予定だが、衛士隊のこの様子では、計画を修正する必要があるようだ。


  隊本部の受付に行く。ゴロタは、隊長に、本日の浄化作戦に、何人かの衛士を同行して貰うつもりだった。しかし用件を話すと、しばらく待たされ、奥の会議室に案内された。


  そこでも、しばらく待たされ、若い衛士3人が入ってきた。1人が、ゴロタ達の真向かいに座り、後の2人は後ろに立っている。


  「ご用件は伺いました。貴方様が、新皇帝陛下であるという証拠の品はありますか?」


  ゴロタは、黙って冒険者証を出した。偽造品ではなく、本物の『SSS』ランクのものだ。名前も本名だ。その衛士は、冒険者証のランクを見て、吃驚していたが、平静を装い、冒険者証を返して寄越した。


  「これではなく、新皇帝であるという証のものがありませんか?」


  変な事を言う。どこの世界に、君主である証のものを求める国民がいるだろうか?


  これでは、話にならない。シルフが、口を開いた。


  「それでは、衛士様にお尋ねしますが、新皇帝の証とは、どのような物を想定しているのですか?ベール侯爵殿の証明でもお望みですか?」


  その衛士は、大汗をかいて顔が真っ赤になった。シルフが、続ける。


  「衛士様は、今まで君主である証をご覧になってことが有りますか?何なら、君主としての実力をお見せしますが。」


  そう言うと、『MP5』を構えて、天井に3連射した。若い衛士の頭上から、天井の破片が落ちてきた。衛士達は、頭を抱えてしゃがみ込んでいる。


  ゴロタ達は、ゆっくり立ち上がって、応接室の外に出た。そこには20人程の衛士達が剣を抜いて構えている。


  「皆さん、何をしているかご存じですか?君主に剣を向けると『大逆』の罪で断頭台ですよ。」


  シルフの優しい声が恐ろしい。何人かの衛士が、剣を納めたが、後ろから大声が聞こえた。


  「ええい!何をしている。こいつはニセ皇帝だ。ひっ捕らえろ。」


  どうやら、声の主が、この衛士隊の隊長らしい。その瞬間、ゴロタの姿が視界から消えた。『瞬動』で、隊長の背後に回った。


  隊長が、首をゴロタに掴まれ、数センチ浮き上がっている。


  「く、苦しい。分かった。離してくれ。」


  ゴロタは、隊長を衛士隊の群れに投げ込んだ。小さな声で、命じた。


  「控えろ。」


  皆、その場で這いつくばった。『威嚇』と『重力』魔法で、立っていられなくしたのだ。


  「皆さん、ゴロタ皇帝陛下の御前です。頭が高いですわ。」


  シルフの声が響いた。事務室内の全員が、その場で土下座をした。


  「隊長、名前は?」


  「ゾイドと申します。お許しを。」


  「何故、このような対応をした。」


  思いっきり『威嚇』をかけている。嘘は言えない。ゾイドは、泣きながら真実を話した。


  「ベール侯爵閣下のご命令です。新皇帝が現れたら、偽物ということで捉えよと。」


  「ふむ、他には。」


  「はい、近いうちに戦争が起きるから、準備をしろと。」


  ああ、またか。何で、皆同じなんだろう。


  「隊長殿にお伺いです。この街の衛士隊は何名ですか?」


  「300名程です。」


  「では、私設騎士団は?」


  「500名程です。」


  「それでは、衛士隊と騎士団全員を武装させて集合させてください。早く。」


  「いえ、私にはそのような権限はありませんが。」


  「新皇帝陛下のご命令です。」


  シルフは、『MP5』を天井に向け10連射した。女子事務員の悲鳴が聞こえ、天井から破片がバラバラと落ちてきた。


  1時間ほど待ったが、全く集合してくる気配は無い。若い衛士隊員に、騎士団本部まで案内させる。騎士団本部はもぬけの空だった。


  追いかけようかとも思ったが、大人気ない。イフちゃんに、逃げていく騎士団を脅かすようにお願いした。あくまで脅かすようにと。遠く、北の方で爆発音が聞こえる。空にはキノコ雲が登って行った。


  行政庁に行ってみる。行政官が、控えていた。


  「貴方は、ベール侯爵の部下ですか?ゴロタ皇帝陛下の部下ですか?」


  シルフが、質問すると、王国行政庁から派遣になっているそうだ。名前をクラークさんという。クラークさんに、ゴロツキの本拠地を聞いたところ、この庁舎の裏手だそうだ。一緒に行ってみると、立派な建物がある。衛士隊本部よりも立派だ。イフちゃんに聞いたら、ゴロツキしかいないそうだ。


  勿体無いが、もう帰る時間だ。しょうがない。ミニ太陽を、ビルの中で爆発させた。生存者はいないだろう。これで、ベール市は綺麗になった。


  次の日、ベール侯爵は、シャウルス市から姿を消した。ゴロタは、こうなる事を予想して、ベール市の侯爵邸及びシャウルス市の侯爵屋敷の金庫については、シールドを掛けたので、中身を取り出すことができなかったようだ。


  これで、ベール侯爵は、着の身着のままで追放されることになってしまった。義父のガーリック公爵の元主筋だが仕方がない。


  結局、貴族審査で残ったのは、公爵1名、侯爵2名、伯爵5名、子爵・男爵が10数名だったが、それは少し先のことだった。


-----/----------/---------/----------/-----


  11月22日、今日はフェルマー王子と共に北のダンジョンに潜ることにした。シルフも一緒だ。今日は、行ければ地下第3階層までにする。あまり深く潜ると、青少年の育成に良くないからだ。


  第1階層はゴブリンだ。フェルマー王子は、初めて見るゴブリンに、顔が引きつっている。ショートソードを抜いて構えるが、へっぴり腰だ。それでは、敵の攻撃をかわせない。


  1匹のゴブリンが、棍棒で打ち掛かってくる。瞬間、ゴロタが『威嚇』を掛ける。ゴブリンは、大きく目を見張らせて、身体が固まってしまった。


  フェルマー王子は、へっぴり腰のまま、ショートソードを突き出す。ゴブリンの肩口に、ショートソードが刺さるが、全くダメージが足りない。


  「目を開けろ!首を狙え。」


  ゴロタが、声をかける。フェルマー王子は、自分の足元で、肩の傷を抑えているゴブリンを見た。首筋が、露わだ。そこを狙って、剣を払った。漸く致命傷だ。ゴブリンは、その場で絶命した。


  次は、魔石の回収だ。ショートソードをしまって、ナイフで心臓の下を突き刺すように指示した。


  こわごわ、ナイフを突き立てた。カチリと何かに当たった。


  「えぐり出せ。」


  ゴロタの指示が飛ぶ。ナイフを持つ手が、ゴブリンの体液まみれになる。何とか、魔石を回収出来た。


  洗濯石で手と魔石、ナイフを綺麗にする。途中、全てを放り出して、壁際に走り込んだ。胃の内容物を全て吐き出したようだ。


  今日は第1階層のみになりそうだ。その日の夕方までに、ゴブリンだけを120体倒したが、元々の素養はあるので、へっぴり腰はしなくなった。


  レベルも何度かアップしていたので、動きが少し早くなっていた。ほんの少しだが。

フェルマー王子は鍛えられます。

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