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第386話 フェルマー王子危機一髪

カーマン王国は大変なことになりそうです。

(まだ11月3日の夕方です。)

  フェルマー王子は、自室のクロークタンスの中に入って、奥にあるゲートで、タイタン離宮内の転移部屋に転移した。廊下に出ようとしたが、ドアが開かない。鍵がかかっているという感じではなく、なにか壁の様になっているのだ。


  ドアノブを押したり引いたりしていると、急にドアが開けられた。ドアの外には、ゴロタとシェルそれにシルフが立っている。


  「何をしているのですか?」


  シェルが厳しい口調で聞いてきた。フェルマー王子は、心臓がドキドキしてしまう。シェルさんから問い詰められると、怖いと同時に胸が締め付けられる。それは、シルフさんとそっくりなお姉さんだったからだが、そんな事は分からない王子だった。


  フェルマー王子は、早口で、さっきの出来事を話した。早く対処しなければ、大変な事になってしまう。それを聞いていたシェルが、


  「分かりました。でも、今日はこれから夕食の時間です。王子が、宮殿内にいないとなると大騒ぎになるでしょう。早くお帰り下さい。今回の件は、明日、私たちで何とかしますから、ご安心下さい。」


  結局、転移部屋から出ることなく、自室に戻ることになった。フェルマー王子は、残念な気がした。それが、シルフさんともう少し話かったのに、話せなかったことだとは気が付いていない王子だった。


-----/-------------/-------------/-------


  翌日、午前10時に、フェルマー王子の部屋にゴロタとシルフが転移してきた。クロークタンスのゲートなど使わず、直接転移して来たのだ。フェルマー王子は、慣れたとは言え、突然現れるゲートには、やはり驚いてしまった。


  3人で、王城の外に向かう。ゴロタは貴族服だが、シルフは戦闘服だ。王城の中でも非常に目立っている。フォンデュ宰相が、走ってやって来る。ゴロタを見つけて、吃驚するとともに、その場で跪き、臣下の礼を取る。ゴロタが、立つように言うと、少しだけ顔を上げた。定型的な口上を述べようとするのを抑え、必要なことだけを申し伝えた。


  国王陛下は、まだ死んでいない。預かっているだけだ。これからブリザード侯爵の所へ行くが、事情は、皇太子殿下付きの廷吏どもを、拘束して取り調べれば明らかになる。


  これだけ言って、城門の外に出た。ブリザード侯爵の屋敷は、王城の東隣にある貴族街の中でも広大な敷地を誇っていた。フェルマー王子とともに、屋敷の門番に案内を頼んだところ、本日は、ご休養中のため、許可の無い者は入れられないと言っている。


  フェルマー王子が、『自分を誰だと思っているんだ。』と怒っていたが、門番は完全に馬鹿にしている。お供は、身体だけは大きいが、顔の幼い少年と小学生くらいの女の子だ。いくらフェルマー王子でも、力づくでは入れないだろうと思っているのだ。


  剣に手を掛けようとしているフェルマー王子を抑え、ゴロタが前に出た。


  「中に入れてください。」


  門番は、慌てて門を開け始めた。それを見ていたフェルマー王子は、どんな魔法を使ったのかという顔をしていた。


  「さあ、行きましょう。」


  シルフがフェルマー王子の手を取って、中に入る。これだけで、フェルマー王子は、気を失いそうだった。顔を真っ赤にして、シルフの手を握り返し、屋敷の中に入って行った。


  屋敷の中でも、誰もが、ゴロタ達に道を開けてくれたので、ブリザード侯爵の居室までは、なんの抵抗もなく進めた。ゴロタの『威嚇』が発動されていることなど、全く気が付かないフェルマー王子だった。


  ブリザード侯爵の居室のドアをノックする。


  「誰だ。」


  中から、誰何の声がした。


  「私です。フェルマーです。」


  「フェルマー? え、フェルマー王子か?」


  ドアが執事によって開けられる。ブリザード侯爵が部屋着で、ソファに寛いでいる。立ち上がろうともしない。


  「王子、何の用です。」


  「侯爵、昨日、兄が署名した書類、その書類を見せて貰いたいのだが。」


  「書類?ああ、あれか。あれは、もうここには無い。交易の使いの者に持たせた。」


  嘘だ。目線がチラチラと脇の書棚を見ている。


  「それよりも殿下、きょうここに来ることを誰かに話していますか?」


  本当は、さっき、宰相に話しているが、惚けて、


  「いいや、誰にも言わずにここに来た。それがどうかしたのか。」


  「ふふふ、誰にも言わずにここに来たとは、不用心なことだ。皆の者、出会え。」


  奥の扉がバタンと両側に開き、剣を抜いた騎士達20人程がなだれ込んできた。


    ババババババババババババババババババババババ!!!


  シルフの『MP5』がフルオートで火を噴いた。一瞬の出来事だった。辺りには、硝煙の匂いと、大量の流血による血の匂いが充満していた。騎士達のうめき声しか聞こえない中、シルフが、空になった弾倉を交換する音だけが響いた。


  フェルマー王子は、生きた心地がしなかった。奥のドアが開け放たれると同時に、シルフがフェルマー王子の前に移動して、来た時から肩に下げていた、見たことも無い機械を構えていたのだ。それが殺人兵器とは全く思っていなかった。


  ブリザード侯爵は、もっと驚いていた。小さな女の子が、あっという間に20人以上の騎士達を殲滅してしまったのだ。


  銃声を聞いて、屋敷の者が部屋のドアを叩いている。五月蝿い。ゴロタが、チラッとドアの方を向いた。物音がしなくなった。シールドと『威嚇』を掛けて静かにしたのだ。


  青ざめている侯爵から、言葉が漏れた。


  「殲滅の死神。」


  フェルマー王子が質問を始めた。


  「本当に、書類が無いのですか?」


  侯爵は、首を縦に振ろうとしたができなかった。身体が勝手に書棚の方に歩いていく。涙を流しながら、書棚の奥から、昨日の書類を出してきた。


  内容を読んで驚いた。カーマン王国の交易権の独占と、他の者が交易する場合には、交易額の3割を送り手、受け手の双方が支払わなければならない。また、海上交易の船も侯爵の許可が無ければ就航させられない。


  出入国の際の審査・関税権も侯爵の専任事項となっていた。


  「ブリザード侯爵、あなたを王権簒奪罪で逮捕します。」


  ブリザード侯爵は、そのままイフクロークに放り込まれた。静寂が戻った。イフちゃんの念話がゴロタに届いた。


  『地下室に行ってみろ。』


  部屋のドアを開けてみると、屋敷の執事や警護の者達が廊下に座り込んでいた。全員が失禁していて、臭気が凄い。執事の一人の『威嚇』を解いて、案内をさせる。


  地下には、鍵のかかった部屋があった。『解錠』魔法をを使っても良かったが、シルフの『MP5』の3連射でドアノブごと破壊した。


  中には、若い女性十数人が監禁されていた。全員、裸に近い格好をさせられていた。ゴロタは、すぐにフェルマー王子を部屋の外に転移させて、シールドを掛けた。


  イフクロークから女性用の下着と服、それに靴を取り出し着替えさせてから、皆で部屋を出た。他の部屋を点検すると、拷問部屋や金庫室で、他に監禁されている者がいなかった。


  屋敷の者達は侯爵の家族、メイドも含め、全員拘束し、イフクロークの中に放り込んだ。さあ、帰ろう。屋敷全体にシールドを掛けておいた。もう、誰も入れない。屋敷から出ていくとき、門番もついでに拘束しておいた。女性を拉致してきた時に、知らない訳がないからだ。


  王城に戻ってから、フォンデュ宰相にブリザード侯爵と一族、従者らを引き渡した。ブリザード侯爵は明日、ギロチンの刑だ。家族は、共犯・知情の程度により死刑、投獄、軽くて身分剥奪、追放の刑にする。執事ら従者は、詮議の上、量刑を決める。明日、処刑されるまで、ゴロタが王城内に待機することとなった。


  シルフは、ミニの貴族服に着替えている。フェルマー王子は、シルフを見て顔を赤らめている。ゴロタは、本当のことを教えてやろうかと思ったが、面白いので黙っていることにした。


  フォンデュ宰相やガーリック侯爵らと今後の事について相談する。シルフが、ゴロタの考えを代弁する。


  カーマン国王陛下は、退位して頂き、南部のモンド王国都の国境に近いところに隠居していただく。皇太子殿下は、今回の責任を取って隠居、年金生活をしていただく。新国王はフェルマー王子に即位していただくが、15歳になるまでゴロタが後見人になる。


  シルフの提示した案について、フォンデュ宰相から異論が出た。


  「年若いフェルマー王子では、腐れ貴族どもは言うことを聞くわけがありません。早晩、反乱を起こし、内乱になることは必定。ここは、中央フェニック帝国のようにゴロタ帝国に併合していただき、フェルマー王子は大公爵として、カーマン王国内を統治するというわけにはいかないでしょうか?」


  うーん、困った。まだ、中央フェニック帝国ですら治まってないのに、これ以上の面倒は嫌だな。そう思っているのに、シルフが答えてしまった。


  「分かりました。それでは、その旨を宣言していただきます。その後は、この国の統治権は、ゴロタ陛下が執行します。フェルマー殿下は、15歳になるまで、ゴロタ帝国の賓客として、タイタン市に滞在していただき、帝王学を学んでいただきます。」


  皆が納得した。毎週、金曜日、ゴロタかシェルまたはシルフがフェルマー王子と共に来城し、閣議を開くことも決めておいた。フェルマー王子は、シルフと一緒に暮らせることに、期待が膨らんでいた。これから地獄のような訓練が待っているとも知らずに。

フェルマー王子は、普通の小学生です。当然、戦いなど知りません。

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