第384話 カーマン国王の死?
カーマン国王は、かなり暴虐だったようです。ゴロタの最も嫌うことをしてしまいました。
(11月1日です。)
今日は、エーデルの25歳の誕生日だ。エーデルは、子供を欲しがっているが、クレスタの例があるので、当分は子供を作る気がしない。
現在、シルフが妊娠の弊害を除去して出産する方法を研究中だ。完全培養は、倫理的に難しいとか言っているが、よく分からなかった。兎に角、若いうちに卵子を採取しておく必要があるとかで、シェル以外の成人女子は、定期的に卵子を採取されているようだった。
エーデルは、ギルドマスターとしての才覚を発揮しているが、本当は何もしないでブラブラしているのが好きなようだ。前から分かっていたが、あれだけの美形なのに、本当に残念だ。
夜になって元気になるのは、きっと父親譲りだろう。父親といえば、カーマン王国のことで、グレーテル国王陛下に相談したかったのだ。
次の日、エーデル、カテリーナさんとシンシアちゃんを連れて、グレーテル市に行った。グレーテル屋敷は、今は外交館兼宿舎となっている。執事長が領事をしている。ミキさんは、学校に行って留守だった。レオナちゃんは、メイドと一緒にママゴトをしていた。シンシアは、すぐに混ぜて貰って遊び始めた。カテリーナさんは、暫く見ていたが我慢できなかったみたいで一緒に遊び始めた。
ゴロタは、最初に王宮に行く事にした。同行者は、エーデルとシルフだ。エーデルは、久しぶりに母親に会うことになる。
ゴロタは、国王陛下の執務室に行く。ジェンキン宰相、スターバ騎士団長それにフレデリック公爵も一緒だ。
「カーマン王国を滅ぼしたいんですが。」
最初から、単刀直入だ。シルフが、事の経緯を説明する。シンシアのこと。非合法奴隷制度の事、王都の風紀の乱れなどだ。
ジェンキン宰相が、それでは足りないと言った。戦争を始めるきっかけは色々あるが、始めるからには、諸国が納得する理由が必要であると言った。
・自国を侵略若しくは主権を侵害して防衛のために戦争を始める
・今の統治者を放置すると国民が迫害や隷従を強いられ、人道的に看過できない事から戦争を始める
・国同士の約束つまり条約に違背し、看過すれば国益が大きく損なわれてしまうことから、これを防ぐために戦争を始める
まだまだある。昔は、自国の王子が他国で暗殺された事に腹を立てて、戦争を始めた国もあったそうだ。
シルフが、戦争を始めるために必要なものを聞いたら、『大義名分と動かぬ証拠』と、教えてくれた。
大義名分があるかどうか分からぬが、動かぬ証拠はまだ無い。
「それらが無ければ、単なる侵略戦争になると言う事ですか?」
「その通りです。過去の戦争は、殆どがそうです。覇権争いの結果、戦争が始まるのです。」
シルフは、黙ってしまった。きっと、すべての結果を超高速でシミュレーションしているのだろう。
「分かりました。大義名分と動かぬ証拠、その二つは準備します。」
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王城から戻ったゴロタは、カテリーナさんとシンシアちゃんを連れて冒険者ギルド総本部に向かった。2人の能力値と正確な年齢を確かめるためだった。
珍しそうにキョロキョロと辺りを見回しているカテリーナさんを測定機械の前に座らせる。一応冒険者登録をさせるつもりだった。申請書は、シルフが書いてくれた。素晴らしい文字だ。まるで印刷したような字だった。
申請書の年齢欄は、19歳としたが、根拠はなかった。続いて能力測定だ。カテリーナさんの首輪は外している。測定器の魔力の流れが、影響を及ぼすかも知れないからだ。
測定器の前にして、カテリーナさんは怯えた顔をして、ゴロタを見上げた。ゴロタは、優しくカテリーナの頭を撫でて、右手を機械の中に入れさせた。針が指先を刺した時、顔をしかめて涙顔になっていた。
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【ユニーク情報】
名前:カテリーナ
種族:人間族
生年月日:王国歴2011年9月19日(17歳)
性別:女
父の種族:人間族
母の種族:人間族
職業:なし
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【能力】
レベル 3
体力 70
魔力 30
スキル 10
攻撃力 10
防御力 30
俊敏性 10
魔法適性 聖
固有スキル なし
習得魔術 なし
習得武技 なし
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もしかと思ったが、やはりカテリーナさんは、かなり若かった。しかし、今17歳と言うことは、シンシアちゃんは、いくつの時に産んだのだろう。それよりも、国王陛下に襲われたのはいくつの時なのだ。ゴロタ帝国では完全に犯罪だ。
次に、シンシアちゃんの番だ。おそるおそる、機械に手を差し出す。特に介添えはしない。偉いぞ。
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【ユニーク情報】
名前:シンシア・カーマン
種族:人間族
生年月日:王国歴2024年5月24日(4歳)
性別:女
父の種族:人間族
母の種族:人間族
職業:王族
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【能力】
レベル 1
体力 10
魔力 20
スキル 5
攻撃力 0
防御力 5
俊敏性 5
魔法適性 火 水
固有スキル なし
習得魔術 なし
習得武技 なし
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今4歳と言うことは、カテリーナは12歳で出産、11歳の時、破瓜を経験した事になる。だめだ。怒りが収まらない。シェル。ごめん。
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その頃、カーマン王国シャウルス市の王城では、魔道士教会総力を上げて、メイド炭化事件の真相を調査中だった。洋服が焦げずに、肉体だけが骨まで炭になるなど考えられない。しかも、3人で談笑していながら、炭になっているのだ。
このような魔法など見たこともない。今日は、後宮内を隅々迄、呪いの魔道具を探している。だが、見つかる訳が無い。
カーマン国王は怯えていた。この世界でこのようなことが出来るのは、冥界のかの男以外にはゴロタ皇帝しかいない。
ゴロタ皇帝とあの女達の接点と言ったら、シンシア姫の母親だけだ。あの母親、名前をなんと言ったか分からぬが、娘について行かせたのじゃ。文句は無かろう。
「ガーリック公爵、そちはちゃんとシンシアを預けてきたのじゃろう?」
「はい、確かに御学友としてお預けして参りました。ただ・・・」
「ただ、あの母親、凄く臭くて!それに着ているものも見すぼらしく、姫様の生母にはとても見えませんでした。」
「そんな馬鹿な。あの親子には十分な手当てとメイド3人を付けているのじゃぞ。」
「それが、部屋を調べた宮廷武官の話では、タンスの中はほぼ空だったそうです。私が、タイタン市まで送って行った時も、何も持っていませんでした。」
「どう言うことじゃ。ええい、メイド長を呼べ。」
国王陛下の前に呼ばれたメイド長は、床に平伏している。事情を聞いて、思い当たるところがあるようだ。
尋問は、フォンデュ宰相が行う。
「良いか。これから聞く事に正直に答えよ。我が国の存亡がかかっているのじゃ。良いな。」
メイド長は、ガタガタ震えている。
「シンシア姫の母君、名前はなんと申す。」
「な、名前は、ありませぬ。いえ、ありませんでした。」
「何、名前が無いと?では、かの母親は何と呼ばれていたのじゃ。」
「はい、『シンシア姫の母親』と。」
「それだけか?馬鹿にしたような呼び名は無かったのか?」
「はい、私は決して呼んでいませんが、メイド達は『馬鹿女』と呼んだりしていました。」
「それだけか?」
「あと『ツン●』とか、『オ●』、『寝しょんべん垂れ』と言っているのも聞きました。」
フォンデュ宰相は、目の前が暗くなってきた。
「何故、あの母君は、着の身着のままの、見すぼらしい姿でゴロタ帝国に行ったのじゃ?十分な宮廷費を渡しておったろう!」
「申し訳ありません。お許し下さい。お許し下さい。」
これ以上は、ラチが開かない。廷吏に厳しく詮議するよう申し渡し、下がらせた。
ああ、絶対に行かせてはならない女を行かせてしまったようだ。しかし、字も書けなければ言葉も喋れない女だ。バレる事は無いだろう。
そう思っていた矢先、1通の手紙が天井から落ちてきた。誰もいない天井だ。皆、なにが起きたか理解できなかった。封を開けてみる。
『宣戦布告書』
表題にそう書いてある。内容は簡単だった。
『お命頂戴仕る。理由は胸に聞いて下さい。ゴロタ帝国皇帝ゴロタ』
これだけだった。人を馬鹿にしている。何が『お命頂戴』だ。しかし、この文書、国王陛下を脅かすには十分過ぎる内容だ。
国王陛下は、半狂乱だ。もう70になろうとするのに、ハナ水を垂らしながら泣いている。
近衛兵が、急遽招集された。普通なら、いわれのない宣戦布告など、友好国との連合を組んで対応するのだが、隣国はゴロタ帝国だし、頼みの北の大地も、すべてゴロタ帝国の親国だ。応援など望むべくもない。と言うか、この宣戦布告はおかしい。事前の外交レベルの折衝がまったく感じられない。
『これは一体なんだ。』と、思っている間に、国王陛下の上に大きな虚空の入り口が開いた。
あっという間に、国王陛下は飲み込まれてしまい、そして、何も無かったような静寂が、王宮に戻ったのだった。
ゴロタに戦争を仕掛けると言うことは、君主は死を覚悟しなければなりません。