第380話 タイタン飛行場
今回は、先頭はありません。まったりとした1日です。
(10月3日の夕方です。)
マリアは、別館1階の子供室にいた。大広間では、ドミノちゃんがピアノの練習をしている。傍にはキティちゃんが座って、『MP5』の手入れをしている。手慣れているものだ。
油の染みた布で銃口から中を拭いたり、バラバラになった部品を油が入っているケースに漬けていた。誰だ、こんな小さな子に本物の銃を与えたのは?
マリアは、良く寝ていた。ゴロタが入っていくと、少し愚図ってから、大きな目をぱちりと開けた。ベビーベットの上の回転玩具がひとりでに動き始めた。ゴロタは、マリアを抱き上げて、白い絹の綿入れにくるんであげた。
部屋は、常時25度に保たれている。真夏のタイタン市に連れて来た時に、すぐにエアコンを取り付けたのだ。魔火石と魔氷石があれば作るのは簡単らしい。一番、エネルギーを使う部分に魔力を利用しているので、あとは温度調整とファンの強さを調整するだけらしい。
マリアは、ゴロタがわかるのかキャッキャッと喜んでいる。乳母のジンさんが、感心している。ジンさんが抱っこすると、火のついたように泣き始めるそうだ。
試しに、ゴロタの前で抱かせてみた。マリアは、最初、きょとんとしていたが、気が付いたのかすぐに泣き始めた。天井の回転玩具がすごい勢いで回り始めた。
すぐに、マリアを引き取ってゴロタが抱っこすると、泣き止んでしまった。これでは、乳母は立場がない。ジンさんは、困った顔をしていた。
今のところ、マリアを抱くことができるのは、ゴロタとシェルそれにドミノちゃんだけらしい。なぜドミノちゃんなのか分からないが、どうやら魔人の子とは相性が良いらしい。
ゴロタは、ふと気が付いた。シェルが大丈夫なら、ハーフエルフのシズちゃんならどうだろう?今日の夜、シズちゃんが帰ってきたら抱かせてみよう。また、ドミノちゃんが大丈夫なら、他の魔人族の子たちもどうだろうか。
ゴロタは、本館から、ブリちゃん、デビちゃん、それにデリカちゃんを呼んで、それぞれに抱っこして貰った。案の定、マリアちゃんはニコニコしている。うん、魔人族の子なら皆、大丈夫みたいだ。
試しにキティちゃんにも抱いてもらったら、大泣きされてしまった。キティちゃん、一緒に泣かないでね。
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タイタン市の南側郊外に飛行場を作った。滑走路の長さは、4000m級が東西に2本、南北に1本だ。土魔法を使って整地、舗装をしたので、そんなに難しい工事ではなかった。
駐機場には『翼改』型が6機駐機している。これは、以前に使用した『翼』型の基本構造を完全に見直している。機体の素材は、高価なミスリルではなく、アルミニウムの合金だ。これは、領内の山から採掘したボーキサイトと電気さえあれば生成できる。胴体は、ほぼ円筒形だ。先端が円錐になっている。1番の変更点は、主翼とエンジンだ。後退翼の下に1基ずつエンジンが取り付けられている。垂直尾翼は1枚で、その上に水平尾翼が取り付けられている。搭乗客数は、胴体部にエンジンがないので、大幅な増員ができ、72人乗りに改造されている。最高速度は時速950キロだ。
空港ビルは、鉄筋コンクリート2階建てだが、管制塔は高さ100mはある。駐機場までは空港ビルからデッキが伸びている。
塔の上には、いろいろなアンテナが立っていたが、大きなお皿がクルクル回っている。何に使うのかは秘密だそうだ。
現在、各国の首都及びゴロタ帝国の主要都市と航空路が設定されている。各飛行場は4000m級の滑走路が1本あるだけだった。それでも、各国は、土魔法士を総動員して整地・舗装をしたらしい。
ゴロタ帝国内には、首都のセント・ゴロタ市にヒースロー空港が完成している。何故『ヒースロー』なのか知らないが、シルフの指定だ。将来の拡張のため、広大な敷地が確保されている。
それと、旧中央フェニック帝国、今のフェニック州連合にはリオン空港、ハルバラ州にはハルバラ空港だ。
他国では、グレーテル王国のグレーテル空港、ヘンデル帝国のグレート・セントラル空港、カーマン王国のシャウルス空港、モンド王国のモンド空港、ザイランド王国のミッド・ザイランド空港それにニッポニア帝国のミヤコ空港だ。
ミヤコ空港だけゴロタが少し手伝ってあげた。手伝うといっても、丘陵地帯を整地して、4000m×100mの範囲で、舗装してあげただけだが。所要半日の作業だった。
タイタン空港は、軍事空港も兼ねているので、防空シェルターの中には、『翼改』型重爆撃機が12機、『ゼロ式』戦闘機が32機駐機している。
この前、西の山でワイバーンと戦闘したが、余りにも戦力に差がありすぎて、勝負にならなかったそうだ。
国防軍航空隊は、空港近くにあり、航空学校も併設されている。ここで養成されたパイロットが軍務か民間になるのだが、まだ一人前にはならないので、機長はシルフ型ゴーレムがなっている。
そのほかに通信兵や整備兵も必要なので、航空会社には600名ほどが勤務している。女性の客室乗務員も、女性の憧れの職業らしい。制服は、ミニスカートに似ているが、パンツが見えないキュロットというスカートだそうだ。
また、パイロットは高収入が約束されているので、空港には、ファンの女性が大挙して押しかけている。シェルは、空港に入るのに入場料1000ギルを徴収している。当然、搭乗券を持っている人は無料だ。
タイタンン市からは、路面電車が延伸している。市街地を出てからは、専用軌道なので、路面電車とは言わない。最高速度も100キロを超える。もう完全に近郊電車だ。
『翼改』型旅客機と重爆撃機は、『タイタニック号』制作の経験を生かしたダウンバージョンだ。しかし、『ゼロ式』戦闘機は、ゴロタが平素使っている『ファルコンゼロ』戦闘機とは全くの別物だ。
『ファントムゼロ』は、この世界では、まったくのオーバーテクノロジーなので、ゴロタ専用機としている。
『ゼロ式』戦闘機は、やはりアルミ合金のボディに内燃機関でプロペラを回すレシプロ機だ。翼荷重がどうとか言って、ほんの少しだけ飛行石を使っているが、魔力が尽きても通常の飛行なら問題無い。
空港内には、特別室が設けられており、年間会員だけが使用できるようになっている。兎人の女性が脚線美もあらわにしたバニースタイルでサービスするもので、これは、ハッシュ町のサリーが店長をすることになった。
あと、当然、お土産物屋さんもできている。『クレスタの想い出空港店』が一番人気だが、モンド王国からも出店している。本家が来ても負けない位、『クレスタの想い出』の模倣品はグレードアップしているので大丈夫だろう。ダメだったら、あきらめればいいだけだ。
タラの卵を塩唐辛子に漬けたものを売り始めている。どんな味がするか分からないが、これは和の国のフクオオカという町の特産品らしい。『辛子メンタ』という商品名だった。ゴロタにとっては、出展料と売り上げの10%が入るので、どんどん出店して貰いたいと思っている。
空港開設に伴い、グレーテル市のゲートは、ゴロタ帝国グレーテル離宮内のゲート以外すべて閉鎖した。今後は、必ず飛行機を利用してもらう。片道60分それと搭乗と到着の手続きで2時間はかかる。現行ゲートに比較して、不便になるのは仕方がない。航空会社及び空港運営のための措置だ。
東西タイタン州の各市のゲートも鉄道施設とともに、撤収予定だ。また、ニュー・タイタン市には、ミニ空港を設置し、12人乗りのコミューター機を就航させることにした。各国にも旅客飛行機を製造販売するが、エンジン及び飛行石部分は、ブラックボックスにして、模倣ができないようにしている。
もし、無理にボックスを開けようとすると、非常通報がシルフに届いて、同時に小爆発を起こす仕組みになっている。
当然、爆撃機への改装も厳禁だ。兵器への転用がばれた場合には、航空機の引上げと賠償金を支払う義務を負うことにしている。
それでも、各国は、国内移動に必要らしく、バックオーダーが3年分たまっているらしい。航空学校は、人種の坩堝だった。人間族、エルフ族、獣人族それに魔人族だ。その内、東の大陸からも来るだろうが、言葉の問題を解決しなければ、難しいかも知れない。
来年春になったら、また東の大陸に旅行に出かけてみよう。マリアは未だ無理かも知れない。本当は、今年中に首都まで行く予定だったのだが、クレスタの死に始まりいろいろあって行けず終いだった。
空の旅は快適だった。妻達とタイタン空港からセント・ゴロタ市のヒースロー空港まで行ってみる。片道6時間半の旅だった。朝10時に出発して、午後4時半到着だ。
昼食は機内サービスだったが、機内食は大して美味しく無かった。客室乗務員は2名だったが、慣れないアナウンスや揺れる機内でのサービスなど、まだまだ向上の余地があるようだ。
食事以外には、何も楽しみがないのも考える余地があった。ラジオ放送を傍受できるようにすると、良いかも知れない。うん、シルフに検討して貰おう。
そういえば、帝国内ではラジオが爆発的に売れているそうだ。グレーテル王国から芸能プロダクションが移転してきているそうだ。ラジオ放送とレコード販売それにポスター、プロマイドのセットで売り出すと莫大な利益が出るようだ。当然、レコード制作とポスター等の印刷はシルフの設立した会社の独占販売だ。
ゴロタには、この国がどうなっていくか分からなかった。
ゴロタは、森の生活が好きなようです。森の恵みで生活し、誰とも会わない生活、最初にそんな生活を壊したのはシェルだった筈です。