第379話 各国は、戸惑ってしまいます。
圧倒的な勝利を得たゴロタ帝国、各国は戦慄しています。
(9月28日です。)
グレーテル国王陛下は、ついに来る日が来たと思った。これでゴロタ帝国は、南の大陸の3分の2は手に入れてしまった。そして、中央の聖ゼロス教大司教国は、ゴロタ皇帝の庇護下にある。
ゴロタ帝国の脅威は色々だ。ゴロタ皇帝本人は、1国を瞬時に滅ぼす力を秘めている。さらにイフリートを眷属とし、黒龍の主と親しい。神獣、霊獣を隷従させている。これだけで世界を我がものに出来るだろう。
それに妻達の実力は、王国騎士団などあっという間に殲滅させられてしまうだろう。
それに、あの科学力。世界最初の武器・兵器を次々と生み出している。それも量産をするという恐ろしさ。あのゴーレム兵が、戦闘の先陣を切って攻めてきたら、我が国などひとたまりもない。
それよりも脅威なのは、あの獣人達の情報収集力だ。無線機というもので、他国の奥深くから情報を瞬時に参謀であるシルフ嬢に送信するなど絶対に違反だ。
あの情報局員が、暗殺集団で無くて本当に良かった。我が国の警備力では絶対に防げない。
あと、何故あの国だけ毎年豊作なのかが分からない。我が国は、昨年、やや不作だったのに、かの国では近来に無いほどの大豊作だというでは無いか。豊穣の神も、何て不公平なのじゃ。
豊穣の神に会った事もないグレーテル国王陛下は、不平タラタラだった。
結局、エーデル姫を嫁にやって大正解。あの我儘娘が、今、一番親孝行とは、世の中、分からんもんだ。
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ヘンデル帝国の帝都では、今、ミス・コンテストの真っ最中だった。ミスに選ばれれば、ヘンデル皇帝陛下の養女となり、ゴロタ帝国の皇帝陛下の愛妾の地位が約束?されている。
ゴロタのイケメンぶりは、この国でも有名で、シルフが印刷したポスターは、1枚大銅貨6枚でも飛ぶように売れている。
選考基準は、15歳未満だ。最近、ゴロタ皇帝が6歳の幼女を愛妾にしたという噂がある。下限は4歳以上にした。もうミスコンではない。美少女コンテストだった。
いつもの通り、とても残念なスープラカエザー・ザウツブルコ・ヘンデル18世皇帝とプーチキン宰相だった。
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カーマン王国では、ブリ・ド・モー・カーマン8世国王陛下とフォンデュ宰相以下、全員が悲痛に暮れていた。頼みのクレスタ嬢が死去してしまい、カーマン王国とゴロタ帝国の繋がりが希薄になってしまった。それでも未だフミ夫人がいる。フミ夫人の両親を、王宮の高官として採用しようとしたが、「神に使える身では、今の仕事は天職です。」と断られてしまった。
ああ、何故、冒険者だった頃のゴロタ殿に生まれたばかりの愛妾の子シンシアを嫁にやらなかったのか、今も悔やまれる。それに、去年、勲章を授与したときに、おまけにして娘を付けてやるチャンスがあったのに、気がつかなかった。
待てよ、今回生まれたマリア嬢の養育係という事で、我が娘、シンシアを送り込もう。そうだ。そうしよう。シンシアは今、何歳だ。6歳、うん、ちょうど良い。
最近、ゴロタ殿は6歳の幼女を愛妾として、海の向こうの大陸から連れて来たそうではないか。シンシアも、そうなれば我が国も安泰じゃ。何?母親?誰だったけ?誰でも良い、シンシアと一緒、セットで送り込め。
おお、そうじゃ。ガーリック侯爵、そちも同行して、シェル殿に頼んで参れ。孫にも会いたかろう。
キティちゃんのことは、各国で話題となっていました。しかし、このことが、カーマン王国の存続を揺るがす大事件になるとは、誰も気がつかなかったようだ。
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モンド王国では、デル・モンド国王陛下がニコニコしていた。我が娘デリカの許嫁?の領土が拡張となったのだ。喜ばずにいられない。それに何より、我が娘、我儘娘のデリカがきちんと学校に行っていると聞いて、一安心だ。この国の学校では、何処も引き受けてもらえなかったのだ。
何にせよ、我が王室も安泰じゃ。北の大地では、ゴロタ殿に対抗できる国はもうないそうだ。うん、あとはデリカが頑張れば良いのじゃ。
自分の国に『災厄の神』と『あの男』が潜んでいることなどまったく知らない能天気な国王陛下だった。
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ザイランド王国のメアリー・コンダニア・ザイランド女王陛下は、勅使の報告を聞いてニコニコしていた。うん、あのゴロタ殿なら、きっとそうなるだろう。このまま、世界を統治するかも知れない。
女王陛下には世嗣がいない。このまま年老いたら、どうしようと思っている。我が国は、国力が弱い。民もいつも飢饉の恐怖に怯えている。鉱物資源は豊富だが、交易の手段が貧弱で、収入にならない。
うん、我が国も併合して貰おう。それで、妾も一緒に併合してもらうのじゃ。あ、妾がゴロタ殿のものを併合するのか?まあ、今度、強い酒を飲ませて無理やり襲ってみよう。ウフフ。
ここにも困った人がいました。
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10月1日、中央フェニック帝国皇帝から詔勅が発せられた。
『我思うに我が皇祖皇国は、天賦にあらず、我が臣民と共に築き上げたる物なり。ここに我が力、国を治めるに能わず。国力衰退し、臣民の艱難辛苦はひとえに我が力の至らなさの証也。ここに深く臣民に陳謝するところなり。我、今、我が帝国の全権を放棄し、慈愛深きゴーレシア・ロード・オブ・タイタン皇帝陛下に国の将来を託すもの也。』
『我が願いはただ一つ、我が臣民が、健やかで豊かな毎日を送れることだけなり。我が臣民に伏して願う。父母に親孝行を、兄弟仲良く、夫婦相和し、隣人を大切にし、学問に励んで、この国を豊かで幸福を感じることが出来る国となることを。』
この詔勅が布告されたと同時に、大量の食料品が、ゴロタ帝国から送られてきた。どんな小さな村であっても漏れは無かった。昨年の作況は不作だった。穀物倉庫には、もう僅かな穀物しか残っていなかった。南部のゴロタ帝国セバス州だけが大豊作だったため、大量の移住希望者が国境に集中していた。
セバス州の西側に大規模発電所を作る。現在は、石油プラントに必要な電力しか発電していなかった。これを地域のみならず、国内に給電する予定だ。そのためには、送電網が必要だ。
送電線用の鉄塔と送電線を絶縁する碍子、それに工事をする職人が必要なのだが、製鉄所がないこの帝国では、タイタン市から運び込まなければならない。
職人の問題は、タイタン市の電力会社に育成を頼むことにした。この電力会社は、バンブーさんが社長になって、地域の有力会社と合同で設立したものだ。投資額が半端ないのだ。
10月3日の夕方、ゴロタは暮れなずむタイタン離宮の前庭にいた。ゴロタは、国を統治することが嫌になっていた。新しい領土を手に入れる。その領土は、いつだって疲弊していて、救いの手を必要としていた。
他の豊かになった領地から、大量の食料を輸送・供給して新しい国民の命を救い、生活を支える。その後、インフラを整備する。この繰り返しだ。何処で間違えたろう。ハッシュ村の北の森の山小屋に住む予定だった筈なのに、全くそうならない。
ゴロタは、今でも他人との会話は得意ではない。シェルとシルフがいるから、皇帝という職務も何とか出来ているが、自分一人では、絶対に無理だと思っている。戦いだって、できることなら戦いたくない。いつから戦いが普通のことになってしまったのだろう。遠い昔のような気がする。
ああ、今から9年前、シェルと一緒に旅に出た時だ。いや、初めての戦いは、シェルを助けた時だった。それから、旅に出て、盗賊と戦った。あれが、人間と戦った最初だった。すべて、誰かを助けるための戦いだったような気がする。
タイタン離宮の庭のベンチに一人で座り、別館から聞こえてくるピアノの音を聞きながら、いろいろ考えていたら、知らない間に涙がこぼれてきた。あれ、この涙って何かな。なんで泣いているのか分からなかった。
ちょうど、シェルが屋敷から出て来て、ゴロタを見つけた。ゴロタのそばに来て、ゴロタが泣いているのに気が付いた。
「あなた、何が悲しいの。?」
「分からない。」
「クレスタが死んだこと?」
「いや、そうじゃない。」
「じゃあ、マリアのこと?」
「いや、それでもない。昔のことを思い出していたら、悲しくなってきたんだ。」
「昔のこと?そういえば、初めてゴロタの山小屋に泊まった時の事、覚えている?」
「ああ、覚えている。」
「私、あなたを女の子だとばっかり思って、素っ裸で歩き回っていたわね。」
「うん、そうだった。」
「あなた、私の裸を見て気を失ったのよ。覚えている?」
「えーと、忘れた。」
ゴロタにとっては、黒歴史だ。忘れたい。でも、そんなことで泣いていたわけではない。
「あ、わかった。あなた、また昔のように戻りたいのでしょう。二人だけで旅に出たころのように。」
「少し違う。昔のように誰もいないところで、薬草や鉱石を採取して暮らしたいなと思っただけ。」
「あなた、本当にコミュ障が治ってないのね。でも、今は無理よ。マリアちゃんがいるし、私もいるんだもん。」
「うん、マリアを見てくる。」
ゴロタは、涙をぬぐって、立ち上がり、別館の方に歩いて行った。シェルは、その後姿をじっと見ながら『もう少し我慢してね。』と呟くのだった。
どうもきな臭い、いや女臭い匂いがします。