第378話 反乱軍は、殲滅されました。
久しぶりの戦闘シーンが展開します。
(9月20日です。)
中央フェニック帝国内の13の貴族領のうち、東側の5つの貴族領で、反乱軍が蜂起した。守旧派が獣人至上主義を旗印に結集したのだ。
賛同した領地を持たない貴族も7人いる。現閣僚のうち、国防大臣が、反乱軍側に寝返り、近衛師団以下国軍3個師団を引き連れて、東陣営に行ってしまった。
帝都は、大混乱だったが、すぐにゴロタ領から衛士隊500名が応援に来て、帝都の治安維持に当たった。
衛士隊は、単発元込め銃に銃剣を架したものを肩に担ぎ、ロングソードを帯剣して歩いている。服装は、黒地ラシャ生地に金のダブルボタンの詰襟姿で、帽子の周りとズボン両脇の紅いベルトが目立っている。
帝都の騒乱はあっという間に収まってしまった。シルフは、ゴロタ帝国の陸軍機甲師団1個師団と、歩兵師団4個師団を東部前線に派遣した。
機甲師団は、無限軌道式の戦車16両がメインだ。駆動機関は、ガスタービン式で、石油を気化させたガスを燃焼させて、熱気を発生させ風車に吹き付けて発電させている。直接、タービンで駆動するよりも効率が良いそうだ。
戦車の名前は『ヤークトパンターン6号』というそうだ。何の意味があるか分からないが、シルフの好みだ。
装備は、77ミリ榴弾砲だ。砲台は回転しないので、左右の無限軌道を前後させて方向を決め、上下の標準は、回転ギアで調整している。
前面に最大16センチの装甲板を装備しているので、ファイアボールの攻撃を受けても中の乗員は平気だ。
空からは、帝国軍航空隊の重爆撃機が飛来してきている。乗員4名、250キロ爆弾16発を装備している。
全部で、8機が飛来してきている。それに『ゼロ式戦闘機』だ。これはジェットエンジンではなく、石油を燃料とする内燃式エンジンを架装している。
全て、帝国空軍を編成した時からの生え抜きのパイロットだ。無線機は、モールス信号で送受信する。そのため、長いアンテナ線を張っていた。
今日の爆撃目標は、敵の最前線領内の領主屋敷だ。あと、騎士団の駐屯宿舎と糧食の兵站倉庫だ。すべての爆弾を投下して帰還するのに30分かからなかった。
上空から見ると、まったく擬装していないので、標的が丸わかりだ。なるべく住民に被害が及ばないようにしたが、絶対ではない。戦争とはそういうものだ。
領内に入ると、石造りの城塞があった。周囲を濠で囲まれている。これは、戦車の砲撃の餌食だ。
戦車は、濠の直近まで前進する。城塞の壁の上から、矢が雨のごとく射られてくるが、距離が遠く、まったく当たらない。たまに当たっても、全て跳ね返してしまう。
ファイアボールを撃ち込まれることもあったが、すぐ消えてしまう。燃焼物が車体外にはないので当たり前である。77ミリ砲が火を噴く。城塞の壁がもろくも崩れていく。
戦車1輌で12連射する。濠の大きさから、6輌しか並べられない。昨日のうちに第一陣はくじ引きできまっていたので、後の10輌は、次回までお預けだ。
一斉射撃が終了した段階で、西側の城壁は影も形もなかった。
次は、歩兵師団だ。一斉に単発元込め銃を構えて進軍を始めた。この銃は、銃身の後ろに遊底があり、右の取手を引いて弾丸を装填する。ボルトアクションというらしい。
適騎士団が馬に乗って城壁を乗り越えてくるが、こちらの歩兵部隊に到着するはるか手前で、一斉射撃の餌食になっている。
後方からは、迫撃砲が次々と打たれている。これは、砲弾に発射火薬が実装されており、長い発射筒で60度以上の角度で発射されている。
上空から『ゼロ式戦闘機』が急降下ダイブで敵兵を機銃掃射している。絶対、時代設定を間違えている。しかし、まあ、シルフの知識は50世紀の日本の技術レベルだ。20世紀の武器等、設計図を参考にする価値もないほど、すぐに描いてしまうのだ。
それに、兵器開発には、絶対シュタイン博士が絡んでいる。シルフの書いた設計図を見て狂喜して製作に没頭しているだろう。
敵の西部前線司令官は、40代の伯爵だった。イチローさん配下の隠密部隊が場内に潜入して、すぐに首をはねてしまっている。
1時間かからずに戦闘は終わった。伯爵領の隣の貴族領は、男爵領だったが、機甲部隊が領都に到着した段階で、すぐに降伏してしまった。領主の男爵は、家族ともども拘引されて、タイタン市の捕虜収容屋敷に投獄された。投獄といっても、単に、そこで生活するだけだ。執事やメイドもいるし、生活に不自由はない。
子息子女は、当然にタイタン学院に転入だ。落ち着いてから、タイタン帝国の公職に付けるつもりだ。処刑はしない。戦闘に入る前に降伏した者は、寛大な措置をとることは前から宣言している。
中央フェニック帝国とゴロタ帝国の帝国連合軍は、連戦連勝だった。戦死者は一人もいない。負傷者は、ゲートを超えるのに、怖がって転んでしまったものが足をくじいただけだった。
連戦連勝とは語弊があった。戦闘は、緒戦だけだった。伯爵の首がすぐにさらし者にされたことから、敵の後衛部隊は、戦意を失ってしまったのだ。
副次効果もあった。帝政打倒を主張した改革派は、何も言わなくなってしまった。圧倒的な武力を前に、改革を叫んで武装蜂起をしても、殲滅されるのがオチだし、何より同調して立ち上がる市民がいなければ、改革などできるわけがない。
しかし、敵の首謀者はそうはいかなかった。聖ゼロス教大司教国と接しているリンゴン辺境侯領のリンゴン侯爵が今回の反乱の首魁だ。ラインオン種で、お爺さんは、先々代皇帝陛下の9番目の弟だったそうだ。
麾下の貴族4名を引き連れ、総勢6000名の騎士団を擁していた。しかし、その6000名のうち、正規の騎士団は、わずか300名だけであり、あとは近くの農村や町から徴兵されたにわか軍だった。
ゴロタは、兵士には絶対に手を出さずに、まず城壁を攻撃するように指示した。機甲師団の集中砲撃が始まった。もうすべての弾薬を打ち込む勢いだ。まあ、ここで戦闘は終わりだろうからいいが、半日以上も撃ち続けるものだから、砲身が真っ赤になっている。
次は、領主館を『ゼロ式戦闘機』の急降下爆撃だ。まず、屋敷の周辺の小屋などを攻撃する。馬小屋や穀物小屋だ。
戦術的な意味はない。ただ、帝国軍の武力を誇示するだけだ。午後一杯かけて攻撃し、領主屋敷の周囲を焼け野原にしてしまった。本日の攻撃はここまでにした。
その日の夜、城内から避難してくる住民達を保護することになった。明日には戦闘が終わるので安心するようにと伝えた。
ゴロタは、イフちゃんを敵の領主屋敷内に密かに飛ばした。感覚共有をしているので、イフちゃんが見聞きしたものはゴロタも一緒に見聞きする。そこは、リンゴン侯爵が、他の貴族たちと作戦会議中だった。
「あいつらは、何故攻めてこない。」
「もう、夜も遅いので、休んでいるものと思われます。」
「なら、反撃の好機ではないか。闇に乗じて、攻めていったらどうだ。」
リンゴン侯爵は、無理を承知で、作戦を言ってみた。もう、自分達には、敵に攻め入る兵力は残っていない。城壁を守っていた兵は、逃げてしまった。ましてや、敵の中枢にはあの者がいるのだ。
『全てを統べる者。』
いついかなる時も、どのような攻撃も防ぐ「碧き盾』、どのような守りも叩き切ってしまう『紅き剣』。伝説ではない。現実なのだ。
それに、あの空飛ぶ兵器と、それから落とされる爆裂弾。それだけでも脅威なのに、あの鉄の馬、あれは違反だ。どうやって叩けというのだ。
リンゴン侯爵は、降伏しようかと思ったが、今ここにいる男爵、子爵は守旧派の若手メンバーだ。
このままでは、帝国が消滅してしまう。それを防ぐために彼らは、義憤に駆られて決起したのだ。自分の命など惜しくもないと思っている連中だ。
そんな連中に祭り上げられ、反乱軍の汚名を着せられ死んでいくのは、先祖に申し訳なかった。しかし、今のところ、助かる手段は何もない。とりあえず、明日まで命は長らえることができた。神に感謝しよう。
屋敷のベランダに出て唖然とした。長い年月をかけて育て上げてきた庭園がことごとく炭になっている。池などは影も形もない。
厩舎のあったところから煙が立っている。馬たちは無事だったろうか。名馬を集めるためにあらゆる場所に行ったものだ。去年生まれたばかりの白馬は、どうしたろうか。
リンゴン侯爵は、焦げ臭い匂いを発して、様変わりした庭を見て、知らず知らずに涙が流れて来ていた。これが戦うということだ。負ければすべてを失う。
剣を少し交えて、あとは和解するなど過去の戦争の話だ。敵の圧倒的戦力の前には、灰も残らないだろう。
領民はどうしたろう。自分を慕ってくれた領民は無事だろうか。この屋敷の中にはわずかの手勢しか残っていない。主力部隊は、城塞の中で、敵と対峙していたのだが、城門、城壁とともに吹き飛ばされてしまっていた。
部屋に戻ると、意を決して、降伏する旨を宣言した。もう戦うなど無理だ。自分は、どうなっても良い。せめて家族と領民それに可愛い馬たちだけでも助けてもらいたい。
若い貴族たちは、目配せをしている。次の瞬間、腹に激痛が走った。見ると、短剣が深々と突き刺さっている。
「侯爵閣下、困りましたね。臆病風ですか?帝国貴族とあろう者が、戦わずに降伏などあり得ません。もう、戦いの邪魔です。大丈夫、侯爵閣下の名誉はお守りしてあげますよ。名誉の戦死ということにしておきます。」
その貴族は、何度も何度も侯爵にナイフを突き立てていた。眼は、既に狂人の眼だった。
それを、イフちゃんを通じて見ていたゴロタは、深いため息をついた。イフちゃんに命じて、侯爵の屋敷を『煉獄の業火』で焼き尽くしてもらった。侯爵の家族は、とっくに疎開していて屋敷内にはいない。この屋敷から逃げ出せた者は、1人もいなかった。
戦闘らしい戦闘はないままに終わってしまいました。