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第376話 グレーテル王国ピアノコンクール

この国のピアノは、異世界の遺産かもしれません。楽譜もピアノも太古からあると言うことになっていますが、本当は違います。

(8月28日です。)

  今日は、グレーテル王国の音楽学院主催のピアノコンクールがある日だ。ジェリーちゃんとドミノちゃんがエントリーしている。


  ジェリーちゃんは、『高校生の部』でエントリーしている。ドミノちゃんは、本当は、小学生の部でもエントリーできるが、『中学生の部』でエントリーだ。


  トップはドミノちゃんの番だ。最初は課題曲だ。ベートーベンの『ポロネーズ ハ長調Op.89』だ。他の参加者も素晴らしい演奏だった。中学生でも3年生が多く、身長も大きい。ドミノちゃんも最近は、少し大きくなったが、身長は145センチ位しかなく、皆と比べるとかなり小さい。しかし、演奏は、明らかにドミノちゃんの方が上手と言うか、別格だった。


  即興的なパッセージからなる導入部の後に勇壮な主題が始まる。この主題を支える伴奏のリズムパターンが「ポロネーズ」の特徴であったが、他の奏者と大きく違い、流れるような旋律に、観衆は皆、息を呑んでいた。


  課題曲が終わってから、自由選曲だ。ドミノちゃんは、リストの『パガニーニによる大練習曲第3番 嬰ト短調ラ・カンバネラ』だ。非常に壮大で超絶的な曲で、左手と右手を交差して弾いている。


  演奏が終わってから、観衆の皆が総立ちで拍手をしている。うん、これならお金を取れる演奏だろう。聞いていたシェルがそう思っていたことは誰も知らない。


  演奏が終わってから、シェルの周りは音楽プロデューサーや高名な演奏家達に囲まれてしまった。専属契約や、弟子として指導を任せてくれないかというのだ。シェルはニコニコ微笑みながら、皆から名刺を預かっていた。


  ジェリーちゃんが演奏する高校生の部は次の日だった。課題曲は、ショパンの『バラード第3番変イ長調』だ。冒頭は下降半音階と上昇全音階が結合された音階の繰り返しだ。ハ長調・ヘ短調・変イ長調と転調が多く、巧妙かつ優美な旋律のバラードだった。


  続いての自由選曲は、同じくショパンの『ピアノのための練習曲第5番変ト長調 黒鍵のエチュード』だ。出だしから力強く歯切れの良い旋律が続くが、何故、右手が黒鍵しか弾かないのか理解できない。これでは、白い鍵盤が勿体ない。


  演奏終了後、やはり観衆は総立ちで拍手を送っていたが、終了後に音楽プロデューサーに囲まれることは無かった。


  成績発表は、大人の部が終了してからだったが、ドミノちゃんは、優勝、ジェリーちゃんは3位だった。3位以内は、王立音楽学院への推薦入学ができるのだが、二人とも進学はしない予定だ。ジェリーちゃんは、タイタン学院騎士課程に進学希望をしているし、ドミノちゃんは、やはり新設されるゴロタ帝国中央音楽大学付属高等学校音楽課程に進学予定だ。そのため、中学もとりあえず、タイタン学院に進学して、途中で転校とするつもりだ。


  ゴロタ帝国中央音楽大学は、楽器、声楽のみならず作詞・作曲や楽器製造など音楽に関する全ての科目を履修できるようにするつもりだ。才能さえあれば特待生として授業料や寄宿費など全て無料で育成する。ただし、卒業後10年間は、活動及びマネージメントをシェル企画に専属させなければならない。


  シェル企画は、ゴロタ帝国内でのTIT48やイブニング娘の活動をマネージメントする会社で、いわゆる芸能プロダクションだ。ドエス企画から、3名のエキスパートを出港して貰っている。その代わり、グレーテル王国内の公演は、ドエス企画が専属契約を結んでいるのだ。


  現在、ゴロタ帝国では、レコードプレーヤーが量産体制に入り、飛ぶように売れている。レコードは、シングル曲で、1枚銅貨120枚で販売している。


  レコード盤には、グループメンバーのプロマイドが1枚入っているが、何が入っているかは、開けてみなければ分からないようにしている。


  また、特典として握手券や人気投票券が入っており、投票1位の娘は、グループのセンターで歌うことができるのだ。また、一部地域ではラジオ放送が始まっており、今年の秋には、レコードプレーヤーとラジオが一緒になったコンポ機も発売する予定だ。


  現在、小学生から高校生まで、新ユニット結成のためのオーディションを実施しているが、毎回大盛況だ。ドエス商会の社長が、本拠地をゴロタ市に移し、新人の育成・売り出しをドエス企画が一手に請け負っている。


  契約条件は、シェルが審査しており、契約の際の契約金は、借金ではなく、あくまで契約に関しての補償金の性質がある。売り出しても人気が出なければドエス社長の持ち出しになるわけだ。


  ゴロタの方針は、各市に文化センターを作り、文化活動の拠点にするつもりだ。建設費の半額は市が負担し、残りはゴロタ文化基金からの融資だ。勿論、音響装置はシルフが考案し、タイタン市の制作会社が制作した物を使用することになる。


  建設会社についても、ゴロタ帝国内の建設会社でなければ建設できない仕組みになっている。それでも、バルーン・セントラル建設会社ゴロタ帝国本社が、ほぼ受注しているようだ。


  今年もゴロタ帝国内は、大豊作の予定だ。タイタン市のある北大陸は9月に収穫だが、南大陸は3月が収穫となる。自国内だけでは消費できないので、グレーテル王国をはじめ各国に輸出することになる。一番のお得意様はザイランド王国だ。慢性的な凶作国だ。農耕するには、あまりにも寒すぎるようだ。


  交易船は、かつての旅客船ではなく、大型の貨物船だ。穀物類は国内価格よりも2割高で売れるので、交易会社が雨後の筍のようにできている。国民が、豊かになり、生活も安定してくると、次は娯楽を求めるのは当然だった。


  ゴロタのところでは、ラジオ放送局を早く開設してくれるように申請が殺到していた。


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  現在、ゴロタ帝国では新通貨を鋳造印刷中だ。印刷は、シルフが考案した印刷機で、6色刷りにした物を使用するつもりだ。


  それと通貨単位を制定する。通貨単位はギルとする。1ギルは、現在のグレーテル王国通貨の鉄貨1枚になる。


  硬貨は1ギル、5ギル、10ギル、50ギル、100ギル、500ギルまでで、1000ギルからは紙幣にする。紙幣は、1000ギル、5000ギルそれと10000ギルとする。銀貨は、10万ギルの大銀貨のみとし、金貨は100万ギルの価値を有するが、10000ギル紙幣100枚とは常に交換可能である。


  また、民間の両替屋では、皆から預金を集め、預かった預金には、帝国公定歩合以上の利息を付けなければならない。小切手や手形も取り扱うので、常に重い金貨銀貨を持ち歩く必要はない。


  シルフが言うには、最初は、皆、金貨銀貨を使い続けるが、銀行や帝国でいつでも両替できることが理解されれば、もう紙幣無くしては生活できなくなるはずだと言っていた。


  経済がギルという通貨で動き始めると、更に発達する可能性がある。また、帝国では、麦と米を一定の価格で買う事にしているので、大豊作でも穀物価格が暴落することはない。


  勿論、買い集めた穀物は、イフクロークで永久保存するので、困ることはない。年貢制度もやめて、農家も年収に応じての税金を払って貰う。従って、農家も、必要経費を考えて控除しなければ、赤字になってしまう。


  帝都の税務学校は、入学希望者が殺到しているそうだ。シルフとコリンダーツさんが、税関連法と財務関連法とそれに会社法等を整備している。


  税務官は、当面は、シルフが作ったゴーレムが代役を務めることになる。市役所に1体配置して、全ての帳簿を閲覧するのだ。閲覧したデータは、全てシルフの下に集められ、ビッグデータとして記録される。脱税は、基本的にできない。全ての事業者の金銭の流れを補足しているので、不審点は瞬時に判明してしまうのだ。


  新通貨及び新税制は、10月1日に施行となる予定だ。その後、来年4月に採用する公務員の資格試験が行われる。現在、帝国に於いて働いている公務員全員も、能力認定試験が行われる。試験結果によっては、来年3月末で辞めてもらう者も出る筈だ。


  この試験の実施責任者は、ヘンデル帝国の上級認証官だったカノッサダレスさんが中心となって作業を勧めている。成績上位者の中から、州知事が誕生するかも知れないと示達していたので、皆、目の色が変わっていた。


  まあ、そのほかに平素の勤務態度も見られているので、さすがに勤務中に勉強している者はいなかった。


  セント・ゴロタ市のゴルゴンゾーラ大学では、学生たちの目の色が変わっていた。


  この大学にさえ入れば、後はコネで就職できる筈だったのが、能力認定試験で上位の成績を取らなければならないからだ。また、大学の成績も『A』の数で評価されることになっている。


  こんなことなら、大学など入らずに、高卒で公務員になった方が良かった。どっちみち4年経つと、給料は一緒になるのだから。そう思う学生が殆どだった。しかし、大卒と高卒では、俸給のランクが違い、大卒レベル認定試験に合格しない限り、ランクが上がらないことを、誰も知らなかった。


  各教授は、受講生全員の成績評価を相対評価で付けなければならない。優秀な生徒に『D』以下を付けた場合、納得される説明が出来なければ、自分の首が危ない。今までのように、情実で成績をつけることが出来なくなった。


  大学の成績が優秀なのに、実際の公務で実力を発揮できなければ、本人のみならず、『A』評価を下した教授も職を失うのだ。


  授業は、今や双方の真剣勝負の場と化してしまった。


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  ジェリーちゃんは、今、迷っていた。高校卒業後は、お祖父さんの影響で騎士学校に行くつもりだったが、あのコンクールで3位だったのが悔しいのだ。


  タイタン市にきてから、暫くピアノの練習をサボっていたのが悔やまれる。今の自分の実力は、ドミノちゃんの下だと言うことはハッキリ分かっている。


  それでは、騎士としての実力はというと、あの小さなキティちゃんよりも弱いだろうと思うのだ。全てが、小さな子達よりも劣っている自分が情けなかった。


  こんな事では、ゴロタ様のお嫁さんになんかなれる訳がない。そう考えると、涙が止まらなかった。


  2学期が始まる前、シェル様に呼ばれた。何かと思ったら、来年開校するゴロタ市の音楽学校大学部のピアノ科講師をして貰えないかと言うのだ。


  自分なんか、とても無理だ。コンクールだって、成績は大したことはなかったし、ドミノちゃんの方がずっと才能があるからと断ろうとした。


  シェル様が、ピアノの技術はドミノちゃんの方が上手かも知れないと言った。それを聞いて、涙が出そうになった。でも、その言葉に続いて、


  「あなたのピアノは、他の誰よりも聞いてる人の心に響いたの。それは、ミキさんも認めていたし、ドミノちゃんなんかずっと泣いていたわ。貴女こそ、新しい学校のピアノ科の講師にふさわしいのよ。」


  と言ってくれた。ジェリーちゃんは、今度こそ大声で泣き出してしてしまった。

ピアノは、正確に弾けるだけではだめです。聞く人の心に響かなければなりません。ピアノを題材にした物語はすべてそう言っています。

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