第375話 タイタンの森掃討作戦
タイタン市に魔物がいてはだめです。掃討には、キティちゃんも付いていきます。シルフの希望です。
(8月5日です。)
タイタン学院大学付属初等部では、大騒動が持ち上がっていた。林間学校に行っていた小学校低学年児童が、魔物に襲われて怪我をしたのだ。
林間学校は、直ちに中止となり、児童たちの父兄から説明を求められていた。
初等部の校長先生は、ゼロス教会のマザーが就任しており、教師一同が最敬礼で謝っていた。しかし、納得しない父兄達は、『計画が甘すぎる。』とか、『責任を取れ。』と大騒ぎをしている。
困ってしまった校長先生は、父兄席の先頭に座っているシェルに助けを求める視線を送ってきた。
仕方がない。シェルが静かに立ち上がった。会場がシーンと静まり返った。タイタン皇帝陛下の正妻、つまり皇后陛下が立ち上がったのだ。いやでも静かになってしまう。
『皆さん、お腹立ちの気持ちは、良く分かります。警備を付けずに森に行かせるなど、計画の杜撰さが明らかになったと思います。』
父兄達は、大きく頷いていた。シェルの話は続いた。
『でも、結果を見てください。今回の被害者の坊やは、辛い思いをしたかも知れませんが、傷痕一つ残っていません。これは、一重に皇帝陛下の御力によるものです。』
これは、大嘘である。現場に駆け付けたシェルは、傷を負った少年に直ぐにエリクサーを飲ませ、『治癒』スキルで全回復させたのである。
でも、シェルはそんな事には全く触れず、話を続けた。
『皆さん、今回魔物を撃退したのは皇帝陛下が密かに送り込んだ能力者です。彼女がいたからこそ、被害は今回の程度で済んだのです。それこそ、皇帝陛下の御配慮でした。』
皆は、大きく頷いて納得しているようだった。今回、キティちゃんがいなかったら、被害はこんな物では済まなかっただろう。
『そこで、皆さんにお聞きしたい。今回の皇帝陛下の御判断は誤りだったのでしょうか?』
皆、下を向いてしまった。この場で、皇帝陛下の措置に反対などできるわけない。これで父兄集会は終わってしまった。
しかし、それからが大変だった。キティちゃんが、小学生レベルを超越しているので、このまま就学させても、教えることがないそうだ。元々、学力や知能指数は、中学レベルだし、戦闘力に至っては、その辺の冒険者を凌駕しているそうだ。
シェルは、キティちゃんには何も教えなくても良いが、このまま就学させてもらいたいと言った。校長先生は、自信なさげに渋々了承したが、何かあってもシェルが責任を取る事で話は終わった。
シェルは、キティちゃんを校長室に呼んで、お話し合いをした。キティちゃんは、『MP5』を背負い、腰にはポイズンダガーを帯剣している。どう見ても冒険者だ。
まず、学校に『MP5』を持ってこないように言うと、大粒の涙を流しながら、学校を辞めると言い始めた。
理由を聞くと、『しゅが、MP5を離してはいけないと仰ったの。』と言い始めた。誰だ、つまらない事を吹き込んだのは。シルフの姿が消えていた。
結局、このまま在学することになった。社会以外の授業は5年生のクラスで受けることになった。それと低学年の部の学年委員長になることになった。普通は、3年生の子がなるのだが、誰も文句はなかったようだ。授業の準備や補助もする。体育は、全学年、キティちゃんが教えることになった。
生徒達は、最初、幼児に毛の生えた程度の大きさのキティちゃんを馬鹿にしていたが、圧倒的な体力差を見せつけられて、皆、黙ってしまった。6年生の男子であっても、走る、跳ねるはもとより、球技や格闘技も全く敵わないのだった。
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小学校では、秋の遠足や林間学校、郊外学習などで北の森にはよく行くので、北の森の浄化は喫緊の課題だった。掃討作戦には、タイタン市の帝国防衛軍100名が当たることになった。それには、シェル達女性陣も参戦する。
メンバーは、シェルとエーデル、シズ、ノエル、ビラそれにキティちゃんだ。ビラには、コマちゃんとバルトが付いている。キティちゃんは、ユニちゃんに乗って行くことにした。当然シルフも同行する。ゴロタは、ゴロタ帝国閣僚会議が重なっているため、会議に出張することになった。何かあったら、シルフかシェルが念話で知らせることになっていた。
他の高校生チームやドミノちゃん達中学生たちも行きたがったが、戦闘能力や適性スキルそれにユニちゃんに乗るのに小柄なキティちゃんが最適だったのだ。
掃討部隊の出撃は、8月20日だった。タイタン市から、北の谷までの約10キロの街道の東西5キロずつを半分ずつで討伐する。女性陣は、中央に布陣している指令本部に待機し、東西の応援要請に対応することとなった。通信については、大きな箱が準備された。長いアンテナが付けられていて、通信兵が、キーと叩いて、符号を送信する。受信した指令本部は、傍受した信号を解読して指令本部長のダンヒル将軍に伝えるのだ。
東方面部隊50名は「ブラボー」、西方面部隊50名は「チャーリー」だ。指令本部のコードは「アルファ」だそうだ。全てシルフが決めてくれた。
東西の森に展開してから30分後、無線機が信号を受信した。
『ツー トントントン トントントン ツーツーツー トントントン』
東棒面部隊ブラボー隊から救難信号だ。ビラが直ぐにバルトを飛ばす。東2キロの地点で魔物の群れと交戦中だ。相手は、ゴブリンとオークそれにレッサーウルフだ。レッサーウルフの数が異様に多い。レッサーウルフは、単体では脅威ではないが、森の中で10匹以上の群れになると厄介だ。それにゴブリンとオークも気になる。低級魔物がレッサーウルフと行動をともにすることはあり得ない。ということは、中級以上の魔物の存在が予想できた。
コマちゃんが、現場に先着して、レッサーウルフと戦闘を開始した。いつもの火炎は森林火災の恐れがあるので、使えない。ここは、物理攻撃を優先する必要がある。コマちゃんも、圧倒的な体力差で魔物をやっつけているが、数が多いので苦戦している。
防衛軍は、元込め式ライフルで、応戦しているが、敵は樹木をうまく利用して攻撃を回避している。女性陣が500m位まで近づいたところで、まずシェルが『ヘラクレイスの弓』で10連射だ。確実に敵に命中しているが、敵は、木々をうまく使って躱し始めた。シズの『ヨイチの弓』も同様だ。連射、誘導しているが、敵を目で追って誘導するので、右に左にと木々の陰に隠れると補足しきれない。
女性陣がさらに近づいて、魔物達から200mの地点まで来た時、防衛軍を一旦退避させた。このままでは、遠距離攻撃の邪魔になるのだ。見えている敵には、エーデルの『百刺しのレイピア』とシズの『竜のアギト』の餌食になっていたが、奇妙な笛の音が聞こえると、魔物達は、一斉に森の中に姿をくらましてしまった。
ビラが、バルトの目を利用して、隠れている魔物にサンダーボルトを当てているが、各個攻撃になっていて、殲滅までは至らない。コマちゃんも、北の方で、オークと戦っているようだ。
キティちゃんが、ユニちゃんから降りて、『MP5』を構える。あれ、いつものプラスチック製の玩具ではない。シルフと同じ『MP5』だ。戦闘ヘルメットを被り、迷彩服上下にブーツだ。
ゆっくり歩きながら『MP5』を掃射する。
バババババッ! バババババッ!
5連射ずつ、撃っている。曳光弾付きの弾幕が、木々の間をグニャグニャ曲がりながら吸い込まれていく。
ドン、ドン、ドン、ドン、ドン! ドン、ドン、ドン、ドン、ドン!
木々の向こうで、爆発音とともにレッサーウルフやゴブリン達の悲鳴が聞こえて来た。
30発撃ったら、弾倉を交換だ。シルフが、弾倉を渡すとともに、水筒から水を銃身に掛けている。湯気がものすごい。キティちゃんは、次々と撃ち続けている。銃身が跳ね上がらないように、肩と脇でしっかりと銃床を固定している。敵が潜伏しているであろう予想地点まで来た時、シルフが手りゅう弾を投げ込んだ。物凄い轟音とともに、木の陰に潜んでいた魔物達が吹き飛んでしまった。
キティちゃんは、そこから北の方を目指して歩き始めた。やはり、『MP5』で掃射しながらである。キティちゃんの武技『流れ撃ち』だ。弾幕がとどまることを知らない。しかも、『誘導射撃』と『爆裂弾』のスキル付きだ。キティちゃんの身体が赤く光っている。
シルフが、シェルの反対を押し切って、キティちゃんを連れて来た理由がこれで分かった。森の中の掃討作戦には最適のスキルと武技だった。
あらかた敵も片付いてしまった。さすがに、キティちゃんも肩で息をしている。あとは、シェル達に任せることにして、戦線を離れることにした。銃身からは、まだ湯気が上がっていた。シェルは、キティちゃんの育て方を何か間違えてしまった気がするが、まあ、今回は良いだろう。これで、キティちゃんのレベルがまた上がってしまったのは、皆には黙っていよう。
ビラが、バルトの目を通して、敵の首領を発見した。オーガの特殊個体らしい。大きな剣を持っている。この森には居ない筈の固体だ。おかしい。北のダンジョンで何かが起こっているかも知れない。そういえば、最近、冒険者が弱体化したのか、ダンジョンボスの討伐が無いらしい。ということは、かなり強力な魔物が湧いているのかもしれない。明日にでも、ゴロタ君と相談しようと考えているシェルだった。
オーガ特殊個体は、シズが瞬殺していた。帰りの道で、キティちゃんを見たら、本物の『MP5』から、いつもの玩具の『MP5』に変わっていた。シルフが知らん顔して横を向いて口笛を吹いていた。
チートって便利です。あり得ない設定が、可能になります。