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第372話 魔王の覚醒

ゴロタは、人ならざる者ですが、魔王とは思いませんでした。

(7月18日です。)

  今日は、1人でタイタン市の西の山の向こう、龍の谷へ行く。『ゼロ』の操縦はシルフに任せている。シルフは、自己のバージョンアップを重ねており、完全に人間タイプになってしまった。何故、汗をかく機能が必要なのか分からないが、人間の持っている機能は、完全コピーをしている。きっと、クレスタを製作する際の検証も兼ねているんだろう。


  龍の谷に来たのは、ホワイトさんに聞きたいことがあったからだ。7月だと言うのに、龍の谷は肌寒かった。


  『ゼロ』から降りると、ホワイトさんを呼んだ。


  「ホワイトさん、ゴロタです。相談があります。ホワイトさん、出てきて下さい。」


  暫くすると、空が暗くなった。上を見上げると全長500m以上の黒龍が現れた。


  黒龍は、降下してくると同時に消えてしまい、目の前に身長180センチ以上のお姉さん、ホワイトさんが立っている。当然、素っ裸だ。ゴロタは、ホワイトさん用のガウンを出してあげた。


  「久しぶりじゃのう。ゴロタよ。息災であったか?」


  このガウンは、ベルトで縛るだけだから、ホワイトさんでもちゃんと着ることが出来たようだ。着ながら、声をかけてきた。


  「はい、お陰さまで。」


  ゴロタは、こう言う時の常套句を言った。


  「うん?ゴロタよ。何があった?」


  ゴロタは、妻のクレスタが死んだこと。その時、どうしようもない憤りを感じて、身体に変化を生じたことを、ありのままに話した。


  「フーム、遂に来たか。して、その時聞こえた声は、そちの母親だったのじゃな?」


  ゴロタは、母のシルの声だったような気がする。姿は見えなかったから、はっきりしないが、懐かしい声だった。


  「お主が、人ならざる者である事は知っておろう。」


  ゴロタは、頷いた。


  「お主は、魔界の王、魔族の長、世界を滅ぼし生まれ変わらせる存在になったのじゃ。太古から人は、その者を『魔王』と呼ぶ。」


  『魔王』、聞いた事はある。災厄の神の中でも選ばれた者だけがなり得る存在。しかし、災厄の神からではなく、天上界から直接、魔王として転生する者もいると言う。


  「しかし、よく、この世界に戻って来れたものじゃ。昔、魔王となった者の怒りに触れ、消滅した魔人の国があったのじゃ。人間の国も、何度も焦土と化している。」


  そんな話を、以前聞いたことがあった。父のベルも魔王となる定めを持っていたが、母のシルと会って全てを捨てたと聞いた。


  「どれ、こちらに来なさい。」


  ホワイトさんが、ゴロタの額に手を当てた。温かい光に包まれた。


  ♪そは、神と聖霊に祝福されし者よ


  ♪なんじは、自らの使命を知らず


  ♪怒りは、この世を消し、悲しみはこの世を滅す


  ♪冥界の王、その名を呼んではいけない


  ♪冥界の王、暗黒の支配者、傲慢の厄災、熾天使ルシファ


  ♪その名を呼んではいけない。決して違う事勿れ


  変な歌い方である。腹にズンと響くような音だ。旋律は、抑揚のない棒読みのようだった。


  「そちは、冥界の王を倒せる唯一の存在だ。これから何百年かかるか分からぬが、其方は、その定めから逃げられない。」


  ゴロタは、自分があの男に勝てる気はしなかった。何故、戦わなければならないのか分からない。


  「この前、戦った時、死にかけました。僕では勝てません。」


  「それは、そちが未だ力の使い方を知らぬからじゃ。」


  ホワイトさんは、ゴロタの胸に手を当てた。


  「そちは、この熱を感じているじゃろう。その熱を、身体中に回してみよ。」


  言われた通りにした。熱は、一定の暖かさを保ったまま、身体を巡り回る。背中と頭に回った時に、力が漲った。


  「さあ、魔王の姿を頭に描くのじゃ。」


  背中に何かが飛び出る感覚があった。服が邪魔をする。服をイフクロークにしまうイメージする。服が消えた。背中の翼が大きく広がった。


  頭に手をやる。ツノが生えていた。力が漲る。身体が白く光り始める。


  「跳ねてみよ。」


    ズドーン!


  地上は、遥か眼下だ。『飛翔』スキルは使っていない。自分の体力だけで、飛び上がったのだ。翼を広げ、ゆっくり降下する。


  地上に降りたってから、角と翼を格納するイメージをした。それだけで、角と翼は消えてしまった。暫く、出したり引っ込めたりの練習をする。


  「瞬動してみよ。」


  『瞬動』をした。今までは10m位が限界だったが、軽く100mは移動していた。


  「地面に手をついてみよ。」


  言われた通りに手をついた。力を込める。単に、手を下に向けて押す感じだ。


   ズギゴゴゴ!!


  地割れが、100m以上伸びていった。


  「其方は、力の使い方を学ぶべきじゃった。しかし、時が解決するじゃろう。魔王となるべき神と聖霊の子よ。自らの力を信ずるのじゃ。」


  ホワイトさんは、ガウンをゴロタに返すと、黒龍の姿になって、飛び上がり消えてしまった。


  ゴロタは、シルフの手を取ってジャンプした。上空で『魔王』の姿になり水平飛行に移る。シルフが、『マッハ8』と言った。『ゼロ』よりも各段に早い。


  周りの空気が熱せられているが、シールドが自動で装備されている。


  『マッハ16』


  シルフが伝えてきた。


  周りの空気が、燃え上がっている。タイタン市の上空に到達した。上空にホバリングし、ゴロタの姿に戻る。上着を羽織って、部屋に転移した。これで、この前、クレスタが亡くなった時の変化の謎が解決した。


------/------------/-----------/------


  ゴロタは、何も用事がないと、マリアの部屋にいることが多い。乳母は、ゴディバさんと言う32歳の女性だ。


  ゴディバさんには、2人の子供がいるが、2人とも成人している。乳は出ないが、最近出産した女性が、交代で屋敷に来て授乳してくれるので、問題はなかった。


  ゴロタが部屋に来ると、マリアを抱き上げて、ゴロタに渡してくれる。ゴロタが抱くと、どうもぎこちないようで、すぐに泣き出してしまう。


  シェルが抱くと大人しくなるのは納得がいかない。相変わらず、シェルの胸は、ほんの少ししか膨らんでいないのだ。抱かれても、母親と思う事はないと思うのだが。でも、それを言うとシェルに殴られるので黙っている。


  しかし、今日はゴロタが抱いてもマリアは泣き出さない。何故かは分からないが、昨日までのゴロタと違うのは、やはり『魔王』覚醒しかない。


  そういえば、マリアは生まれてすぐ、ゴロタが『魔王』になった瞬間に立ち会っている。何故か分からないが、マリアはその時の事を覚えていたのだろう。


  理由は、とにかくゴロタが抱いても泣かないと言う事は、とても嬉しい事だ。ゴロタは、マリアをじっと見る。ちゃんと見てるかどうか分からないが、大きな目を開けてゴロタの方を向いている。可愛らしい。


  ゴディバさんが、ゴロタに話があると言う。シェルも同席する。


  「実は、乳母を辞めたいんです。いえ、辞めさせて下さい。」


  「理由は、何なの?」


  「怖いんです。マリアちゃんが。もう、我慢できないんです。」


  「一体、何があったの?」


  「マリアちゃんは、時々、火の付いたように泣く時があるんです。いえ、その事自体は、赤ん坊にはよくある事なんですが、その時、家具が揺れたり、不思議な事が起こるんです。」


  詳しく聞くと、ベビーベッドごと浮かんだり、何がいい知れない恐怖で動けなくなってしまうらしい。おそらく『念動』と『威嚇』だろう。


  ゴロタは、ゴディバさんを部屋の外へ出してから、マリアの身体を調べてみた。


  背中の肩甲骨の所に、赤くなっている腫れがあった。また、頭を丹念に探してみた所、膨らんでこそいないが、あきらかに赤くなっている場所が、頭の両脇にあった。


  ゴロタと一緒だ。シェルだけが、あの日、ゴロタの背中に赤いアザができた事を知っていた。直ぐに毛布をかけたので、他の女性陣にはバレていなかった。


  シェルは、ゴロタが何者であるかを知っていた。いつからだろう?遠い記憶の中に、何度もゴロタに助けられた事があったような気がする。


  クレスタが亡くなった時、ゴロタが部屋から消えた。ゲートを使っての『空間転移』ではない。本当に消えたのだ。以前にも何度かあったが、今回のは危険な気がした。シェルは、部屋の皆には心配しないように落ち着かせてから、念話でゴロタに呼び掛けたのだった。返事はなかったが、確かに届いている感覚があった。


  ゴロタが消えていた時間は5分位だったろうか?直ぐにゴロタは帰って来てくれたので、皆は、ゴロタが何処か一人になれる処へ転移したのだろうと思っていたみたいだ。シェルだけは、ゴロタを呼び戻さなければ大変な事になると分かっていた。理由は分からない。兎に角分かっていたのだ。


  マリアは、ゴロタの娘だ。ゴロタの父親の形質が強いのか、母親の形質が強いのか分からないが、今のところ父親の形質が受け継がれているみたいだ。しかし、身体の半分は人間だ。短命種で弱い人間だ。マリアはこれからどうなって行くのか分からない。


  マリアの養育は、シェルが全て見る事になった。

マリアちゃんは、赤ん坊でも力を発揮しています。

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