第371話 ドミノちゃんとキティちゃん
キティちゃんは、小学校へ行くためのテストを受けます。
(7月15日です。)
今日は、キティちゃんの小学校進学のための学力テストだ。最初に小学1年生レベルのテストをする。制限時間は20分だ。
この日のために、キティちゃんはシルフから特訓を受けていた。それに眠っている間も、何かを耳に当てている。寝ながら、言葉と綴りを勉強できるらしい。
幸いな事に、マングローブ帝国の文字も、基本的にはこの大陸のアルファベットと同じだ。しかし、微妙に違う文字もある。すでに、通訳ベルトを外してもある程度会話できているので、話したり聞いたりは、幼稚園生レベル以上の実力はあるだろう。
問題は、文章だ。全く綴りが違うし、文法も違う。幾らシルフでも無理だと思ったが、試験当日の朝までには、問題が読める程度には覚えたようだ。
試しに、簡単な通訳ベルトを外して長文を読ませたところ、たどたどしいが読むことは出来、また、意味もしっかり理解していた。。睡眠学習って凄い。ゴロタもやってみようと思ったが、キチンと昼に勉強しなければ、効果はないそうだ。
テストは、午前9時から、学校の生徒指導室で始まった。最初は、算数だった。問題文も簡単だし、数字は、世界共通みたいなので、算数は問題ないはずだ。
小学1年生の問題は、数字を書くのと簡単な足し算、引き算だ。あっという間に終わってしまう。次は、2年生の問題だ。3桁の足し算と引き算や3つ以上の数字の複合計算だ。これもあっという間に終わってしまう。級が進むに従ってかけ算、わり算、小数点に分数、面積に体積、最後は証明の問題だった。ゴロタでも、直ぐには分からなかったのに、キティちゃんはスラスラ解いていった。
理科についても、あっという間に6年生の問題まで終わってしまった。国語も、少し時間がかかったが、何とか6年生の問題まで終わったようだ。
難関だったのは、社会の問題だ。地理、歴史は全くできない。地図の読み方などはできたが、地方の都市の名前や人口比、特産品などは全くできなかった。歴史に至っては、全く分からなかったみたいだ。また、働く人たちの生活についても、この大陸の生活がわからないので、なかなかできなかった。
結局、総合的には算数と理科は、中学1年レベル、国語は小学4年レベル、最悪は社会で小学1年レベル以下だった。
午後は、体力検査だ。50m走と立ち幅跳び、反復横飛びだ。後、1000m走もある。キティちゃんは、全ての項目で、中学生レベルだった。小さいときから、ダンジョンまでの10キロの道を往復していたお陰だろう。体育の先生が、小学生記録を更新するレベルだと驚いていた。
テストの結果は、総合で中学校入学レベルに達していることが分かった。でも、やはり小学校には通うべきだと思うので、小学校6年に編入させようとしたが、余りにも体格差があり、それにこの国の子供達との共同生活も大切なので、1年生に編入することになった。それでも、皆より1年早い入学だ。しかし、それでは学力的に物足りなさすぎるようだが、放課後に小学6年生レベルの補修を中学受験のお兄さん達と受けることにしてもらった。
肌の色が褐色だからと言って、いじめられることはないだろう。言葉や読み書きの問題は、直ぐに解決出来るはずだ。
でも、キティちゃん。学校に、その玩具持っていくのやめようね。キティちゃんは、いつもプラスチック製のエアガン『MP5』を持ち歩いている。困ったもんだ。学校でも、注意したが、『これは、しゅから頂いた私の分身。』とか、訳の分からないことを言って聞かないらしい。
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ドミノちゃんは、妹ができたのでとても嬉しかった。角が生えていないけど、自分よりも小さいし、銀色の髪に明るい褐色の肌、眼は水色で可愛らしい顔をしている。
お人形さんみたいなので、お気に入りになってしまった。部屋も一緒にして貰った。お勉強だって、算数と理科以外は教えてあげられる。算数なんか、私だって分からないことがあるんだもん。キティちゃんが分からなくても仕方がないわ。
キティちゃんは、本当はまだ、小学校に来てはいけないそうなんだけど、テストが良かったから、特別に1年生になったんだって。お郷では、どんな勉強していたのかなあ。私もテストは好きだし、みんなよりできるんだけど、中学受験のための模擬試験では、全部100点をとったことはまだないの。本当に意地悪な問題があるんだもん。
私がピアノを練習していると、キティちゃんは、傍でじっと聞いているの。ピアノが好きみたい。試しに弾かせてみたんだけど、手が小さくて、ドとファまでしか手が広がらないの。あれじゃあ、難しい曲は無理かもしれない。
最近、私は『カンパネラ』を練習しているの。もう楽譜を見なくても引けるんだけど、どうしても最高音部のトリルと半音階のところが難しいの。何回も練習しているんだけど、手が少し小さいのかな。
キティちゃん、いつも『おもちゃ』をぶら下げているけど、いったいあれは何なのかしら。シルフさんも同じような形のものを持っているんだけど、シルフさんのは、武器なんだって。固い金属でできてるし。
でもキティちゃんのは、軽くて、絶対に玩具よ。『それは、なあに?』って聞いても笑って答えてくれないし。あんなのを学校に持っていったら虐められてしまうわ。まあ、そうなったら私が仕返ししてあげるんだから。だって、私、キティちゃんのお姉さんだもん。
あ、そういえば、この前から1階の大きなお部屋に、赤ちゃんがいるの。名前は、『マリア』ちゃん。とても可愛いわ。
まだ髪の毛も少ないんだけど、赤い髪と銀色の髪が別々なの。変なの。パートカラーって言うのかしら。あまり見ないわね。そういえば、ゴロタ様とシェル様も同じような感じだから、お二人に似たのかしら。やはりご両親に似るのね。
あれ、そういえばマリアちゃんのお母様はこの前死んだのよね。お葬式もあったし。でも、シェル様がお母様になるって聞いたような気がするわ。まあ、可愛いからいいけど。あの子も私の妹にするつもりよ。
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キティちゃんは、夢のような暮らしに、毎日驚いていた。朝食の準備に朝早く起きて、お湯を沸かさなくていいなんて。
前の孤児院では、キティちゃんは9歳だったから、食事の下準備は自分の仕事だった。皆より早く起きて、竃の大きな鍋にお水をいっぱい沸かすの。硬いパンを柔らかくするのは、お湯でないと出来ないから。
本当は、暖かいミルクが有れば良いんだけど、ミルクは高いから、朝はお湯とパンなの。でもシスターが、朝、パンと水をキチンと食べることが出来るのは幸せなんだって。
しゅは、人はパンだけで生きていけない。お水だって飲まなきゃいけないって教えてくれたのよ。
しゅだって、パンとお水で生きていたの。私たちもしゅと同じものを食べられるのは幸せなんだわ。
ミルクに付けたパンなんか、しゅはきっと食べたことなんかないはずよ。でも、ゴロタ様にお会いしてから、食べたことのないものばかり食べているの。
あれ、あのプルプルしている黄色いの。甘くて、柔らかくて大好き。あれは、きっとしゅの教えでは食べてはいけないものよ。絶対そうよ。
死んだお兄ちゃんにも食べさせてあげたかったな。プリンって言ったっけ。この国に来たら、もう食べられないのね。あの孤児院のあるヘンダーソン市のレストランだけで売ってるのよ、きっと。
このお屋敷には、ミルクは毎日配達されてくるみたい。それも大きな瓶に入っているの。あんな大きな瓶ってみたことないわ。
それにミルクを水で薄めないで飲むのよ。とても贅沢ね。あと、蜂蜜。この前、初めてミルクに入れて飲んだけど、なんて甘かったのかしら。
ゴロタお兄ちゃんが暖かいたっぷりのミルクにパンを付けて、蜂蜜を一杯入れてくれたのよ。生まれて初めてだわ。あんな美味しいパン。あれなら幾らでも食べられるわ。
レストランで食べたお子様ランチやオムライスもおいしかったけど、やっぱりミルクとパンにはかなわないわ。あれ、やっぱりオムライスかな?
この前、ゴロタお兄ちゃんが倒れて、私が栄養のあるものをと思って、パン入りミルクを持って行ったの。ちょっと嬉しかったわ。ドミノ姉さまも運びたかったようだけど、パン入りミルクは私が専門だから。
小学校は、ヘンダーソン市にもあったけど、孤児院の子は行っちゃ行けないと言われていたわ。臭いし、病気が移るんだって。失礼ね。冬だって、ちゃんとお水で身体を洗っていたわ。
それに小学校は、12歳になるまで通わなくっちゃいけないから、私達みたいに10歳で働かなくてはいけない子は、学校には行けないもの。あと、2年前からお兄ちゃんのお手伝いで、昼間は忙しいから、学校なんかに行っていられないわ。
お勉強は、シスターに教えてもらうし、孤児院の本棚には、教科書が一杯だったの。いつも春になると、一杯寄付されるんだって。普通のご本は無かったので、教科書を読むのが好きだったの。色んな事が書いてあるし、算数の証明とか関数の問題なんか、パズルみたいで面白かったわ。
お兄ちゃんは、強いんだけど、まだ12歳だから、組合の依頼を受けられないの。仕方がないから、荷物持ちをしているのよ。私は、馬車の後ろをついていくのがきついから、ダンジョンに付いたら、お兄ちゃんは、もう出発してしまった後なんだけど、出てくるのを待っているの。
山のような荷物を持って出てきたお兄ちゃんの荷物を少しだけど持ってあげると、お兄ちゃんは、とてもうれしそうにしてくれる。でも、意地悪な冒険者は、私に持たせると帰るのが遅くなるからって怒る時があるの。
そういう時は、あきらめて、何も持たないで帰るんだけど、そういう時って、何故か涙がいっぱい流れてくるんだ。お母さんが死んだとき、私は小っちゃかったから覚えていないんだけど、お兄ちゃんが、『泣いているキティなんか大嫌い。』って怒っていたことだけは覚えているんだ。
あれ、違う時だっかな。孤児院に行く前に、ひもじくて泣いていた時かも知れない。とにかく、私達みたいな孤児は泣いちゃいけないんだって。泣いたら負けてしまうし、泣いても誰も助けてくれないんだって。
でも、大きな荷物を持って、転びそうになりながら歩いているお兄ちゃんを見ていると、自然と涙が出て来ちゃう。お兄ちゃん、ごめんね。
お兄ちゃんが、死んだのは、1年くらい前かな。私は、その時8歳だったと思うんだけど、お兄ちゃんが私より4歳年上だから、きっと8歳よ。毎日、組合に行くんだけど、ポーター許可証を貰えたのは、ついこの前なの。
それまでは、荷物持ちのお手伝いで、銅貨10枚位貰っていたの。でも許可証を貰っても誰も依頼なんかしてくれない。私があまりにも小さいからだって。
小さくなんかないもん。ずっと9歳って嘘ついていたけど。シスターは、私の本当の年を知らないみたい。お兄ちゃんだって、自分の本当の年を知らないんだからしょうがないわ。
この前、この国に来て、大きな大きな町の立派な建物の中で、機械に手を刺されて調べて貰ったの。そしたら、私の本当の年齢は6歳だったんだ。自分でも、ビックリよ。
9歳はむりでも7歳か8歳と思っていたんだもん。じゃあ、お兄ちゃんは、いったい幾つだったんだろう。
学校のテストは、社会以外は簡単だったわ。
キティちゃんは、6歳ですが、15歳相当の実力があります。