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第370話 別れの朝

クレスタが死んでしまったことは、ゴロタにとってはショックですが、次に進んでいかなければなりません。

(7月10日です。)

  今日は、クレスタの葬儀の日だ。亡くなったあの日、クレスタをタイタン離宮に運んでおいた。貴賓室に祭壇を設け、ガラス製の棺を安置した。シルフが、冷蔵保存装置を作って繋いでいるので、少し蒸し暑いタイタン市でも遺体は、死んだ時のままの美しい姿だ。


  ゴロタは、ほとんどの時間をクレスタと過ごした。シェルが心配して、食事を運んだりしていたが、あまり食べる気がしなかった。


  今日は、クレスタを大広間に設けた祭壇に安置して、ジェリー大司教がお別れのミサを執り行ってくれた。


  ミサ終了後、クレスタはガラスの棺から木製の棺に移された。墓地ではなく、屋敷の北側、森との境に10m位の土を盛り上げて丘にし、その一角に埋葬する。登るための階段も作っておいた。


  棺は、ゴロタ一人で『念動』で運ぶ。先頭にジェリー大司教。それに続いて、司教達が50人程続く。その後に、ゴロタ達だ。娘は、シェルが抱いている。エーデル達や白薔薇会の皆、それにクレスタの両親などは白い薔薇を持って後に続く。


  埋葬場所に棺を置く。ジェリー大司教が最後のお祈りをする。


  「汝は額に汗してパンを食べ、ついには土に帰らん。そは土の中より取られたればなり。汝は塵なれば塵に返るべきなり。土は土に、塵は塵に、灰は灰に。神と精霊ゼロスの御名において、祝福を得る者は汝なり。」


  意味はよく分からない。しかし、もう二度とクレスタの笑顔を見ることができない事は分かった。


  ゴロタは、棺を2m程沈めた。皆が、白い薔薇を投げ入れる。大きな穴が白薔薇で埋まった。その上に土を被せる。ドンドン盛り上げた。高さ2m程の高さにした。墓石と柵については、バルーンさんにお願いしている。取り敢えず、この小山が墓標だ。


  娘が泣き始めた。暑いのだろう。真冬の大陸から真夏のタイタン市に来たのだ。汗疹が心配だ。


  タイタン離宮に戻って、葬儀参列者に、お酒を振る舞う。ゴロタは、1人で自分の部屋にいた。シェルが入って来た。娘は寝たらしい。ベッドに腰掛け、隣を手でポンポンする。ここに座れと言うのだ。ゴロタは、力無く座った。


  シェルが、ゴロタの肩を抱いて、やさしく頭を撫でながら言った。


  「あなた、私たちは、ここにいる皆の死を見続けなければならないの。最後は、二人のうちのどちらかが、相手の死を見ることになると思うわ。でも、それは仕方がないことなのよ。死する定めで生まれた者にとって、死は悲しみではあるけれど、決して不幸ではないの。」


  長命種であるエルフ族は、死に対して寛容である。長い人生を、いつ来るか分からない死に怯えていては生きてはいけない。自然の摂理としての死を、悲しみではなく、長い人生の終着として喜びで迎える。そのような人生感を持っているのだろう。


  クレスタも、娘を産んだことを喜び、微笑みながら死んだ。そんな気がする。その喜びを無駄にしてはいけない。クレスタの喜びと期待を引き継ぎ、娘を育てていく。そう決意したら、少しは気が安らぐ気がしてきた。


  長い間、二人で座っていた。窓の外には遅い夕闇が忍び寄ってきた。どこかで、娘の鳴き声が聞こえる。そういえば、まだ名前を付けていなかった。ふと思いついた。



  「マリア。」


  「え?」


  「マリア。あの子の名前は、『マリア』にしたい。いいかな?」


  「かわいい名前ね。いいんじゃない。」


  娘の名前は、『マリア』だ。ミドルネームは『クレスタ』にする。


  『マリア・クレスタ・タイタン』


  うん、可愛らしい名前だ。クレスタも喜んでくれるだろう。マリアは、タイタン離宮の別館で育てることにした。母親はシェルだ。執事1人とメイド2人、乳母1人をガーリック伯爵の屋敷内別邸から連れてきている。残りの執事1名とメイド3人は、そのままガーリック伯爵の別邸付きだ。当然、これからの給料はガーリック伯爵が支払うことになる。


  別館1階は、赤んぼう1人では、広すぎるので、その隣に、小さな屋敷を建てるつもりだ。子供が遊べる部屋と庭も作ろう。トイレやお風呂も子供用のものを備えなければならない。まあ、歩き始めるころには完成しているはずだ。早速、バンブーさんに相談だ。


  いろいろ考えていたら、少し、悲しみが薄れてきた。これからマリアを育てていく期待が膨らむ。これがシェルの言っていた悲しみではあるが、不幸ではないということかも知れない。


  翌日、ガーリック伯爵邸でお別れの会があった。シルフが、ものすごく精巧なクレスタの人形を作ってくれた。絶対に、作り物だとは思えない。近くで見ても、睫毛やうぶ毛までちゃんとあるのだ。触っても、人間の肌のようだ。シルフが、得意そうに作り方を説明していたが無視することにした。


  この人形を見て、ある考えが浮かんだ。マリアのために、クレスタとそっくりのアンドロイドを作るのだ。シルフに、そんなことが可能か聞いてみた。シルフは、可能だが、問題点が二つあると言った。


  一つは、クレスタの思考回路や能力はコピーできないので、あくまでもシルフのマザーコンピュータが知り得る母親の行動しかできないということ。もう一つは、マリアが物心ついて、そのアンドロイドを母親と思ってしまうと、作り物であることを知ってショックを受ける可能性があることだそうだ。


  うん、それでは物心ついた時から、アンドロイドであることを教えておいたらどうだろう。乳母やメイドはいるが、マリアの守護者として付き添うのだ。シルフに、作成をお願いした。外装は、今回使った人形の外装をそのまま使うことにする。


  完成は、今年の暮れになるそうだ。動作確認も大切だが、新機能として、表面温度を36.5度に維持できる機能や飲食できる機能も持つ。また、当分の間、乳首を吸うと母乳成分のミルクも出るようにする。あと、瞬きや顔色の変化等も必要だ。夜の行為のための機能はどうするか聞かれたので、当然要らないと答えておいた。この馬鹿シルフ、絶対に遊んでいる。


  クレスタのアンドロイドが完成したら、しばらくガーリック伯爵の屋敷で、クレスタの生育環境を勉強する。また、白薔薇会のメンバーからも聞き取り調査が必要らしい。なんか、面倒くさい。


  それに、クレスタの話し方も学習しなければならないが、元データが少ないので、周囲に協力を得る必要があるそうだ。


  それとケーキ作りのスキルも必要だ。知識として持っていても、微妙な調整は、実践で習得しなければならないらしい。


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  タイタン市に戻ったら、シェルが深刻な顔をしていた。キティちゃんの小学校から、キティちゃんの年齢証明が欲しいというのだ。キティちゃんは、タイタン学院付属小学校の1年生に編入した。


  しかし、小学1年生にしては、知能が高すぎるそうだ。なのに語学力がダメで、読み書きが全くできない。本当は、何年生なのか調査しなくてはならないそうだ。


  ゴロタは、キティちゃんと一緒に王都の王立冒険者ギルド本部に行った。タイタン学院にある能力測定器では中学生以上の測定しかできないからだ。


  当然、小学生について、通常は測定してくれないが、本部長のフレデリック王子に相談して、秘密で測定してくれることになった。


  キティちゃんは、ゴロタの手をギュッと握っている。不安なのだ。測定室に連れて行って、測定器の前に座らせる。椅子が低いので、ゴロタが座って、キティちゃんを膝の上に座らせる。


  キティちゃんの右手を機械の測定場所に入れる。小さな針が、人差指に刺さって、わずかな血液を採取した。キティちゃんは、びっくりして涙ぐんでしまったが、泣くのは我慢している。偉いぞ。キティちゃんの能力が、表示されてきた。


******************************************

【ユニーク情報】

名前:キティ

種族:人間族

生年月日:王国歴2022年4月5日(6歳)

性別:女

父の種族:人間族

母の種族:人間族

職業:なし

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【能力】

レベル    11

体力    120

魔力     80

スキル   110

攻撃力    50

防御力    40

俊敏性    90

魔法適性   火 風 雷

固有スキル

【誘導射撃】【爆裂弾】

習得魔術  なし

習得武技  【流れ撃ち】

*******************************************


  ある程度は予想していたが、これは酷い。キティちゃんは、身長が110センチ位しかないので、かなり小さい。通常、小学校1年生でも4月生まれの子は周りの子よりも一周り以上大きいのだが、キティちゃんは小さすぎるのだ。しかし、6歳になったばかりとは、小学校に入ることは無理だった。来年、新入生だ。


  それにしても、キティちゃんは、4歳の時から、お兄ちゃんについてダンジョンに行っていたことになる。だから、体力値が異常に高いのだ。


  通常、幼児ならすべての能力値が10以下のはずだ。魔法だって、適性が現れるのは、もっと成長してからだ。それが、この能力。誰だ、キティちゃんに武器を与えたのは。シルフの嫌な笑い顔が想像できる。


  しかし、このレベルは、すぐに冒険者登録しかも『D』ランクで登録できるレベルだ。ああ、先が思いやられる。


  タイタン市には、幼児教育する施設はない。当分の間、孤児院で、他の子供たちと行動を一緒にしてもらおう。いや、小学校に飛び級進学という手もあるかも知れない。


  学力テストを受けさせてみよう。それで、どうするかはシェルと相談だ。ああ、ダンジョンでレベル上げなんかしなければ良かったと後悔しているゴロタだった。


  その後、東の大陸のヘンダーソン市冒険者組合に行き、この前のダンジョン攻略の成功報酬を貰いに行く。


  攻略成功の証跡は、あの虹色の魔石だ。担当者は、ゴロタが戻って来ないので、失敗したものと思っていたらしい。鑑定の結果、攻略成功が証明されたので、大金貨2枚を貰った。


  死にかけた報酬としては、安すぎる気がしたが、あの男を逃したのだから、黙って受け取る事にした。

マリアちゃんは、どんな女の子になるのか楽しみです。それよりキティちゃんは、どうなってしまうのでしょうか。

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