第368話 シェルに怒られました。
強敵を撃退?したゴロタは、地上に戻ります。
(まだまだ7月1日です。)
奴は、誰だったのだろう。言うことはふざけていたが、実力は半端なかった。
ゴロタでも、あのまま戦って勝つ自信は無かった。ほぼ不死身、速度はゴロタ以上、空間を自由に扱える能力。あんな魔物?がいたのかと思ってしまう。今度会ったら、名前ぐらい聞いておこう。
奴の寝ていた棺を調べた。ズッシリ重たい。普通の重さではない。ゴロタは、ハッと気がついた。ナイフで蓋の表面を少し削る。黄金色の地肌が見えた。
黄金の棺だ。当然、回収だ。棺の中に虹色の魔石があった。全ての魔力を有する魔石だった。大金貨1000枚以上の価値がある。棺も2トン以上ありそうだ。全てを回収して、念のためにドロップ品を探す。
ポイズンダガーが1本落ちていた。
広間の奥に、玉座があり、その後ろに召喚石があった。これに触れて、地上に戻れば、ダンジョンクリアだ。
地上に出たら、シェルが泣いていた。ゴロタが死んでしまったと思っていたらしい。シェルが、地上に投げ出されてから3時間も経っていたそうだ。
「あの時空の乱れ、時間もずれたものと思われます。ブラックホールでは、時間さえ止まってしまいます。」
シルフの説明は、理解できなかったが、シェルが泣いていた理由はよく分かった。ゴロタも、よく死ななかったものだと思ってしまう位強かったからだ。
帰る事にしよう。ホテルの部屋に『空間転移』した。もう夜の10時だった。レストランはもう終わっている。パンとミルクと蜂蜜で夕食だ。キティちゃんが喜んでいる。
シェルが青ざめている。どうしたのか聞くと、ゴロタの首筋から血が流れているらしい。全く痛くない。左首に手を当ててみると、手が血で染まった。きっと最初の一撃を受けた時だろう。辛うじて盾で交わしたが、コンマゼロ何秒の差で、刃が当たったのかも知れない。
シェルが、手が汚れるのも構わずに傷口に手を当てた。『治癒』スキルを発動する。『ヒール』と違って、ゴロタの回復力は必要としない。あくまでもシェルの治癒能力で治しているのだ。
キティちゃんは、さっきから泣いている。ゴロタが死んでしまうと思ったのだろう。シルフが、タイタン離宮に戻ろうと提案した。このままでは、感染症になっても治療もできないので、戻った方が良いと言うのだ。
シェルも賛成した。首筋の傷は塞がったが、あの剣にどのような副次効果があるのか分からないのだ。
部屋の床が血で汚れてしまったが、掃除代金も含めて精算してチェックアウトした。こんな深夜にチェックアウトなんてと不満顔のフロントに、チップで銀貨1枚を渡したら、ニコニコしていた。
そのままタイタン離宮のリビングに戻ったら、ジェーンがまだ起きていた。メイドに、皆を起こしてくるように指示していた。
皆、起きてきたが、ゴロタが怪我をした事が信じられないようだった。首の傷痕を見て、驚くやら怖がるやら。
エーデルが『あなた、死なないで。』と泣き始めたものだから、皆、泣き始めてしまった。
フランが、傷に手を当てて暫く瞑想していた。
「この傷は、あまり良くない。邪悪な感じ。相手は誰?」
ゴロタが、奴のことを説明した。フランが、突然、変なことを言い始めた。
昏き闇より生まれし者 そは闇を総べる者
地の底より這い出ずる 災いの神を従いて
かの天上神をも恐れずに 冥界の王とは彼の者を
指して名前を言うなかれ 決してその名を口にせず
あの者 彼の者 見知らぬ者 決して名前を 言うなかれ
今のは、ゼロス教に伝わる伝承らしい。その名を呼んではいけない『者』と戦って傷つけられたのだ。
フランが、
『聖ゼロス教大司教国の大聖堂に行かなければならない。』
と言った。え、これからですか?と思ったが、『直ぐに。』と言われたので、ゲートを開ける。フランが先頭で、ゴロタ、シェルと続いた。その後を、エーデル以下、全員がついて来る。もう夜も遅いので、キティちゃんは、大人にオンブされているが、何とか頑張って起きていようとしていた。
と言うか、皆さん、寝巻きのままなんですが。
フランは、直ぐにジェリー大司教のところに行き、秘宝の聖杯に並々と聖水を満たす。そのまま祭壇に行き、2人でお祈りをする。シェルや皆も手を合わせて祈っている。ゴロタは、ボーッとしていた。と言うか、さっきから思考が混濁して来ているようだった。
聖杯が白く輝き出した。そのままフランが手に持ち、ゴロタに聖水を飲み干すように言った。ゴロタは、一気に飲み干した。眠くてしょうがない。ここは大聖堂。こんなところで寝てはいけない。
そう思っていたが、意識が飛んでしまった。
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ゴロタが気が付いたのは、自分のベッドの上だった。ベッドの周りには妻達が座っていた。お香の匂いがした。この匂い、母親のシルが良く炊いていた匂いだ。
シェルが、ゴロタの手を握っていた。もう片手をエーデルが握っている。シェル以外は交代交代だったらしい。
今日は、何日だろう?シェルの手を握り返してやった。吃驚したシェルが、大声でゴロタの名を呼んだ。手を握ることで返事をした。エーデルの手も握ってあげる。
タイタン離宮は大変な事になっていた。帝国の重鎮はもとより、グレーテル国王陛下夫妻にジェリー大司教など、ゲートが繋がれている国々の元首は皆来ていた。
聞けば、3日ほど寝込んでいたらしい。まず着替えないと。いや、その前にお風呂だ。身体が臭そうだ。
お風呂を誰が一緒に入るか言い争っている。裏の露天風呂だ。全員で入る事になった。次に、お腹が空いたので、パンとミルクを持って来て貰う。これはキティちゃんが運んできた。キティちゃんは、例の首輪を付けている。言葉の問題はないだろう。ドミノちゃんが不満そうだった。
ミルクにパンを付けて食べていたら、キティちゃんがお腹を鳴らしている。メイドさんにキッチンで何か食べさせてあげるようにお願いした。
着替えて、階下に降りて行く。皆、拍手で迎えてくれた。え、何?拍手の意味が分からない。聞けば、ゴロタは『冥界の王』を撃退した事になっていた。いや、撃退では無いから。逃げられたし。
『冥界の王』は、創造神に匹敵する力を持ち、百万の冥王軍を率いて百年戦争を神に仕掛けたらしい。今から3000年以上も前の事だ。もう、神話の世界ですね。
フランの話では、頸動脈を切られていたらしい。普通なら即死だが、ゴロタの自己治癒能力のお陰で、出血が最小限に抑えられていたらしいのだ。シェルが治癒で治したが、出血量が多かった事と、闇の瘴気が身体中に回ったため、意識を失ってしまったのだ。
国王陛下達は、ゴロタが無敵で不死身と思っていたらしく、ゴロタがいなくなると、また混沌の世界になってしまうと恐れ慄いていたらしい。
いや、まだ死にませんから。しかし、自分でも、よく生きていたと思ってしまうゴロタだった。
ゴロタは、皆に、ことの経緯を説明しようとしたが、上手く説明できなかった。代わりにシルフが説明したが、ブラックホールがどうとか、冥界という並行世界がどうとか説明されても分かる訳なかった。
兎に角、『かの男』が、ゴロタと同等の力を持ち、今度勝負しても、勝てるかどうか分からない事だけは確かだ。それだけで、世界の脅威だった。
あ、そう言えばと思い出したように、あの棺を出してみた。中の寝具は焼けて灰になってしまったが、灰と汚れをどかすと、眩いばかりの黄金の棺だ。
価値が幾らか分からないが、コリンダーツさんが、『きっと買い手はつかないでしょう。』と言った。その理由は、『あの男』が、この棺を取り戻しに来る可能性があるからだ。
考えてみれば、そうかも知れない。やはり、この棺は、地金にして売り飛ばそう。2トンはあるから、かなりの値段になるだろう。
その日は、ゴロタの恢復祝いになった。皆、東の大陸の話を聞きたがった。魔法に関するアーキテクチャが少なく、不便な事が多いが、国そのものは豊かで、良いところだと教えてあげた。
明日、また行くつもりだと言ったら、皆、反対した。しかし、冒険者組合に行って、ダンジョンクリアの報酬も貰わないといけないし、帝都だってまだ行っていないと言うと、シェルが冒険者組合だけなら行って良いと言った。
シェルと行こうと思ったら、一人で言ってくれと言う。明日は、キティちゃんの小学校入学手続きをしなければならないそうだ。
結局、キティちゃんは孤児院ではなく、離宮で暮らす事になった。部屋は、ドミノちゃんと一緒だ。ベッドはあるが、勉強机がないので、新しく買わなければならない。
この際だから、部屋を模様替えし、2部屋を繋いで、1部屋を勉強部屋、もう1部屋を寝室に改造する事になった。ドミノちゃんの母親のデミアさんは、その隣の部屋だ。デリカちゃんには申し訳ないが、部屋を一つ動いて貰った。
しかし、キティちゃん、本当は何歳なのだろうか?明日、ハッシュ町の冒険者ギルドで、能力測定してもらおう。
その日の夜、ゴロタの部屋にシェルが来て、ダンジョンでのゴロタの態度について2時間、説教をされた。忘れていたと思ったのに。当然、その際は正座だったし、呼び方も『ゴロタ君』だった。
説教が終わるのを待ち兼ねたように、エーデルとジェーンそれにフミさんの3人で別荘に行く。あの、皆さん、死にかけた病み上がりなのに、何を考えているんですか?
死にかけたゴロタを、皆は許してくれません。久しぶりに、夜を堪能する気です。