第364話 東を目指し、出発です。
キト州では、思いがけない収穫がありましたが、キティちゃんがおまけで付いて来ました。
(6月21日です)
ゴロタは、ダヤムの足と肩の傷を塞ぐ。出血は止まった。ダヤムの持ち物を調べると、変な人形を持っていた。
色は赤銅色。大きさは、手の平位だが、顔が体の半分位あり、顔も大きな目玉が両脇についている。
顔自体は小さい。身体も、女性なのか丸く大きな乳房が上半身を占めている。人間と言うより邪神と言った姿だ。
両目に紅い魔石が嵌め込まれている。
これが、『赤きシールド』の魔道具か。ゴロタは、魔道具に魔力を流し込む。目が光る。光が収まると、なんて事はない魔道具だ。ゴロタは、指鉄砲を人形に撃ち込む。瞬間、赤いシールドが出現して指鉄砲のエネルギー弾を跳ね返した。
うん、これは使える。シールドの貼り遅れがない。シェルに持たせる事にしよう。きっと『紅き剣』以外なら、ほぼ無敵だろう。
ダヤムが気が付いた。ゴロタが、財宝の在り処を聞いた。奥の床下だそうだ。もうダヤムには用はないが、無詠唱で魔法を放たれても面倒なので、魔力を完全に吸い取ってしまう。ダヤムは、気を失ってしまった。
洞窟の奥に行くと、大きなテーブルがあった。それをどかすと、木の扉が下にあった。
扉を開けると、階段が有り地下に続いている。地下は、大きな部屋になっていて、金貨などの現金、宝飾品それに武器が貯蔵されている。金貨の枚数は1000を軽く超えているようだが、大金貨も混ざっているので、総額が幾らか分からない。
ゴロタは、大金貨だけ選んで、20枚程イフクロークに入れてから、シェルのいるところまで転移した。シェルは、何もする事が無かったみたいで暇そうにしていた。
2人で、部隊のところに戻り、経緯を説明した。キト伯爵達は、半信半疑でアジトのある山に向かったが、そこにいたのは、完全に戦闘力をなくしているダヤムと、自らの糞尿にまみれている手下どもだった。
野党討伐は終わった。ダヤムは、魔力、能力ともに常人を超絶するほどに優れているのに、孤児院育ち故に魔導師として国防軍の最高責任者まで上り詰めたが、貴族に叙爵されることはなかった。
そのため、帝室ではいつも末席の位置に立っていたそうだ。それが、ある魔物を倒した時に、無敵シールドの魔道具を入手した。
ダヤムは、国防軍を辞め非合法の世界でのし上がったらしい。ちゃんと国防軍で、人気を勤め上げれば叙爵もあったかもしれないのに、魔道具が彼の人生を狂わせたようだ。彼に待っているのは、極刑しかないだろう。
もう、この地には用はないが、キト男爵がマングローブ皇帝陛下に勲章の授与を上申するので、一緒に帝都に行ってくれないかと言ってきた。帝都には行くが、のんびり行くので、先に行ってくれるようにお願いした。
結局、帝都に行ったらキト伯爵の帝都屋敷を訪ねることを約束させられた。それから、『これは少ないが。』と言って、大金貨2枚を謝礼として渡してくれた。断ろうかとも思ったが、折角だからもらう事にした。
翌日、シェルとキティちゃんそれにシルフの4人で、東の州に向かう駅馬車に乗った。6人乗りの馬車3台のキャラバンだった。
この大陸、パシフィック大陸というのだが、大陸の真ん中に、クイーンズロックという大きな山脈があり、西側はマングローブ帝国、東側はセコイア帝国という二つの帝国が治めている。大陸そのものはかなり広大で、マングローブ帝国だけで、28の州に分かれている。
それぞれの州の統治官は州知事だが、原則伯爵以上の者が就任することとなっている。大規模な都市の市長は男爵以上の貴族で、周辺の市町村の行政責任者を兼ねており、市町村長の指揮統括権を有しているそうだ。
だからバユタン市長も、子爵の身分を有しているのだ。
ここの貴族制度は変わっている。世襲制ではあるが、領地は無い。帝国から年金が授与される。その他に、市長や知事になると職給が支給される。年金は、爵位に応じた品格を保つために支給され、職給は、労働の対価という事だろう。
この制度は、ゴロタ帝国にも参考になるだろう。
帝都セント・グローブ市は、このエビル市から南東の方向2000キロの地点にあるらしい。セント・グローブ市から南側は、白人種のエリアらしい。現在は混在しているが、以前ははっきりと区分されていたらしい。ちなみに、現在のマングローブ皇帝は白人種らしい。
隣町は、真東にあり、駅馬車で2泊3日の旅だ。駅馬車は、8頭立でかなり早いが、それでも1日に百キロしか走れない。4日に1度は休息日なので、帝都までは1か月の旅になる。川越え、山越えもあるし、州都には少し長く滞在したいので、帝都に到着は8月になってしまうだろう。
クレスタの出産があるので、途中から『タイタニック号』になるかも知れない。それも仕方がない。駅馬車に乗って、行けるところまで行くつもりだ。
駅馬車には、若い夫婦が相乗りだ。二人とも、州都で働いていたが、田舎の両親に会いに行くそうだ。夫はビルさんと言って17歳、妻はエマと言って15歳らしい。田舎の両親から、帰省費用を送って貰ったので、3年ぶりに帰るそうだ。
貧しい農村では、12歳から働きに出るのは普通の事だった。ビルさんは、背はあまり大きくないが、小太りのがっしりした身体で鍛冶屋をしているらしい。エマさんは、長身の女性で洗濯屋で働いているそうだ。
季節は、冬に向かっているが、この辺は真冬の8月でも15度以下には下がらないらしい。毛布1枚有れば野営には困らない。
ゴロタ達は、テントで寝るので、ビルさん達は馬車の中で寝るのだが、夜中、馬車がギシギシ揺れるのには参った。まあ、若いから仕方ないけど。
次の日、シェルは、夫婦を見るたびに真っ赤になっていた。笑える。夫婦にとっては、シェルの方が変わった女性と見ているのだろう。夫婦は、隣の町から、北に向かっていくそうだ。ゴロタ達は、そのまま馬車に乗って州都を目指す。
キト州の隣の州は、ベント州といい、ベント侯爵が知事をしている。州の名前は、歴代、知事の名前を関しており、移封されることは、原則的にはないらしい。州知事が変われば、州の名前も変わるが、生活する庶民には、郵便などもあまり発達していないことから、まったく支障がないようだ。
ベント州の州都、ヘンダーソン市までは、ここから駅馬車で8日間かかるそうだ。そこまでは、市が一つ、町が2つ、村が3つで後は野営になる。その途中のペイン市で事件は起きた。
ゴロタ達がペイン市に到着したのは、午後6時過ぎだった。本当は、もっと早く到着する予定だったが、馬車の車輪が折れてしまい、交換するのに手間取ってしまったのだ。
ホテルは、スムーズに取れ、続きの部屋が付いている、少し豪華な部屋を予約した。食事は、ホテルのレストランでは、予約がいっぱいだったので、街のレストランを紹介してもらって、そこで食べることにした。
ホテルの近くのレストランだったので、4人で仲良く歩いていくことにしたが、いやな視線を感じていた。町のゴロツキかチンピラだろうが、人数がかなり多く、町の角々にたむろして、通りがかりの者を睨みつけている。
ゴロタは、相手にせずにレストランに入っていったが、その姿をじっと見ている視線を感じていた。
食事は、ビーフシチューにチキンのサラダだ。キティちゃんは、パンを千切ってシチューに付けて食べて、ウットリとしていた。最近は、ミルク以外にも色々なものにパンを付けて食べている。
シェルは、赤ワインをグラスで注文していた。例の男達のことに気がついているようだ。シルフが『片付けて来ましょうか?』と怖いことを言っていたが、シルフには加減という言葉がないらしく、それでは彼等が可哀想なので、構わないように指示をしておいた。
レストランを出て、しばらく歩くと、連中のうちの1人が声を掛けてきた。
「お兄さん、少し聞きたい事があるんですがね。」
ゴロタ達が立ち止まると、続けて
「その連れている子、俺の知り合いの子にそっくりなんだが、どこで見つけたんだい?」
新手の言いがかりだ。このパターンは無かった。面白いから、少し相手をしてやろう。
「この子は、僕の妹なんだけど。」
「ふざけんじゃあねえ。ちっとも似てねえじゃねえか。それに、肌の色が全然違うじゃあねえか。」
精一杯、脅しているつもりだろうが、怖がっているのはキティちゃんだけのようだ。
「この子は、陽に焼けやすい体質なんだ。冬になれば、透き通るような白い肌に戻るんだ。」
季節感のないこの国では、全くの嘘だとすぐバレてしまう。
「冬だあ?ふざけたことを言うじゃあねえか。ようし、俺っちらの事務所に来て貰おうじゃあねえか。」
当然、ついて行くことにする。シェルは、楽しくてニコニコしている。シルフは、『MP5』を背中から下ろしている。
事務所は、裏通りのキティちゃんには少し早い風俗街の中にあった。狭い階段を上がって行く。シェルが、スカートの裾を押さえながら昇って行く。
事務所には、血の気の多そうな若者が4〜5人程いた。奥に、眼鏡をかけたインテリ風の男がデスクに踏ん反り返っている。銀縁メガネにオールバックの髪型だが、頬の傷が堅気の男では無いことを物語っていた。
男は、眼鏡越しにギロリと睨むと、先ほどの男に、
「上等な玉じゃあねえか。ヤス。褒めてやるぜ。男は要らねえ。やれ!」
後ろから、木の棒か何かで殴られたが、何もせずに立っているだけなのに、木の棒は2つに折れてしまった。この程度の衝撃、かわすほどのこともない。これで、慰謝料確定だ。シェルが、ニンマリと嫌な笑いをする。
結局、事務所の有り金全てを巻き上げる事になってしまった。
ゴロタ達が、この街でいくら収入があったかは内緒です。半端ない額だったようです。