第363話 盗賊王ダヤム
どこの世界でも、ゲリラ戦となると、掃討に手間がかかります。
(6月21日です。)
朝4時半、ゴロタとシェルは、アダマンタイトの鎧装備でホテルを出た。シェルは『ヘラクレイスの弓』を、ゴロタは、『オロチの刃』を背負っている。着ている服は夏用フライトジャケットとポケットがいっぱい付いているフライトズボンだ。
ヘルメットのゴーグルを上げているから、誰か分かるが、異様な姿に、ホテルの人達は驚いていた。キティちゃんとシルフはお留守番だ。
ホテルを出てから、街の西外れまで転移する。部隊は集結中だった。総勢700名だった。皆、緊張している。今日、無事帰ってこれるかどうか分からないのだ。
ゴロタは、キト伯爵の馬車に近づき、挨拶をした。キト伯爵は、ミスリル製の騎士装備だ。ベルリちゃんまで騎士装備だった。
ゴロタ達の服装を見て驚くと言うか、明らかに異世界人を見る目付きだ。強化プラスチック製のヘルメットにフルフェースゴーグルだ。耳からはヘッドセットが下がっている。
ゴロタは、『ゼロ』をイフクロークから取り出す。と言うか、何も無い所からベールを剥がすように異形の機体が出てきたのだ。伯爵やベルリちゃんだけではなく、全員が『オー!!』と感嘆の声を上げる。
機体主翼下には250キロ爆弾が4発架装されている。機体は、オリーブドラブとライトグリーン、ライトブラウンの迷彩模様で、下面はライトスカイブルーに塗り分けられている。
本当に、いつ塗っていたのか。まあ、アンドロイドは不眠不休だから。キャノピーの前は、反射防止のために艶消しの黒に塗られていた。垂直尾翼には、蒼い盾の上に赤い剣が斜めに輝いているマークが書かれている。
ゴロタ帝国の紋章は、龍と交差する剣なのだが、機体の真ん中には、赤い丸に剣の交差した図が白抜きになっただけのマークだ。
どうもシルフのこだわりを感じる。本当は、機体上面も濃緑色にしたかったらしいが、地上戦での迷彩効果を考えて、この色にしたそうだ。よく分からない。シェルと一緒にタラップを登って搭乗する。座席は、左右2座席ではなく、前後2座席だ。後席にも操縦桿があるが、メインパイロットは前席だ。
シートベルトをして、エンジンを始動する。モーターの回る音がして、エンジンに着火する。あまりの騒音に、皆、耳を塞ぐ。
全てのチェックランプがグリーンになった。キャノピーを締めてロックする。タラップを収納する。
エンジン音が大きくなる。ゆっくりと上昇を始める。地上30mで水平飛行に移り始める。仰角45度で急加速だ。ぐんぐん上昇する。
あっという間に、部隊は小さな点の集まりになった。水平飛行になってから、目標地点に向かう。攻撃目標は、山の中腹にあるアジトの城砦だ。城門及び城壁が攻撃目標だ。目標地点は、シルフがあらかじめインプットしてくれた。
砦の上空に到着した。機体をバンクさせて、急降下に移る。ゴロタは、大まかなターゲットに照準を定める。あとはシルフにお任せだ。
急降下の威嚇音が鳴り響く。地上200mで左右の爆弾2個が投擲された。2発とも城門に命中だ。直ぐに操縦桿を引いて、機首を上に向ける。機体右下の20ミリバルカン砲が火を吹く。城門付近の盗賊どもが、バタバタ倒れて行く。
上昇を開始して、しばらくで警戒音が鳴り響く。後ろから火球が追撃してきているのだ。早い。ドンドン迫ってきている。上昇姿勢から、右旋回だ。火球も右に追ってくる。しつこい。
ピッチアップによる180度ループ、180度ロールを連続的に行う。インメルマンターンだ。
「キャーッ!」
シェルが、悲鳴を上げる。Gが凄いのだ。
火球は、大回りをして追撃しようとしたが、さすがに魔力が切れたか失速して小爆発してしまった。
また警戒音が鳴る。前方から、火球が2発迫ってくる。もう面倒臭い。シールドを張って、防御する。
シールドと火球がぶつかって大爆発を起こすが、構わず火炎の中を通過する。操縦桿の引き金を引く。火球の撃ってきた辺りに、20ミリバルカン砲の曳光が吸い込まれて行く。赤いシールドが現れ、皆、弾かれて行く。構わず撃ち続ける。1分間に6000発だ。弾倉がイフクロークと結ばれている。弾は、ほぼ無尽蔵だ。と言っても2分間分だが。
2秒間で、敵のシールドが破られた。その後、100発くらい打ち込んでから急上昇だ。
今度の目標は、城門の西100mの城壁だ。アフターバーナーを点火して、高度2000mまで上昇後、急降下に移る。シェルが気絶しないように、血流を脳に流してあげる。
城壁を、250キロ爆弾1発とバルカン砲が襲う。もう火球は撃たれて来ない。
東の城壁にも大穴を開けたところで、『ゼロ』の攻撃は終了だ。帰還に向かう。部隊は、砦から100キロ位のところにいた。
舞台の脇に着陸する。降りてから機体を点検する。至るところが焦げているが、ダメージはないようだ。塗装が剥がれているところだらけだ。シルフに怒られそうだ。
ゴロタは、機体に手を当てて『復元』スキルを使う。うん、綺麗になった。塗装は元通りだ。
シェルが大声でゴロタを呼ぶ。怒っている。まだ機体の中だ。半ベソだ。さっきの強力なマニューバにた耐え切れず、失禁したようだ。ゴロタは、シェルの濡れたズボンに手を当て、『復元』スキルで、元の状態に戻した。
「ゴロタ君の馬鹿。」
シェルが、小さい声で言った。次は、シェルをシールドで包むことにしよう。そうすれば、急激な移動に伴う平衡感覚の異常を防止できるはずだ。血液の上下動は、念動で押さえられるが、感覚は、完全には防ぎようがないのだ。
『ゼロ』からシェルを降ろし、機体をイフクロークに収納する。イフちゃんが、重大情報を教えてくれた。
『ゴロタよ。気を付けるのじゃ。あやつは、まだ生きておるぞ。と言うか、全くの無傷じゃ。シールドが無尽蔵に出てきたぞ。』
まあ、あれ位で死んでしまってはつまらない。あの『ゼロ』を追尾したファイアボール。速度といい、威力といい、魔導師として1級品だ。物理攻撃が聞かないとなると、魔法攻撃が効果があるかもしれない。
兎に角、このまま部隊で攻めても全滅の恐れがあるのだ。不用意に、近付けない。
ゴロタは、作戦を変えた。高高度からの空爆だ。『タイタニック号』を出現させる。それから250キロ爆弾を8発、イフクロークから取り出す。主翼下と胴体下の爆弾用ラックに全て取り付ける。爆撃手はシェルだ。キト伯爵とベルリちゃん、それに防衛軍司令官や幕僚も一緒に乗り込んできた。
高度5000mで、砦上空に到着する。最初は、西進しながら主翼下の4発を投下する。その直後、アラームが機内に鳴り響いた。火球が撃たれたようだ。しかし、高度1000m位で失速してしまう。『タイタニック号』まで届かない。
右旋回して、今度は南進して胴体下の4発を投下する。目視でだが、砦は壊滅したようだ。
だが首魁のダヤムは無事なようだ。イフちゃんが偵察中だった。
一度、イフちゃんが『煉獄の業火』で攻撃を仕掛けたが、シールドを貼るのが早くてダメージを与えられなかったらしい。
現在、ダヤムはわずかな部下とともに、アジトの洞窟の奥深くに避難しているそうだ。ゴロタは、皆を、前進基地に降ろしてから、シェルとともにアジトに『転移』した。
火薬の燃えた匂いが立ち込めている。殆どの構造物は瓦礫と化していて、至るところに敵の死骸があった。洞窟の奥は、暗くて何も見えない。きっと、途中で曲がっているのだろう。
ゴロタは、『暗視』スキルがあるから、平気だが、シェルは、そうは行かない。と言って『ライティング』を使えば、敵に気づかれる。シェルには、洞窟の入り口の警戒をお願いした。生き残りが、戻ってくる可能性があるからだ。
ゴロタは、気配を消して洞窟の中へと進む。中の方から人の気配がする。
300mくらい先から、明かりが漏れている。いた!奴らだ。物陰から、様子を伺う。
「ボス、あの奇妙な鳥は何ですかね?」
「分からん。しかし、あの程度の爆裂弾では、俺を倒すことは不可能だ。その前の、あの鉛の粒が飛んでくるのは危なかった。シールドの補充が無ければ、やられていたぞ。」
「防衛軍は、あの武器をいつ手に入れたんですかね?」
「いや、違うな。最近、漂流者が州都に来たらしい。そいつの武器だろう。西の大陸のことは、分からないからな。」
「しかし、さすがにここまでは攻撃できないようですぜ。後は、ボスのファイアボムの餌食ですぜ。」
うん、これで彼らの措置が決まったが、一気に殲滅するのはやめた。お宝の埋蔵場所を聞くことにしよう。
ゴロタは、気配を消すのをやめた。物陰から姿を表す。ダヤム達は、一斉に身構える。ダヤムが無詠唱で、小さなファイヤーボールを撃ってきた。ゴロタは、何もしないが、『蒼き盾』が完全に防いだ。
ファイヤボールの輻射熱が彼等を襲うが、ダヤムのシールドが防いでいる。手下どもが剣を抜いて襲いかかるが、ウザいので『威嚇』を思いっきりかけてやる。部下達が、その場でへたり込んで失禁している。
ダヤムは、赤いシールドが防いでいる。精神攻撃も防ぐようだ。このシールドは、通常の魔法ではありえない防御力だ。きっと魔道具か何かの効果だろう。
ダヤムは、剣を抜いた。物理攻撃が有効と思ったのだろう。自分に対する攻撃が無効なら怖いもの無しだ。しかし、当然、『青き盾』がはじき返す。
ゴロタは、『紅き剣』を出現させる。全てを打ち砕く剣だ。ゴロタは、ダヤムの右肩に『紅き剣』を突き刺す。背中の肩甲骨ごと貫いてしまう。
ダヤムは、持っていた剣を落としてしまう。次に、ダヤムの右膝を切断する。ダヤムは、なす術もなくその場に倒れ込んでしまった。
戦いは、終わってしまった。
ゴロタは、タダ働きはしません❗