第361話 新大陸の大きな街はデンジャラス
州都は、グレーテル王国の領都と同等な筈ですが、余り治安は良くありません。
(6月18日です。)
州都のエビル市に到着した。ここは州知事のキト伯爵のお屋敷があるが、市長は別にいて、実際の市政はバユタン市長が行なっている。ゴロタ達は、まずキティちゃんの叔母さんの家を探す事にした。
キティちゃんは、お兄ちゃんが持っていた古い手紙を出してきた。文字が擦れているが、差出人の住所、氏名ははっきり読み取ることができた。
その住所地に行ってみた。そこは、いわゆる娼館だった。店の中に入って、叔母さんの名前の人を尋ねたが、誰も知らなかった。
きっと、その叔母さんは、この娼館の娼婦だったのだろう。手紙の内容も、母親の葬儀に出れない事のお詫びだけだった。
ラチがあかないので、市役所に行って住民登録を調べてもらう事にした。親族にしか、教えられないと言うので、キティちゃんが姪だと言って調べて貰った。
叔母さんの名前の女性は、4年前に死んでいる事が分かった。この手紙を書いてから、直ぐ死んだのだろう。キティちゃんは途方に暮れていた。頼りの叔母さんが死んでいたのでは無理も無い。
シェルが、これから、どうするか聞いた。本人は分からないと言ってきた。
シタさんの孤児院に戻ろうかと言ったら、それは嫌だと言う。もう、みんなとお別れをしてきて、もう帰りたく無いと言うのだ。
じゃあ、タイタン市の孤児院に行くかと聞くと、お兄ちゃんと一緒がいいと言う。
もう、完全に『お兄ちゃん』だった。諦めたゴロタは、取り敢えず一緒に旅を続ける事にした。
エビル市には、冒険者組合州都本部があった。中に入ってみると、冒険者で一杯だった。ここでは、冒険者登録ができるが、能力測定器が無く、本人の申告と簡単な実技により登録できるようだ。
ゴロタとシェルは、当然仮登録から本登録への切り替えを申請する。今日は、登録認定試験が無いので、受付だけだった。試験は2日後の午前だ。仕方が無い。
シェルのミニスカート姿が珍しいのか、シェル達を見ていた冒険者達のうち、ガラの悪そうな2人が近づいてきた。猫撫で声で話しかけてくる。
「お嬢さん、冒険者登録するんかい?おいら達と一緒に魔物を狩って、実績を積んどいた方がいいんじゃね!」
喋り方が変だ。と言うか、無理して、優しい言い方をしようとしている。
シェルは無視して、ゴロタ達に外に出ようと促す。キティちゃんは、怖がっている。きっと、フロッグタウンでの嫌な記憶が蘇ったのだろう。
男の一人が、地声で、
「無視すんじゃねえ。このアマ。こっちへ来い。」
シェルの肩を後ろから掴もうとする。その瞬間、シェルが消えた。ように見えた。シェルは、右下にしゃがみ込み、男の足を払った。
綺麗に、一回転した男は、顔面から床に倒れ込んで、伸びてしまった。もう一人の男には、ハイキックだ。あ、それはやめた方が。遅かった。皆に、白と水色の縞々パンツを見られてしまった。
「ふん!」
床に倒れて、泡を吹いている2人を残して組合を出て行った。後ろから、歓声が上がっている。
「すげー!」
「何者だ、あいつら?」
「パンツ、バッチリ見た!」
最後のは、聞かなかった事にしよう。シェルの顔が真っ赤だった。
町の中心のホテルに行く。3階建ての立派なホテルだ。ドアマンが、ドアを開けてくれる。チップは、大銅貨1枚だ。フロントに行くと、長身の男が受付をしている。
「いらっしゃいませ。『ホテル・ド・アテナ・エビル』にようこそ。」
名前は立派だが、長い。スイートルームを予約したいと言ったら、銀貨25枚だと言ってきたが、グレーテル王国の金貨1枚を出した。ホテルは、両替所も併設されており、そこで鑑定されたところ、金の含有量の差で、銀貨2枚程増えたが、それは手数料に充てた。
結局、スイートルームを予約でき、今日はのんびりとする。夕食は、ホテルのグリルで取った。シェルは、山葡萄ワインをボトルで注文していたが、嫌な予感がした。
予感は的中した。酔ったシェルを抱えて部屋に戻り、大きなベッドに放り投げる。スカートがめくれてパンツが見えていたが、構わず毛布をかけてやった。
キティちゃんをお風呂に入れてあげる。脇を洗っていると、くすぐったがる。頭と背中を洗って上げて、後は、自分で洗うように言うと、『前も洗って頂戴。』と言ってきた。お兄ちゃんは、全部洗ってくれたと言うのだ。
目付きに危険を感じたゴロタは、笑って誤魔化して、お風呂を出る事にした。
ベッドでは、キティちゃんと2人で一緒に寝たが、『お兄ちゃん』と寝言を言っている。そのお兄ちゃんって、本当のお兄ちゃんのことだよね。キティちゃん?
次の日、シェルとシルフは、市内の散策アンド買い物に行くそうだ。ゴロタとキティちゃんは、近くのダンジョンに潜る事にした。州都の近くのダンジョンだ。ダンジョン前は、武器屋、道具屋、弁当屋それにエッチな店が一杯だった。
ダンジョンで死ぬ思いをして生き延びてくると、性欲が昂進するらしい。ダンジョン受付で、銀貨1枚を支払う。さあ、今日はキティちゃんのレベルでも上げてみようか。
キティちゃんは、そんなつもりはない。ポーターのつもりだ。キティちゃんには、プラスティック製の『MP5』を渡している。今日の朝、シルフから渡された物だ。直径6ミリのプラスチック製球形弾を空気の力で飛ばすそうだ。軽く10m以上先の杉板を打ち抜く威力だ。人に当たっても死ぬことはないが、間違いなくあざになるだろう。取り敢えず100発を弾倉に入れておく。
1階層は、いつものゴブリンだった。『威圧』で、動きを止め、キティちゃんに打たせる。カタカタカタと音を立てて、球が飛んでいく。ゴブリンが痛がっている。ゴロタが、心臓を止めた。
キティちゃんの身体が、薄く光る。うん、初めてのレベルアップだろう。後は、同じ事の繰り返しだ。
3階層まで行ったら、キティちゃんの動きが見違えるように良くなっている。それに、玩具とは言え『MP5』の着弾率が良くなってきている。魔物も、当たるのは嫌みたいで、腕で顔を隠したりしている。
お昼は、地上に出てダンジョン入り口のレストランに入る。ウエイトレスは、超ミニスカで、シャツもピッタリしている。絶対この店は、子供が来ちゃいけない店だ。
でも、キティちゃんは何にも気にせずに、オムライスを食べている。キティちゃんの好きな食べ物は、1位が『オムライス』、2位が『ハンバーク』で、3位が『パンとミルク』だそうだ。
フワフワのパンに甘いミルクをたっぷり付けて食べると幸せになるそうだ。幼い時の食事って大切だなと思うゴロタだった。
3階層から、魔石を回収しているが、オーガクラスだと、せいぜい銀貨2〜3枚位だ。しかし、あまり強力な魔物ではキティちゃんが危ない。午後は、3階層を虱潰しに歩き回る。その間、現れたオーガやゴブリンソルジャーを倒していくのだが、キティちゃん、魔物の目だけ狙うのはやめましょうね。痛がっているし、目が潰れて大暴れしちゃうから。
計測機が無いから、はっきりした事は分からないが、かなりの確立で『射撃』スキルが発動している。撃っている時、プラスチック製の『MP5』が、青く光っているのだ。こんな小さな子がスキル発動なんてあり得ないのだが、まあ、ゴロタのパーティーだからって事にしておこう。
午後3時には、街に戻っていた。シェル達とは、角のフルーツ屋で待ち合わせだ。カノタフルーツパーラーと言う名前だ。ここでは特別のメロンが売っているらしい。1個で銀貨2枚半もする。
ゴロタとキティちゃんが、半分ずつ食べる事にした。美味しい。キティちゃんが、こんなに美味しい物を食べたのは初めてだと言う。
『パンとミルク』とどっちが好きか尋ねると、真剣に悩んでいた。可笑しい。ゴロタは、ニコニコ笑いながら、このメロンを10個、まとめ買いしておいた。ドミノちゃん達に食べさせようと思ったのだ。
店で待ってると、シェル達が入って来た。どこかの店のポーターに荷物を持たせている。チップを渡して、帰って貰ったが、一体どうやったらこれだけ買い物ができるのか不思議だ。
シェルが言うには、デザインで悩み色で悩み、最後には諦めて両方とも買うそうだ。あ、買うのを諦めると言う選択肢は無いんですね?
シェルもメロンを食べてから、ホテルに戻ろうとしたら、2頭立ての馬車が物凄い勢いで走ってくる。御者席に御者が座っていない。きっと、落ちてしまったのだろう。このままでは大勢のけが人が出てしまう。
ゴロタは、『念動』で、馬もろとも浮かしてしまい、馬の背中に飛び乗って、首筋をポンポンした。落ち着いたようなので、そっと地面に下ろしてあげる、何に怯えたのか分からないが、もう大丈夫と言う思念を放射した。
馬車から貴族服を着た老人が出て来た。片眼鏡をしている。続いて、真っ赤なドレスを着た女の子が出てきた。10歳位だろうか。シェルが、キッと睨んでいる。明らかに、この女の子の方が胸があった。
老人は、この州の統治官だそうだ。名前をフレミンク・ブレイブ・キト伯爵と言う。娘さん、いや、お孫さんだろう。女の子の名前はベリルと名乗ってくれた。シェルが全員を紹介する。その辺は、シェルの独壇場だった。
ゴロタ達のことは知っているみたいだった。漂流者がこの街に来るなんて、数年ぶりだそうだ。しかも裕福で、マングローブ語も堪能で、一体どこの貴族だろうかと噂になっているのだ。
遠い西の大陸から旅行で来たと言うと、お国のことを聞きたいからと、夕食に招待された。断わる理由もないので、当然にお受けした。
問題は、キティちゃんが、テーブルマナーを全く知らないことだった。このままだと絶対に大きな失敗をしてしまう。そんな危険をはらんだ夕食会になるのだった。
相変わらず冷徹チートなゴロタでした。