第359話 シタさんの故郷
シタさんとキティちゃん、旅の仲間になるのはどちらでしょうか?
(6月8日です。)
夕食後、ホテルの部屋でお茶を飲んでいたら、フロントからお客さんが見えていると言う。フロントに降りてみると、キティちゃんだった。
キティちゃんが、州都までつれていって貰いたいそうだ。州都には、母方の叔母さんがいるらしい。両親が死んで、お兄ちゃんとお金を貯めてから行こうと約束していたらしい。そのお願いに来たのだ。
うん、それ位なら訳もないが、シタさんの同意も貰わなければならない。未だシタさんには話していないそうだ。
さっきから、キティちゃんのお腹がグーグー鳴いている。町外れの孤児院からここまで、子供の足では1時間以上掛かる。早くお願いに来なければと、夕食前に孤児院を出て来たらしい。
ゴロタは、笑いながらレストランに連れていった。キティちゃんは、初めてのレストランに緊張している。洋服も継ぎの当たった貧しい物だ。こんな立派な所に、入って良いのかと不安になっているらしい。
何が食べたいか聞いたら、パンとミルクが良いと言う。遠慮している訳では無いようだ。料理を知らないのだ。そう言えば、ダンジョンでも小さなパンを千切って食べていた。
ゴロタは、お子様ランチを注文した。ドリンクは、オレンジジュースだ。デザートにプリンも注文しておいた。
料理が来た。キティちゃんは、遠慮して手を付けない。『食べて良いんだよ。』と言うと、
「自分だけ、こんなご馳走は食べちゃいけない。しゅがお許しにならないの。皆に分け与えよとしゅが言われたの。」
と言うのだ。『しゅ』が何か分からないが、では、明日、皆にお昼をご馳走するからと言ったら、漸く食べ始めた。最初は、見るもの、食べるものが初めてばかりで興奮していたが、プリンを食べる頃には、半分眠り掛かっていた。緊張がほぐれたのと、疲れからだろう。
レストランのマスターに、『明日12時にこのレストランを貸切にしたい。』と言ったら、最初難色を示した。お子さまランチでは大して売り上げにならないからだろう。食事代の他に、会場借り上げ費として大銀貨1枚を渡したら、掌を返したように快く了解してもらった。
翌日、また孤児院に行って、シタさんに事情を話したら、既に聞いていたらしく、『宜しくお願いします。』と言われた。
それから、お昼までの時間に、シタさんと一緒に故郷の両親のところへ向かうことにした。シタさんの故郷が何処にあるか知らないので、最初、フーガ公国の首都ノア市郊外に転移した。シタさんの故郷セビル公国は、ここから西にあるそうだ。
ここからは飛行艇だ。しかし『ゼロ』は、二人乗りなので、『タイタニック』号を取り出す。
シタさんは、流石に、これには吃驚したようだが、銀色の美しい機体に見惚れていた。シルフは、暇が有ればチョコチョコと改造しているみたいで、凹凸のない光り輝く機体には、周囲の景色が映り込んでいる。
車輪は、馬車用ではなく、黒いゴム製の車輪だ。空気バネにより伸縮する。完全に車体に格納できるようになっていて、格納後は、蓋で覆うようだ。ドア及び窓は、表面に段差がない。空気抵抗を考えて作られている。
ドアが自動で開くと、ドアの下から階段が出てきて地上から乗り込める。格納している時は、全く分からなかった。
操縦席も、なだらかな曲線の一部になっている。翼は、機体上面から緩やかなカーブで繋がれていた。主翼上面に小さな皺が入っているが、これも空気の整流を考えて作っているそうだ。翼の根本に、左右2基のジェット推進機が搭載されている。既に機体チェックは終わっていた。
4人で乗り込んだ。操縦はシルフに任せている。既に、シタさんの話から、故郷のシンカ村の位置は、ある程度分かっているみたいだ。
ジェット推進機から下向きに噴射が始まった。魔力が無くても、垂直に上昇できるようだ。上空500mで、水平飛行に移る。
ゴロタは、キャビンの豪華な革張りシートに座っている。椅子を変えれば最大40人が乗れるが、今は贅沢に8人分のシートが左右に4列並んでいるだけだ。
シェルは、ゴロタと席が離れるのが不満らしいが無視する。フライト・アテンダントのゴーレムがお茶とケーキをサービスしてくれた。美味しい。このゴーレムは、1m位の大きさで、やはりシェルそっくりだった。6歳位のシェルだ。
ゆっくり巡航したため1時間弱で目的地に到着した。森の中の村のため、着陸適地が見つからない。しょうがないので、10キロ位先の草原まで移動して着陸だ。シルフが、外で警戒する。
ゴロタ達3人は、村まで転移した。シンカ村は、小さな村だった。周囲の森の恵みも、村の人口を増やす程では無かった。シタさんは、村を出て働きに行っていたが、ゴーダー共和国で条件の良い働き口があったので、2年の約束で、渡航しようとしていたらしい。
シタさんは、村に到着してから泣きっぱなしだった。帰ってくることはない村、夢にも出て来なくなった村だ。最初ゆっくり歩いていたが、我慢できずに走り始めた。長いシスター服のスカートが邪魔なのか、端を持ち上げて走っている。
ゴロタとシェルは、村長の家に挨拶に行く。不審者と間違えられないためだ。
村長は、シェルのことを知っていた。つい最近まで、大公国で騎士をしていたらしい。臣下の礼で挨拶してくれた。シタさんを連れて来たと言ったら、吃驚するやら驚くやら。
『こんな目出度い事は無い。今夜は宴会だ。』
と言っている。何も楽しみのない田舎の村は、何かあるとすぐ宴会だ。でも、長居は出来ない。お昼には戻って、子供達をレストランに連れて行かなければならないのだ。
ゴロタ達は、シタの家に行って、ご両親に挨拶する。さすがに、ご両親はそれなりの年齢に見える。積もる話もあるだろうからと、暫く滞在するように言ったら、子供達が心配だから自分も戻ると言うのだ。
取り敢えず、ご両親と一緒に『タイタニック』号まで転移し、イフクロークに機体とゴーレムを収納する。
それから、全員でフロッグタウン街の孤児院まで転移した。シタさんのご両親は、転移も初めてなら、異国も初めてらしく、何故か落ち着かない様子だった。
時間なので、38人の子供達をレストランまで転移させる。皆、歓声を上げる。それからは戦争だった。レストランのウエイトレスさん達も、子供達を追いかけ回してヘトヘトになってしまった。
シタさんとご両親は別テーブルで話し込んでいる。シタさんと母親が泣きながら話し合っている。
シタさんは、もう国には戻らないそうだ。この国の宗教の教えを守り、これからの人生を生きていくそうだ。母親も、戻ってくる事は諦めたようだった。
今日は、この街に泊まる事になったので、親子3人が泊まれる部屋を取ってあげた。
食後、子供達を孤児院に戻してから、キティちゃんと一緒に買い物に行く。腰のベルトには、昨日の戦利品のミスリルナイフを指している。
まず、部屋に戻ってお風呂だ。シェルによく洗ってもらう。頭を洗ったら、気持ちの悪い虫が髪の毛の中にいたそうだ。
完全にきれいになってから、ワイちゃんの服を出してあげた。白いシャツに赤いプリーツスカートだ。少し大きい。
キティちゃんに、本当の歳を聞いたら、良く分からないそうだ。戸籍制度が未発達な国にはよくある事だ。誕生日は、4月25日だと言う事は覚えている。あの孤児院に来たのは4年前だったそうだが良く覚えていない。お兄ちゃんの後を付いてお手伝いを始めたのが2年前、お兄ちゃんが死んでから1年の歳月が経っている。
孤児院に来た時は、4歳になる前だったようだがはっきりしないそうだ。と言うことは、今、7歳の可能性がある。どおりで小さい筈だ。こんな小さい子が、ポーターなど出来るわけがない。良く生き延びてきたものだ。
街に出て、キティちゃんの洋服や下着、靴それに食器と洗面用具を買う。すべて子供用だ。7歳用よりも少し小さいサイズがピッタリだった。
子供用の剣帯を買って上げる。本格的なものでは無く、着飾り用のアクセサリーだ。この国では、7歳になると神に祝福を貰うしきたりがあり、その際、お金持ちは趣向を凝らした服装をさせるらしい。
この剣帯は、騎士セットの付属品だった。鎧や剣は玩具だったが、服と剣帯、ブーツは使えるようだったので、セットで買ってあげた。
あと、キティちゃんが赤い帽子をじっと見ていたので、買ってあげたら、凄く喜んでいた。孤児院では、一応9歳と言うことで、上級生になるらしく、欲しいものを欲しいと言えない暮らしが長かったらしい。7歳でそんな我慢が出来ることが驚きだ。
買い物の途中で、スイーツ屋さんに寄ったら、また遠慮を始めた。チョコパフェを3つ頼んで、ゴロタ達がキティちゃんを無視して食べ始めたら、我慢できなかったようで、一口食べてしまった。それからは、ひたすら食べ始めた。最後は、器を舐めそうだったので、行儀が悪いと教えてあげた。
その夜から、キティちゃんは、ゴロタ達と行動を共にすることになった。
キティちゃんは、7歳になったばかりのようです。日本の学校では、小学1年生です。