第34話 魔法勝負に勝ちました
ゴロタの一番苦手なのは、同じ年代のガキ大将です。きっと、いじめられた暗黒歴史があるのでしょうね。でも、今は王都最強となっているのですが、それはゴロタが知らないことです。
(3月21日です。)
店内のカウンターの陰に、ノエル先生が隠れていた。僕が店に飛び込んできたとき、危うくファイア・ボールを撃とうとしたが、僕と気づいて、取り消したそうだ。
「ふう、ゴロタ君か、敵は何人?」
あの子達は、敵ですか。
「男が3人、女が2人。」
「用件は、何だって?」
それは、聞かなくても分かるでしょう。心に疚しい所があるから、隠れていたんでしょ。
「この前の魔法合戦のリベンジ。」
そもそも、魔法合戦って何よ。いったい、平素何をしているんですか、ノエル先生。
「やっぱりそうか。という事は、タコ殴りに来た訳ではないのね。」
ノエル先生は、表に出て行った。僕は、とても嫌だった。ガキ大将という人種も嫌いだったが、人間同士の勝負があまり好きではない。剣の稽古では、そんなことは感じないが、他のことでは完全平和主義だった。帰ろう、黙って帰ろう。『瞬動』を使って、脇をすり抜けて、後は全速力で帰ろう。
そう考えていたら、ノエル先生とガキ大将達が店の中に入ってきた。僕は、じっと下を見て、やり過ごそうとしていたが、ノエル先生に声を掛けられた。
「ゴロタ君も、こっちへ来て。」
やはり、このまま帰してはくれませんか。僕は、行動が遅かったことを反省した。しかし、もう遅い。黙って、皆の後を付いて行った。裏の修練場に出た。ここは、ある程度の広さがあり、魔法の練習に使用する場所だ。ここで、魔法比べをするみたいだ。試合方法は、耐魔法人形を使って、魔法レベルを競おうというものである。
魔法レベルとは、魔法の等級ではなく、魔法の威力のことである。初級魔法でも、術者によっては破壊力抜群のこともあるし、中級魔法でも、たいしたことない場合もある。今回は、そのレベル比べをしようと言うのだ。
耐魔法人形は、土から錬成されて、魔法を付与されたもので、受けた魔法のレベルによって、体表の色が変化するというもの。最も強力な魔法を受けると、色は真紅になるらしい。ノエルさんも、真紅になった耐魔法人形は見たことが無いらしい。ちなみに、ノエルさんは、レベル7が最高だと言っていた。
僕は、耐魔法人形をセットする役である。耐魔法人形が魔法を受けて色が変わっても、治癒魔法『ヒール』を掛けると初期リセットされるらしい。僕は、そのリセット役と言うわけだ。皆から、約30m先のところに、耐魔法人形をセットする。僕が下がって退避すると、試合の始まりだ。
最初は、痩せた男の子
「ファイヤー・ボール」
ズゴーン
僕が、比較色カードを持って、測定しに行く。レベル4だった。僕は、指4本を立てて、皆に教える。
次は、ノエル先生の番だ。
「ファイヤー・ボール」
ズゴーン
痩せた男の子と全く同じだった。どうやら、魔力を節約しているみたいだ。さすがです。
次は、茶髪の女の子
「アイス・ランス」
ズビューン ドゴッ
測定結果は、レベル5だった。続いてノエル先生の番。
「ファイヤー・ボール」
ズゴゴーン
同じく、レベル5。この後に続く男の2人に対しても、その子達と全く同じレベルを出した。それだけでもノエル先生の実力が分かる。
ついにガキ大将の番である。「フン。」と小馬鹿にしたような笑いを浮かべ、所定場所に立った。ワンダを耐魔法人形に向けると、詠唱を始めた。身体が青白く輝き始める。
「大いなる天の主よ、その力を示せ。それ、渦巻く雲を席捲し、暗き闇より迸る。大気を震わす轟音とすべてを焼き尽くす神の怒り、貫き雷鳴せよ。サンダーボルト・ビーム」
すさまじい音とともに、電撃が耐魔法人形を襲う。
ゴロゴロ バガーーーーーン
耐魔法人形が黒煙に包まれた後、姿を現わすと、鮮やかなピンク色だった。計測すると、レベル8だった。僕は、8本の指を立てて、皆に見せた。
さも得意げなガキ大将、がっくり肩を落とすノエル。
「俺の勝ちだな。もう、これからは、魔法学院に近づくなよ。」
一体、何があったんですか?ノエル先生。
「勝負は未だよ。ゴロタ君、やっつけて、お願い。」
え、僕ですか?いや、無理でしょう。こんな平和博愛主義の僕が、魔法勝負なんて。と、思ったが、拒否することなどできる状況ではないようだった。
使う魔法は、そうだ、あれにしよう。前に使ったときは、ほとんど魔力を流さなかったから、威力も分からなかったし。あの人形相手なら、思いっきりやっても大丈夫そうだし。
僕は、所定の位置に着くと、『ベルの剣』を抜いた。剣を人形に向けて、『ブツブツ』と詠唱を始めた。本当は、詠唱なんか必要ないのだが、何か、恰好良いから詠唱している振りをする。
段々、剣が光ってくる。青白く、青白く、大きく、大きく。僕は、どんどん魔力が剣に流れていくのを感じていた。この剣は、どれくらい魔力を蓄えられるのだろう。そんなことを考えながら、魔力を流し込んでいると、
「ゴロタ君、街を消す気!」
その声が合図になった。
「サンダー・ストーム!」
ガラガラ、ズゴーン!、ドガドガ、バーン!
かなり複合した音がしたと思ったら、辺り一面、まばゆい光に包まれた。その後、大爆音がして、僕以外のすべての人と物が吹き飛ばされた。
後には、大きな穴が開いており、穴の中には、真っ赤に溶けたマグマがグツグツと煮えていた。僕は、煙が収まってから、辺りを見渡した。後ろの方には、ノエル先生と5人が壁に打ち付けられて気を失っていた。周りの家は、壁が黒焦げになり、窓ガラスはすべて割れていた。ノエル先生の店も、裏口を中心にひどく壊れていた。
僕は、ノエル先生達に『ヒール』を掛けた。意識を取り戻したノエル先生と子供達は、泣き出してしまった。ノエル先生は、校長先生に、子供達は親に怒られるに決まっている。異様な雰囲気を感じた僕は、外に出てみて驚いた。店が騎士団に囲まれていたのだ。騎馬隊と歩兵隊2個連隊が、ノエルさんの店を囲んでいた。
僕が店を出ると、隊員達に緊張が走ったが、出てきたのがエーデル第2王女の婚約者である僕だと判明して、皆、ホッとしていた。謎の大魔法の爆発、国家的危機だと言われてもおかしくないレベルだったのだ。
「構え、解け。」
部隊指揮は、スターバ団長閣下だった。スターバ団長閣下も緊張から解放されたような顔で、
「これは、ゴロタ子爵閣下。如何なされたかな。」
ああ、そういえば、僕は名誉子爵だったことを思い出した。しかし、説明しろと言われても、できる訳がない。その時、ノエル先生が店から出てきた。顔を煤だらけにして。
説明は、ノエル先生に任せて、僕は帰ることにした。あとで、ノエル先生に聞いたのだが、周りの家の被害弁償に、ノエル先生の店、僕、子供たちの家で等分に負担することになり、1軒あたり、大銀貨3枚を支払うことになったそうだ。
当然、僕はシェルさんに叱られた。しかし、叱っている最中に、シェルさんの顔がニヤ付いていたのを僕は知らない。シェルさんは、自慢げだった。何たって、あれだけの魔法を使えるのは、王都広しといえども他にいないだろうから。
次の日、魔法セミナーに行ったら驚いた。店の前に行列ができていた。裏庭のマグマ溜まりを見せているのだそうだ。1回、大銅貨2枚を取っているらしい。マグマに鉄の棒を差し込むのに、さらに大銅貨1枚を払うそうだ。
店の前には、屋台も出ていた。売っているのは、解けてツルツルになっている石。1個大銅貨1枚だ。売っている少年は、見たことないが、ノエル先生の知り合いの子だろう。
その後、宮廷魔導士長が、現場検証に来て、この魔法の種類と規模を詳しく調査することになった。どのような魔法を使えば、これだけの威力を発揮できるのか、興味を持たれたらしい。
後日、僕は宮廷魔導士長を団長とする調査団の前で、同様の魔法を放つことになった。場所は、王都の北、ダンジョンの森までの草原の真ん中付近だ。その調査団には、隠密で、国王陛下、フレデリック殿下、スターバ騎士団長も混じっていたことを僕は知らなかった。
僕は、『ベルの剣』を抜き、いつものように水平に構えた。身体の中の魔力の流れを剣に流し込む。『雷撃』をイメージしながら流し込む。魔力により、見つめていられない位に青白く光った剣を上段に構え、大して意気込まずにサンダーストームを放った。的は、500m位先の耐魔法人形だ。
雷撃が、剣から左右に広がり、少し上に上がってから、人形を直撃した。何本も何本もイナズマが周辺を雷撃し、轟音と閃光とそして、物凄い衝撃波が見ている人たちを襲った。雷撃の後には、直径300mの大穴が空き、マグマが完全に冷えるまで3日間かかったそうだ。
後日、国王陛下から、王立魔法学院高等部に通学するように勅命が下ったが、エーデル姫に頼み込んで、何とか勘弁して貰った。学院では、絶対に同年齢の子達が一杯いて、きっと皆は楽しい学園生活を送っているんだろうが、自分がその中に混じっているシーンは、どうしてもイメージ出来ない。
きっと、お昼は、屋上かトイレで一人っきりでお弁当を食べるだろうし、帰りには、靴箱に入れた筈の外履靴を隠され裸足で帰るようになるかも知れない。
その内、学園祭で、ステージの上で皆に馬鹿にされたことで我を忘れ、全ての窓と扉を封印してから、皆を火だるまにするかも知れないし。絶対に、行きたくなかった。
サンダー・ストームは、初級魔法のうちでも上位の方ですが、やはり初級レベルです。初級でこれですから、テンペスト級の魔法を使ったら、どうなるのでしょうか。
なお、ゴロタ達が弁償した金額は、一人30万円、全員で約200万円でした。ちょっと、安過ぎましたかね。