第355話 ザコ魔物も討伐します。
魔物をやっつけるのは、誰でも経験することですが、ゴロタは雑魚は相手にしません。『威嚇』で、追い散らします。
(6月2日です。)
森に入って、暫くしても魔物が出てこない。当然だ。ゴロタから感ずるオーラが、低級レベルの魔物を怖がらせているからだ。
イフちゃんの偵察結果では、この森の魔物は、『D』ランク程度の魔物ばかりらしい。
イフちゃんに、逃げる魔物達を、こちらに追い立てるようにお願いした。ようやく1匹の魔物が姿を表した。猪のような身体だが、牙が大きく、口を開けると、肩まで裂けている。ハッキリ言ってキモい。
村人達の先頭2名が弓を撃つ。キチンと肩に食い込んでいるが、少しも痛がらない。
そいつが、先頭の若者に向かって突進してきた。しかし、森の樹が邪魔をしてスピードが上がらないが、避けようとしている若者も樹が邪魔をして思うように逃げられない。
ゴロタは、手前の樹ごと猪を切り裂いた。皆は、猪を切り裂いたことより、その手前の太さ1mもある樹を一刀両断で切り裂いたことに驚いていた。
村人達が、猪に群がり、血抜きをして、運ぼうとしたが、巨体過ぎて運べない。ゴロタは、頭を切り落とし、腸を抜いて、身体も縦半分にして上げた。
魔石は拳よりも大きいものだったが、それも村人に渡して上げた。村人は、遠慮していたが、無理矢理押し付けて渡した。
イフちゃんに、森で最大の魔物を探させた。1キロ位奥に、熊よりも大きい魔物がいると言う。イフちゃんも知らない魔物らしい。
イフちゃんが、こちらに追い立てている。近づいてきたのが、木々をへし折る音で分かった。
でかい。四つ足で歩いていても、肩の高さが3mもある。ライオンのような身体だが、顔が毛の生えたワニだった。ゴロタ達を見つけると、後ろ足で立ち上がった。まるで熊のようだ。村人達は、逃げ出そうとしていた。
ゴロタは、魔物の顔の高さまで飛び上がり、長い口を切断した。悶絶して転げ回る魔物。周りの木々が倒れていく。
その木の間を縫って、魔物の両足を膝から切断する。もう動けなくなっているが、念のため、手首も切り落とす。辺りは血の海だ。村人達が群がりトドメを刺している。
村人の話では、この魔物はゴンタワニと言う森の主らしい。もう何人もの村人が犠牲になっていると言っていた。
この魔物の胆嚢は薬になるらしく、また毛皮も高価で取引されているらしい。魔石は、赤ん坊の頭ぐらいあった。
村人達が、ゴンタワニを処理している間に、ゴロタは森の中の大形魔物を一人で殲滅していった。元の場所に戻ったら、まだ処理中だった。
皮がなかなか剥がれないらしい。ゴロタが、ミスリル銀製の肉捌きナイフでサクッと皮を剥いで上げた。
村に戻ったら、まだ10時前だった。シェルも、病人のケアはがやっと終わった頃だった。必要な薬も大量に持っていたし、シェルの『治癒』スキルで、かなり回復していたようだ。
村長から、お礼に金貨1枚を貰った。見たことのない金貨だったが、グレーテル王国金貨と重さが余り変わらなかった。
シルフが、
『これは昨日泊めていただいたお礼ですから要らない。』
と断ったが、村長が、
『今度行商が来てこの品々を売ったら、この十倍以上の値段で売れるので、是非受け取って貰いたい。』
と言っていたので、遠慮せずに貰うことにした。
魔物征伐で、怪我人が皆無だった事はなかったらしく、今日は祝宴をしたいから、是非、もう一泊してくれと言ってきたが、先を急ぐからと丁重に断った。
村長の家で、昼食をご馳走になってから、隣町に向かう夫婦連れと一緒に村を出発した。若い夫婦だった。隣町には奥さんの両親がいるので、里帰りらしい。と言うか、妊娠しているので、町で産むことにしているらしい。それほどお腹が大きくないので、妊娠初期と思われる。
旦那さんはデトロイさんと言い、奥さんはキャスさんと言うそうだ。奥さんのお腹のこともあり、余り早く歩けないし、休み休みだったので、その距離が進まないうちに、夕方になってしまった。
夜営地は、大きな木の下にした。テントを張って、マットを敷き、毛布を2枚出した。いつもだったら、キャンプセットを出して、お風呂を作るのだが、今日は、一切無しだ。簡易コンロで、鍋にお湯を沸かす。
久しぶりに、干し肉スープと黒パンセットだ。デトロイさん達も同様だった。徒歩だと、食材と水も背負って歩かなければならないので、食材も制限があるのだ。とは言っても、食後のお茶だけは必ず持って歩く。軽金属製のティーポットでお茶を沸かす。デトロイさん達にも分けて上げた。この地方は暑いので、お茶が生育しないみたいだ。
食後、デトロイさんが、ゴロタの国について聞いてきた。ここと余り変わらないとシルフが答えていたが、この国の事がよく分からないので、比較しようがない。
この国には、貴族制度がないが、県知事になるのは世襲制で、知事は領地も持っている。また、県知事を処罰できるのも国王だけと言うので、貴族と同じ扱いだ。
フレナ村は、年貢・税金が年に4割だ。国に1割、県に3割だが、学校維持費に1割を徴収されるので、収穫の半分は持っていかれる。かなり重税と言える。だが、年2回の収穫があるので、2回目は国の年貢だけなので、何とか生活できるようだ。それでも、今回の魔物退治のような臨時収入がなければ、生活はできないレベルらしい。
どこの国も、似たような状況だ。いつだって犠牲になるのは、農民などの一番弱い立場の者だ。デトロイさんは、村の鍛冶屋で、隣町で、修行をしている時に、奥さんのキャスさんと知り合ったらしい。
デトロイさんは、シェルとシルフがそっくりな事について、姉妹かと聞いていたが、曖昧に答えていた。と言うか、シルフだけが喋っている事について不思議そうにしていた。
これ以上、話しているとボロが出るので、もう眠ることにした。テントに入ってから、シェルがお風呂に入れないと我慢できないと我儘を言ってきた。昔は、洗濯石だけで我慢していたのに、一度、快適さを味わうと、元には戻れないようだ。
これから2泊以上あるのは間違いないので、ずっと向こうに見える山の麓まで転移した。そこでお風呂を沸かして二人で入った。日中、暑かったので、お風呂がありがたい。
テントに戻ってから、ぐっすり眠ることが出来た。シルフの姿が見えない。どこに行っているのだろう。そう思っているうちに眠ってしまった。
翌朝、目が覚めると、シルフがテントに戻っていた。ゴロタとシェルに黒いリボンを渡してくれた。真ん中に、変な機械が付いている。その機械をリボンの内側に向けて首に巻くように言われた。
巻いてから、普通に話してみるように言われたので、
「おはよう。シルフ。」
と言ってみた。驚いたことに、口から出た言葉は、
「◎★◆∞♀▲△▼」
マングローブ語だった。これで、デトロイさん達と普通に会話ができる。昨日いなかったのは、タイタン離宮の作業場に戻っていたのだろう。仕組みは全く分からないが、これを作って売ったら、かなりの売り上げが見込める気がする。しかし、量産する気は無いみたいだった。
3日目の夕方、イフちゃんが、前方に10人位の武装集団がいると教えてくれた。野盗だろう。デトロイさん達に、この先で、野盗どもが待ち伏せしていると教えて上げた。デトロイさんは、慌てふためいて、どうしようと言っていたが、心配しないように言って上げた。
待ち伏せ場所まで100m位まで接近したところで、シェルが背負っていた『ヘラクレイスの弓』を構えた。勿論、矢など持っていないが、弓が青白く光って光の矢が現れた。10本の光る矢を放った。其々が、其々の目標に向かって行く。7人までが、絶命した。残りの3人が、逃げかかったが、もう次の矢が迫ってきていた。
戦いにもならない戦いが終わった。後は、何もなかったごとく、通過して旅を続けた。夕食後、先程の場所に戻り、野盗の死骸を燃やし尽くして処理しておいた。
結局、隣町のフロッグタウンに到着したのは、5日目の昼過ぎだった。町は、オープンな作りになっており、身分証明書がなくても自由に出入りが出来た。デトロイさん達と別れ、冒険者ギルドを探したが見つからない。
しょうがないので、取り合えず武器屋に入ってみる。たいした武器はなかった。店の人に、冒険者ギルドが無いのか聞くと、県都にしかないそうだ。この街では、町役場の隣に、『よろず屋』と言う店があり、冒険者ギルドの代行をしているそうだ。
町役場は、すぐに見つかった。その隣に、比較的大きな店構えの『よろず屋』と言う店があった。看板を読んだのは、シルフだったが。名前の通り、よろず相談請負所だ。家の掃除から、子供預かり、各種申請代行などの他に、冒険者窓口があった。
窓口に行ったら、若い女性が、ゴロタ達を見て、ビックリしていた。明らかに外国人らしき者、それも3人も来たことはないらしい。それでも、営業スマイルを浮かべて、
「いらっしゃいませ。フロッグタウン冒険者受付にようこそ。本日は、どのようなご用件でしょうか?」
「冒険者登録をしたいのですが。外国人でも出来ますか?」
「渡航証明書か入国許可証があれば登録できます。」
「どちらもないのですが。」
「漂流者の方ですか?それなら、州都の冒険者組合州本部に行かないと正式発行は出来ません。ここでは、申請に基づく仮登録しか出来ませんが、それでもよろしいですか?」
「はい、それで結構です。お願いします。」
「それでは、この書類に必要事項をお願いします。」
貰った書類に、必要事項を書き込むが、文字が読めない。全て、シルフが書いてくれた。1人、銀貨3枚だった。少し高い気がしたが、フレナ村の村長から貰った金貨で支払った。どうやら貨幣の種類は同じようで、大銀貨9枚と銀貨1枚をお釣りで返してくれた。
冒険依頼ボードを見るが、何が書いているか分からない。シルフが、さっきの女の子に、『私たちでも受けることが出来る依頼はないか。』と聞いたら、ダンジョン攻略なら、手数料を支払えば潜れるらしい。その辺は、向こうと変わりない。
さっそく行ってみることにした。
新大陸は、かなり遅れているようです。