第354話 新世界への旅立ち
ゴロタ帝国の独り立ちにはまだまだ時間がかかりそうです。でも、ゴロタには昔のように冒険に出たい気持ちが捨てきれません。
(6月1日です。)
戴冠式・即位の礼が終わって約1か月。帝国の形も整ってきた。新しい市町村長を決める統一地方選挙は、10月1日に実施することが布告された。また、行政改革委員会が設けられ、旧ゴーダー共和国以外の出身者30名が、全ての行政機関、直営事業及び公費支出事業の見直しを行うことにした。
国防軍は、常備軍5000人とし、タイタン州など各州に1000人ずつ派遣する。残った2000人が帝国首都セント・ゴロタ市の守備隊だ。うち500名が近衛連隊として宮城内の連隊本部に詰めることとなる。しかし、宮城が出来るのは2年後だ。それまでは、一般師団のある郊外の駐屯地で行動を共にして貰う。
州知事は、戴冠式後直ぐに任命された。貴族としての叙爵も同時に行われた。ワイマー宰相は、自分も叙爵されるものと思っていたらしく、不満たらたらだったが、まあ、あり得ないと思っているのは、ゴロタだけではなかった。
現在、バンブー・セントラル建設はフル稼働だった。各州都に行政庁庁舎及び知事宿舎を建てなければならなかったからだ。
東タイタン州と西タイタン州については、既存の施設で良かったが、ハルバラ州は去年から建設中だ。セバス州は、全くの新築となる。
また、州知事公邸は、旧領主館を修繕して使うことにしているが、西タイタン州は新築する必要があった。
また、中央フェニック州の3郡の領主館は、かなりエグい作りで、居住するには勇気がいるようだったので、完全に作り直しだった。
旧ゴーダー共和国は、一般の公務員住宅に毛の生えたような宿舎だったため、全くの新築になってしまった。
全てゴロタが出資した。州知事兼帝国貴族は、それなりの威厳と風格のある屋敷に住んで貰いたい。最終的には、莫大な収入が皇帝の元に集まることになるだろうから、惜しくはなかった。
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今日は、シェルと一緒に東の大陸に行く予定だ。シルフも同行するが、『ゼロ』は、2人乗りだ。シルフには悪いが、イフクロークに入っていて貰う。あの世界のスパコンとシルフとのリンクは切れてしまうが、思念はスパコンから送られてくるので、シルフとの会話に支障はない。
大量の燃料タンクも、イフクロークに収納しておく。エーデルを始め、皆の見送りを受けてタイタン離宮前庭を離陸した。
帰ってくるのは、1か月後か2か月後になるのか未定だ。しかし、7月末には一旦帰ってくる予定だ。クレスタの出産予定日が7月28日だからだ。
高度4000mまで上昇すると、進路を東南東へ取る。推進ジェットに火が入る。フル加速だ。音速の2.5倍まで加速する。それから2時間、レーダーに大陸の影が映って来た。ゴロタは、高度を10000mまで上げた。
下からは、機影は見えないが、ゴロタは、レーダー画像と『遠見』で、地上の様子は丸見えだ。小さな村が見える。そこから西へ10キロ位離れた所に砂浜があった。そこに着陸することにした。
着陸して、装備を飛行服から夏物の冒険者服に着替えた。この大陸は、赤道付近にあるため、6月だと言うのに、気温は30度近かった。
冒険者服は、通気性の良い麻と綿の混紡だ。色は、カーキ色だ。装備もアダマンタイト製の鎧セットを付ける。本当はいらないのだが、皇帝になってから、「形から入る』と言うことをシェルから教えて貰った。
背中には、『オロチの刃』を背負った。
シェルも、ゴロタと同様の装備だ。『ヘラクレイスの弓』を背負っている。使うときは弦など要らないが、背負うために弦を緩く張っている。髪も、後ろで丸く結っている。水色の大きなリボンを着けていて、どう見てもお出かけの格好だ。
『ゼロ』を収納して、シルフを取り出す。じっとして動かない。シルフを地面に置くと、ブルッと震えて再起動した。服装は、秋物の長袖冒険者服だ。武器は、銃身の短い機関銃だ。シルフは、『MP5』と呼んでいる。全く意味は分からなかった。
浜辺から、最初に見つけた村に向かう。深い森をかき分けて行かなければならない。昔、シェルと初めて会った時の事が思い出された。あの時は、兎に角、シェルと早く別れたかった。それが、今では夫婦として連れだって歩いている。ゴロタが、当時のことをシェルに話すと、シェルも同じことを考えていたようだ。
シェルの歩く速度に会わせていたので、村に到着するまで3時間位掛かった。途中、森の魔物と何度か遭遇したが、魔物達は、襲いかかろうともせずに、脱兎のごとく逃げていった。ゴロタが何もしていないのにだ。
村の状況を、イフちゃんに偵察させたところ、普通の村だそうだ。浜に近いので、漁村かと思ったら、農村らしい。きっと、森の魔物が浜へ行くのを邪魔しているのだろう。
3人で、村に入っていくと、子供達が物珍しそうに付いてくる。男の子は、上半身裸だが、皮膚の色が薄い褐色だ。髪の毛の色は、色々だが瞳が水色だった。どうやらゴロタ達とは、人種が違うようだ。
話す言葉も分からない。シルフが、何度か話しかけて、話す言葉を聞いていた。解析が終わったようだ。オセアニア圏の言語らしい。ゴロタとシェルの頭の中に、シルフの翻訳済みの声が響いてくる。
『なんだ、こいつら。変わった格好してるぞ。』
『色が、真っ白でやんの。変なの。』
碌な事を言っていない。しかし、子供の言うことだ。放っておく。大人達は、藁葺きと板壁で出来た家の前で立っているだけだ。男達は、剣や槍を持っている。
集落の真ん中に、大きな家があった。教会のようでもあった。その前に、大きな杖を持った老人が立っている。頭に大きな羽飾りの付いた立派な帽子を被っている。
平素は被っていないのだろう。今、急に付けた感がありありだった。
『お前達は、何者だ。どこから来た。』
『私たちは、旅の者です。西の浜辺から来ました。』
シルフが、彼らの言葉で話している。彼らは、驚いていた。彼らの常識では、西の森は、通り抜けできない恐ろしい場所なのだろう。
『この村は、何と言う村ですか。また、この国は、何と言う国なのでしょうか?』
『この村は、フレナ村と言う村じゃ。ワシは村長のギコリッシュと言うものじゃ。この国は、マングローブ帝国で、遥か東に大きな街があって、皇帝はそこにいるらしい。』
『有難うございます。私はシルフ、こちらはゴロタとシェルです。』
『西の浜辺までどうやって来た。海の向こうには、何もないぞ。』
『大きな船で来ました。もう、船は行ってしまいました。』
『森に、魔物がいた筈だが、遭わなかったか?』
『いたようですが、隠れていたので無事でした。』
やはり、この村では、魔物の存在が驚異になっているようだった。
『この村には、宿屋は有りませんか?また、食事もしたいのですが。』
『宿屋はない。もし、泊まりたいのなら、ワシの家か、長老の家にしか客間が無いので、そこに泊まることは可能じゃ。』
『では、お願いします。』
結局、村長の家に泊まる事になった。この村には、昔から、白い肌の人間が流れ着くそうだ。きっと、漁師などが遭難して、漂着するのだろう。潮流の関係で、色々な物も浜辺に流れ着くらしい。年に数度、集団で森に入り、回収するらしい。
武器や装備品は良い金になるらしいが、売りに行くのが大変だ。隣町まで、歩いて3日かかるらしい。距離にして約100キロと言うところだ。駅馬車が無いので、誰か、道案内をお願いできないかと聞いたら、丁度、明日、村の若夫婦が隣町まで行くので、一緒にいってくれるそうだ。荷物はないのかと聞かれたので、村の外に置いてあると言った。初めての村や町に行く時に、荷物を隠しておくことはよくあるので、不思議には思われなかった。
驚いたことに、この村には学校があった。小さな規模だが、きちんとした学校だった。教師は、県の職員で、県都から赴任してきていた。
治癒院は無く、薬師が、病気全般を見ていた。必要な薬は、定期的にやって来る行商人から購入しているらしい。
この村は、決して貧しいわけではない。聞くと、作物は、年に2回採れるが、県からの税金は、1回分の収穫の3割だけで良いそうだ。この国は、良い国かも知れない。
その日の夕方、ゴロタは、一旦、村の外に出て、ベルのザックに旅に必要な物を詰め込んで帰ってきた。いかにも旅行者と言う風体だ。この国にも冒険者はいるらしいが、大きな組織はないらしい。村で、困ったことがあれば、隣町まで走っていくか、行商の馬車を待つしかないそうだ。
今、困っていることはないか聞くと、やはり南の魔物らしい。最近、増えてきたと言うか、強くなってきているらしい。魔物も、定期的に狩らないと、自然淘汰で、強力な魔物が増えてしまうのだ。
今日の宿泊のお礼に、討伐してあげようかと申し入れたら、背は大きいが、少年のような顔付きのゴロタにできるわけ無いと馬鹿にされてしまった。シルフの持っている単機関銃は、武器とは思われてないらしい。
ゴロタが、掌に小さな炎を燃やして見せて、魔法使いであることをアピールしたら、お願いされる事になった。この村には、攻撃魔法の使い手がいないそうだ。
明日、日の出と共に、村の若者たちと森に入る事になった。シェルとシルフは留守番だ。通訳は要らない。村人達と一緒に森に入って、魔物を討伐する。それだけだ。昔、コミュ障だった頃には、一言も喋らずに同じことをしていた。幸い、彼らの話すことは、シルフのお陰で理解できるので助かる。
夕食後、明日の討伐メンバーが集まった。屈強な若者達5名だった。皆、シェルとシルフの美しさに緊張しまくっていた。シルフが、何故か皆と握手をしている。絶対、からかっている。若者達の浅黒い肌が、はっきりと赤くなっているのが分かった。
シェルは、自分も行きたいと駄々をこねていたが、この村の病人、怪我人達を見てくれるようにお願いした。明日、出発する夫婦には、午後、出発して貰うようにお願いしておいた。
翌朝、午前5時、魔物討伐隊が出発した。
やはり、どこの村でも魔物の発生は困った問題のようです。