第350話 ゴロタ皇帝戴冠式前日
ゴロタは、大変、忙しいようです。
(5月2日です。)
戴冠式の前日、ゴロタは、招待した国賓、公賓を迎えにいく。皆、一旦は、タイタン州内の迎賓館、離宮別館それと高級ホテルに宿泊させる事にした。
まず、北のザイランド王国に行く。メアリー・コンダニア・ザイランド女王陛下とマロー宰相、ムンガ元帥その他重要閣僚3名が一緒だ。重要閣僚は、皆、女性だった。
女王陛下は、『皇帝になったゴロタに応援要請なんてできない。』と言っていたが、乱れた夜さえ無ければ、何時でもお手伝いしますと約束した。マロー宰相が、『条約として今の言葉を交換してくれ。』と言ってきたが、それはシルフに任せる事にした。
次は、和の国ニッポニア帝国のレイ・ワノ・ヒミコ25世皇帝陛下と重要閣僚2名だ。皆、女性で巫女さんの衣装を着ている。
ヒミコ陛下は、『こんな小国まで気にかけてくれて、有り難いことよ。』と言ったが、ゴロタが冒険者だった頃からの付き合いだし、妻達のうち2人も和の国の血を引いているのだ。無碍には出来ない。将来的には、和の国と交易を結びたいと思っている。和の国には、美味しいものも多いし、何と言っても『ヒヒイロカネ』を産出できるのだ。交易しない手はない。
次は、モンド王国だ。デリシャス・デル・モンド4世国王陛下夫妻とデリカ王女殿下。デザイア伯爵夫妻それにデビタリア辺境伯夫妻だ。デザイア伯爵は、現在、モンド王国の宰相を兼ねている。デビちゃんとの婚約予定を評価されたみたいだった。
王国軍からの随行者は、ブッシュ将軍とルーズ大尉いや今は小佐だそうだが、この2人だ。
モンド国王が、『娘のデリカを嫁にしてくれないか?』と言ってきたが、スルーした。これ以上、女の子は要りません。デリカちゃんが、見送りの家臣たちの間で、顔を真っ赤にしてこちらを見てる。不味い。とても不味い。
次は、カーマン王国だ。プリ・ド・モー・カーマン8世国王陛下夫妻とフォンデュ宰相それに外務大臣である義父のガーリック辺境伯夫妻だ。あと、ピザーラ国防長官も一緒だ。
カーマン国王には、叙勲以降、王城に寄るように言われていたが、特に用も無かったので無視していたが、ガーリック辺境伯の立場もあるだろうから、近い内に交易の事でご相談しに伺いますと言っておいた。
中央フェニック帝国は、まだセディナリック・レオ・パレス・ド・リオン5世皇帝陛下が幼少のため、代理でガダリオ宰相が名代だ。騎士団長も衛士隊長もまだ空位のため、随行員がいなかった。仕方がないので、侯爵以上の貴族も招待する事にしたのだが、セディナ皇帝の戴冠式に参列しなかった侯爵は除外した。
結局、ガダリオ宰相の他に、外相を兼ねているレニール侯爵、文化相を兼ねている女性のレモン侯爵と、その妻(夫)が随行者となって、少し体裁が良くなった。
次は、ヘンデル帝国だ。スープラカエザー・ザウツブルコ・ヘンデル皇帝陛下夫妻、プーチキン宰相夫妻、マーキン魔道士長、パトロン騎士団長夫妻も一緒だ。マーキン魔道士長の奥様は長く寝込んでいるそうだ。流石に例の皇帝陛下の娘さんは、お嫁に行ったので来ないそうだ。あと重要閣僚が5人程随行してきた。
いよいよ、グレーテル王国だ。王城に行き、アルベルト・フォン・グレーテル国王夫妻、弟のフレデリック殿下夫妻、兄のフラミンゴ皇太子殿下夫妻、それに姉2人が招待されている。随行は、ジェンキン宰相夫妻、スターバ騎士団長夫妻、それにマリンピア王国魔道士長夫妻だ。ガチンコさんやマーリング校長先生にも列席してもらう。ダッシュさんはゴロタの義父になるので、随分前から来ている。
最後は、グリーンフォレスト連合公国のペニンシュラ・シルフィード・アスコット3世とアンナシュラ夫人それとゴロタ帝国と海を挟んでいて交易船を運行しているフーガ公国のフーガ公も招待している。シェルの婆やだった人も招待だ。あと一緒に西に遠征したドナルド将軍も一緒だ。ドナルド将軍はあの後で大将に承認し、今は防衛軍の総司令官をしているそうだ。
皆をそれぞれの宿泊先に泊めた。グレーテル国王陛下一行は、ニースタウンの別荘に泊まってもらう。全ての宿泊先とタイタン州離宮本館とはゲートで繋いだので、全員が同じ宿泊先に泊まっているようなものだ。
タイタン離宮本館で、ゴロタは、シルフが書き上げた宣言書を読み直していた。格調高いのだろうが、難しい言葉が多い。それに自分のことを『朕』とは、変な言葉だ。
もう一度、作り直す事にした。言いたい事はたった一つだ。皆が、安心して暮らせる国にする。後は、何もない。シルフが、物凄い勢いで、書き直していた。
出来上がった宣言書は、紙1枚になった。内容も簡単だ。これならいいだろう。
聖ゼロス教大司教国の大聖堂にジェリー大司教を迎えに行く。枢機卿や司教など一杯付いてくる。聖歌隊も一緒だ。皆、ゴロタ市のホテルに泊まる事になっている。その前に、ゼロス教聖堂で予行練習をするらしい。ジェリーちゃん、いやジェリー大司教は例の変な帽子と杖を持ってきている。
まあ、痛くないから良いけど、『各国の元首の前で、変な事は言われたくないなあ。』と、思っていたゴロタだった。
晩餐会のために、ゴロタ市からタイタン離宮本館に戻ると大変な事になっていた。この大広間は、300名の賓客を迎えて、おもてなしできるように作ったのだが、皆、バラバラに座っている。食前酒に、和の国ニッポニア帝国で作られた芋の蒸留酒を出したのだが、あまりにも美味しかったらしく、食事がはじまる前に宴会になってしまった。
このように、世界中の王族、皇族が一堂に会するなど、かつて例のない事だった。と言うか、基本的に外国を訪問する慣例がない。この前の、中央フェニック帝国の皇帝戴冠式でも各国にモンド王国及びザイランド帝国以外の国に招待状を出したが、皆、代理か欠席だった。
グレーテル国王とヘンデル皇帝は息があったようで、『スーさん』、『アルちゃん』と呼び合っている。グレーテル国王が、この後、ハッシュ町に遊びに行こうと誘っていた。2人で何を相談しているんですか?
カーマン国王とモンド国王は、トンネルの早期完成と、平和条約の締結について、宰相らを交えて話し合っている。いや、ここでは絶対に纏まらないですから。本来なら時間をかけて協議する内容です。
ザイランド皇帝は、ヒミコ皇帝とニコニコしながら話し合っている。どうやらキモノについての話題らしい。ザイランド帝国は、羊毛と毛皮が特産で、和の国は絹織物が特産なので、今度、交易を結びたいと思っているそうだ。でも、現状では、大陸の端と端、不可能な事なのだが、ゲートを常設する事は合意済みなようだ。あのう、そのゲートって誰が作るんですか?
ガダリオ宰相は、カノッサダレスさんと談笑している。中央フェニック帝国では、獣人種によって役職及びポストが決まってしまうそうだが、何とか改善したいらしいそうだ。ヘンデル帝国の認証官制度を参考にしたいらしい。カノッサダレスさんの話を一生懸命メモメモしている。
奥さん連中は、一かたまりになって女子会真っ盛りだった。男性陣は、誰も近づかない。怖い。
今日は、王都の屋敷の使用人達も総動員だ。警備も、ジローさん達の他に衛士隊200名が周囲に張り付いている。カービン銃装備のゴーレム50体も配備している。
このカービン銃は、ゴーレム専用の小さな物だが、太古のM16と言うタイプのミニ版だ。しかし、殺傷能力は十分で4ミリの銃弾は、人間の身体を貫通してしまう。
服装も、シルフがデザインしたものだ。ヘルメットにゴーグル、迷彩戦闘服上下に編み上げブーツだ。ゴーレムに編み上げブーツが捌けるのかと思ったが、シルフとリンクしているので、人間よりも早く結べるそうだ。
晩餐会は、もう、フルコースディナーは諦めて、立食にした。ステーキなどは小さく切ってパンに挟んで出した。エビも、伊勢海老の殻に、小さく切った切り身を並べる。
突然、ピアノの演奏が始まった。アップテンポな曲で、ドミノちゃんを先頭に、『TIT48』が入場してくる。観客には、例のライトが配られる。部屋の照明が落とされ、スポットライトが舞台を照らす。今日のために、特別に作ったのだ。
リーダーのジルちゃんが、顔を真っ赤にして挨拶する。
「皆さん、今日は私たちのために、こんなに大勢来てくれてありがとうございまーす。」
いや、絶対違うから。ジルちゃん、この挨拶しか出来ないようだ。それからは、いつもの通り、歌と踊りで会場を盛り上げさせる。うん、可愛い。
次は、『イブニング娘』の番だ。超絶美少女達のオンパレードに、グレーテル国王を始め、全ての男性達の喝采を浴びている。激しい踊りこそないが、リズムの良い曲に、皆、身体が揺れ動いている。
次は、ドミノちゃんのピアノ演奏だ。驚異の天才ピアノ少女というアナウンスだ。ドミノちゃんは、ピンク色のロングドレスを着ている。頭の両側には大きな白い花の髪飾りを付けているので、角が隠れて見えない。ドミノちゃんは、緊張した顔で、ピアノの前で一礼してから、椅子に座る。高さを調節してから、天井を見て何やら呟いている。
昨日練習していた曲を弾き始めた。ショパンの『黒鍵のエチュード』と言う曲だそうだ。会場が静まり返った。まだ小学生だ。体の大きさで見ると、4年生くらいにしか見えない。それが、見事な演奏をしている。右側の黒鍵での演奏に、リズムよく左側の指がしっかりと弾かれている。強弱もあり、会場中に響き渡る。母親のデミアさんが泣いていた。
演奏が終わると物凄い拍手の嵐だった。いつまでも鳴り止まない。アンコール・コールだ。ドミノちゃんは、もう一度座って、弾き始めた。聞いたことのある曲だ。ああ、『キラキラ星』だ。教会で、小さな子達が歌っていた。でも、途中から曲が変わった。あれ、こんな曲だっけ?皆も驚いていたが、ジェリーちゃんは知っていたらしく、目で応援していた。
最後は、ミキさんの歌だった。透き通っていて、それで心の中に響く声だ。懐かしい歌ばかりのメドレーだったが、最後は、会場中で合唱になっていた。
晩餐会は、大成功だった。ミキさんとドミノちゃんのところへ観客が殺到していた。是非、我が国での講演をお願いしたいと言う依頼だった。
これで、晩餐会はお開きになった。
戴冠式、日本にはありません。神様への報告だけです。諸外国では、神から与えられるものと言う位置付けのところもあります。