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第348話 とても残念な宰相

ゴロタ帝国の要は宰相です。行政の最高責任者がしっかりしていなければ、国の運営は出来ません。

(4月29日です。)

  新憲法は、既に完成している。5月3日には、交付となるが、公布のセレモニーは宰相が上奏してきた憲法の書面の上に署名と金印を押印するだけだ。各州知事予定者には、予め示達しておく必要があるので、ゴロタが直接赴いている。


  エクレア市を含む西タイタン州知事はコリンダーツ現行政長官だ。本当は、帝国宰相になってもらいたいが、皇居宮殿が出来るまでは、ゴロタが拠点としている州の知事をお願いするつもり。それに、コリンダーツさんは侯爵に叙し、年に大金貨12枚の報酬だ。今の年収の4倍以上だ。


  ニュータイタン市を州都とする東タイタン州知事はマルタン現男爵だ。男爵の領地は、一旦返してもらうことにした。男爵は、子爵に叙し、ニュータイタン市に居を移して貰う。年に大金貨6枚の報酬だ。今までは、管轄地区はあっても、実権もなく、名誉男爵に過ぎなかったが、今度は広大な州の知事だ。年収も5倍だ。レミイさんと結婚するまで、レミイさんが受け取っていた毎月金貨1枚が男爵手当になっていただけだったのに比べると大抜擢だ。年齢が行けば、侯爵まで昇進させても良いと考えている。


  フェニック州知事は、セバス現市長だ。伯爵に叙し、年大金貨8枚の報酬だ。


  ハルバラ州は、ヘンデル皇帝に頼み込んで、ゲール准将にお願いした。将来の将軍候補として考えているので、困るというのを、それなら領土を返すと言ったら、それはもっと困ると言われ、渋々承認してもらった。当然、ヘンデル帝国軍の軍籍は返上して貰った。


  ゲール元准将は、ハルバラ州知事として伯爵に叙し、年に大金貨8枚を支給する。現在の年収の3倍以上だそうだ。


  全ての州知事には、公邸が与えられ、退官時は、業績に見合った収入を維持できる領地を無料で貸与する。


  ゴロタ帝国本国は、宰相となる予定のカノッサダレスさんの行政改革案が確定してから任命する予定だ。


  ワイマー宰相は、申し訳ないが、秋までには一旦宰相から退いて貰うつもりだ。


  功績を考慮して、それなりの役職を考えることにしよう。


------/-----------/-----------/---------


  今日は、戴冠式および国民への宣下のやり方について、宰相他各閣僚と意見交換する。カノッサダレスさんも、オブザーバーとして参加している。


  ワイマー宰相が最初に口を開く。


  「戴冠式と言っても、我国では経験のないことですし、どのように準備して良いのかわかりませんが。」


  カノッサダレスさんが、質問する。黙っていられないようだ。


  「それでは、他国の戴冠式の様子などは調べられたのでしょうか?」


  「それは、他国との折衝ですので、外交長官の担当です。」 


  「では、外交長官にお願いされましたか?」


  「いえ、陛下の御指示もありませんでしたので。特に、お願いしておりません。」


  「それでは、どのようにされるおつもりだったのですか?」


  「ですから、なにぶん、経験や記録もありませんので。」


  「場所は、もう決まっているのですよね。」


  「はい、ゼロス教の本部聖堂と聞いております。」


  「聞いている?ということは、会場の予約はしていないのですか?」


  「教会を主管しているのは、文化教育長官ですので、私の担当外でして。」


  「それも、陛下のご指示が無かったので、依頼していないのですね。」


  「はい。」


  ワイマー宰相には、『この若造が何言っているんだ。』という表情がありありだった。


  「では、会場の警備については、どうなっているのですか?」


  これには、衛士隊本部次長が答弁した。本部長は、ネチス党員で、この前処刑されていたので、空席だ。今、本部長次長をエデル少佐がやっている。


  「会場は、市街地の真ん中にあり、警備がしにくい状況です。魔法の射程から考えて聖堂から500m以内の区域をクリアゾーンとし、立ち入り禁止措置にする所存です。」


  ようやく、まともな会話になってきた。


  「それに必要な人員は、足りてますか?」


  「現在、地方の衛士隊にも招集をかけていますが、ネチス党の残党もいるので、中々思うようには集まりません。」


  「では、どうすれば良いでしょうか?」


  「はい、通常の配置は2分の1配置で警戒するのですが、式典前後8時間は、交代なしの配置にしようと考えています。」


  うーむ、酷い。ブラックだ。部隊は、ズーッと当番勤務らしい。


  「分かりました。警備の問題点は何ですか?」


  「クリアゾーン内の居住者や店舗の扱いです。現在、居住者証を発行していますが、発行事務が遅れています。」


  「なるほど。それでは、タイタン州とハルバラ州から、応援をもらいましょう。800人くらいですね。それと、クリアゾーンを3つに分けて、2方面を帝国軍に警備してもらいましょう。」


  テリウス帝国軍最高司令官代行が、既に非常事態待機をかけているので、大丈夫とのことだった。まともなのは、この二人だけみたいだった。


  「あのう、それで私達は、当日、何をすれば良いのでしょうか?」


  ワイマー宰相が聞いてきた。完全に、指示待ちだった。


  「式は、午後1時からです。国賓及び随行者の昼食はどうなっていますか?」


  「昼食と言いますと?」


  「いや、全員が集まって食事する場所は有るのですか?」


  「全員と言いますと、何名位になるのでしょうか?」


  「へ?そんなことも未だ集計していないんですか?」


  もう、完全にアウトだった。仕方がないので、タイタン市のコリンダーツ行政長官と、タイタン州の応援職員それにハルバラ州の応援職員を急遽招集して、再検討することになった。


  あと3日しか無かった。


-----/----------/----------/--------


  その日の夕方、コリンダーツさんとカノッサダレスさんの2人と共に打ち合わせをしていた。戴冠式と言っても、まず帝国には戴冠式の経験がない。今まで国王や皇帝が居なかったから当たりまえだ。


  いや、共和国の前は帝国か王国だったらしいから、あったのでは無いかと思う。戴冠式は、普通、国教の教会で行われる。この南大陸は、聖ゼロス教の大司教国がある位だ。絶対にゼロス教が国教だろう。


  コリンダーツさんが、明日、教会に行って記憶を調べることにした。それから、応援職員の勤務割と、各国からの来賓の予測及び随行人数を検討した。その後、賓客のレベル付けと宿泊ホテルを検討した。打ち合わせは、深夜まで及んだ。


  次の日から忙しかった。手分けをして、ホテルの予約やレストランの予約、ランチの準備などが始まった。


  午後、ゴロタ達は、ゼロス教聖堂へ、戴冠式の実施についてお願いしに行く。司教は、戴冠式などやったことがないと尻込みをしていたが、それは大司教がやりますと言って安心させた。


  聖堂は立派で、十分に広かったが、なにぶん古く、壊れている施設もあった。まず掃除だ。隅々まで綺麗にしなければならない。


  ワイマー宰相に掃除人夫の派遣をお願いしたら、1か月の猶予が欲しいと言ってきた。話にならないので、直接清掃業者のところへ行き、注文したら、名誉ある仕事だと言って100人の掃除人夫が作業に従事することになった。


  次に、司教と共に、教会の宝物庫を捜索した。殆どが、教会の祭事に使用される物ばかりだったが、奥の積み上げられた箱の一番下に、装飾の立派な長櫃が埃まみれであった。


  引きずり出してみると、見たこともない紋章が彫り込まれている。鍵が厳重にかけられていたが、ゴロタの『解錠』で、あっという間に開いてしまった。


  中には、分厚い資料と共に、大きな箱が出てきた。また鍵がかかっていた。


  開けてみると、探している物があった。王冠だ。それ程豪華な物ではない。


  骨組みは銅製だった。真っ青に錆びていた。何かの金属が貼られているようだが、かすれてよく分からない。帽体はビロードらしいがボロボロだ。頭頂部には、竜の飾りが付いている。細工は素晴らしいのだが、薄汚く紺色に塗られている。怪しい。ワザと汚しているみたいだ。


  ゴロタは『復元』スキルで、元の姿に戻す。


  「「「オオー!!」」」


  司教を始め、皆が感嘆の声を上げる。


  銅と思われたところは、黄金だった。骨組みの模様はミスリル銀だ。天頂部の龍は、オリハルコンと黄金のミックスだ。


  周囲には、ダイヤがはめ込まれている。残念な事に、竜の目にはポッカリと穴が開いていた。直ぐにティファさんに真っ赤なルビーを嵌め込んで貰うように依頼した。しかし、ちょうど良い大きさのルビーは一つしかないそうだ。仕方がないので、もう一方は青いサファイアにした。


  長櫃の中には、赤だったらしいマントと折れている王笏だ。宝石は外されている。『復元』スキルで、元の姿に戻したが、王笏の宝石は戻らなかった。


  ゴロタは、南の最果ての谷で拾ったダイヤの原石の中で、適当な大きさの物をイフクロークから出し、『形成』スキルで適当に大きさを合わせて嵌め込んだ。余り光らないが、ダイヤのカット方法など知らないので仕方がない。


  全てのセットが揃った。後は、本番に備えよう。それにしても、ワイマー宰相、本当に使えないクズだった。


  この国の厳しい公務員試験に合格しなければならないと聞いていたが、どうやら、あの詐欺女スーザンの言う通りなのかも知れない。コネがまかり通る世界。優秀な公務員ではなく、マニュアル通りに一生懸命働く。マニュアルにない事はしないし、できない。その頂点がワイマー宰相だ。


  そう言えば、憲法草案も、殆どがシルフの作成らしい。国の姿というものをイメージできない残念な宰相だった。

ワイマー宰相は、指示待ち、調整嫌いの典型的な駄目部下でした。

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