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第346話 魔性の女

今回は、スピンオフ作品です。まあ、全体的にスピンオフばっかりのような気がしますが(汗)

(4月10日です。)

  今日は、セント・ゴロタ市にある国立ゴルゴンゾーラ大学を視察する。この国の大学は、全て国立か県立大学だった。大学だけではない。小中学校は、市立か県立だ。高校は、県立か国立だ。国立以外の学校は、教職員の人件費が全て国庫負担されているという事だった。


  ということは、教職員は全て国家公務員ということになる。しかし、国に教員の採用、罷免及び移動等の人事権は無い。学問の自由という名目で、学校運営には口が出せないらしい。


  では、学校の監督官庁である教育庁は何をしているかというと、庁舎管理や備品購入及び教員の給与計算らしい。


  とにかく、国内一と言われる大学に行ってみる。大きな校門から学舎まで長い銀杏並木が続く。今は、秋真っ盛りで、黄色い並木が美しい。


  学舎はガランとしている。学生の姿がチラホラしているだけだ。聞けば、大学入学希望者が少ないため、定員割れの学科が多いらしい。


  教授たちは、学生が少ないため、休講にする事が多いそうだ。休講中の教授は、何をしているかというと、自宅研究で出校して来ないらしい。


  掲示板の休講案内は、読み切れないほどの紙が貼られていた。事務棟に入ってみて驚いた。広い事務室にビッシリと職員が座っている。学務部には、教授課、助教授課、講師課、研究室課、学年部、学部部、学科部もう数えるのも嫌になる。その他にも庶務部、学生部、クラブ活動部、教育総務部などがあり、絶対学生の数よりも多い。


  受付で学校案内を貰おうとしたが、誰も受付にいない。近くの女性職員に声を掛けたが、中々立ち上がってこない。少しだけ『威嚇』を使ったら、驚いたように立ち上がってこちらに来た。


  「すみません、学校案内が欲しいのですが。」


  「何に使うのですか?」


  え?『学校案内』が、学校の紹介以外の用途が有るとは知らなかった。


  「この学校に進学しようという子がおりまして。」


  「今年度分は、まだ出来ていません。」


  「ああ、そうですか。では、昨年度分は有りますか?」


  「捨てました。」


  もうダメだ。根本的に何か間違えている。行政改革の次は、学校改革だ。


  諦めて、外に出た。銀杏並木の途中に置かれているベンチに座って、ボンヤリと学生達を見ていた。一人の女の子が声を掛けてきた。


  「君、そんな所で何をしているの?」


  ここの大学の学生だろう。胸に大学のワッペンが付いているセーターを着た、銀髪の可愛い子だ。


  「学生の数を数えていた。」


  「えーっ、変なの。そんな事してどうするの?」


  「学生が少ない理由が知りたいんだ。」


  「なーんだ、そんな事か?決まっているじゃ無い。大学来ても役に立たないからよ。」


  「え?だって、大学出たら就職だって有利じゃないか。」


  「馬鹿ね。就職に学歴なんか必要ないわよ。全てコネじゃない。」


  「だって、給料だって違うでしょ。」


  「最初はね。でも、高卒だって4年経てば大卒と同じ給料だし、昇任だって年功序列よ。大学の価値なんか関係ないのよ。」


  「でも、この大学が国内で一番優秀だって。」


  「そりゃそうよ。首都に有るんだもん。中央とのコネ作りには一番よ。でも、偉いさんの子は、皆、高卒で公務員になっちゃうわ。私だって、コネさえありゃ、こんな腐れ大学来ないわよ。」


  ゴロタは、黙り込んでしまった。『こんな腐れ大学』と言われるようじゃあ終わりだ。競争のない世界では、能力とか学歴など関係無いのかもしれない。


  「それよりも君、こんな所にいてもしょうがないから、お昼でも食べに行かない。お願いがあるの。」


  ゴロタは、特に断る理由もなかったので、付き合うことにした。ちょっと、ノエルに似た美少女系だったし。


  自分の名前はスーザンだと言ったので、ゴロタも、本名を名乗ろうとしたが、とっさに『ゴータ』と名乗った。


  食事は、大学近くの小さな食堂だった。味はともかく、ボリューム勝負の店だった。ゴロタは、タマゴとハムのサンドイッチにホットミルク、彼女は、メンチコロッケ定食にオレンジジュースにした。


  食事が終わると、彼女が『いいことを教えてあげる。』と言った。魔法に関することだった。


  「あなた、魔法適性は何?」


  「火」


  取り敢えず、一つだけ言っておく。


  「ああ、『火』かあ。火も便利よね。色々使えて。でも『水』も使いたくない。うん、適性がないのは仕方がないの。でもね、適性を増やす事ができるって言ったらどうする。」


  彼女が言うには、ある魔法研究所で、画期的な魔道具が開発されたらしい。『魔力獲得機』と言うらしい。それと、『魔力誘導石』を携帯すると、自由に魔法が使えるようになるらしい。


  スーザンという子も、そのお陰で、3種類の魔法が使えるようになったらしい。その『魔力誘導石』を見せて貰った。見たところ単なるガラス玉だ。


  これ以上は、ここでは話せないから、外に出ようと言って店を出て行った。店の支払いはゴロタだった。


  外に出たスーザンは、『ありがとう』も言わずに、ゴロタと腕を組んできた。胸が腕に当たる。絶対、わざとだ。


  それで500m位離れたビルの2階に連れて行かれた。そこには、『魔法能力開発センター』と書かれた紙が張られていた。


  センターに入ると、狭い部屋がいくつか並んでいる。スーザンはその一つに入って行く。仕方が無いので、ゴロタも入って行く。狭い部屋にソファセットが置かれている。向かい合って座ったが、スーザンのミニスカートの中が丸見えだった。


  「いい、よく見てて。」


   スーザンが、『火』、『水』、『風』と魔法をデモする。最初の火魔法は、スーザンの魔法だったが、水魔法と風魔法は、隠している魔石の効果だった。


  「どう、すごいでしょ。」


  スーザンが顔を寄せてくる。近い。キス寸前だ。次に、研修室に案内される。例の『魔力獲得機』を見せてくれるらしい。


  研究室は、訓練生が3人ほど訓練中だった。頭に、いっぱいコードがついた半円形の帽子を被っている。コードは、四角い箱に繋がれている。


  探知したところ、コードには何も流れていない。単なるロープだ。しかし、訓練生は目をつぶって、必至の形相だ。


  「これが『魔力獲得機』よ。必ず、獲得できるんだけど、最初は魔力が低いので、訓練が必要なの。どう、素晴らしいでしょう。」


  「まず、あなたの魔法適性と魔力を測らせて。勿論、無料よ。」


  ゴロタは、その変な帽子を被らされた。なんてことはない。銅製のカブトに硬めのロープをくっ付けているだけの代物だ。



  スーザンが、係の男に何か囁いている。表示板に


  『魔法適性:火』

  『魔力:30』


  と表示された。うん、インチキだ。


  「あなたの言った通り、魔法適性は『火』ね。でも魔力が低いわね。これじゃあ、直ぐに魔力切れを起こしてしまうわ。訓練が必要ね。」


  頭の装置?を外す。スーザンは、何やらパンフレットを見せてくれた。


  「ゴータ君、君はもっと自分の能力を高めるべきよ。この研究所のセミナーを受ければ、必ず能力が向上するし、他の魔法適性だって獲得できるはずよ。多分。今なら、月に大銅貨1枚でセミナーを受講できるわよ。ほら、パンフレットにも書いてあるでしょ。」


  確かに、パンフレットには、デカデカと『受講料は月額たった大銅貨1枚。』と書いてある。


  しかし、パンフレットの一番下に、虫眼鏡でなければ読めないような小さな字で、


  『初回のみ、次月から銀貨2枚半になります。また、入会金大銀貨1枚半と講習テキスト大銀貨3枚がかかります。』


  と書かれていた。うん、これは絶対『詐欺商法』だ。しかし、面白いので黙っていた。スーザンが、甘えた声で迫ってくる。


  「ねえ、ゴータくーん。スーザンと一緒に受けようよーん。♡』


  分厚い契約書にサインするように求めてくる。胸がグイグイ腕を押してくる。顔が近い。ゴロタは、契約書にサインした。次々とページがめくれてサインさせられた。


  1ページ目 初回受講申込書

  2ページ目 成人確認書

  3ページ目 入会申込書

  4ページ目 継続申込書

  5ページ目 講習テキスト一括購入申込書

  6ページ目 クーリングオフ棄権誓約書

  7ページ目 脱退時違約金支払い承諾書


  

  もう、なんだか良く分からない書類にサインした。金額欄は、上手くスーザンのオッパイと腕で隠されていてよく見えなかった。


  全てのサインが終わったら、スーザンは、『用事があるから。』と言って帰って行った。


  残されたのは、ゴロタだけだった。ゴロタも帰ろうとしたら、どこから出てきたのか、人相の悪そうな男が出口を塞いでいた。


  「お兄さん、未だ代金を貰っていませんよ。」


  「え、代金、未だ受講していないんですけど。」


  知っているが、知らないフリをする。


  「そうじゃないんだよ。入会金と講習テキスト代、それに月謝12か月分だよ。」


  あ、増えてる。月謝の前払いなんて聞いた事もない。知らん振りをしていたら、さっきサインした分厚い契約書をヒラヒラさせて、


  「ここに、てめえのサインがあるだろうが。知らねえとは言わせねえぞ。」


  その男は、契約書をゴロタの顔の前に差し出そうとして『ハッ』とした。契約書が燃え上がったのだ。もう、持っていられない。慌てて、契約書の束を手放したが、床に落ちる前に契約書は灰も残らず消滅してしまった。


  「てめえ、何しやがった!」


  男は、懐からナイフを取り出したが、ゴロタに刃体を掴まれ、溶かされてしまった。


  ついでに事務室の奥にある金庫のところに行って、扉を引きちぎって開けた。中に入っていた金貨と大銀貨のみを回収すると、全ての契約書を白い灰に変えた。


  もう、ここには用はない。呆然としている男の脇をすり抜けて、研究所の外に出て行った。


  外では、スーザンが物陰から見ていた。きっと憔悴しきって出て来るゴロタを馬鹿にするつもりだったのだろう。ゴロタは、スーザンにウインクすると、タイタン離宮に転移した。

スーザンのような詐欺女は、日本の大学でも多いみたいです。英語学習セットだとか、行きもしない場所の旅館割引券だとか。

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