第343話 タイタン帝国憲法制定
国を作るのなら憲法は必須です。どのような国にするのかを憲法で明らかにしていかなければなりません。
(3月30日です。)
ワイマー宰相が、今朝、タイタン離宮を訪ねてきた。当然、ゲートを使ってだ。旧ゴーダー共和国行政庁の宰相事務室と、離宮のゲート部屋が繋がっているのだ。
帝国憲法の草案ができたらしい。この憲法は、旧ゴーダー共和国内のみならず、全ての領土に適用されるものなので、グレーテル王国西部のタイタン領を始め、ヘンデル帝国北部と中央フェニック帝国南部のタイタン領も対象となるのだ。
まず国名だがタイタン帝国は、ゴロタ帝国とする。首都は、現在のゴーダー市にするが、名称はセント・ゴロタ市に変える。
それで州制度を採る。現在のグレーテル王国タイタン領は、ゴロタ帝国領タイタン州だ。ヘンデル帝国タイタン領は、ゴロタ帝国領ハルバラ州だ。中央フェニック帝国タイタン領は、ゴロタ帝国領セバス州だ。ここ本国は、北部州、南部州、東部州、西部州と中央州の5州だ。
州は、州知事が統治するが、それぞれ新たに叙爵する侯爵か伯爵が統治する。州知事は、州内の行政と司法の責任者だが、課税権と軍隊の指揮権は持たない。また3年以上の刑科する州法を独自に制定することも出来ない。各自治体は、条例制定権を有するが、全て住民投票で有効投票数の過半数の賛成が必要だ。
州内は、幾つかの県に別れるが、概ね300キロ四方が、県域の目安だ。県知事は、州知事が任命するが、貴族に叙爵するかどうかは皇帝の専決権だ。
県内には、市町村を置くが、市は3万人以上、町は1万人以上、それ以下を村とし、それぞれの長は、18才以上の住民の選挙による。現在の市町村長は、憲法施行の日から10日以内に行われる、選挙の日に職を失う。
司法制度は、刑法、刑事訴訟法それに各種取締法によるが、奴隷制度が完全に廃止となることから、人身売買取締法と青少年健全育成法は、既得権を許さない。ただし、犯罪奴隷の強制労働は刑として認めている。
憲法と、全ての法律はシルフが審査する。良ければ、ゴロタが署名と、15センチ四方の金印を捺して勅許となる。この金印は、ゴロタがいつも持ち歩く。
公布の日は、5月3日にした。これもシルフが指定した日だった。施行は11月3日だ。カノッサダレス長官から、今年の収穫が終わる秋までは、国家体勢を急激には変えないようにとのことだったので、現知事及び市町村長と行政・司法の役人は秋までそのままだ。
即位の礼、いわゆる戴冠式は、憲法交付の日にした。セント・ゴロタ市のゼロス教聖堂において行う。
各国の来賓が大勢来るので、その日に各国と平和条約を結ぶ予定だ。各国の国王、女王、皇帝、皇后等の元首と宰相、国軍の最高指揮官及び重要閣僚を招待している。セント・ゴロタ市の高級ホテルだけでは足りないので、タイタン市のホテルや迎賓館も利用する。夜の晩餐会は離宮の大広間でやる予定だ。
各州の行政長官や市長も招待する。勿論、妻や婚約者、婚約者候補の両親も招待する。マルタン男爵とレミイさんも招待する。ゴロタとシルフで手分けして招待するのだ。
即位の礼の準備委員長は、グレーテル王国のジェンキン宰相から推薦を受けた人に来て貰った。将来の宰相候補らしい。名前をベアさんと言って、まだ30歳位の若くて長身の男性だった。
補助にセバスさんをお願いした。セバス領の行政は、イチローさんに代行をお願いしている。
シェルと一緒に、国際交易都市モッツアレラ市に行ってみることにした。真っ直ぐ行かずに、一つ手前のピザリア町から、駅馬車に乗っていくことにしたのだ。
ピザリア町についたのは、午後1時過ぎだったが、モッツアレラ市に行く駅馬車はもう無かった。これから出発すれば、モッツアレラ市に到着するのは、午後5時を過ぎるのが理由だそうだ。
駅馬車の受付所は、開設はしているが、中にいる人は何もする事が無いようだった。出発する馬車がないのだ。当たり前だ。
それでも、公務員なので夕方5時までは、受付所にいるそうだ。それも3人も。
仕方がないので、昼食を食べようとしたら、どこも閉店だった。午後1時以降は、注文を取らないように、店を閉めるようだ。従業員等の昼食休憩のためだ。
道路沿いのベンチで弁当を食べている人達がいた。そばに、弁当屋さんがあった。その店は、親父さんと娘がやっていて、行列ができていた。以前は、農家だったが、妻が死んで農業が続けられなくなったので、弁当屋さんを始めたらしい。
ゴロタ達も買って食べてみたが、暖かくておいしかった。スープも、舌が火傷するくらいに熱くて、おいしかった。
夕方、町で一番大きなホテルに泊まった。サービスはそれなりに良かったが、従業員が多く、それぞれに業務が専門化されているので、『おもてなし』感がゼロだった。ホテル付属のレストランも、調理済みの料理を暖め直した感じで、スープもぬるかった。
部屋の掃除は、キチンと出来ていたが、シャンプーが無かったので、フロントに行ったら、既に警備の者がフロント内にいて、サービス提供は出来ないと言われた。
これで、宿泊税もいれて1泊銀貨3枚は高い。聞けば、このホテルは、まだ国営で、民間にこのホテルを売りに出しているが、売れるまでは現状維持だそうだ。
町の中の大きな商店、ホテル、レストラン全て国営だそうだ。行政機関も、町役場の他に税務署、手数料支払所、登記所、教育庁出張所、環境浄化所、通行税徴取所、道路整備所、公有財産管理所、特許申請所、医療補助請求所、観光案内所、駅馬車管理所、森林整備所、農業振興所、商業組合所、もう訳が分からない。観光案内所なんか観光客もいないのに、所長以下7人も職員がいる。その他に掃除のおばさんと、守衛さんそれに受付の女性が臨時職員として雇われている。
朝、10時に出発する駅馬車に乗ることにした。切符販売所は、午前9時に開くが、数人のお客さんに、職員が2人で対応している。もう一人は、今日は休みだそうだ。
行政機関では、現金を扱う部署は常に2人以上いなければならないそうだ。不正防止のためだそうだが、全員が結託すれば何人いようが不正できるのに、そこはスルーらしい。
馬車は、12人乗り8頭立てだった。乗客は、7人だが、馭者が2人、護衛の衛士が6人だった。この衛士達は、駅馬車公社の職員だった。
それと、後方から荷馬車がついてくる。街道上に落ちた馬糞を拾うための馬車で、2人乗っていた。勿論、この人達も公社の職員だ。
結局、7人の乗客を運ぶのに10人の職員が従事している。ここにはいないが、馬の世話をする厩務員、馬車を整備する整備員、それに馬車を運行管理する職員、この乗客7人の馬車を走らせるために、何人の職員を使っているか分からない。
お昼は、1時間休み、3時に30分休んで、午後5時丁度に、モッツァレラ市の停車場に到着した。驚いたことに、馭者さん達は、馬車を放って帰ってしまった。遅番の馭者さん2人と後ろの馬車用の馭者2人が待っていて、厩舎に回送する。ゴロタ達は、後ろからついていった。厩舎は、駅馬車公社の後ろにあり、厩務員と馬車整備係4人が待っていた。馭者達は、公社の事務所棟に入っていったきり出てこない。
ゴロタ達は、事務所に入っていったら、先程の馭者2人と女性職員それに男性の職員2名が、お茶を飲んでいた。皆、遅番なのだろう。衛士さん2人も事務所内だ。
「すみません、明日の駅馬車のことについて聞きたいのですが?」
シェルが、声をかける。誰も、立ち上がらない。女性職員が座りながら、
「今日の受け付け業務は、午後5時に終わりました。明日、9時から、停車場の切符販売所まで行って聞いてください。」
なるほど、朝9時出発の馬車だったら間に合わないと言うわけか。黙って、公社事務所を出たゴロタ達だった。
ホテルは、数少ない民間のホテルにした。サービスは満足の行くものだった。レストランの食事も美味しかった。翌日、市内見物に歩く。公営の店がほとんどだった。民間の店が少ないのは、公営店の営業を圧迫しないためだった。
市役所に入ってみる。カウンターは長蛇の列だった。住民登録、出世証明、死亡届等届け出は多岐にわたる。カウンターでは、一人の職員だけが受付をしている。
受付をすると、用紙を後ろの棚に置く。別の職員が、その書類を持って奥の方に向かう。台帳を確認して、何か記入して、書類を作成し、決済を受けている。
それが終わると、カウンターの所に戻って書類を受付の職員に渡す。受付の職員は、それを申請者に確認して、料金の請求書を申請者に渡す。
申請者は、料金の支払のために別の窓口に並ぶ。払い終わったら、領収書を持って、また先程の窓口に並ぶう。必要な書類を貰うのに3時間以上は掛かりそうだ。
カウンターの奥では、デスクに座った職員が忙しそうに事務を執っている。皆、一生懸命仕事をしている。サボっている人は一人もいない。あの観光案内所や駅馬車公社とは大違いだ。
お昼の鐘がなった。一斉にカウンターのカーテンが閉められる。受付中だろうが、後は届出済証を渡すだけだろうが関係ない。一斉なのだ。並んでいる人達は、ここで諦めたらやり直しだ。ずっとカウンターの前に並んでいる。中には、折り畳み椅子に座って、お弁当を食べ始める人もいた。
ゴロタ達は、港に行ってみる。以前来た時は気付かなかったが、色んな事務所があった。出入国管理事務所の他に、港湾管理事務所、税関、保税倉庫、検疫所、乗船券販売所、船舶管理事務所、荷受人組合、補給品管理事務所、船舶修理組合、船舶清掃組合、船員組合、船長、一等機関士組合、新造船審査所、違法入国者収容所、小型船舶運行届所。
まだまだあったが、とにかく職員数の合計は、半端なかった。中には、夜間の船舶を見張る者までいた。
ゴロタ達は、シーサイド港のシンプルな事務所を思い出していた。確か、職員は、所長以下3名、後は臨時雇いだ。船が着かなければ仕事はない。当然、賃金も払わない。漁師の奥さん連中が片手間の賃仕事だ。出入国管理は衛士隊が兼務だ。乗下船や航行は、船会社が管理している。
この国の問題点がよく分かったゴロタだった。
ゴロタの国作りの方針は一貫しています。