第336話 共和国は弱かったです。
ゴロタは、初めて他国を攻撃します。ごろつき相手ではありません。
(1月14日です。)
今日は、朝から忙しかった。明日の開戦を前に、各国の視察団を中央フェニック帝国南部タイタン領最東南の村、東ドムル村まで転移させた。
東ドムル村では、食事や宿泊場所の提供で、大忙しだった。粗末な家の汚いベッドでも銀貨1枚を支払ってくれる。村人は、自分たちは馬小屋に寝てでも、ベッドを提供した。
その日のうちに、ゴロタは東の森の向こう側にある山の上に登って、敵軍の進行状況を見たが、地平線の向こう側らしく、何も見えなかった。ゴロタは、高さ3mの土塁を南北長さ200キロに渡って盛り上げた。タイタン両側からは斜度30度のスロープにし、ゴーダー帝国側は、斜度45度にした。これで、高速輸送車も馬車も、登ってこられない。
また、至る所に大穴を開けて、水魔法で水を貯めておいた。シルフが、沼同士を結ぶ水路を作ってくれと言うので、幅10mの水路を作った。後、上流を流れている川の経路を曲げて、最上流側の沼に流し込むようにした。
これで、天然の濠ができた訳だ。戦争が終わったら、用水路としても使えるだろう。ゴーダー共和国側は、突然できた濠と防壁に、きっと驚くだろう。
東ドムル村に帰ってみると、お祭りのようだった。東ドムル村は犬人が一番多く、後、猫人と兎人が殆どだ。
視察団に食事や飲み物を提供する家、地元の特産物を売ろうとする者、それに兎人の女性は、しきりに自宅に招き入れようとしている。兎人の最も得意な技を、披露するのだろう。
翌日、早朝にシェルを村に呼び寄せて置いた。真っ赤な夏用飛行服姿だ。ゴロタも、この前、新調した夏用飛行服だ。色は、オリーブドラブだ。帽子は、シルフが作った硬化プラスチック製だ。前面に透明な風防が付いている。ヘルメットと言うらしい。
視察団の主だった人達を『タイタニック号』に搭乗させた。皆、初めての機内に興味津々だった。各計器類は、正常に作動した。
「燃料OK、魔力量OK、各油圧OK」
シルフのチェックが続く。シルフは、今日は何故か同乗している。爆撃手をするらしい。主翼の下にTNT火薬250キロ爆弾4発、胴体の下に500キロ爆弾を2発吊り下げている。照準器は、後部に増設した席に設けられている。
飛行準備完了だ。ゆっくりと上昇を始める。高度2000mまで上昇してから、水平飛行に移った。流石に2トン増の重量は重い。中々、加速しない。狡いようだが『念動』でブーストする。時速900キロまで加速した。
100キロほど飛行したところで、眼下に20万人の将兵が布陣している。殆どが火縄銃を装備している。至る所に特殊飛翔弾が配置されている。シルフが、誘導装置がないので、あまり脅威にはならないと言っていたが、弓矢と剣、せいぜい投石機しか無いこの世界、大いなる脅威だろう。
共和国軍では、大騒ぎだった。上空に銀色に光る物が飛んで来たのだ。そして、ふんわりと浮かんでいる。何人かの兵士が、火縄銃を撃って来たが届くわけがない。
特殊誘導弾は、発射台が45度迄しか上がらないので、謎の飛行物体を直接狙えない。
ゴロタは、高度を200mまで下げた。下から見ると、手が届きそうに見えたので、何人かの兵士が、再び火縄銃を撃って来たが、機体下部に張ったシールドで、全く損傷がない。
ゴロタは、高度を保ったまま右旋回を始めた。右側列の窓から、下の敵部隊の慌て振りがよく見えた。次は、左旋回だ。
何周か八の字飛行をした後、高度を上げ、部隊の後方に向かった。部隊後方には、総司令部の幕舎が張られている。
その幕舎の脇、300mの地点に250キロ爆弾を1発落とした。炸薬は、TNT火薬だ。
大爆発が起きた。幕舎には、巻き上げられた土砂が降り注いだ。敵の飛翔弾の黒色火薬とは威力がまったく違う。
兵の隊列が崩れた。散り散りに散開し始めている。ゴロタは、タイタン領に引き返した。東ドムル村に着陸して、シェルを始め、皆を降してから、もう一度ゴーダー領内に行く。その際は、『ゼロ』で行くことにした。
目的は、総司令部だ。もうバラバラになっている部隊の後方、幕舎の横に垂直着陸する。10数名の兵士達が、火縄銃を構えている。
ゴロタは、「銃を下ろしてください。」と、お願いした。ゴロタは、剣も帯びていない。
ほんの少しだけ『威嚇』を使った。兵士達は、素直に銃口を下げた。丸い弾丸が、銃口から転がり落ちてくる。それから黒い火薬もこぼれ落ちてくる。
「総指揮官はいますか?」
一人の将軍が出て来た。身長が2mを超える、初老の大男だ。名前をロンマル将軍と言うらしい。
「貴公は、何者だ?」
「僕は、ゴロタ。タイタン領の領主です。」
「ゴロタ?聞いたことがあるような。それで『タイタン領』とは、どこにあるのじゃ?」
「あの山の西側です。」
「え!あの山の向こうはフェニック帝国のはずだ。」
「今は、僕の領土です。」
「うーむ、何か情報不足があったようじゃ。ところで、あの空飛ぶ物は何じゃ。」
「あれは『ゼロ』、僕の飛行艇です。」
「先程の大きな空飛ぶ物も、其方達のものか?」
「あれは、『タイタニック号』僕の飛行船。」
「と言うことは、あの大爆発もお主が?」
「そう、あれは警告。」
「うむ、凄まじい威力じゃった。あの飛行船は、何隻あるのじゃ?」
シルフが、内緒にするように伝えて来た。
「それは内緒だ。」
「それで、何を要求しに来たのじゃ?」
「直ぐに引き返して貰いたい。それでなければ、正式に宣戦布告をして貰いたい。」
正式に戦争になれば、首都空爆も許されるが、今の段階では、侵略阻止行動に留まる必要があるとの事だった。国境を超えない限り、戦争とは言えない。今のところ、敵国を攻撃したのはゴロタだけだった。
ロンマル将軍は、一旦、幕舎に戻った。ゴロタの提案に、参謀達と検討するらしい。待っている間、変な男が『ゼロ』の周りをグルグル回って見ている。身長は小さいが、分厚い眼鏡をかけ、髪の毛がモシャモシャだった。
しきりにジェット噴射口を見ている。匂いを嗅いだり、触って見たり。胡散臭い。
その男は、ゴロタに気が付いて近づいて来た。
「はじめまして、私はシュタインと申します。この飛空艇は、あなたが作られたのですか?」
ゴロタは、黙っていた。シュタインさんは、さらに聞いて来た。
「この推進機は、変わった匂いがしますが、何の匂いですか?」
ゴロタは答えない。
「この飛空挺が、空を飛ぶ原理は何ですか?魔法ですか?物理ですか?」
やはり、答えない。
「先ほどの爆裂は、魔法ですか?でも火薬の匂いがしたのですが?」
これにも、答えない。
「お願いがあるのですが。是非、この飛空挺に乗せて戴きませんか?」
シルフが、乗せてやっても良いと言う。
ゴロタは、予備のヘルメットを渡す。シュタインさんは、何も無いところからヘルメットを出したことも吃驚していたが、ヘルメットの素材にもっと驚いていた。
『ゼロ』に乗り込んでから、ゆっくりと浮上する。ここは魔力を使う。高度300mまで垂直上昇してから、ジェットエンジンのタービンを回す。これはバッテリーを使う。
回転が十分に上がってから、ジェット燃料を噴射させる。キーンという音と共に、前進を始める。スロットルを目一杯引く。物凄い加速だ。身体がシートバックに押し付けられる。音速の2.5倍の速度まで加速する。衝撃波が後方から聞こえる。
30分も飛行すると、首都ゴルゴンゾーラ市の上空だ。ネチス党本部の10階建ビルの周りを周回してから急上昇した。地上では、きっと轟音に吃驚しているはずだ。
高度1万mまで上昇してから、水平飛行に移り元の場所に戻った。シュタインさんは、気を失っていた。
地上に降りてから、シュタインさんを念動で降ろしてあげた。そのあと、ロンマル将軍が、部隊を引き上げることを約束してくれた。
これで、目標は達成出来た。もう、帰るだけだ。飛行艇に乗り込もうとしたら、シュタインさんが一緒に連れて行って貰いたいと言ってきた。ゴロタの一存では決められないので黙っていると、勝手に『ゼロ』に乗り込んでしまった。
しょうがない。ゴロタは、諦めて『ゼロ』を発進させた。目的地は、東ドムル村だ。帰りは、ゆっくり巡航して帰った。
あっという間に、東ドムル村だ。村には、多勢の視察団が待っていた。もう、戦争は終わったと伝え、皆をそれぞれの国の首都まで、ゲートを開いてあげた。
皆を返してから、シェルとゆっくり食事を食べた。当然、シュタインさんも一緒だ。シュタインさんは、今、43歳だそうだ。名前は『アイン』と言うそうだ。聞いてもいないのに、教えてくれた。
ゴーダー共和国の特殊飛翔弾や高速輸送車は、やはりゴロタの『タイタニック2世号』のジェット推進装置を真似したようだ。だが、10階建てのビルや火縄銃を考案したのは、独自の発明らしい。
シュタインさんは、シルフが人間だとばっかり思っていたらしい。シェルと瓜二つで、身長が小さいだけなのに驚いていたが、ゴーレムだと言う事を知ると、またゴロタを質問攻めにした。
結局、シュタインさんは、シルフの弟子になり、領主館裏の作業場で、研究に専念することになった。
対部隊の戦闘?は、これで終わりです。期待させて申し訳ありません。後は、首都攻撃だけです。