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紅き剣と蒼き盾の物語(コミュ障魔王と残念エルフの救世サーガ)  作者: 困ったちゃん
第33章 ゴーダー共和国が消滅する日
337/753

第335話 タイタン市は平穏です。

世界は、対戦の危機を迎えているかも知れないのに、タイタン市はいつもの1日が過ぎていきます。

(1月11日です。)

  ミキさんは、ピアノを習い始めた。18になってからでは遅いようなのだが、どうしても弾いてみたかったのだ。


  最初は、領主館に置いてあるジェリーちゃんのピアノを弾いてみたのだが、指がうまく動かなかった。ジェリーちゃんも、久しぶりに弾いていたが、かなり上手だった。


  しかし、領主館で間違い間違い弾いているのも、メイドさん達に聞かれて恥ずかしかったので、思い切って、シェルさんに相談したら、直ぐに買ってくれることになってしまった。二人で、王都の楽器屋さんに行ったら、見たことも無いような楽器が沢山並んでいた。ピアノコーナーに行ったら、たくさんのピアノが置いてあったが、どれが良いのか分からなかった。でも、奥の方に置いてあった真っ白なグランドピアノが目に留まった。直ぐに、これが良いと思ったが、値段を見て吃驚してしまった。金貨6枚もするのだ。でも、シェルさんは、迷うことなく、そのピアノを買ってくれた。嬉しくて、いつまでも泣いてしまった。


  昨日、別邸に真っ白なグランドピアノが届いたのだ。1階の部屋の一つを、演奏室にして貰った。シェルさんが、ピアノを注文した日に、バンブー・セントラル建設に依頼したら、3日位で仕上げてしまった。


  なんで、そんなに直ぐ工事してくれるか分からなかったが、これで思いっきりピアノが弾けると思ったら、嬉しくて眠れなかった。


  ピアノの先生は、タイタン学院高等部のの音楽の女性の先生だった。お迎えの馬車を出してきて貰う。先生は、嫌な顔一つせずに引き受けてくれた。


  最初は、バイエルと言う本で、初歩を習う。それから、ハノンと言う指の練習の本。先生は、つまらなくても毎日練習するようにと言われた。ハノンに1時間、バイエルに1時間練習しなければならないそうだ。


  やってみると、ちっともつまらなくない。自分が、こんな綺麗な音を出すなんて信じられなかった。練習が楽しい。つい、メロディを口ずさみながら弾いてしまった。


  先生が、それをジッと聞いていて、学校で放課後、先生のところに来るように言われた。歌の練習をさせるそうだ。


  ミキさんは、ピアノの練習をもっとしたいのだが、先生の言いつけなので、従うことにした。この時は、誰も国民的大歌手が生まれる瞬間を知らなかったのは、無理も無かった。


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  フランちゃんは、とても不安だった。ゴロタさんとの結婚が決まり、3月1日にゼロス教大司教国の大聖堂で、現大司教のジェリー様の仲立ちで結婚することになった。


  式の準備は、シェルさんとジェーンさんが全てしてくれるので、何も心配ないが、自分にゴロタさんの妻が務まるのかが不安だった。


  シェルさんのようには出来なくても、ちゃんとゴロタさんの助けになるように出来るかと言われると、自信がなかった。


  それに、夜も心配だった。夜のセレモニーに興味はあっても、何故か怖い気がしてしまう。クレスタさんみたいに、子供が出来たらどうしよう。絶対に育てていく自信なんかない。


  でも、あの夜のセレモニーが最後までいったら、子供が出来ても不思議はない。それ位は、治癒院の院長として知っている。


  強姦された子供達を何人も診て来たが、自分のアソコもあんな風になってしまうのだろうか。考えると眠れなくなってしまう。


  結婚が、決まってからフミさんの家に泊まる事が多くなった。フミさんは、孤児院の奥に、住居棟を建てて住んでいる。そこにお邪魔して、いろいろ相談に乗って貰っているのだ。その時だけは、フミさんは婆やだった。


  ゴロタさんの話では、戦争が始まるかも知れないと言っていた。戦争では、多勢の人が亡くなったり怪我をするそうだ。


  絶対に、私の力『神の御業』が役立つはず。戦争が終わるまで、結婚式を伸ばしてもらおうかしら。うん、そうしよう。


  フランちゃんは、自分の当てが、完全に外れると言うことをまだ知らなかった。


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  エーデルは、少し怒っていた。今年になって、まだ別荘に1度も行っていないのだ。完全に、ローテーションなんか無視されている。こんなことなら、お正月に実家なんかに帰らなければ良かったと思っていた。


  ハッシュ町のギルドは、1月7日から営業を開始した。もう、回収品の買取窓口は長蛇の列だ。『この人達って、正月もダンジョンに潜っていたのかしら?』と思いながらも、営業スマイルをしながら、買取価格を値切っているのは、本質的にお金の大切さを知っていたからだ。


  ギルドの仕事は面白かった。特に、新人が苦労しながらランクアップしていく姿は、見ていて微笑ましい。


  今日、おかしな冒険者が来た。大剣を背負い、いかにも高価そうな鎧を纏った男だ。目付きが鋭いと言うか、小狡そうな感じの大男で、弱そうなパーティーに自分を売り込んでいる。


  きっと、流れの冒険者なんだろう。手っ取り早く稼ごうと思って、この街まで来たに違いない。おそらく、出身は帝国だろう。レストランの兎人のウェイトレスを馬鹿にした目で見ている。


  男に絡まれている、若いパーティーが困っている。テル君が、割って入ったがその男は、テル君の胸ぐらを掴んで持ち上げた。どうやら絶対的体力に差があるみたいだ。


  テル君が、足をバタバタしているが、ピクとも動かない。男は、後ろにテル君を放り投げた。周囲の冒険者達は、遠巻きに見ている。


  男は、まだ執拗にパーティーに加えるよう脅している。弱いパーティーに入って、荷物持ちと宝物探しをさせるのだ。最悪は、囮にして自分だけ助かろうとする。

  エーデルがカウンターから出て行った。手には、細い柳の杖を持っている。


  「あなた、それ以上悪さをすれば、冒険者証を取り上げますよ。」


  どう見ても、注意した女は自分よりも20センチ以上背が低い。男は、エーデルを完全に馬鹿をしていた。


  「お嬢ちゃん、あんたは誰だい?」


  「私は、このギルドのギルドマスターです。あなたと組もうと言うパーティーは、ここには無いようです。ソロで行くか、諦めてください。」


  「ふざけるな。お前に言われる筋合いはねえ。俺は、コイツらと話してるんだ。」


  「仕方が無いですね。腕ずくでも、出て行ってもらいます。」


  「はあ?腕ずく?やれるもんならやってみろ。」


  周囲の冒険者達は期待の目で見ている。いつもニコニコしている美少女ギルマスの実力が見られるし、それにあのミニスカだ。きっと、チラリくらいは見えるだろう。


  男は、先程のようにエーデルに掴みかかろうとした。エーデルは、少し左に身体を捌いて、足を引っ掛けた。男は、絵に描いたようにもんどり打って倒れた。


  男は、何が起きたか分からないように辺りを見回した。周りの冒険者達は、ニヤニヤ笑っている。中には、興味を失って、掲示板を見始めている者もいる。これ以上、期待したものは見られないだろう。


  顔が真っ赤になった男は、右手グーでエーデルに殴りかかった。エーデルは、左に躱して、持ってる細い杖で『ピシリ!』と男の右腕を叩いた。


  かなり痛かったみたいで、男は背中に背負った大剣を抜き放った。


  「これで、あなたは冒険者資格を剥奪ですね。」


  「うるせえ。死にやがれ!」


  男は、上段から軽々と大剣を打ち下ろして来た。凄い力だ。エーデルは、レイピアの構えから、『百突き』を放った。


  もう『百刺しのレイピア』を使わずにスキルとして獲得しているようだ。遠い間合いから、目に見えない突きが男を襲う。あっという間に、男の体は穴だらけになった。鎧ごと突き刺したのだ。致命傷にはならないが、痛みには耐えられない。男は、瞬間的に、白目を剥いて気を失ってしまった。


  「マリちゃん、彼の冒険者証を取り上げて。」


  哀れ、『B』ランクの男は、ただのゴロツキになってしまった。


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  ジェリーちゃんは、最近またピアノの練習を始めた。ソナチネまで行っていたのに、ここに来てから毎日が楽しく、うるさいママもいないので、ズッと練習をサボっていたのだ。


  でも、去年からミキさんがジェリーちゃんのピアノを借りて練習を始めたので、最初はバイエルの初歩曲を教えてあげたのだが、1週間もしたら、ドレミも弾けなかったミキさんが3曲目を練習していた。


  ジェリーちゃんも、学校の音楽の先生に習う事にした。ショパン位までは弾きたいと思っていた。


  ジェリーちゃんは、決して対抗意識を持っている訳では無い。でも、ミキさんが楽しそうにピアノを弾いているのを見て、自分も練習したくなったのだ。


  ジェリーちゃんが、ピアノを弾いていると、手の空いているメイドさん達が聞きに来るのだった。練習中の曲は、うまく弾けないのだが、それでもうっとりと聞いている。


  ジェリーちゃんは、嬉しいの半分、恥ずかしいの半分の微妙な気持ちだった。


  先生が来た日、シルフが先生にショパンを引いてくれるように頼んでいた。あの録音装置をセットした前で、先生はショパンを4曲くらい弾いてくれた。


  次の日から、領主館では日中ショパンがBGMで流れるようになった。

ミキさんには幸せになって貰いたいです。

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