第334話 2028年世界大戦って、直ぐ終わっちゃう?
この世界は、何度も滅亡の危機にあっています。災厄の神が降臨するからです。
(2028年1月1日です。)
今日は、元旦なので、領主館でノンビリする。皆、実家に帰っているのだ。いるのはシェルとミキさん親子だけだ。シェルも帰ればいいのに、ミキさんがいるので、帰るのをやめたらしい。
ビラはノエルの実家に遊びに行っているし、ジルちゃん達高校組は、デビちゃんの屋敷にお泊まりだ。
キキちゃんは、結婚したお兄ちゃんの所へ行っている。フランちゃんは、フミさんの実家に遊びに行っている。
屋敷は、警備の人間以外、全員休ませているので、食事の準備も自分達でやらなければならない。
ミキさんは、レオナちゃんの世話で手一杯なようだ。元々、料理は得意ではないらしく、パンにチーズを載せて焼く位らしい。シェルの料理は、食べられるレベルにはないので、期待していない。
2人に何が食べたいと聞いたら、シェルはお雑煮が良いといい、ミキさんはビーフシチューが食べたいそうだ。
では、朝はお雑煮で、昼はビーフシチューにしようと言うことになった。夜は、この前のローストターキーをフライにして、バターライスの上に載せ、マヨネーズとデミグラスソースを掛けたオリジナルだ。
お雑煮も、それだけでは寂しいので、伊勢海老とズワイガニを盛り付けたものを添えた。昼のビーフシチューには、フレンチトーストにタップリの生クリームを付け、合わせに梨のコンポートのカラメル添えだ。あと、ニンニクをタップリ付けたガーリックトーストを、シチューに浮かべた。
全てゴロタが作ったが、いつもの通り、シェルが邪魔をする。下拵えをしたものを、つまみ食いするのは良いが、ゴロタにも食べさせようとするのだ。
「あなた、はい、アーン!」
ゴロタが、仕方なく食べると、
「美味しい?」
あの、作っているのは誰ですか?それを見ていたミキさんが、同じ事をしようとする。嫌だとは言えないので、食べると、次は、またシェルの番だ。
結局、食事になるのに倍近い時間が掛かってしまった。
ゴロタは、1日、家事に明け暮れた。漸く夕食の片付けが終わって、露天風呂に入ろうとしたら、2人いやレオナちゃんがいるので3人も一緒に入ることになった。浴槽の中でシェルが左側、ミキさんが右側に座る。ゴロタは、両手を広げて、2人の肩を抱く。2人とも、ゴロタの方に頭を傾けている。
レオナちゃんが、犬かきで泳いでいる。流石、半獣人だ。誰にも教わらないのに、3歳で泳げるとは。
途中でシルフが入ってきた。イフちゃんも来た。コマちゃんや、トラちゃんもだ。もう何の世界だか分からなくなってしまう。
レオナちゃんが、のぼせて倒れてしまった。慌てて、抱き上げてあげたら、『パパ、チュッ。』と言って、キスをしてきた。可愛い。でも、パパじゃ無いんですが。
シェルが、腹を抱えて笑っている。あのう、前を隠して笑ってください。相変わらず何も生えていないシェルだった。
夜は、ゴロタの部屋で全員で寝ることにした。レオナちゃんは、既に熟睡していた。
ゴロタの部屋の大きなベッドに、レオナちゃん、ミキさん、ゴロタ、シェルの順に並んで寝た。暫くしたらミキさんが、シクシク泣き始めた。どうしたのか聞くと、去年のお正月を思い出したそうだ。
中央フェニック帝国皇室の元旦は忙しい。朝早くから行事があり、夕方まで続くのだ。そのため、後宮の愛妾達も総出で手伝わされるのだが、ミキさんは『人間族が料理に触ることは穢れる。』と言われて何もさせて貰えない。
ただ立っていても邪魔なので、部屋に戻っていたが、誰も訪ねてこない。食事の準備もして貰えず、翌日まで、ジッとベッドに座っていたそうだ。遠くでは、愛妾達の嬌声が聞こえてきたが、ミキさんには関係のない世界だった。
レオナとは、大晦日から乳母が何処かへ連れて行って会えないでいた。ミキさんは、来年の正月は、下野してきっと1人で過ごすようになるのだから、これでも平気と思うことにしたそうだ。
それが、今年の正月がこんな風になるなんて、夢のようだ。夢なら覚めないで貰いたい。こんなに素敵なお正月は、生まれて初めての経験だそうだ。
ゴロタは、黙って聞いていた。シェルが、隣で泣いている。ゴロタの左手を強く握りしめている。しかし、もう片方の手は、シッカリとゴロタの股間を握っていた。ああ、貴方って、いつまで残念エルフなんですか?
新年の行事は、4日からにした。最初は、タイタン市で挨拶をし、次にエクレア市、最後はニュー・タイタン市だ。クレスタ以外の妻達全員とフランちゃんが同行する。もうフランちゃんと結婚しない訳にはいかない。3月にしようと思っている。
最近、慣れて来たとは言え、やはり大勢の前で演説するのは気恥ずかしい。シルフが、素晴らしい装置を作ってくれた。音声記録装置だ。仕組みはよく分からないが、プラスチックの黒い円盤だ。機械の前で、原稿を読みながら記録する。本番では、口パクだ。
シェルが、口パクに反対した。間違えても良い。途中で喋らなくても良い。生のゴロタを領民に見せることが大切なんだと言うのだ。
結局、この円盤はお蔵入りになったが、シェルが機械ごと預かることにしたらしい。ゴロタがいない時に、聞きたいらしいのだ。その方がずっと恥ずかしいが、何も言えないゴロタだった。
1月5日、シェルを連れて、グレーテル国王陛下、ヘンデル皇帝陛下そして中央フェニック帝国のセディナリック・レオ・パレス・ド・リオン5世皇帝陛下に新年の挨拶をする。全て、ゴロタの主君に当たるのだ。
セディナ陛下は、未だ6歳だが、ゴロタのことを、ゴロタおじ様と呼んでいる。まあ、パパよりはいいか。
どこの国でも、ゴーダー共和国の事が話題になった。特に新兵器の特殊飛翔弾のことについては、皆知っていた。各国も、密偵に見張らせていたらしい。
それで、今度、エルフ大公国も交えて閣僚級会議をすることになった。場所は、全ての国と縁のある、タイタン市で行うことになってしまった。
え?嫌なんですけど。思ったことが言えないゴロタだった。
シェルが、会議参加者の宿泊場所を、迎賓館のあるエクレア市とタイタン市それにニースタウンの最高級ホテルにした。会合予定日は、1月10日にした。共和国侵攻開始日だが、国境まで数日を要するので問題はない。
シェルは、忙しくなるそうだ。会議室のセットから、晩餐会の準備と、やることはいっぱいだった。本当は、シズの誕生日なので、明日から旅行に行かなければならなかったが、当分行けそうになかった。シズ、ごめん。
次の日、シェルの実家に行ってアスコット大公閣下に挨拶をし、その日は、大公屋敷のシェルの部屋に泊まることになった。ずっと使われていなかったが、掃除が行き届いていて、昨日までシェルがいたようだった。
メイドさんが、『簡易ベッドを入れましょうか?』と聞いてきたが、シェルが断ると、意味深な笑いを浮かべて、部屋を出て行った。うん、それ違うから。シェルとは、まだ本当の夫婦になっていないから。
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1月10日、タイタン市の公爵領には、多勢の賓客が集まっていた。各国の宰相、外交担当閣僚それと騎士団長達だ。グレーテル王国からは、国王陛下まで来ていた。まあ、タイタン市も王国の一部だから、当然かもしれない。流石に、他の国は、元首は来ていない。来たら、接遇が大変になるし、お付きの騎士団も相当な人数になってしまう。
ゴロタは、昨日までに全員をゲートを使って集めていたので、殆どの人は、1泊2日の旅行程度の荷物とお付きの人だった。
会議は、現状説明から入った。説明は、シルフだ。皆は、こんな小さな子供が説明するのに驚いていたが、説明内容にさらに驚いてしまった。
20万人の兵士に新型兵器。射程60キロの特殊飛行弾それに高速兵員輸送車、どれもこの世界には無いものばかりだ。まあシルフは、あの世界にもまだ無いけど。
シルフが、不意に黙り込んだ。目が点滅している。
「皆さんにお知らせする事が有ります。今、ゴーダー軍が侵攻を始めました。目標は、中央フェニック帝国南部、タイタン侯爵領です。現在、国境の森の中を進軍中。」
あの七面鳥を大量に捕獲した森だ。まあ、来年までいらないから良いけど。あ、そう言う問題では無い。
ゴロタは、侵攻開始日の情報は入手していたが、南部の森を抜けてくるとは思わなかった。それに、森に入ってくるのが早い。きっと、正月早々に進軍を開始したのだろう。
南部郡には、イチローさんと、わずかな衛士だけだ。戦力らしい戦力は無い。
しかし、ゴロタとしては、単に侵略したからと言って殲滅することはしたくなかった。兵士達は、命じられて来ているだけだし、兵士同士の戦いなら正々堂々と戦えば良い。
集まった皆は、複雑な心境だった。このまま、全面戦争になるのか、それとも、タイタン領だけの局地戦になるのか、ゴロタの出方次第だ。しかし、20万人の将兵を殲滅したら、ジェノサイドと言われても仕方がない。
半面、ゴロタなら、世界大戦にならずに済むかも知れない。もう300年程大規模な戦争は発生していない。
出来ることなら、我が国の兵士は一人も失いたくない。それが、今日集まった者達の偽らざる気持ちだった。
シルフの予想では、彼等の移動速度は時速60キロ、魔力補充の効率を考えても、せいぜい1日の移動距離は、400キロ位だ。森の端に到達するのは5日後と思われるそうだ。
ゴロタは、最初は、自分達で対処するが、自国の防備は万全にして貰うことをお願いした。
閣僚級防衛会議は、このようにして中途半端で終わってしまった。解散後、各国の視察団を派遣することになった。ゴロタの戦い方を、視察したいそうだ。
余り参考にならないと思うが、断る理由も無いので、許可することにした。戦闘開始準備は、3日後なので、その前にお迎えのゲートを開いてやることにした。
皆が帰った後、シェルとどうしたら良いか相談した。シェルも良く分からなかったが、人は殺さないで欲しいと言われた。それで、方針は決まった。この戦争は、敵を一人も殺さないで終わらせることにした。
世界大戦は、きっと無いと思います。と言うか、戦争になりません。ゴロタが強すぎます。