第328話 新しい素材が完成しました。
石油を採取できれば、燃料の他に色々な素材を作ることが出来ます。
(11月3日です。)
今日は、クレスタの29歳の誕生日だ。エーデルとの誕生旅行からお昼過ぎに帰って来たら、直ぐにクレスタとの誕生パーティだが、クレスタの実家であるカーマン王国ガーリック伯爵邸で、両親・兄弟と共に誕生パーティをすることになった。
この日のために、クレスタはずっとお菓子を焼き続けていたらしい。お土産をいっぱい持って、ゴロタと一緒にガーリック伯爵邸に転移した。両親と兄妹、姉妹が皆で迎えてくれた。
ゴロタの最近の行動は、すべて知られており、グレーテル王国タイタン領、ヘンデル帝国北部タイタン領それにフェニック帝国南部タイタン領と広大な領地を持ち、将来のグリーンフォレスト連合公国大公となることを約束されている。そして、この世界で一番金持ちで、最強の男で、いくつもの都市を粛清した実績を持っている。
ガーリック伯爵が今、一番望んでいるのは、ゴロタの子供、つまり自分の孫を見る事だった。そして、その夢はまもなくかなう事をクレスタが発表したのだ。
ゴロタは、知らなかった。しかし、クレスタに対しては避妊措置をしていないので、妊娠してもおかしくなかった。ガーリック伯爵とクリスティーナ夫人は非常に喜んでくれた。前からの約束通り、クレスタは、実家で子供を産み、ある程度まで育てたいそうだ。まあ、ガーリック伯爵邸とタイタン市の領主館を結ぶゲートを常設すれば良いのだが、この際だから、ガーリック市にゴロタの別邸を作ることにした。伯爵邸は、長男夫婦とお子さんがいるので、少し手狭だったのだ。
伯爵邸の敷地には十分な余裕があったので、10LLDDKK+大広間の2階建ての屋敷を建てることにした。建設は、ガーリック伯爵邸ご用達の建設会社に依頼した。また、その屋敷で働く執事2人とメイド5人それに子供を養育する乳母を雇うことにし、人選は、クリスティーナ夫人に一任した。
別邸が完成するまで、クレスタは、市内の最高級ホテルのスイートルームにお付きのメイド2人と共に泊まることにした。予定日は、来年の7月下旬だそうだ。
クレスタは、この妊娠のことはシェル達全員が知っていると言っていた。知らなかったのは、ゴロタだけだったそうだ。道理で、今回の誕生パーティを実家で行うことに誰も反対しなかったわけだ。
ゴロタは心配なことがあった。自分は、この世界では魔人とハイ・エルフの子として産まれている。はっきり言って、人間ではない。そんな自分が人間との間に子を作るとすると、それはどんな子なんだろうか。魔人もハイ・エルフも長命種だ。生まれて来る子が、人間の形質を持ち短命種となってしまうと、自分は、生まれて来る子の死を看取ることになるかもしれない。
それも運命と言えば運命だろう。しかし、それはとても悲しい事のように思う。将来、きっとシェルと自分だけが生き続けるかも知れない。シズや魔人族のブリちゃん達も150歳位までは生きられるかも知れないが、ゴロタ達の方が長生きのような気がする。
そんな事を考えてもしょうがないので、今は、生まれて来る子供の事だけを考えよう。
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シルフは、作業場でいろいろな物を作っていた。特に、化学繊維、いわゆるナイロンを合成して細い糸を作り上げている。絹糸のような非常に細い糸だ。
それから、細かな針や歯車、ベルトなどを組み合わせた自動紡績機を作り、ロングストッキングを織り出していた。最初にシェルに履かせてみた。シェルは、自分の脚が艶やかに、そして魅力的になったのに吃驚していた。1週間後、ドミノちゃんやキキちゃんを除く全員のストッキングを織り上げていた。原料が足りなければ南部タイタン領の油田で、必要量を採取していた。
次に、プラスチック製品を作っていた。初めに、病院や学校の給食に使う食器類だ。今までは、木製や金属製、陶器製の食器を使っていたが、重く衛生的にも良くなかった。これからは軽く、洗うのも楽なプラスチック製の食器が使える。
それと、ビニール皮膜の導線だ。今までは、植物由来の皮膜を使っていたが、ビニールケーブルのお陰で、配線が格段に楽になった。
石油精製の際にできるアスファルトも、非常に役に立つ。屋根材のコーティングに使用したり、砂利と混ぜて道路舗装材にしたり、捨てるところがなかった。
それと、作り方は良く分からなかったが、色々な科学薬品を作り出していた。そして、念願のジェット推進機を作っていた。石油から生成したケロシン系の燃料を、圧縮燃焼させる噴射エンジンを2基作った。それを飛行艇『ゼロ』の胴体の中の、水噴射推進機と交換している。これで、全く魔力を使用することなく空を飛ぶ事ができる。
内燃機関については、工作精度の問題があり、工作機械や鋳造・鍛造技術の向上が課題だ。しかし作製のノウハウはあるので、その内、技術者を育成して制作する予定らしい。シルフは、職人とは呼ばず技術者と呼んでいる。なんだかカッコいい。
最後に、強力火薬を合成している。これも石油の生成物から作成している。トルエンと硫酸、硝酸の化合物として作成しているが、今までの花火にしか使用していない黒色火薬に比較して強力な火薬だった。
この世界では、ほとんどの技術が、魔法を前提として成立しており、金属加工技術も未熟としか言いようがない。その様な世界で、シルフが要求する加工技術は、未だ、存在していなかったが、徐々に工作機械をグレードアップさせていくつもりらしい。
シルフは、鋼鉄の円柱を鍛造して貰い、ゴロタにらせん状の溝のついた穴を、端から端まで貫通して貰った。
穴の直径は9mmだ。後は、粘土で型を作り、色々な部品を鋳造している。少し大きめの穴が6つ、放射状に貫通させた大きな円柱や、スプリングなどだ。最後に、取手のところに木製の部品を嵌め込んで、ネジで止めて出来上がりだ。
シルフは、『リボルバー』と呼んでいたが、指鉄砲のリアル版だ。
火薬は、真ちゅうの円筒に蓋をしたものを作り、そこに火薬を少しだけ注ぐ。鉛の円柱の先を丸くしたもので、上から蓋をし、下には、特製の火薬が装着されたキャップを嵌め込んだ。これを50個作っておく。
ゴロタとシェルがシルフに呼ばれた。シルフの作った『リボルバー』を試して貰いたいそうだ。木製の部分を手に握り、人差し指を丸く囲まれた金属製のレバーに掛ける。上の部分には、切込みを入れた部分と、先端の尖った部品の延長線上に、標的の泥人形を合わせ、レバーを引く。
轟音とともに、先端から炎が出て、次の瞬間、標的に9mmの穴が空いた。成功らしい。
今度は、別の作品を試す。これは、円筒形の弾倉がなく、『マガジン』と呼ばれるものをグリップの下から押し込む。遊底を後ろに引いて、装弾だ。
狙いを定めて、引き金を引く。上の部品が激しく後ろにスライドし、真ちゅうの部品が、右上方向に弾き飛ばされた。上のスライドした部分は、バネの力で元の位置に戻された。右手に持っていたのだが、結構な衝撃が右手に来ていた。しかし、怪我をするほどの事はない。辺りには、硝煙の匂いが立ち込めていた。
標的の泥人形は、粉々に砕け散っていた。次に、泥人形を5体並べ、シェルに同じように撃って貰いたいと言ってきた。全ての標的に当てて貰いたいと。
シェルは、その武器を右手に持ち、次々とレバーを引いて行った。全ての標的が砕け散った。シェルは、右手が痛かったようだが、怪我はしていない。シルフが、しっかり握っていないと、手を痛めてしまうので、気を付けるようにと言っていた。そういうことは、最初に言ってもらいたかった。
シルフは、この武器は、ハンドガン又は拳銃と言うそうで、形式は『MP92F』と言うそうだ。何故、その番号なのかは教えてくれなかった。
最初に作った『リボルバー』は、『コルト・パイソン357マグナム』と言うそうだ。装弾数は少ないが、基本的には極めて故障の少ないものらしい。ゴロタが、このコルトを使い、シェルが『MP92F』を使うことにした。
シェルに、弾倉への弾の込め方などを教えていたが、ゴロタは、もう一度コルトを試写してみる。『瞬動』モードで射撃してみたが、それでも弾丸の動きを目で追うのは至難の業だった。音速近くの速度なのだが、弾丸が小さいので、空気を切り裂く衝撃しか目に留まらないのだ。何発か打ち込んでみて、初めて、弾丸を目で追うことが出来るようになった。次に、撃った球を左右に曲げてみる。速度が速いので、90度曲げることはできなかったが、30度程度なら曲げることができた。うん、これくらいで良いだろう。
シルフは、今度、暇を見て、女性陣全員分の拳銃を作るそうだ。ただし、学生たちは、高校卒業後にして貰った。
最後に、シルフは、シリコンラバーで人工皮膚を作り、自分自身をアップグレートしていた。
身長160センチのシェルの誕生だ。この前、足のパーツを10センチ伸ばしている。ご丁寧な事に、髪の毛までシリコンラバー製の頭皮に直植えにしている。眉毛や睫毛もそうだ。もう、誰も見分けがつかなくなってしまった。そのため、足のパーツは外させた。身長150センチのシルフのままにしてもらう。
そういえば、シルフの能力はどうなっているのだろうか。もし、魔物と戦うとして、戦闘能力は高いのか低いのか。一度、測定してみたいが、測定は血液が必要なので、シルフの能力を測定することはできない。
シルフが、『今度、一緒にダンジョンに潜りましょう。』と誘っていたが、目付きが怪しいので、シェルと一緒でなければ潜らないことにした。
タイタン市は、世界最先端の技術立国になるみたいです。