第第325話 中央フェニック帝国タイタン領も貧しかったようです。
中央フェニック帝国は獣人の国です。人間は、被差別種族です。
(10月20日です。)
ゴロタは、中央フェニック帝国南部タイタン領にいる。今日は、旧3領内の市町村長を、旧リカオン辺境伯の領主館に集めている。領主代行のイチローさん、サクラさん、それにセバスさんもいる。
3領で5市7町16村あり、人口はおよそ19万人だ。
ゴロタは、3領を纏めて南部タイタン侯爵領と呼び、今までの各領地は郡と呼ぶことにする。リカオンの領地は南部郡、コヨーテ領は南西郡、ジャッカル領は南東郡だ。
リカオン市は、南部タイタン公爵領の領都でイチロー市、コヨーテ市はセバス市、ジャッカル市はサクラ市と改称した。他の市町村はそのままだ。今年は、冷たい南風が夏の初めまで吹いたため、麦の生育が悪く、年貢の猶予をお願いしていたらしい。猶予期間は、3年で、来年から年貢は、6割を3年間納める約束だったと言っていた。そこで、ゴロタは当面の施政方針を発表した。
1、今年の年貢及び税金は猶予ではなく免除する。
2、市町村長及び市町村の職員の経費として一人当たり年金貨5枚を支給する。来年からは、年貢及び税金から差し引く。
3、何か困ったことがあればすべて、領主代行に相談に来ること。
4、来年度以降になるが、各村に小学校を建設する。各市には中学校も建設予定である。また、旧領都の高校で優秀な成績を取った者は、特待生としてタイタン学院大学に留学することが出来る。
5、以後、領地はフェニック帝国南部タイタン公爵領と呼称する。
集まった自治体の長は吃驚している。当然だ、税や年貢がタダになったのだ。中には、市区町村の職員の生活を心配する長もいたが、すべてゴロタの方で面倒を見るので心配をしないようにと言っておいた。
来年は、必ず豊作にするので、これからの事は心配しないで貰いたいと言ったら、来年の事ではなく、これからの夏をどうやって生き抜くかが問題だと言われた。今年の2月の収穫が悪く、穂に実がならなかった。平年の3割程度しか収穫出来ない地域もあったそうだ。南の森も、木の実が少なく、獣が北の集落近くまで出てきており、それを追って魔物も出没しているそうだ。
領都より北側は、まずまずだが、南の方は、ひどい有り様だ。来年の2月の収穫に向けて、これから急いで種まきをしなければならないのに、種籾も残っていない村もあるようだ。今年の北の大陸、特にタイタン領は大豊作だった。倉庫に入りきれないほどで、穀物相場も低迷しているのだ。
ゴロタは、フェニック帝国内各地の穀物倉庫に、北の大陸から大量に小麦とトウモロコシを保管した。しかし、まだ安心できない。ゴロタは、イチローさんと共に、南の森に沿って領地を横断して見るつもりだ。ついでに森の中も踏破してみよう。
イチローさんが、行きたいのは、山々だが、領内の運営にやることが山積しているので、むりだとのことだった。やはり、一人で回ることにする。
最初に、カーマン王国との国境に近い村、グレタ村に行ってみることにした。この村の村長は、ゴロタの招集にも来ていなかったのだ。村までは、飛行艇『ゼロ』で行くことにした。
村に到着して、すぐに異変に気がついた。この村は、飢餓の村だった。大人達は、家の軒先でぼんやりと座っているのに、子供たちの姿が見えない。年寄りもいなかった。粗末な野良着を着ている牛男に声を掛けた。
「すみません。村長さんの家はどちらですか?」
その男は、左手を少しだけ動かして村の中の方を示した。ゴロタは、示された方に向かって歩いていった。村長の家はすぐに分かった。他の家よりも、二回りほど大きいのだ。しかし、中に人のいる気配はない。外から声を掛けたが、返事はなかった。
家の中に入ってみる。一人の山羊男が、部屋の中に立っていた。剣を構えているが、見るからに剣など持った事も無いような持ち方だった。
「お前は誰だ。もう、食べ物は無いぞ。」
「僕は、ゴロタと言います。今度、この村の新しい領主になりました。」
「その、新しい領主が何の用だ。もう、種籾まで持っていって、まだ何か持っていくのか?」
駄目だ。会話になっていない。ゴロタは、家から出ると、前庭に大きな竈を作った。鍋をかけ、お湯を沸かす。鶏ガラでたっぷりの出汁をとる。アクはこまめに取り除いていく。オート麦を出汁の中に入れ、柔らかくなってきてから、たっぷりのミルクと砂糖を入れた。甘い香りが村内に漂う。男達が集まってくる。ゴロタは、皆に、ミルク粥を食べさせた。最初は、おそるおそる受け取っていたが、食べ始めたら、目が輝き始めた。村長も、家から出てきた。ゴロタは、小麦とトウモロコシの入った大きな袋を村長の家の前に積み上げた。
ミルク粥は、結局、3回作ってあげた。しかし、ここにいる男達は、せいぜい60人位だ。村長に、他の村民はどうしたか聞いたら、女達は、売られたか、東の村を目指して出ていった。子供達は、死んだか、森の中に行って魔物に殺されたかもしれない。残った子と小さな子供は、東の村に向かった女達が連れていったそうだ。
これは駄目だ。ゴロタ1人では対応がとれない。ゴロタは、シェル達を呼んだ。村長の家と、今は使われていなさそうな古い教会が臨時の救護所になった。
村の中は、シェル達に任せ、ゴロタは、森の探索に向かう。子供達は、村の食べ物が無くなったので、森の中に食べ物を探しに行ったのだろう。しかし、春先の森は、腹を空かせた獣と、それを狙う魔物が一杯で、子供達が入っていくなんて、餌が来ましたと言うようなものだ。
ゴロタは、イフちゃんとスーちゃんを飛ばして探索に当たらせた。スーちゃんが、木ノ上にぶら下がっている犬人の子供の死体を見つけた。これは、大型の猫、豹の仕業かも知れない。きっと、自分の餌を確保するために、子供の死体を樹の上まで運んだのだろう。
ゴロタは、当たりの気配を探索した。誰もいない。いや、いる。獣ではない。魔物か何かだ。気配を消しているようだが、匂いは誤魔化せない。シルフが警告してくれた。
『未確認物体、ステルス機能あり。方角1500距離200速度40で接近中。18秒後に接触予定です。』
ゴロタは、気配を消した。木の陰に隠れる。木々の葉が揺れる。しかし敵の姿は見えない。ゴロタは、目を閉じた。
『赤外線探知モード。敵は、2体です。』
頭の中に、映像が浮かび上がる。緑色の背景の中に、赤い影が2つ浮かんでいる。向こうもこちらに気が付いたようだ。敵は、二手に別れた。形は、大きな人型だったが、変な道具を手にしている。
その道具が、白く光った。まずい。ゴロタは、『舜動』で10m程右に移動した。丸く平たい光る物体が、物凄く早い速度でゴロタのいたところを掠めていく。木々の数本がなぎ倒された。
ゴロタは、目を開けた。やはり何も見えない。目を閉じる。映像が浮かび上がる。1人は木の上だ。ゴロタを狙っている。もう1人は、ゴロタの方に近づいてる。ゆっくりとだ。ゴロタが彼らを認識しているとは思っていないみたいだ。ゴロタは、指鉄砲で、木の上の敵を打ち落とす。足の付け根を狙った。片足を飛ばされた敵は、たまらず木の上から転がり落ちた。その瞬間、もう一人の敵が、腕に付けた剣をうち下ろしてきた。『舜動』でかわすと共に、熱線を纏った手刀で、剣を付けた腕を切り落とす。
彼らは、姿を表した。異形だった。見たこともない服を着ていて、顔ものっぺりとした卵形の面を付けている。
ゴロタは、面を取り外そうとしたが、取れなかった。穴も空いていないのに、どうやって見るんだろうか。服には、色々な装置を付けていた。あの異世界で見たような光が輝いている。
切り落とされた腕の付け根から、赤い体液が流れ落ちている。動かずにじっとしている。痛くないのだろうか?
『血液から、鎮痛化学物質の反応があります。』
シルフが教えてくれた。なるほど。だから、痛さで転げ回らないのか。ゴロタは、その異形の者に聞いた。
「あなた達はどこから来たんですか?あの木の上の死体は、あなた達の仕業ですか?」
「*@#%/+;& #%)/[*;:@+*?/」
駄目だ。何をいっているのか、さっぱり分からない。試しに、『念話』で同じことを聞いてみる。
『お前は誰だ。この星には、赤外線探知などないはずなのに。』
『僕はゴロタだ。あなた達が、あの子を殺したのですか?』
『俺達は、この星の調査に来たんだ。生態系に危害は加えない。』
『では、何故、僕を襲ったのですか?』
『あの木の上の人型生物を殺した奴かと思ったんだ。』
『あれは、猫型の獣の仕業だ。』
『そうか、それは済まなかった。』
悪い者達では無さそうだ。ゴロタは、彼らの腕と脚をくっ付けてやった。この人達は、表情こそ分からないが、驚きの声を上げていた。
『この星の人間は、皆、こんなことが出来るのか?』
『分からない。』
ところで、この人達は、どこから来たのだろうか?
『あなた達は、どこから来たんですか?』
『この星の呼び名では、ケンタウルス座アルファ星の近くの第5惑星から来た。距離は、1.325パーセクだ。』
うん、何を言っているのか全く分からない。とにかく、彼らの事は放っておいて、子供達を探そう。ゴロタは、彼らに別れを告げようとしたが、結局一緒に探すことにした。
彼らの名前は、『アン』と『ドゥー』と言うらしい。素顔は、見ない方が良いと言われて、何となく、口が縦に割れて、牙が横に飛び出てくるような顔を想像してしまった。
二人が言うには、空の上に飛行船が浮かんでいて、そこから地上を監視しているので、生命反応を確認してくれるそうだ。シルフが、教えてくれた。
『通信周波数を確認、アカウント、パスワードを解析、同期します。映像を共有しました。』
頭の中に、森の全景が俯瞰でみえる。ズーミングした。ゴロタを中心に、2キロ四方をスキャンした。10キロ以上の人型生命反応が5体あった。固まっている。その周辺には人ではない何かが10体以上蠢いている。
南西方向だ。飛翔し、急いで移動する。彼らも、浮遊してついてくる。大きな木の上に彼らはいた。
ゴロタは、かなりの領土を手にしましたが、まともなところは、タイタン市周辺だけでした。