第324話 陛下は鉄オタでした。
タイタン領内に鉄道が敷かれました。そういう先端技術に目の無い王様がいます。
(10月15日です。)
今日は、グレーテル国王陛下夫妻、ジェンキン宰相、マリンピア魔導士長それにスターバ騎士団長がエクレア市に来た。当然、お忍びだ。と言うか、王国の重鎮が、全員、城を留守にして良いのですか?
エクレア駅は、まだ建設中なので、ホーム脇のテントに皆さんを招き入れる。
ホンデン技研の社長が、緊張しながら、汽車の構造と性能について説明している。駅馬車の4倍の速度で、一度に600人を運ぶことができるのだ。
それだけを聞いて、皆は目を丸くした。しかも、動力が、お湯で動くとは信じられないようだった。まあ、単なるお湯とは違いますが。
ホームに『つばめ01号』が到着した。一行は、先頭に特別展望車『マイテ10型』が連結されている。機関車が切り離され、単独で車庫の方に走っていく。そこで転車台を利用して方向変換し、列車の最後尾、タイタン方向では先頭に連結する。陛下の乗車される展望車は、これで最後尾になるわけだ。
展望車は、特等だ。椅子は、革張りのソファが、2セット8人分置かれ、ダイニングテーブルも2セット8人分だ。
最初は、ソファに座ってもらう。キャビン・アテンダントの女の子が、お茶とお絞りをサービスする。白い詰襟の制服、制帽に極端に短いミニスカート、真っ赤なブーツが膝上まであり、絶対領域が目に眩しい。
国王陛下が、不躾なくらい見つめて、皇后陛下に肘鉄を食らっていた。汽笛一声、列車が動き出す。あっという間に、最高速度の時速80キロに達する。揺れも少なく、お茶がこぼれることもない。
キャビン・アテンダント2人が歌を披露する。
♪廻り灯籠の画の様に
♪変わる景色のおもしろさ
♪見とれてそれと知らぬ間に
♪早くも過ぎる幾十里
ゴロタは、彼女達の歌っている唄の意味がよく分からなかったが、調子が良いので好きな歌の一つだった。
昼食は、車内でランチサービスだ。エビフライにカニパスタだ。タイタンさんの最高級ワインと和の国のお酒を出す。国王陛下は、お酒が気に入ったようだ。流れるような美しい風景、綺麗な女の子、おいしい料理とお酒、展望室貸切り料金大銀貨6枚は、決して高くはないだろう。
将来、ニュー・タイタン市まで路線が延伸されたら、夜行列車も運行しなければならないだろう。ということは、寝台車を作る必要があるわけだ。まあ、ホンデン技研に頼めば、きちんと作ってくれるだろう。
国王陛下が、機関車の運転席に乗りたいと言ってきたが、丁寧にお断りした。陛下といえども、機関車の運転席には乗れない。乗客600名の命が懸かっているのだ。
タイタン駅には、定時に到着した。駅舎がほぼ出来上がっていたが、車内で改札を終えているので、降車時は、特に何も対応しない。
現在、毎日、上下線1往復で運行している。列車そのものは、あと1編成あるが、定期メンテナンスのため、余分に1編成が必要なのだ。
タイタン市に国王陛下が来るのは久しぶりだ。綺麗な舗装道路、外観を揃えている店舗やレストラン、ホテルなど、新しい町がどんどん広がっているのだ。現在の人口は、10万人を越えているはずだ。
国王陛下が、道路の真ん中に敷かれているレールを見つけた。現在は、工事中だが、路面電車を走らせる予定だと言うと、それも見たいと言う。まだ運行開始前なので、ホンデン技研の製造工場に行くことにした。広大な工場内では、機関車、客車、貨物車の他に路面電車を作成中だ。路面電車は、仮説のレールの上に乗っていた。空中には架線も設置されている。
動力となるモーターと発電機は、全てシルフの試作品だ。国王陛下は、目を輝かせた。早速、試乗してみる。わずか100mの路線だが、前後に動かしてみる。乗り心地も悪くない。路面電車は、タイタン市交通局が運営する予定だ。
国王陛下が、ジェンキン宰相に我が国にも、このような交通機関が欲しいと言い始めた。ジェンキン宰相は、深いため息をつき、現在の王国の財政状況について説明しようとしたが、国王陛下に『もう良い。分かっておる。』と止められていた。陛下は、凄くガッカリしていた。
ゴロタは、陛下に鉄道建設経費について、1キロ当たりの概算を言うと、ジェンキン宰相の方をチラッと見た。もう、子供状態だ。
陛下は、機関車の置いているブースに行って大きな動輪の前に立ち、ジッと上を見上げている。それから前に回り、シリアルプレートと『つばめ』のマークのヘッドマークを見つめている。
陛下が、機関車の周りを回っている最中に、ゴロタは宰相と相談していた。グレーテル市と、西のウエスト・グレーテル市とを結ぶ路線を建設することにし、その資金はゴロタが出資する。金利は、毎年のタイタン領への賦課金から控除すると言う条件を出した。
ジェンキン宰相は、それでも渋い顔をしていたが、鉄道の収益は莫大だし、沿線開発でも、かなりの利益が見込まれると言うと、初めてニッコリ笑ってくれた。
宰相は、国王陛下の所へ走っていく。宰相の報告を聞いて、驚いた顔の国王陛下が、ゴロタのところまで来て、両手で手を握り、涙ぐみながら喜んでくれた。女王陛下も涙ぐんでいる。
グレーテル市とウエスト・グレーテル市の間は、約200キロ、土木工事は、王国の王立魔導士協会から土魔導士を出してもらう。駅は、立ち退き料がかからないようにグレーテル市の西側郊外に作り、ウェスト・グレーテル市は、将来の西への延伸を考えて市の北側に作る。駅舎は、駅専用の運営会社を設立して、そこに作らせるとして、計算してみる。
線路敷設費がキロ当たり大金貨5枚として、約1000枚、当然、用地取得費はかからない。列車が、2編成分として大金貨200枚、転車台やポイント設備に大金貨100枚、総額大金貨1300枚だ。これは、グレーテル王国の国家予算の1年分だ。金利だけで、年に大金貨65枚だ。現在、タイタン領からの年間賦課金金は、大金貨150枚だから、当分の間、賦課金は85枚になる。
鉄道の収益は、1キロ当たり運賃、銅貨5枚として、片道銀貨1枚だ。1編成定員600名で1日3往復する。乗車率が60%として、1編成での売り上げは、1日当たり銀貨2160枚、それが2編成なので、4320枚だ。必要経費を抜くと、鉄道会社の1日当たり利益は、金貨20枚だ。年間、大金貨730枚が利益になる。約200枚を返済と金利に当てると、500枚以上の売り上げだ。その他、特別車や食堂車の売り上げ、沿線の不動産開発など、利益が確実に見込める事業が目白押しだ。
ゴロタも、土木事業の売り上げや、機関車等の設計費が見込めるのでウインウインだ。
陛下御一行は、領主館でお茶を飲んだ。その際、領主館に住んでいる女性陣のうち、陛下と面識の無い者達を紹介した。ジェリーちゃん以外の高校生と、キキちゃん、ドミノちゃん、それとミキさんだ。ミキさんが、中央フェニック帝国の皇位継承順位第二位の皇女の母親だと言うことに吃驚していた。
しかし、本当に驚いたのは、シルフとあったときだ。その時、シルフはシェルと同じ髪型のカツラを被っていて、同じような服を来ていたので、シェルだとばかり思っていたらしい。身長の8センチ差など、並ばなければ気がつかない。それが、ゴロタの隣にもシェルが座っているのに気が付き、目が点になってしまった。
シルフが、人造人間だと知り、今度は、マリンピア魔導士長の目の色が変わった。古代魔法のうちの最高難度の大魔法が、人造人間の製作だったのだ。いまだ、誰も成し遂げたことの無い魔法。今、目の前で、人間と何ら変わらない動きと会話をしているのだ。
ゴロタは、シルフの場合は、特別で、もう作ることはできないと言い訳をした。
『ゴロタ君、簡単です。制御を並列処理するだけですから。』
シルフの念話は無視した。御一行が帰る段になったが、陛下は、帰りも列車に乗りたいと、駄々を捏ねてきた。
もう、下りの列車は無いのでと、嘘の言い訳をして、王城に転移させた。明日から、少し、忙しくなるだろう。
国王陛下を、王城に送ってから、その足で、バンブー・セントラル建設に行くことにした。バンブーさんと、明日からの工事打ち合わせだ。契約は、あくまでゴロタとすることになっている。
まず、測量だ。測量が終わらないと、正確な設計ができない。途中の川や用水路は、鉄橋を作るとして、問題は、山地や小さな丘だ。迂回した方がいいか、トンネルを作った方がいいかは、地質調査も必要となる。
ゴロタは、経費節約のため、トンネルを作ることにした。ゴロタとクレスタの二人がいれば、ほぼ出来る筈だ。ただし、将来を考えて、鉄骨で補強するつもりだ。とにかく、測量と地質調査が終われば、その結果を、調査報告書面で貰うことにした。当然、詳細設計料は陛下から頂戴するつもりだ。
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シルフが、石油を探していた。原油さえ見つかれば、色々なものが作れる。しかし、タイタン領内で、石油が見つかったと言う話はない。
通常は、過去に海だったところの地下に埋蔵されている筈だが、地質調査が進んでいない、この世界では見当をつけるのが難しいらしいのだ。
シーサイド町の沖合いをボーリング調査すれば、見つかるかも知れないが、海底油田の採掘は、今のこの国の技術水準では難しいとシルフが言っていた。
領内の各市町村長に、臭い水が涌き出ている泉や、流れている川がないか聞いてみることにした。
自国の財政も考えずに何でも欲しがる困った王様でした。