第322話 シルフは、女の子?
シルフは、異世界のスーパーコンピューターです。何故か、ゴロタと思念でつながり、現世界にも思念を送れるようです。でも、それだけではなさそうです。
(10月9日です。)
最近、シルフが、領主館の裏にある作業小屋の中で何かをしている。別に連れて歩かなくても、いつでも通信ができるので不自由はないが、何をしているのかさっぱり分からない。
水晶を細かく砕いたり、川原の砂を集めて何かを取り出している。それと、トウモロコシを発行させ、蒸留酒を作っている。というか、アルコールを精製している。後、亜麻の実から油を絞り出していた。
それらを混ぜ合わせていると、鼻にツンと来る刺激臭がして、無色のドロリとしたものが出来上がった。
『シリコン樹脂、完成♪』
それから、銅の製錬所に行って、物凄く細い導線を作って貰っている。まあ、シェルに頼んでだが。出来上がった銅線に、先に作っていたドロリとしたものを塗っている。何に使うのだろう。
今度は、筒に、塗ったものが乾いた銅線を巻いていく。物凄くきっちりと巻いていった。両端から、導線の端が出ていた。
筒の真ん中に、鉄の棒を差し込んで、ノエルに弱い雷撃を流し込んでもらっていた。
『強力磁性体の完成♪』
とても嬉しそうだ。今度は、円盤に、磁石をセットし、もう一枚の円盤に、導線を巻いた小さな円柱をセットする。
円柱からは導線が延びている。磁石をセットした円盤をくるくる回す。導線同士を触れさせると、青白い火花が発生した。
『発電機完成♪』
後は、どんどん装置がでかく複雑になっていく。もう、誰も何を作っているのか分からない。いくつも同じ様なものを作っている。どうやら、今、建設中の発電所と言うもので使う予定らしい。
それと、似たようなもので、小さいものも作っている。ケースは、鍛治屋さんにお願いして、ミスリル銀の板を叩き出して作っている。
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銅の精錬工場は、次々と来る注文の対応に追われている。銅の純度を高くしろとか、1本で1000mの銅線とかだ。今までは、青銅の武具や食器と銅貨位しか作ってなかったのに、急に難度が高くなった。しかし、それに答えるのが職人だ。皆、夜も寝ないで頑張っている。
タイタン市の鍛治屋さんは、ミスリル銀の加工や、訳の分からないケース、土台、心棒など、次々と鋳造又は鍛造で作り上げていく。最も難しかったのは、丸い球の入ったリングを重ねて、よく回るようにするものだ。球が真円でなくてはならず、またリングも真円でなくてはならない。満足の行く物を作るまで1か月も掛かってしまった。何に使うのか分からないが、大事な部品だと教えてくれた。
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シルフは、柔らかい粘土の塊を持ってシェルのところに行った。
『シェルさん、お願いがあるのですが。』
「なあに?」
『目をつぶって、ジッとしていて下さい。』
「いいけど、何をするの?」
『ちょっと。』
シェルは、静かに目をつぶった。
ビタン!
シェルは、冷たい塊を、顔に押し付けられてしまった。慌てて引き剥がそうとしたが、シルフに押さえつけられて動けない。30秒も経たないうちに、粘土は剥がされた。
すぐにタオルを渡され、顔を綺麗にした。
「何するのよ?」
シルフは、何も言わずに、作業場に戻っていった。
次の日の朝、ダイニングに、少し小さなシェルが座っていた。いや、髪の毛は金色だったので、イメージが少し違うが、顔の作りはシェルそっくりだった。目玉も動くし、瞬きもする。笑うと、口元が可愛らしく動く。驚いたのは、その胸だ。チッパイながら、明らかにシェルよりも膨らんでいた。
しかし、顔の表情はどうやって動かすのだろうか?
『それは、企業秘密です♪』
服は、どこかで見た高校の制服だ。思い出した。ノエルが、魔法学院に通っていた時の制服だ。ミニスカートからスーと延びている脚は、太くもなく細くもなく、絶対に違反だ。
『これから、ゴロタ君のことを、『あなた』と読んでもいいですか?』
「「「「「「ダメ!」」」」」」
妻達が、声を揃えて拒否した。それより、どうして『ゴロタ君』なのだろうか?だが、何も言わないゴロタだった。
それよりも、その制服は違反だ。シェルは、金貨1枚を渡して、適当な服を買いに行く様に指示していた。
『一人では、選べないので、ゴロタ君、一緒に行って。お願い♪』
両手を合わせて、上目使いに頼まれたが、完全にシェルの口まねだった。絶対に断れない。
2人?で、タイタン市の中心街に行ったが、あれ、王都だ。不思議な事に、王都に転移した。今まで、転移に失敗したことなどないのに。
しょうがないので、王都で15歳の少女が着るような服を選んで買った。街を歩いていると、ゴロタの左腕を組んで歩く。小さいが、しっかり存在している胸が、左腕に当たっている。あの、ブラジャー買って下さい。
『えー、ゴロタ君、この方が好きかなと思って♪』
その後、下着屋さんに行ったが、当然、ゴロタは入れなかった。どんな下着を買ったのかは、謎だ。その後、かつら屋さんに行って、緑と紫の間と言うか、いわゆるパートカラーでポニーテールにしているウイッグを注文していた。出来上がりは、1週間後だそうだ。
今の金髪ポニーテールのウイッグを外して、採寸して貰っていたが、何かの病気と思われたらしく、3日で仕上げると涙顔で言われた。いや、絶対違うから。
その後、ティファさんに行って、ジット指輪を見ている。動こうとしない。
諦めて、ダイヤの指輪を買ってあげた。とても喜んで、キスしようとしたが、その趣味はないので、横を向いて逃げた。店の人が、『奥様、少し変わられましたか?』と聞いてきたが、無視した。
気づいたことがある。さっきから、買い物をしても、荷物を持っていない。どうしたのか聞いたら、時空の狭間に収納したらしい。もしかすると、『空間転移もできるのか?』と聞いたら、『ウフフ♪』と笑うだけだった。ちょっと、イラッと来た。
それと、シルフはゴーレムではなく、『アンドロイド』という種族らしい。極めて人間に近い形態を持つ人造人間、それがアンドロイドらしい。
ゴロタ達は、シルフがあけたゲートを通って領主館まで帰った。
夕食の時、皆は呆れてしまった。シルフの着ている服が、シェルの持っている服のサイズ違いなのだ。これで、ウイッグが出来てくると、絶対シェルは怒るだろうと思うのだが、黙っていた。
シェルが、口を開いた。
「ちょっと、何で私の真似をするのよ!」
『ゴロタ君が、シェル様を一番好きだから。』
シェルは、顔が真っ赤になった。皆は、白けてしまったが、まあ、本当の事かなと、納得してしまった。
そう言えば、女性陣の内、誰が一番好きかと言う話題は、禁断の話題だったような気がする。
シルフは、夕食時には席に着かず、ゴロタの右後ろに立っている。まあ、アンドロイドだから、通常の食事は必要ない。それと、夜、寝る必要がない。
3階の部屋のうち、1室を使うようにと言ったら、必要ない。作業小屋にいるので、用があれば呼んで貰いたいそうだ。もしかすると、一晩中仕事をする気なのだろうか。
『ゴロタ君と一緒の部屋なら、休んでもいい。』と言っていたが、全員が無視をしていた。とりあえず、作業小屋に、テーブルセットと簡易ベッドを運び込んだが、小屋の中をのぞいて吃驚だ。見たことも無いような工作機械や、ガラスビンが並んでいる。絶対に、この世界のものではなさそうだ。
もう、知らん振りをして、本館に戻ることにした。明日は、魔法学院に行って、ノエルの研究のお手伝いをする予定だ。
夜、ジェーンと一緒に別荘に行ったが、用心のため、別荘全体をシールドした。まあ、ゴロタの思念は全てシルフに読まれているが、気休めにはなるだろう。
翌日、シルフと共に王立魔法学院大学部専門研究科ノエル准教授研究室を訪問した。マリンピア魔導士長兼学院長も研究室に来ていた。
「シェル殿、いくらか背が小さくなられたかな?それに、髪の毛の色は、金髪でしたかな?」
シルフは、黙っている。まあ、適切な答えは見つからないだろうが。それより、ノエルが解読できずにいる古代書だ。ゴロタも見てみると、あれ、この字、あの世界の字、日本語だ。漢字とひらがな、アルファベットに数字。アルファベットと数字はこちらでも使っているが、漢字はお手上げだ。
シルフは、紙とペンを借りると、ものすごいスピードで翻訳を始めた。あの世界には、長い間、魔法は存在していなかったはずだ。それに古代なんて言うから、よほど古いのかと思ったら、ずっと未来じゃないか。
シルフの思念が飛んできた。
『この世界の時空と、あの地球の時空は、接点がないので、基準の時空がありません。時間を比較することは不可能です。』
うん、ごめんなさい。何を言っているか分かりませんでした。
ノエルは、機嫌が悪かった。研究室に入って来た時、シルフがゴロタと手を繋いでいたからだ。それも、指を絡ませる恋人握りで。
それに、シルフが得意そうな顔でノエルを見ていたのも、気に障ったようだった。
どうやっても、シルフは人間にはなれないので、妻や婚約者にはなれないのですが、シルフは持てる技術を全て動員して何とかするつもりです。