第320話 ミキさん邸が出来ました。
ミキさんが、領主館に住まないのは、シェルが反対しているのと、婚約者の母親と噂になるのを防いでいます。
(9月20日です。)
領主館の敷地内に建築中の別邸が完成した。この別邸は、ミキさん親子が住むための専用邸だ。執事1名とメイド3名は、既に雇い入れており、現在、王都の公爵邸で、ミキさんの世話をしている。
執事さんは、ベンさんという48歳で、執事歴33年の人だ。
メイド長は、ベティさんという29歳の女性で、王都の公爵邸に勤めていた人を移動させた。
それに乳母を1人、この女性は、アリエス教会から派遣して貰った26歳の女性だ。あと、タイタン領内から15歳と17歳の女の子を行儀見習いを兼ねて雇っている。
本当は、領主館に余裕もあるのだが、シェルの希望で、別邸に住んで貰うことにした。また、このまま王都の公爵邸に住み続けても良いが、レオナちゃんの教育のためにも、タイタン市で育てた方が良いとの事だった。
その辺の事は、すべてシェルに任せている。今日は、ガダリロ宰相も招待しての新築祝いだ。
ガダリロ宰相は、戴冠式以降ろくに休みを取っていなかったので、今日が久しぶりの休日のようなものだ。それにゴロタの領主館がどういう所なのか非常に興味があったのだ。
ゴロタは、宰相をゲートを使って転移させたが、広大な前庭に配置されている、ゴーレム警備兵に吃驚していた。
それにゴロタのそばについて歩くミスリル製の銀色のゴーレム、顔かたちは非常に美しいのだが、どこかで見た気がする。口元まで動かして話すのには吃驚してしまった。体型は、胸が無いので、何も着ていなくても大丈夫なのだが、これが胸まであったら、見ている方が少し恥ずかしくなるくらいだ。
ミキの宮様の御用邸も立派だが、奥の領主館、中央フェニック帝国の皇居位の大きさ位はありそうだ。一体、何部屋あるのだろう。聞くと、それほど多くない。という事は、1室1室がとんでもなく大きいのだろう。
それに、使用人たちの住居棟や厩舎も半端ない。あと、正門に続く道の幅員がとんでもなく広いし、正門も折り畳みが出来るタイプだが、幅は優に30m以上ありそうだ。聞けば、飛行艇がそのまま滑走路として使用するので、その幅が必要なのだそうだ。
とりあえず、一旦、領主館の中に入る。そこには、大勢の執事さん、メイドさんの他に、多くの女性が出迎えてくれた。この前の戴冠式の時に来てくれた奥様達と、婚約者様達だ。
今日は、武装姿ではなく、フォーマルなミニスカ姿なので、美しさもひときわ目立っている。あ、さっきのゴーレムが誰に似ているか分かった。第1夫人のシェル様にそっくりなのだ。
出されたお茶もとても美味しいものだった。砂糖は真っ白な四角いもので、帝国にはないものだった。また、ミルクも濃厚なもので、このまま、お茶の中で固まってしまうのではないかと思えるものだった。
お茶と一緒に出された『たいたんおの月』というお菓子は、スポンジケーキの中に甘いクリームが満たされており、口の中に広がるクリームが、さっぱりとした甘さで、非常に高級なお菓子だと直ぐに分かった。
このお菓子は、第2夫人のクレスタさんの店で売っているそうだ。帰りに妻と臣下たちに買って帰りたいものだが、幾らするんだろうかと心配しているガタリロ宰相閣下だった。
ゴロタの執務室に行って、中央フェニック帝国の諸問題と財政状況について報告した。報告といっても、平素から、ゴロタは帝国の宰相執務室に行っているので、特に重要なものは無かったが、放っておけない事案が一つだけあった。
それは、南方3領において謀反の恐れがあると言うのだ。現在、流れ者とか、帝都から逃げ出した元騎士達を傭兵として大量に雇っているそうだ。
ゴロタは、その3領の領主を処刑した場合、誰がその領地を統治するのか聞いたところ、現在、他の領主・貴族は、自分の事で手一杯なので、是非、ゴロタ殿に統治して貰いたいとの事だった。北にグレーテル王国が睨みを利かせ南にタイタン領が出来れば、帝国内の安泰は約束されているようなものだとの事だった。
ゴロタは、その意見には、反対だった。とてもそこまで面倒を見る余裕はない。しかし、放置も出来ない。ゴロタは、その3領地をゴロタ子飼いの者に統治させ、セディナ皇帝陛下が15歳になられた時にお返しすると言う案だったら承諾することにした。
子飼いの者は、獣人のイチローさん、サクラさん、それに人間のセバスさんだ。それぞれに王国の爵位を与え、さらに帝国でも叙爵することにして、赴任させると言うものだ。
ガタリロ宰相は、そんな事ならすぐにでも叙爵しましょうと言ってくれたが、まずグレーテル王国の爵位を貰ってからにして貰った。
南3領の平定は、ゴロタとシェル、エーデル、ノエル、ビラ、シズの6人で行う事にすると言ったら、ガタリロ宰相は、『へ!?』という言葉にならない声を出してしまった。
ミキさんの新居入居祝いは、盛大に、かつ無事に終わった。そういえば、ミキさんは、今、タイタン学院高等部1年に編入して勉強中だ。本来なら高校3年生だが、学力が追い付いていなかった。
ジェリーちゃん達と同級生になって、楽しく学園生活を送っているそうだ。ゴロタは、制服姿のミキさんを見ると、和の国での事が思い出され、当分、旅行などには行かないようにしようと誓うのであった。
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(9月23日です。)
ゴロタとシェル達は、中央フェニック帝国南部のリカオン南部辺境伯領の領都にいる。目立たないように、安い宿屋に分散して泊まっているが、全員、冒険者という触れ込みだ。いま、イチローさん、将来の南部領代官に、領内の情勢を聞いている。イチローさんは、戴冠式以降、ずっと南部領周辺の状況を偵察していたのだ。
調査した結果は、いわゆる悪徳領主だった。リカオン辺境伯は、ゴリラ種の猿人だが、東のゴーダ共和国から人間種を誘拐してきては、自分の農園で奴隷として働かせているそうだ。その数、なんと700名だ。また、領民に重税を課しており、今年の年貢は5割に上るそうだ。そのくせ、帝国には、凶作を理由に賦課金の支払いを拒否している。
辺境伯領の北に位置する2郡の領主コヨーテ男爵とジャッカル子爵は、リカオン辺境伯の腰ぎんちゃくで、一緒に甘い汁を吸っているようだ。
ゴロタは、まず、北の2郡を平定することにした。一気に夜襲も良いが、とりあえず皇帝陛下の後見人として領内に視察に行く風を装い、手紙を出してみる。それにどんな反応をするかで、対処方法を決めようという事になった。
次の日、北東に位置するコヨーテ男爵領に行く。領都のホテルに泊まり、男爵に手紙を出した。
・領内の農園で、人間の奴隷を使用しているとの噂があるが、その真偽について
・年貢が5割以上なのに、皇室に上納がない事について、その理由
・旧騎士団の騎士や衛士を雇用しているが、その真意は
午前中に、質問書を送付し、ホテルで回答を待っていると、午後、ホテルが領主子飼いの騎士団、衛士隊に囲まれた。中には、明らかにゴロツキと思われる男達もいた。集団の中にコヨーテ男爵もいるようで、ホテルから出てくるように叫んでいる。
ゴロタ達は、皆で相談していた。最初なので、シズ、イチローさん、サクラさん、それにイチローさんの配下の者4人が対処することになった。皆、完全武装だ。
シズさんが、『ヨイチの弓』に5本の矢をつがえて放つ。一度に5人の右腕が吹き飛んだ。イチローさんとサクラさんが飛び出て行く。右手に直刀を逆手で持ち、左手には忍者手甲鉤を嵌めている。つむじ風のように集団の中を通り過ぎて行くと、次々と男たちが、倒れていく。目をつぶされたり、腕を切り落とされたり。決してとどめを刺さない。浅く切って戦闘力を削いでいる。刀が相手の肉に挟まって抜けなくなるのを防いでいる。
シズが『竜のアギト』を抜き、斬撃を放つ。数十人の胴体が二つに分かれた。無詠唱で、手をかざす。『地獄の業火』が、ゴロツキどもを殲滅する。
腰を抜かして、泡を吹いているコヨーテ男爵のそばに、シズが寄って行く。手をかざして、目を閉じる。シズの緑色の髪の毛が逆立ち、手が赤く光始めた。その光が男爵の身体を包み込む。
男爵は、口から涎を垂らしながら、ゆっくりと立ち上がった。もう、シズの言いなりだ。『傀儡』スキルを使ったのだ。
『本当の事を言いなさい。』
男爵は、深くうなずく。シェルが色々聞いていたが、とにかく極悪非道だという事が分かった。市民が見守る中、男爵邸に行き、財産を没収した。家族は、妻と成人した子供3人、それに愛人が6人いたが、皆、屋敷を追放した。着の身着のままで、冬の寒空に放り出したのだ。妻達は、実家に帰るだろうが、その後の事など構っていられなかった。
財産は、大したことは無かった。どうやら浪費癖があるみたいで、書画骨董の類が山のようにあった。驚いたことに無傷のワイバーン特殊個体があった。きっと、ゴロタのお得意さんだったのだろう。少し残念だった。すべて押収した後、『傀儡』を解き、街の中に放り出した。騎士団、衛士隊、ゴロツキの死体は、タイタン領内の『南のダンジョン』最下層に放り込んだ。
フェニック帝国は、皇帝の力が弱いようです。
今日は、土曜日ですが、まだ正月休み中なので、夕方の投稿はありません。ご了承下さい。