第30話 可憐な少女の秘密
いよいよ、この物語でも大きなファクタが登場しました。
でも、ゴロタにとっては、本当に良かったのでしょうか?
(11月16日です。)
男は、立ち込める煙の中、真っ直ぐ僕に近づいて来た。僕は、お兄さんの方を見て、さっきの夢を思い出していた。この人が、『ベルの剣』に閉じ込められていたなんて、どうも信じられない。さっきの夢の中では、会話できても、現実世界では、相変わらずのコミュ障だった。
「止まりなさい。」
僕の後ろから、シェルさんが、弓矢を構えて警告をした。鏃が青白く光っていて、シェルさんも真っ赤に光っている。最高戦闘モードだ。
男は、構うことなく僕に近づいた。
バシュッ!
シェルさんが、男の胸を目掛けて矢を射る。しかし、矢は男の手に掴まれてしまった。今度は、3本同時に放った。男は、3本とも片手で掴んでから、
「我にこのような遅き武器は、役に立たぬぞ。」
と言って、とても憎たらしい笑い顔をシェルさんに向けた。僕は、左手に下げていた『ベルの剣』を納めた。それを見た、シェルさんも弓矢の構えを解いた。男は、頷きながら、
「姫君には、初めてお目にかかる。我は、その剣に封じられていた『お兄さん』である。お見知り置きを。」
「え、お兄さん?ゴロタ君、お兄さんがいたの。」
「違う。お兄さんじゃない。この男の人が、『お兄さんと呼べ。』と言ったから、そう呼んだ。」
「あれは、そういう意味じゃないじゃろ。ゴロタよ、お主は、バカなのか?」
「ゴロタ君は、変わっているけど、馬鹿じゃないから。」
「ふむ、所謂コミュ障なのじゃな。」
お前は、いつの時代の男だ。
「兎も角、ここは煙くていかん。早くここを出よう。」
誰のせいで、こんなになったのよ。
「出るったて、今までいなかった、あなたの様な人が増えていたら、皆から不審がられるわ。私達だけで出るから、あなたは勝手に何処かに行ってちょうだい。それでは、さようなら。」
シェルさんは、この変な男の人に関わっていると、碌な事にならない気がして、僕の手を取って帰ろうとした。
「待つのじゃ。我も、剣に戻るのじゃ。」
男の人が、消えた。
本当に、目の前から居なくなった。シェルさんが、辺りを見回していると、僕が
「あの人、『剣の中じゃ。』、と言ってる。」
「えーっ、ゴロタ君、聞こえるの。本当に剣の精霊なの。」
「あのー、私も居るのですけど。」
存在を忘れられていた、エーデル姫だった。ダンジョン攻略は終わった。
冒険者達の内、命を失った者、怪我をした者も少なくなかった。冒険者となった時点から、そのことは覚悟の上であっただろうが、やはり、やるせない気持ちになってしまう。怪我をした場合は、パーティーの仲間やポーター達が連れて帰るが、死んだ場合は、装備品や遺品を回収して、その場に放置して行く。それが、ダンジョンのしきたりだった。
帰る途中、泣きながら遺品の回収をしているキキのお兄ちゃんを見た。もう、眼帯や包帯はしていなかった。
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その日の夕方、かなりの額の成功報酬と、討伐報酬を貰ったので、前から行きたかった大海老料理店に行くことにした。店内に入ったら、係の人が案内してくれるのだが、
「4名様ですね。」
「え、3名なんですけど?」
シェルさんが、後ろを見て、目が点になった。お兄さんが、立っていた。あの、真っ赤な装いで。
結局、4人で食事となったが、その席での話し合いで色々な問題点が判明した。まず第一に『お兄さん』という名前がおかしい。どう見ても『おじさん』である。見た目年齢は、30代後半かな。ゴロタの父親より年上と言ってもおかしくない。
次に外観。口髭を生やしているが、真っ赤な髭が凄く変。耳が尖っているが、エルフの特徴が顔に全く無い。どちらかと言えば、遠い東の海の向こうにあるという和人の国の人に似ている。それに服装のセンス。貴族服を着ているが、体の線にピタッとくっついて、見てて凄く痛い。
まず名前を決めるべきだ、という事になった。
お兄さんの話では、昔、「イフリート」と呼ばれていたが、それでは街中で呼ぶこともできない。どうしたら良いかと皆が考えていたら、
「イフリートの『イフちゃん』が良いと思うのであります。」
エーデル姫が、提案した。誰も反対しなかったので『イフ』という名前に決定した。
次に外観、その赤はない。絶対ない。年齢的に合わない。『見た目』的に合わない。知らない人が見たら、絶対、残念な人に思われる。現に、今も店の人や、他のお客さんの視線が痛い。そんなことを言い合っていると、
「分かったのじゃ。」
と言ってトイレに行った。帰ってきた姿を見て、皆、口をアングリさせた。帰ってきたのは、10歳位の女の子だった。顔や、身長はゴロタそっくり。髪の毛の色と目の色だけが違う。当然、赤い。服装は、ピンクの花柄のブラウスに赤い吊りスカート。白いソックスに赤い短靴と、どう見てもイフちゃんだった。
店の人が、『先ほどの紳士はどこに行かれたのか』と聞いてきたので、先に帰って、この子が来たという事にした。
何でも、元々は、実体のないスピリットなのだとか。人間は、スピリットも精霊も一緒にしているが、スピリットの方が属性に依存する事が多く、イフちゃんみたいに変化できる方が珍しいらしい。当然、スピリットには年齢も性別もない。あるのは意識だけである。
いつからスピリットなのかは、あまりにも昔なので忘れたらしい。あの剣は、昔の大魔法使いが、イフちゃんのために作ったらしく、平素のエネルギーダダ漏れを防ぐために、その中に入っている事にしたらしい。
大魔法使いが死んでからは、剣から出る事が出来ず、ジッとしていた。ゴロタが力を注ぎ込んでくれたので、出て来る事が出来たそうだ。
今は、僕がそばにいるので、いつでも出たり入ったり出来るらしい。この姿になったことで、エネルギー制御ができるようになったとのこと。
『ベルの剣』を抜いた時、物凄い気を発揮していて、皆が怖がった事を伝えると、たまに外に出て気を発揮しないと溜まり過ぎてしまい、剣に入っていてもダダ漏れになってしまうとのことだった。
何て、迷惑な奴だ。
そう言えば、イフがイフちゃんになってから、コミュ障が出ていない。結局、仲間内ではエーデル姫に対してのみ、少し残っているゴロタだった。
その日の夜、家に戻って、お風呂に入った。イフちゃんは、ゴロタと一緒にお風呂に入ると行ったが、
「「絶対にダメ」」
と二人に拒否された。寝る段になって問題点が発覚した。イフちゃんが、どこで寝るかだった。流石に、もうダブルベッドは狭すぎて無理だ。結局、剣の中に入って寝る事にした。
皆は、知らなかった。スピリットは、肉体が無いので眠る必要が無く、食べる必要もない。ただ、イフちゃんの『気まぐれ』と『好奇心』だけである事を。
翌朝、ギルドに行った。イフちゃんは、剣の中だ。色々と騒がれると面倒だから。3階で、皆のレベル確認をする。
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【ユニーク情報】
名前:ゴロタ (ゴーレシア・ロード・オブ・タイタン)
種族:古????????種族
生年月日:王国歴2005年9月3日(15歳)
性別:男
父の種族:魔族
母の種族:妖精シルフ族
職業:????、冒険者:ランクA
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【能力情報】
レベル 13(3UP )
体力 5100(300UP )
魔力 12300
スキル 7500(400UP)
攻撃力 7500(300UP)
防御力 10200(400UP)
俊敏性 7600(200UP)
魔法適性 すべて
固有スキル
【威嚇】【念話×】【持久】【跳躍】【瞬動】
【探知】【遠見×】【暗視】【嗅覚】
【聴覚】【熱感知×】
【雷撃×】【火炎×】【氷結×】【錬成】
【召喚×】【治癒×】【復元×】【飛翔×】
【??】【??】【??】【??】
【??】【??】【??】【??】
習得魔術 なし
習得武技 【斬撃】
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続いて、シェルさんが確認する。
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【ユニーク情報】
名前:シェルナブール・アスコット
種族:ハイ・エルフ
生年月日:王国歴2005年4月23日(15歳)
性別:女
父の種族:エルフ族
母の種族:ハイ・エルフ族
職業:王族 冒険者ランクA
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【能力】
レベル 27( 4UP)
体力 190(70UP)
魔力 160(40UP)
スキル 140(60UP)
攻撃力 220(70UP)
防御力 70(10UP)
俊敏性 160(60UP)
魔法適性 風
固有スキル
【治癒】【能力強化】【遠距離射撃】【誘導射撃】
習得魔術 ウインド・カッター
習得武技 【連射】
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興味ないけど、エーデル姫のレベルも確認する。
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【ユニーク情報】
名前:エーデルワイス・フォンドボー・グレーテル
種族:人間
生年月日:王国歴2004年11月01日(16歳)
性別:女
父の種族:人間族
母の種族:人間族
職業:王族 冒険者ランクC
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【能力】
レベル 21(9UP)
体力 110(40UP)
魔力 130(20UP)
スキル 60(25UP)
攻撃力 80(40UP)
防御力 50(15UP)
俊敏性 60(10UP)
魔法適性 火
固有スキル
【熱攻撃】【熱感知】【威嚇】
習得魔術 ファイア・ボール
習得武技 なし
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皆、それなりに頑張っている。今回、エーデル姫の冒険者ランクがCランクに上がった。レベル的には、十分だったが、依頼達成数が少ないので、ランクアップができなかったのだ。
それから、しばらくの間、ギルドの依頼をこなしていた。依頼で登する殆どの魔物は、イフちゃんが燃やし尽くせるが、それではシェルさん達の訓練にならないので、側で見ているか、弱い魔物をオーバーキルで痛ぶって遊んでいた。小さな女の子の姿をしたイフちゃんが、魔物をいじめている姿は、見たくない光景であった。
最初に登場した中年男性は、一番最初に召喚した大魔法使いだったのでしょうね。しかし、次に召喚したのがゴロタだったのが、イフリートの悲劇だったとおもうのですが、結構、楽しんでいるみたいで良かったです。




