第312話 皇帝陛下の後見人になってしまった。
新皇帝陛下は、まだ6歳です。絶対に国の統治などできません。でも、宰相がしっかりしているようです。
(6月9日です。)
中央フェリク帝国の謀反騒動は終わった。しかし、衛士隊と騎士団を失った帝室に国民は付いて来てくれるだろうか。
ガダリロ宰相は、まずレオ・ナルド・デ・リオン4世皇帝陛下の崩御を国民に知らせて、大葬の儀をとり行わなければならない。その後、セディナ皇太子殿下が即位される即位の礼と戴冠式それと祝賀パレードを実施することになる。
現在、帝都の衛士隊と騎士団が全滅してしまったので、警備が手薄になり、とてもじゃないが式典なぞできないと宰相が嘆いていた。
ゴロタは、ガダリロ宰相に、タイタン領の騎士団を300人貸すことが出来る。衛士隊は、タイタン領から200人、グレーテル王国から200人それと隣国のカーマン王国から200人を借りて対応することにした。
最初、隣国から衛士隊を借りるのを躊躇していたが、国を簒奪しようとしたら、例えグレーテル国王であっても絶対に許さないと断言したら、派遣を許諾した。
ただし、条件があった。ゴロタが、セディナ皇太子殿下の後見人になることと、セディナ皇太子殿下の妹君レオナ姫と婚約して貰う事だった。セディナ皇太子の母親、つまり皇后陛下は、皇太子殿下を生んだときに、産褥熱で亡くなったらしい。
レオナ姫は、先君の愛妾の子で、人間種との半獣人であった。レオナ姫の年齢を聞くと、まだ2歳だとの事だった。それなら、成人する頃に、婚約解消をすれば良いので、特に問題は無いはずだ。
詳しい話し合いは、シェルとして貰いたいので、タイタン市の領主館と宮城の宰相執務室をゲートで結ぶ。直ぐに、シェルとジェーンがやってきた。
ガダリロ宰相は、初めて見るゲートに吃驚していた。次に、ゴロタはタイタン領騎士団のダンヒル大佐に、全騎士団を派遣する様に要請した。3日後には、派遣できるが、此方の騎士団本部の設備等を確認しなければならないので、直ぐ10人の調査団を派遣してくれた。
次に、タイタン市の衛士隊本部のダーツ大佐に、衛士隊200名の派遣をお願いした。明朝9時には、3個大隊198名が派遣されるそうだ。衛士隊は、しょっちゅう非常召集が掛かっているので、有事即応体制が出来ているのだ。
今日は、宮城の貴賓室にシェル達と一緒に泊まることにした。皇太子殿下は、入院されたらしい。
ガダリロ宰相も入院が必要なのだが、この混乱が収まるまで休んでいられないらしい。シェルが、宰相の胸に手を当てて、『治癒』スキルを発動する。みるみる顔色がピンクになっていった。あとは、美味しいものを食べて、ゆっくり休んでください。
夕食は、貴賓室の専用メイドさんが、運んでくれた。メイドさんは、兎人だが、ゴロタを見る目に危険に感じたシェルが、用があるまで部屋の外にいるようにお願いしていた。
ジルは、疲れて食欲が余り無いようだった。魔力の使いすぎだ。これで、回復したら見違えるように魔力量も増えているし、魔法レベルも上がっているだろう。
夕食後、部屋を訪れてきた人がいた。
今回、ゴロタの婚約者となるレオナ姫と、その母親のミキの宮様だ。金髪の綺麗な人だった。年齢は18歳だそうだ。15歳の時に、先帝に見初められ、後宮に入ったが、直ぐにレオナ姫が出来てしまったそうだ。
シェル、ジェーンそれにジルが其々自己紹介をした。ミキの宮様も綺麗なカーテシをしながら自己紹介をしてくれた。レオナ姫は、ヨチヨチ歩きだが、カーテシの真似をしている。髪は綺麗な金髪で、髪の中から可愛らしい猫耳が生えている。後、スカートの下から、長い尻尾が伸びていた。
ミキの宮様は、レオナ姫との婚約式の日程について相談に来たのだ。出来れば早くして貰いたいそうだ。ゴロタが正式に婚約者であることを、内外に公表すれば、外患、内政の憂いが無くなると言うのだ。
それと、正式に婚約したら、親子でタイタン領で暮らしたいそうだ。
シェルが、直ぐにその意図を確認した。ミキの宮様が言うには、エレナ姫は、将来、結婚したらタイタン領内に住むのだから、小さい時から慣れていた方が本人のためにもなるので、是非、転居したいそうだ。
シェルは、じっとミキの宮様を見つめていた。何か、おかしい。ミキの宮様は、シェルの目線を感じて目が泳いでいる。
シェルは、ゴロタと念話で相談した。何か隠している。『威嚇』を弱くかけて、正直に話して貰うことにした。
見た感じは何も変わらない。しかしシェルの質問に、嘘は言えないのだ。
「ミキの宮様、何故、タイタン領に住みたがるのですか?」
「獣人が嫌いなのです。特に、私を手込めにした先帝と同じ獅子人は、見たくもありません。」
「それだけですか?」
「後、レオナが3歳になると、私は後宮を追い出されるのです。人間族が、帝室に居ることは許されないからです。」
「レオナ姫は、半獣人なのに、大丈夫なのですか?」
「レオナは、先帝の落とし子ですし、半分は獣人なので、ここにいても問題が無いそうです。」
「ミキの宮様は、ここを出た後はどうするのですか?」
「両親は、小さい時に亡くなったし、兄弟も居ないので、何処にも行くところは有りません。」
「生活はどうするのですか?」
「帝室から年金が、年に金貨3枚を貰えるので、何とか生活はできると思います。」
シェルは、聞きながら涙を流し始めた。
「レオナ姫とは、会えるのですか?」
「誕生日に、謁見の間で、拝謁することが出来るそうです。」
「そ、それで良いのですか?」
「平民落ちする私は、本来は帝宮に入ることは許されないのですが、特別に許可して頂きました。私は、獣人が嫌いですが、レオナは別です。レオナのためなら、私なんかどうなっても良いのです。」
ミキの宮様は、大粒の涙を流しながら、テーブルに突っ伏してしまった。レオナ姫が、何か分からないままに、母親につられて泣き出してしまった。
翌日、ガダリロ宰相に確認したところ、ミキの宮様の言う通りだった。先帝が、地方巡視に行った際に、レストランで女給として働いているミキの宮様を見初め、夜中に彼女のアパートを襲ったらしい。完全に犯罪だ。
そのまま、帝都の後宮に連れてこられ、直ぐ懐妊したらしい。人間族の愛妾はミキの宮様だけだった。
皇帝には、後、獅子人以外の愛妾が28人位いるが、獣人同士で異種混血は出来ないので、庶子はレオナ姫だけらしい。
レオナ姫は、今年11月に3歳になるので、それまでにミキの宮様は、下野して年金生活になるらしい。今までの例では、ゼロス教会のシスターになる者が殆どらしい。
ガダリロ宰相に、レオナ姫との婚約式と、タイタン領での養育について聞いたところ、是非お願いしたい。婚約式は、先帝の大葬の礼が終わったら、なるべく早くお願いしたいとのことだった。
シェルが、婚約式の費用や持参金、養育費の話をしたが、今、帝室には殆ど金がないらしい。あの皇帝陛下代行達が帝室財産を食い物にしたし、大葬の礼や即位の礼で出費がかさむので、婚約式は、披露宴なしの宣言だけ。持参金は結婚するときまで待って貰いたいそうだ。
それどころか、大金貨500枚を期限無しで貸して貰えないかと言う虫の良い申し出があった。まあ、お金が無い訳でもないので、申し入れを受諾した。但し、このお金はあくまで式典費用であり、後宮の維持等に使うことの無いように念押しをしていた。
ミキの宮様には、大金貨10枚を渡して、婚約準備をするように頼んでおいた。
これで、ジルちゃんの誕生日旅行は終わりだ。しかし、ジルちゃんは大喜びだった。こんなに興奮したことは無かったそうだ。まあ。ゴロツキを殲滅するチャンスなんて、普通の女の子には有りませんから。
それからが忙しかった。カーマン国王から衛士隊200名を借り上げ、派遣して貰う。同じくグレーテル国王からも借りる許可を貰った。
次に、バンブー・セントラル建設で、ミキの宮様とレオナ姫が暮らす別館を領主館の敷地内につくって貰う。執事1名とメイド3人が住み込み出来る位の広さだ。
煉瓦作り3階建ての8LLDDKKだ。元々、作ろうと思っていたのだが、今回の件で踏ん切りがついたのだ。
急ぎでやって貰うので、9月には出来るそうだ。
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(6月18日です。)
今日は、ビラの22歳の誕生日だ。いつものように、皆でお祝いをするが、キキちゃんが増えたので、にぎやかなことこの上ない。ドミノちゃんが、お誕生会では、宝石を貰えるのだとか、いかにも経験豊富な振りをしているが、ドミノちゃんは、小学生なので、当然、宝石を上げたことはない。
ビラとのお誕生日旅行は、フェリク帝国だ。まだ、フェリク帝国の地方都市では、ゴロツキ衛士と騎士達が市民に暴力をふるっているようなので、彼らを殲滅して歩いた。3日目には、ビラを一旦返してから、今度は、ゴロタが単独でフェリク帝国内を旅することにした。そのうち、まともな元衛士や元騎士達が名乗り出てきたので、ガタリロ宰相に頼んで、正規隊員として採用して貰った。また、退役した隊員達も、臨時で再雇用して貰う。
大葬の礼は、7月10日に執り行われた。レオナ姫も参列したが、自分の父親の葬儀とも知らずに会場内を走り回っていた。
7月も終わりの頃、ミキの宮様が、レオナ姫を連れて領主館を訪ねてきた。聞くと、先帝の愛妾達に後宮を追い出されたらしい。
『この後宮は、人間のいるところでは無い。』とか、『半獣人の子は不吉な予兆であり、皇太子殿下に何かあったら、レオナ姫のせいだ。』と苛めてくるらしいのだ。
ガタリロ宰相に頼んで、何とかして貰おうと思ったが、ガタリロ宰相も業務多忙で、ますます痩せてきている。これ以上、心労を増やしてはいけないと思い、とりあえず親子をグレーテル王国の王都にある公爵邸に引き取ることにした。キキちゃんやシロッコさんもいるので、ミキの宮様もさみしくは無いだろう。
ガタリロ宰相は、公式にゴロタとレオナ姫が婚約をされた事、それとセディナ皇太子殿下が15歳になるまでの間、後見人となることを宣言された。このことは、モンド王国以外の南大陸全土に知らしめるお触れが出された。
国を維持するためには、強大な軍事力が必要です。でもフェニック帝国には、それがありません。ゴロタに頼みたくなる気持ちもわかります。