第311話 中央フェニック帝国の崩壊
国と言う統治期間は、軍隊と警察があって、初めて成立します。この両方が無くなってしまったら、国を維持することはできません。
(まだ6月8日です。)
ジルちゃんは、帝国衛士隊本部に向かった。ゴロタが連れて行かれたのは知っていたので、迎えに行くつもりだった。場所は、イフちゃんが教えてくれる。
衛士隊本部の正門の前には、警戒中の衛士さん2人が立っている。長い槍を持って警戒しているのだ。
ジルちゃんは、少女らしくはにかみながら、衛士さんにゴロタが中にいないか聞いた。答える訳にはいかないと言われたが、中に入れて貰えないかと頼んだところ、受付に案内された。
受付で、ゴロタが中にいるはずなので、会わせてくださいとお願いしたら、小部屋に案内されて待つことになった。30分位待っていると、少し偉そうな猿人の衛士さんが部屋に入ってきて、ゴロタは、密入国の疑いで現在、留置場に拘留中だと言った。
基本的には、冒険者証さえあれば身元は保証されるので、入国後でも所定の手数料と申請書さえ出せば済む筈だった。なのに、留置場に入るのはおかしいと言ったが、相手にしてもらえなかった。
それよりも、ジルちゃんの事について聞かれた。さっき、色町の商会が爆発炎上したが、その事について知らないかと言われた。当然、知らないと答えたが、包帯だらけの狐人男が部屋に入ってきた。
「この女に間違いないか?」
「へい、間違いありやせん。この女が、事務所を燃やしたのです。」
「おい、女。お前を放火殺人罪で逮捕する。」
数人の衛士が入ってきた。殆どが狼人だ。ジルの腕を取って逆に捻る。
「痛い。痛い。逃げないから離して下さい。」
言うことを聞くわけがない。ジルちゃんの身体を、服の上から探る。身体捜検のつもりだろうが、触る手付きが明らかに別の目的だ。
「触らないで下さい。」
ジルちゃんが大きな声を出した。同時に、大きな音が奥の留置場の方からした。物が引き千切れるような音だ。奥から衛士が走り込んできた。
「大変です。今日の新入りの男が、牢の扉を引き千切りました。」
「何だと。バカな。あの扉は、鋼鉄製だぞ。」
ゴロタが、部屋に入ってきた。
「帰ろう。」
一言だけ言うと、ジルちゃんの腕を掴んでいる手を払いのけた。『ゴキッ』と、嫌な音がして、手が変な方を向いた。しかし、狼人の衛士は、騒ぐことが出来ない。
「隊長さんは、何処にいるんですか?」
ゴロタは、静かに猿人の衛士さんに聞いた。
「本部長は、2階の本部長室だ。」
猿人の衛士さんは、素直に答えた。と言うか、答えさせられた。ゴロタは、そのまま、ジルの腕を取って部屋を出ていった。衛士さん達の誰も後を追いかけられなかった。
2階へ上がる階段には十数人の衛士さん達が剣を抜いて身構えていた。ゴロタは、指鉄砲で全員の剣を持っている腕を撃ち抜いた。後は、雑草を掻き分けるように、衛士さんの間を抜けて、2階に上がった。
本部長室は、2階の奥にあった。10人位の衛士さんがいたが、今度は、膝を撃ち抜いてやった。きっと一生まともには歩けないだろう。
本部長室に入ったら、虎人の偉そうな貴族服を着ている男がいた。虎人の割には、豚のように太っている。手には長剣が握られているが、震えているので、構えになっていない。
「この国では、罪の無い旅行者を留置場に入れたり、女の子の身体を勝手に触って良いのですか?」
「お前は、誰だ?」
「僕ですか。僕の名前はゴロタ。グレーテル王国から来ました。」
「グレーテル王国の『ゴロタ』?あの『殲滅の死神』のゴロタか?」
それには無視をして、更に質問を続ける。
「それよりも、何故、事情も聞かずに僕達を捕まえたのですか?あのゴロツキどもの仲間ですか?」
ゴロタは、『威嚇』を使いながら質問した。本部長は、涙と小便を流しながら膝間付いてしまった。
「あの事務所は、我々の仲間の事務所だ。衛士隊も、我々が乗っ取ったのだ。」
「我々って何ですか。」
「『赤い血の旅団』だ。ボスは、獅子人の騎士団長だ。」
「と言うことは、騎士団も、その『赤い血の旅団』に乗っ取られているんですか?」
「そうだ。ボスは、今、皇帝陛下代理として執政を執っている。」
「皇帝陛下はどうしているんですか。」
「城の塔の上に幽閉されている。ボスに逆らった宰相や家族も一緒だ。」
「衛士隊と騎士団の数は?」
「衛士隊は3000だ。帝都周辺の衛士隊は、こちらに急行している。騎士団は、近衛が2000人、一般が4000人だ。もう、この事は知らせている。お前たちは、もうおしまいだ。」
これが本部長の最期の言葉だった。脳が頭蓋骨の中で破裂したのだ。
衛士隊本部の中の留置場を全て解放した。後日、必ず出頭する約束をさせてからだ。ゴロタは、残っている衛士達を集めた。まともに動けるものは僅かだった。武装を解き、全員を解放した。これから集結する衛士隊の大部隊に合流しても良いが!死ぬ覚悟が必要だと教えてやった。まともに動ける衛士1人に、騎士団までの道案内をさせて、隊本部を出た。
既に、数百人の衛士が待ち構えていた。偉そうな虎人の衛士が、叫んでいる。
「兄貴はどうした?お前達、武器を捨てろ。」
ゴロタ達は、最初から武器など持っていない。ゴロタは、『聖なる光の杖』をジルちゃんに渡し、思いっ切りやって良いと言った。ジルちゃんは、長い詠唱に入った。杖の魔石が白く光り始める。段々、光が増し、直視できなくなった。
ジルちゃんが、杖を持ち上げる。
「ブライトニング・テンンペスト。」
これはエグい。大きな光球が衛士隊を包み込んだ。衛士達は、光に包まれながら消滅していった。本当に消滅したのだ。人間どころか、武器も防具も消滅した。後には、変な臭いが残っていた。
『この臭いは、プラズマ崩壊した後のイオンの臭いです。』
シルフが、無駄情報を教えてくれた。現場には、大きな穴が開いてしまったが、単に丸い穴が開いているだけで、マグマ等は無かった。熱が発生しなかったのだ。不思議だ。
『プラズマ崩壊では、物質は素粒子に分解され、
霧散します。膨大な光エネルギーが消費されますが、総質量に変化がないので、熱は吸収されただけです。』
煩いので、これからは、余り疑問を持たないようにしよう。とりあえず『有難う。』と言っておいた。シルフは、嬉しそうに声が弾んで、『どういたしまして。』と言ってきた。
ゴロタ達は、騎士団総本部まで向かった。総本部の前には、200人単位で10隊が整列していた。ゴロタ達に向かってファイアボールとアイスランス、ウインドシャベリンが無数に襲いかかってきた。更に数十本の矢が頭上から降ってきた。黒煙と水蒸気が風の渦により舞い上がっていく。
ゴロタ達は、『蒼き盾』のお陰で、全く無傷だ。騎士団の中央が大きく開き、騎馬隊数百騎が向かってくる。ゴロタは、馬に『威嚇』を使った。騎馬隊は、ゴロタと反対方向に逃げていった。
次は、セオリー通り、重装備兵部隊を先頭に徒歩部隊だ。ジルちゃんが、深さ5mの穴を兵士の目前に掘った。次々と重装備兵が落ちていく。
ある程度落ちたら、上から土を被せた。早く救出しないと、窒息死だ。
ゴロタが、地上300mにミニ太陽を出現させる。徐々に降ろし始める。騎士団は壊滅した。流石に、このミニ太陽は爆発させなかった。爆発させたら、帝都が消滅してしまう。
帝城に向かう。帝城の分厚く大きな門は、固く閉められていたが、左右の蝶番を吹き飛ばしてしまう。門扉は、轟音を立てて、倒れてしまった。
倒れた門扉の上を通って、帝城内に入る。騎士団と衛士隊が防備を固めているが、ゴロタは、手のひらを横に一閃した。真っ赤な『斬撃』が兵士達を襲う。生存者ゼロだ。おびただしい出血量だった。
ゴロタは、少し後悔した。出血しない殲滅方法を取るべきだった。後の処理が大変だ。場内では、別の殲滅方法を考えよう。
場内に入っていった。玉座まで、数のかなりの数の兵士や衛士がいたが、最初に思いっ切り『威嚇』する。殆どの者が精神異常を来すが、気丈にも耐えた者がいる。そいつらは、脳内爆発か肺を潰して即死だった。ゴロタが進んだ後には、狂人か死体しか残っていない。中には、魔道士がいてシールドを張っていたようだが、彼らの脆弱なシールドは、紙を張っているようなものだった。
玉座は空席だった。そばに立っていた女官に皇帝陛下代行の所在を聞くと、奥の尖塔の上だそうだ。女官のスカートの下から黒い染みが広がって行く。
ゴロタ達は、奥の扉を開け、尖塔の上に登る階段を見つけた。上から大きな怒鳴り声が聞こえた。
「てめえら、上ってきたら、このジジイと餓鬼の命はねえぞ。大人しく帰るんだな。」
ジルちゃんが、強烈なライティングを最上階の踊り場で爆発させた。当分、目が見えないはずだ。ゴロタは、階段など使わずに、『転移』で最上階まで移動する。最上階には、王冠を被った獅子人がいた。ゴロタは、円形階段の真ん中からそいつを落とした。踊り場には、まだ6歳くらいの獅子人の子供がいた。奥の扉を開けると強い死臭がした。見ると、大きな体の獅子人が腐乱死体となっていた。そばには、痩せこけた猿人が縛り付けられていた。ゴロタは、ヒールをかけて上げると共に、水を飲ませて上げる。糞尿の臭いがひどい。
縛られていた猿人は、ガダリロ宰相、小さな獅子人はセディナ皇太子殿下だった。骸になっている獅子人は、皇帝陛下レオ・ナルド・デ・リオン4世だった。
ゴロタ一人で、騎士団1万人以上の働きをします。しかし、戦争でもない限り、騎士団の活躍は必要ありません。