第309話 災厄の神はまだ弱いです。
6月6日は、ジルの誕生日です。でも、それ以外にも、同じ日に生まれた子がいます。
(6月6日です。)
今日は、ジルちゃんの誕生日だ。17歳の誕生日だ。早いもので、ジェリーちゃんのメイドとして来てから、もう2年以上経った。
誕生パーティには、ジルちゃんの両親も招待した。ウオッカ男爵は、今は、ゴロタの部下として働いているので、随分恐縮していたがゴロタとジルちゃんが結婚すれば義父になるのだ。遠慮することは無い。今は、タイタン領司法庁長官として頑張ってくれている。年収も大金貨2枚と破格の待遇だ。
もう、ジルちゃんは、学業も優秀なので、将来、何をしたいか聞いたら、学校の先生になりたいそうだ。それなら、大学に行かなければならないが、当然、進学費用はゴロタが持ってあげることにしている。
ウオッカ男爵は、それでは申し訳ないし、ジルもいつまでも中途半端な立場ではだめなので、この際、正式に婚約して貰えないかと申し入れて来た。別に婚約することに異論はないが、本当にそれで良いのかとジルちゃんに聞いたところ、顔を真っ赤にして、頷いていた。
それでは、この誕生パーティを婚約パーティにしようということになり、急遽、ゴロタとジルが正式に婚約してしまった。
あれ、ジルちゃん、どうして泣いているの。ゴロタは、キョトンとして見ていると、シェルに思いっきりつねられた。ゴロタは、ジルちゃんの肩を優しく抱いて、涙を拭いてあげた。
ジルの誕生日プレゼントは、あの『聖なる光の杖』だ。ダッシュさんが、綺麗に補修してくれたので、オリハルコン特有の青い輝きを取り戻している。大きな魔石がはめられているが、本来、こんな魔石が無くても、魔力増幅の威力はすさまじいものがある。ダッシュさんが言うには、大金貨100枚以上の価値があるそうだ。
明日から、ジルちゃんは、3日間、学校を休んで、ゴロタと一緒に誕生旅行に行く事になっているが、婚約旅行も兼ねることになりそうだ。でも、エッチはありませんから。そう一人で思っているゴロタだった。
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(モンド王国デビタリア辺境伯領の領都デビタリア市です。)
リトルホライズン通称リトちゃんは、2歳の誕生日を迎えた。魔人の子としては、成長は早い方かも知れないが、やはり2歳の女の子に違いなかった。1歳前に歩き始め、今は日常会話程度だったら、意思疏通が出来る。
使徒の乳母は、もういなくなってしまった。最近は、小さなチワワが使途だ。このチワワは、1歳のお誕生日に、父のデビタリア辺境伯が買ってくれたもので、使徒の癖にちっとも言うことを聞かない。
まあ、何かあったときに、リトちゃんを守ってくれればいいが、体の小さなチワワで何が出来るのか、一抹の不安を覚えているのは、リトちゃん、仕方のないことだった。
最近は、幼児言葉も意識せずに使えるようになった。さすがに、自分のことを『妾』と言うのはおかしいので、幼児の言葉を覚えるまでは、黙っていたのだ。幼児言葉の秘訣は、語尾の『す』を『ちゅ』と発音し、最後にバブーと言えば良いのだ。例えば、
『ご飯を食べまチュ。バブー。』
簡単なものじゃ。妾にとっては、造作もない。最近、嫌な気がする。災厄の神にとって災厄、つまり『全てを統べる者』が来る予感がする。明日か明後日か?とにかく、今まで以上に注意しよう。なあに、『全てを統べる者』も、人間。妾は不死じゃ。きゃつめが死んでから世界に災厄をもたらしてくれるは。
リトちゃんは、ゴロタの寿命が通常の人間と一緒だと思っているようでした。
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(6月7日です。)
今日、ゴロタとジルちゃんは誕生旅行に出発する。旅行なので、二人乗り飛行船『ゼロ』に乗機する。ジルちゃんは、まっ黄色な飛行服セットを新調していた。完全密閉型の飛行船なので、飛行眼鏡は要らないのだが、何故か皆、つけたがる。最近は、ワイバーン騎乗用ではなく、通常の眼鏡の形になっている。金色の細いメタルで、形はナスビを横にしたような形だ。ガラスは濃い紺色で、目玉が全く見えない。王都の中心街に大きな店を構えているレーバーンという店の品だそうだ。
ゴロタは、通常の茶色い飛行服だ。当然、飛行眼鏡は付けていない。タイタン市の領主館の前からゆっくりと、正門の方に進む。
この門は、幅を10mに拡幅したが、それでも『ゼロ』の主翼の端が当たってしまうので、この前、ゼロの翼端が、上に折り上がるように改造しておいた。
門から出ると、タイタン市の西外れまで、約2キロの直線路だ。復員は20m位で、『ゼロ』のサイズでは、余裕だ。道路拡幅に当たって、並木は、ゴロタが移植をしておいた。
シルフのチェックが始まる。最近は、片言の喋り方をやめたので、普通の女性の声だ。
『上空、北北西の風、風力2。気温23度、湿度59%。飛行条件、適。飛行を許可します。』
『ゼロの各操舵系油圧チェック。魔力ゲージ、チェック。ジェットタービン、チェック。』
『ゼロ、発進してください。』
このとき、ゴロタは『ラジャー』と言わなければいけないそうだ。ゴロタは、思いっ切りスロットルを引く。身体がシートに押し付けられる。ドンドン加速していく。速度が200キロを越えたときに、操縦桿を手前に引く。フワッと浮き上がった『ゼロ』は、そのまま上昇姿勢にはいる。
着陸ギアを格納し、フラップを戻す。高度1500mで、操縦悍を右に倒して、機体を右に傾かせる。その姿勢のまま、ゆっくり操縦悍を引くと右旋回を始める。この時、速度が落ちないように、スロットルを少し引いてやるのがコツだ。
進路を200に取る。いわゆる南南西だ。そのまま加速しながら、高度を上げていく。高度6000mでアフターバーナーいやアフター噴射を使い、更に高度を上げる。
魔力で、水を噴射しているのに、シルフがアフターバーナーと言うので、そう呼んでいる。高度10000mで水平飛行に入った。
目的地は、ブリちゃんの郷里だ。アイススケートをするつもりだ。オートパイロットにして、飛行制御をシルフに任せた。シルフは、喜んで操縦してくれるが、計器の読み上げはしないようにお願いした。煩いのだ。
速度は、マッハ2。所要時間は4時間半とのことだそうだ。ゴロタは、シートベルトを外し、お茶にした。ジルちゃんには、甘いミルクティー、ゴロタは最近気に入っているグリーンティーにする。飛行中のトイレは、領主館のゲート部屋と結んで用を足している。
ジルちゃんは、快適な空の旅を楽しんでいる。雲一つ無い青空、眼下に広がる雲海。所々、雲海から首を出している山脈の頭。幻想的な光景だ。マッキンロウ山脈を越えた辺りから、雲が厚くなってきた。『ポーン』と言う音と共に、シルフが警告してきた。
『この先、熱帯性低気圧の発生が見られます。猛烈で極めて大きい低気圧です。シートベルトをご着用してください。』
あわててシートベルトをする。その直後、『ゼロ』が、500m以上落下した。エアポケットと言うらしい。
「キャーーーーーー!」
ジルが、恐怖の叫びを出す。この飛行船は、ゴロタの『飛翔』スキルで、絶対に墜落しないが、やはり怖いらしい。眼下には、大きな右巻きの雲の渦が見える。中心に向かって雲が流れ込んでいる。ゴロタは、進路を東に向けて、その雲を回避する。しょうがないので、カーマン王国の東、中央フェニック帝国を目指す。雲が途切れたところを狙い、高度を下げていく。森の開けたところに着陸した。周囲には、村はないようだ。仕方がないので、今日は、ここで野営することにする。
まず、キャンプセットを出す。テーブルに椅子。簡易コンロ。それに調理道具と食器類だ。二人用のテントも取り出す。もう組み立ててあるので、四方を地面に固定するだけだ。
ジルちゃんは、初めてのキャンプなのか、とても楽しそうだ。大きな旅行鞄の中から着替えを出す。高校に入る少し前から、お小遣いを使いきれないほど貰っているので、洋服も増えたようだ。
テントの中で、普段着に着替えた。ピンク色のスエットに厚手の綿のパンツだ。最近、タイタン市で流行っているパンツだ。紺色で、ゴワゴワした生地で出来ており、オレンジ色の太い糸で縫製されている。お尻のポケットの縫い目の形と、茶色い皮製のラベルで差別化を図っているそうだ。
ジルちゃんが履いているのは、今、一番人気のパンツで、2頭の馬が、パンツを両側から引っ張っている図柄のやつだ。ジルちゃんの話では、作っているのはノエルの経営している店らしい。え、ノエル、一体何時からそんなことを始めたのですか?
お決まりの露天風呂も作って、ジルちゃんに入るように言ったら、一緒に入らないと怖いと言ってきた。仕方がないので、水泳パンツを履いて、一緒に入る。ジルちゃんはスッポンポンで、全く隠そうとしない。ジルちゃんが、お風呂の中でそばに寄ってくる。ゴロタに抱きついてキスしようとするが、唇は、軽く触れるだけにした。勿論、胸や股間には手を伸ばさない。
ジルちゃんは、不満そうだったが、ゴロタは無視した。
お風呂の後は、楽しいバーベキュータイムだ。食材を山のように出して上げて、好きな食材を焼いて行く。ジルちゃんは、お肉よりも野菜や果物が好きなようだった。
食事が、終わってから、キャンプファイアで獣等を寄せ付けないようにした。まあ、近寄ってきても、イフちゃんの餌食だが。
ジルちゃんは、大学を卒業してから結婚したいそうだが、それでも良いかと聞いてきた。ゴロタは、その時までゴロタの事を好きだったら、結婚して上げると約束した。
この夜、二人は手を繋ぎながら眠った。
ジルは、控えめな子です。でも、能力は半端ないです。