第29話 変なお兄さん 登場
いよいよダンジョン攻略も佳境です。ゴロタ達は、ちゃんと攻略できるのでしょうか。
(11月15日です。)
ジャイアント・ゴーレムは殆ど知能がない。意識としてあるのは、攻撃することと、動き続けることだけであった。
足元にワラワラと纏わりつく人間共。とってもウザい。だが、遠くから飛んでくる魔法は、もっとウザい。火に風に氷に石ころ。まとまりもなく、打たれてくる魔法は、視界を遮るとともに、集中力を失わせる。あと、ヒョロヒョロ飛んでくる弓矢。当たっても、下に落ちるだけだから、気にしなければ良いのだが、たまに飛んでくる青白い矢は痛い。刺さりはしないが、かなり痛い。顔の一番弱いところ、目を狙って来る。
目だって土属性であるので、刺さる事は無いが、余りにも痛いので、顔を背けてしまう。足元も気になって来た。
チクチク、チクチクこすられているような気がするが、時たまズバンと来て、これは完全に切られた事が分かる。
その後、その傷跡にチクチク、チクチクと。また鉄の薄っぺらな板をこすられて来るので、回復する暇が無い。
足を上げて、周りの人間どもを踏みつぶそうとすると、ワーッと言って散らばってしまう。顔への攻撃が気になって、下を見る事が出来ないので、追いかけることもできない。
それで、30分位経ったかも知れない。右足が切断された。
ズズーン!
ジャイアント・ゴーレムはついに倒れてしまった。片足立ちなどの、高度な動作など出来る訳ないのだ。今度は、攻撃が頭に集中した。打撃系攻撃が中心だ。ハンマー、斧、鉄棍棒などだ。
僕は、『ベルの剣』の刀身を白く輝かせ、両手で持って、5m以上ジャンプした。剣の重さと落下の速度を利用してゴーレムのクビに刃先を当てた。
ドゴーン!
首が、胴体から離れた。それでも、冒険者達の攻撃は止まらない。
ゴーレムは、完全に動かなくなっていた。それでも、冒険者達の攻撃は止まらない。
段々と悲惨な状況になって来た。頭なのか石ころなのか分からなくなって来た。それでも、冒険者達の攻撃は止まらない。
ゴーレムは、ついにボロボロと崩れていき、元の土塊に戻ってしまった。冒険者達は、大きく肩で息をしながら、お互いを見合った。
「やったのか?」
「やったよな!」
「ウオーッ」
冒険者達は、喜びの雄叫びを上げていた。エーデル姫も一緒に。いままで、ここまで到達したものは誰もいなかった。達成感で叫ばずにはいられないようだった。
いよいよ最下層、10層だ。
今から30年位前に、『S』クラス冒険者が10層を攻略した事があり、それ以降、魔物の発生が沈静化していたようなのに、何故、急に復活したのか不思議だ。今までの階層だって、中級レベルの冒険者パーティーで攻略出来るレベルでは無かった。時間は、はっきり分からないが、かなりの強行軍だったので、階層の狭間で、休憩を取ることにした。
テントを張って、本格的に休む者もいれば、毛布を敷いて横になるだけの者もいる。食べ物は、火が焚けないので、乾燥したものと、硬くなった黒パンだった。
僕たちは、流石に、3人で川の字になって寝る訳にも行かず、シェルさんとエーデル姫二人が毛布の上で横になり、僕は剣を抱えて蹲って眠っていた。
僕は、まどろみながら夢を見ていた。
見たことも無い男の人が、僕に話しかけて来る。
「我を解放せよ。」
「あなたは誰ですか?」
夢の中ではコミュ障は、完全に消えている。
「我は、名も無き者。炎を司る者。全てを焼き尽くす者なり。」
「おじさんは、僕に何か用なんですか。」
「誰がおじさんじゃ!我は、未だ若いぞ。おじさんでは無い。お兄さんと呼べ。」
あ、この人も絶対、残念な人だ、と思うゴロタであった。
「分かりました。それで、お兄さんの用って何ですか。」
「うむ、先程も申したが、我を解放せよ。」
「解放って?おじさんを閉じ込めたり、縛ったりした事なんかないよ。」
「いや、そうではなく、えーい、面倒な奴じゃ。我を剣より解放しろと言っておるのじゃ。」
「剣って?」
「そこに持っているじゃろ。」
「2本持っているんですけど。」
「何を言ってる。そのリッチでセレブな剣に決まっているだろう。」
きっとベルの剣のことだろう。でも、何を言ってるのか分からない。
「解放って、どうすれば良いのか分からないし。」
「なーに、簡単じゃ。お主の持ってる力を、限界まで剣に込めて振ってみよ。躊躇っては駄目じゃ。」
「でも、治療院の先生が、余り使いすぎると、死んでしまうって言ってたんですけど。」
「それは、普通の人間レベルの話じゃ。お主は、選ばれし者じゃろう。案ずる事は無い。」
「選ばれし者って?」
「それは、時が来れば分かる話じゃ。いいな。力の発揮を躊躇ってはいかんぞ。」
胡散臭そうなおじ、いや、お兄さんだった。
僕は、目を覚ましたが、シェルさん達は、未だ眠っていた。二人をジッと見ていた。この二人は、何が良くて僕と婚約したんだろう。見た目、小さな男?の子だし、ヒッキーのコミュ障だし。泣き虫だし。女の子恐怖症だし。人間じゃなさそうだし。二人ともお姫様なんだから、僕よりも、ずっと格好の良い王子様と結婚できると思うんですけど。
僕は、『ベルの剣』を抜いてみた。力を注ぎ込んでいないので普通の剣だ。特別な禍々しさを感じることもない。赤みを帯びた刀身は、僕から見ても綺麗だなと思う。この刀身に、あのお兄さんが封じられているなど、全く感じられない。
周囲の冒険者達が、起き始めた。悪い夢でも見たような起き方だった。僕の方を見て、明らかに恐怖に怯えた表情だった。中には、起き出して、遠くに走り出す者もいた。
シェルさんが、異変に気付いて起きた。
「ゴロタ君、早く、その剣をしまって。皆が怖がっているわ。」
ゴロタは、周囲を見回して、何が起きているのかを理解した。剣を納めて、カバーをしっかり掛けた。シェルさんやエーデル姫は、平素から剣のそばで生活しているし、力を発揮した時も、常にそばにいたので、耐性が出来ていたようだ。エーデル姫は、未だ起きない。いくら戦闘で疲れていたと言っても、何も感じなさ過ぎだろう。流石、残念姫だけのことはある。
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(11月16日です。)
ダンジョンに潜ってから、はっきりとは分からないが、1日は立っているはずだ。いよいよ最下層に挑戦だ。全部隊が突入するのではなく、斥候チームが様子を見て来ることになった。
暫くすると、斥候チームが帰って来た。分かったことは二つ。最下層は、草原フィールドであること。魔物は、1匹だけで、種類は『キマイラ』だそうだ。
キマイラは、通常は獅子の頭に山羊の身体、蛇の尻尾を持っている魔物で、口からは地獄の火炎を吐き出すという、絶対に会いたくない魔物である。
斥候チームの話では、コウモリのような羽が、背中に生えていて、10m位の高さを、パタパタと飛んでいたそうである。冒険者さん達の話では、キマイラは『S』ランクの魔物で、自分たちでは、直ぐにロースト・ヒューマンになってしまうので、討伐は諦めるべきだとの事だった。
僕達は、顔を見合わせた。どうしようか。エーデル姫が、口を開いた。
「このまま、退却はできないのです。また、魔物が大量発生するのです。沢山の国民が死んでしまいます。」
エーデル姫は、話しながら涙を流し始めた。それを見ていたシェルさんが、エーデル姫を慰めながら僕を見た。仕方なく、黙って頷くしかなかった。
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僕は、下の階層についてから、直ぐに『ベルの剣』を抜いた。大分離れた後ろの方で、シェルさんとエーデル姫が様子を見ている。その後ろには冒険者たちが固まっていた。
草原の向こう側、100m位先で、キマイラは、フラフラと飛んでいる。僕は、何回か『瞬動』を使い、キマイラの手前、30m位の距離に近づいた。位置的には、キマイラの『右斜め前』方向になる。これならキマイラの火炎攻撃を受けても、攻撃線上にシェルさん達はいないので安心だ。
先程から、『ベルの剣』に力を込めている。もう、刀身は真っ白に輝いている。キマイラは、僕に気づくと、一旦大きく首を後ろに下げる予備動作をした後、
ゴー!
と火炎を吹いて来た。地面が赤く焼け爛れるような高温の炎だ。しかし、僕は力を込めている最中だった。周囲の状況など関係なく力を剣に集中している。それでも大丈夫な気がしていた。
ゴロタが、火に包まれる。
「「キャーッ」」
二人が悲鳴を上げた。悲鳴が止んだ時、全く何ともないゴロタが立っていた。
相変わらず、剣に力を込めている。しかし、前の時と違って呼吸は深く静かに。視線も一点を見つめるのではなく、全体を見るように自然体で。
剣が、赤くなってきた。ドンドン赤くなる。決して燃え上がっているわけではない。ただ、赤い光に包まれている。そのうち、赤というよりも、白っぽい光と赤い光が混じらずに、それぞれに光っているような不思議な状況になった。剣からキンキンという音までして来た。
ゴロタは、左手に持ったベルの剣を真っ直ぐにキマイラに向けて呟いた。
「出でよ、お兄さん。」
剣の光が大きく膨らんだかと思うと、一直線にキマイラに向かって、赤い閃光が迸る。
ズバッ、ドゴーーーーン。
轟音と共に、大爆発が起きた。キマイラの頭上に100m位の大火球が発生し、全てを焼き尽くした後、衝撃波がシェルさん達のところまで来た。
シェルさん達は、階層入り口脇の壁際に避難していたので無事だったが、階段を登って行ったので、9層の冒険者達は大丈夫かなと心配してしまう。
衝撃が終わったら、黒い雲がモクモクと上がり、キノコのような形になったが、天井があるので横に広がり始め、10階層全部に充満するのではないかと思えるほどだった。
ゴロタは、先ほどの場所で、剣を前に差し出したまま、立ち尽くしていた。どこも火傷していないばかりか、煙もゴロタを避けているように、渦巻いていた。
「ブホ、ブホ、ブホ。こんな狭い場所で力を使いおって。何を考えとるんじゃ。アホ!」
お兄さんだ。全身、真っ赤な貴族服を着て、靴も赤、襟巻きも赤のフリル、極め付けは目と髪の毛も真っ赤なのだ。もう、見ているだけで、目がチカチカしてくる。
「お兄さん。」
ゴロタが、その男に声を掛けた。
いよいよ、イフリート登場です。イフリートは、自分を召喚した者にそっくりになることが出来ます。
モデルがいないと、デッサンが崩れるかも知れません。