第307話 カーマン王国に行きます。
どうやら、奴隷商人や人さらいどもは、タイタン領内であくどい事をして、商品を入手し、カーマン王国で高値で売り飛ばしているようです。
(6月3日です。)
今日は、クレスタと共にカーマン王国に行く。今度の事件で、男どもが、子供達を売り飛ばそうと考えていた、裏奴隷市場を壊滅させようと思っているのだ。
しかし、他国で勝手にそんなことをしたら、外交問題になってしまう。ゴロタにとってはどうでもいいのだが、グレーテル国王陛下に迷惑はかけられない。まずは、きちんと挨拶するつもりだ。
ゴロタ達は、王都シャウルス市の郊外に転移した。ゴロタ達は、平民の列に並んで、普通に入城した。ゴロタ達の冒険者証は偽造したもので、それでもランクは『A』であった。
この国の国王は、ブリ・ド・モー・カーマン8世陛下で、王都の周辺は、山脈で囲まれているため、外敵に侵略されたことはないせいか、のんびりしている国王陛下だった。気候は赤道の南側に位置しており、温暖で、農業生産と鉱山採掘が主な産業である。そのため、王都には、色々な種族が暮らしており、はるか南の魔人族や、東の獣人族が混在している。
ゴロタ達は市内の中心街、王城の真ん前の高級ホテルのスイートルームをとった。クレスタの眼が妖しく光っている。なにか、やる気満々だ。
取り敢えず、カーマン陛下の宰相フォンデュ閣下宛に、陛下と謁見したい旨の書簡を出す。その後、市内観光だ。この国は、北の大陸と気候が逆なので、これから冬に向かう頃だった。しかし、雪が降ることはない。雪は、ガーリック領までいかないと降らないらしい。
美味しいワインには、ある程度の寒さも必要なので、南部の方がおいしいワインが多いらしい。だが、あまり寒いと葡萄の糖度が上がらず、やはり美味しいワインはできないそうだ。モンド王国が良い例だ。
この国の名産は、甘い南国のスイーツだ。このスイーツは、シーサイド村付近でも収穫できるそうだが、甘さは抜群にこちらの方が甘い。ゴロタは、箱単位で買って、イフクロークに収納した。ただし、ドリアンとかいうフルーツは、少し臭みがあったので、買うのをやめておいた。あと、どんな料理にも、匂いの強い香草が入っているのには参った。これでは、折角の料理が台無しだ。
ホテルに戻る前に、武器屋街を散策する。大した武器がないのだが、ゴロタは、ジルちゃんに何か適当な武器がないか探していた。
武器屋では、大したものが無かったので、魔法道具屋に行ってみる。いろいろ見てみるが、目を引いたものがあった。杖だ。それも長い杖で、色が真っ黒なものだった。持ってみると軽い。指ではじいてみると乾いた金属音がした。魔石をはめ込むところが、単に穴が開いているだけで、しかもかなり大きな穴なので、通常の魔石では嵌め込むと落ちてしまうだろう。値段は、大銅貨1枚で、ほぼ投げ売り状態だった。ゴロタは、軽く振ってみたが、特に変化はなかった。この軽さでは、打撃武器としては、失格だろう。それに女の子が持つ杖としては、黒色はちょっと地味すぎる気がしたが、値段も安い事もあり、買うことにした。
店主は、年老いた女性だったが、もっと高級な杖があるので、それにしたらどうかと勧めて来た。しかし、勧められた杖は、グレーテル王国でも売っているありふれたものだったので、最初の黒い杖だけにした。
購入してから、裏の試験場所で、使ってみることにした。杖には、魔力増幅の魔石を嵌め込んでみる。大きさは、ゴロタの掌位の大きさだ。杖を持って魔力を流し込む。ドンドン魔力が吸い込まれる。静かにファイアの魔法を唱える。レベル1の魔法だ。しかし、流し込まれた魔力が全て放射されてしまった。標的の魔力測定人形が燃え尽きてしまった。魔力測定人形が燃え尽きるような魔法は、レベル8以上だ。
女主人は、吃驚して、はめ込んだ魔石を売ってくれないかと言ってきた。当然ゴロタは断ったが、このレベルアップは、魔石だけの能力ではない。絶対にこの杖の威力だ。良い買い物をしたと喜ぶのであった。あとで、マリンピア魔導士長に、この杖を鑑定して貰おう。
ホテルに戻って、夕食をしていると、フォンデュ宰相閣下の使いの者が来て、『明日、午前10時に国王陛下が謁見してくださるので、午前9時30分までに王城に来られたし。』との事だった。
早速お伺いすると約束して、食事をゆっくり楽しんだ。クレスタは、久しぶりの郷土料理を楽しんでいた。当然、チーズフォンデュやチーズオムレツなどチーズ尽しの料理だった。クレスタは、ガーリック領産のワインを頼み、ゴロタはマンゴージュースにした。
夜、ゴロタはクレスタに3回も求められたが、翌朝の準備もあるので、2回にして貰った。
翌朝、早く起きたゴロタは、直ぐにダッシュさんの店に転移し、もう炉に火を入れ始めているダッシュさんに、例の杖を見せた。ダッシュさんは、色々調べていたが、杖の黒色の塗装の一部を剥がして、中の金属が薄青色をしているのを見て、見当が付いたらしい。
『聖なる光の杖』
と言うのが、この杖の正体らしい。素材は、極めて軽いオリハルコンで、全ての魔法をレベル4上げるが、聖魔法と光魔法は、レベル8上がるらしい。光魔法については、まだ余り研究されていないが、極大の光は、太陽に匹敵するほどのエネルギーを発するらしい。その事は、ゴロタが一番良く知っている。
ダッシュさんは、この杖を大銅貨1枚で買ったことを、ペテン師だと言って怒っていたが、とりあえず、この杖を綺麗な状態にしてもらうとともに、持ち手の部分に柔らかい革を巻いて貰う事にした。6月6日のジルの誕生日前に取りに来るので、大急ぎでお願いして貰った。
ゴロタは、ダッシュさんにお礼を言ってから、直ぐに、カーマン国シャウルス市に戻って、クレスタと一緒に食事をする。クレスタは、ロングドレスを着ている。髪にはダイヤのティアラ、首には真珠のネックレス、ダイヤのイヤリングにダイヤの指輪と、キラキラしていた。ゴロタも、貴族服に着替え、
グレーテル王国 四精第1位白金大褒章
ヘンデル帝国 四大精霊栄誉帝国極光白綬褒章
モンド王国 3等宝珠武功勲章
ザイランド王国 四聖慈光大勲位日月大綬章
と4つの勲章を付けたり、ぶら下げたりしている。そのほかに、グレーテル王国公爵章とヘンデル帝国侯爵章を付けたら、胸にはもう何もつける隙間が無くなってしまった。腰には、『ベルの剣』を佩刀する。
ホテルには、迎えの馬車が来ていた。国王陛下の紋章が付いた黒塗りの馬車だった。お迎えは、フォンデュ宰相閣下本人だった。ゴロタの名前は、この国でも有名だ。
そういえば、以前、一度拝謁して貰いたい旨の申し入れがあったような気がするが、いつだったか忘れていた。
王城は、思ったよりも小さいものだったが、それなりに格式を感じる物だった。まあ、小さいと言っても、グレーテル王国の王城と比較しての話で、8頭立馬車が楽に入る城門とか、400名位の儀じょう隊が整列できる前庭等、外国賓客を迎えるには十分すぎる大きさだった。
城内に入ると、控えの間で、各閣僚や武官、神官、魔導官らの挨拶を受けた。ゴロタは、胸に手を当てて、30度の敬礼をし、クレスタは綺麗にカーテシを決めて挨拶をしていた。
一通りの挨拶が終わってから、謁見の儀に移った。国王陛下は、既に謁見の間の玉座に着席されており、ゴロタは、静かに呼び出しを待っていた。
国王陛下は、年齢は50歳を超えているのは間違いない。銀髪を長く上しており、癖が強いのかクルクル巻いている。身長は座っているので分からないが、体格は大きく、若い頃はイケメンだっただろうという面立ちだ。
「グレーテル王国公爵閣下にして、ヘンデル帝国侯爵閣下ゴーレシア・ロード・オブ・タイタン殿。」
呼ばれたので、そのまま謁見の間に入って行く。クレスタは、ゴロタの左後ろから付いて来る。
玉座の手前12歩の所で立ち止まってから、右手を胸に当て、45度の敬礼をする。膝をついての礼は臣下の場合のみするのが礼儀だった。クレスタも、深いカーテシで礼をする。
「余が、ブリ・ド・モー・カーマン8世である。面を上げよ。」
ゴロタは、45度の敬礼から直り、決められた口上を言う。
「私めは、紹介に預かりました取るに足りなき者、この度、ご尊顔を拝謁賜り恐悦至極。これは、私めの二心なき証、お納めください。」
そばの侍従が、大白金貨10枚をお盆の上に乗せて差し出す。物凄く、高い謁見費だが、後で、慰労金として返して貰えることになっている。大白金貨は、儀礼用として価値はあるが、流通性はゼロのものであった。ゴロタは、常に100枚程度は持ち歩いている。
謁見の儀は、これでおしまいである。次に、貴賓室において、今回の用件について相談する。国王陛下は、ゴロタの申し出に対し、非常に驚いていたが、宰相が、ゴロタの言っている事は事実で、現在、衛士隊でも捜査中であることを国王陛下に伝えると、顔を真っ赤にして怒っていた。
ゴロタの申し出は、直ぐに聞き入れられ、早速、今日から、衛士隊による討伐隊を編成することになった。当然にゴロタも、その討伐隊に協力することになり、王城を辞した後、宰相の案内で衛士隊本部を訪ねることになった。
衛士隊は、王城の直近に有り、総勢800名の大規模部隊だったが、常に全員が勤務しているわけではなく、夜勤もあるので、交代交代で勤務をしている。正門は、大きな金属製の扉になっている。これは、暴徒等が衛士隊本部を襲っても、対処できるようにするためだ。昔は、留置場に入っているゴロツキの親分を脱走させるために突っ込んで来る馬鹿どももいたそうだ。
これから、ゴロタは、この衛士隊の人達と行動をともにするわけである。
人間、身体一つあればそれなりの商品価値があるそうです。男は力仕事、女は股間でお金を稼ぐのです。