第302話 キキと言う女の子
キキちゃんが登場したのは、第29話です。あれから随分経ちました。
(5月10日です。)
今日、キキちゃんが公爵邸に来る日だ。ゴロタが迎えに行く。荷物は、大きなバッグ2つと、キキちゃんと同じ位の大きさの熊さん人形だった。
キキちゃんは、中学の制服ではなく、よそ行きのおしゃれ着を着ていた。銀色の髪の毛と真っ赤なワンピースがとても良く似合う。襟についているフリルが子供っぽいと気に食わないようだが、そんな事は無いと思う。
執事長のレブロンさんやメイド長のダルビさんも一緒だ。荷物は、ゴロタとレブロンさんが持ち、熊さんは、ダルビさんが持った。
公爵邸までは、馬車で行く。アパートの前に、公爵専用馬車を止めていたが、かなり目立つようだった。真っ白な馬6頭で引く豪華な馬車だ。キキちゃんは、執事長さん達にも驚いていたが、馬車を見て、本当に驚いていた。しかし、すぐ、うっとりとした顔になっていた。
ダルビさんが、『女の子は白馬の王子様がお迎えに来るのを夢見る頃があるのです。』と教えてくれた。あの、僕はそんなつもりありませんから。
アパートから公爵邸までは、30分位だった。昼間の王都だ。馬車も人の歩く速度とそんなに変わらない。公爵邸の中に入って行ったので、さすがにキキちゃんも普通でないことに気が付いたらしい。
玄関前で、降りるとき、レブロンさんが、キキちゃんの手を引いて降ろしてあげた。玄関の前と、中には、使用人さん達が勢ぞろいしていた。将来の奥様候補の到着と言うわけだ。それなりの礼を尽くすのが使用人の務めらしい。
ゴロタは、仕方がないので、キキちゃんの小さな手を取って、屋敷の中に入って行った。
「お帰りなさいませ。閣下。」
皆が、頭を下げる。ゴロタは、奥まで行って、振り返り、皆に声を掛ける。
「今日から、一緒に住むことになったキキちゃんです。後見人はシロッコさんにお願いしています。皆さん、よろしくお願いします。」
レブロンさんからは、『使用人に対してあまり丁寧な言葉遣いだと、示しがつかないので、もっと命令口調でお願いします。』と言われていたが、どうもそういうのは苦手なゴロタだった。
今日は、シズちゃんも屋敷にいたので、シズちゃんとシロッコさんを紹介する。シズちゃんとは、先月、結婚したばかりだと言うと、キキちゃん、顔が真っ青になって来た。しかし、早いうちに本当の事を言わないと、良くないと思い、隠すことなく話したのだ。
それからは、キキちゃん、気分が悪いからと言って、部屋で休んでいたが、シズちゃんが『そっとしておいて。』と言うので、何もせずに、シロッコさんに今後の事をお願いした。本当は、今日はエーデルとの約束の日だったが、シズが、『今日は、ここに泊まって頂戴。』と言うので、エーデルとの約束は明日することにした。
シズが、シェルやクレスタと似てきたような気がするのだが、女性は結婚すると皆そうなるのだろうか?いや、エーデルは全く変わらずに残念姫だった気がする。
夕食時間になって、シロッコさんがキキちゃんを迎えに行った。明らかに泣き腫らしたであろう顔をして、2階の自分の部屋から降りて来たキキちゃんだったが、泣いて少し気が晴れたのか、照れ笑いをしていた。
食事は、キキちゃんが好きそうなビーフシチューとオムライスだ。オムライスの上から、ビーフシチューを掛けて食べるのだ。ゴロタも好きな料理だった。
キキちゃんは、遠慮して、ゴロタの向かい側、シロッコさんの隣に座ったが、シズが、『ゴロタさんの隣が空いているときは、隣に座って良いのよ。』と教えてあげたので、シズとは反対の右隣りに座り直した。
今日は、クレスタの店から、スイーツを取り寄せておいた。桃のシロップ煮に生クリームとチョコレートをたっぷり掛けたものだ。飲み物は、甘いココアと酸っぱいブルーベリージュースだ。このブルーベリーは、シロッコさんが採取して来たものだそうだ。
キキちゃん、さすがに、女の子だ。甘いものを食べたら、大分機嫌が直ったようだ。それからは、質問攻めだった。ほとんどは、シズが答えたが、シロッコさんも興味深く聞いていた。
ゴロタは、現在グレーテル王国の公爵で、タイタン領の領主であること。タイタン領は、グレート・グレーテル大峡谷の西側全部で、その他にも帝国内にも領地があること。冒険者ランクが『SSS』であること。
そして、妻が8人、婚約者又は婚約者候補者が、キキちゃんを入れて7人いることを話した。それを聞いて、キキちゃんの顔がパッと明るくなった。
え?
キキちゃんの考えでは、すでにシズと結婚しているので、自分とは結婚できない。もう、一生愛人になる位しかできない。幸せな家庭生活は、絶対に無理だし、日陰者で暮らしていかなければならない。でもゴロタさんとは、別れたくないし。一体、どうしたらいいのか。いっそ、このまま死んでしまおうかと考えていたそうだ。
これは、あとでシズから聞いた話だが。
キキちゃんと結婚する可能性は、ゼロではない。ゴロタは、来る者拒まず、去る者追わずだ。シズには申し訳ないが、シェル以外の女性と結婚するなんて、思いもしなかったのだ。それが、いつの間にか、エーデルが増え、ノエルが増え、クレスタが増えとドンドン増えて来た。あの高1トリオなど、何故こうなってしまったのか聞きたい位だ。
キキちゃんが、爆弾発言をする。
「それでは、もう婚約候補者として、ゴロタさんと一緒に寝てもいいかしら。」
場が、シーンとなる。シロッコさんが、顔を真っ赤にしながら、それは駄目だと言った。当然である。13歳の女の子と、エッチ若しくは類似行為をしたらゴロタの領内では犯罪だ。いくら婚約者だといっても許されることではない。
「何もしなかったら、一緒に寝ても良いの?」
これも、答えにくい。現実に、ジルちゃんや高1トリオとは、お休みのキスだけだが、一緒に寝る時がある。確か、彼女達が13歳の時からだったような気がする。シズが諦めたような顔をして、絶対にキス以上の事をしないことを約束して、今日は、ゴロタと一緒に寝ることを許可してくれた。ああ、シェル、助けてください。
その日の夜、公爵邸のゴロタの部屋で、キキちゃんと一緒に寝ることになった。キキちゃんは、厚手のパジャマを着ていたが、ブラジャーはしていなかった。必要ないわけではないようだが、あえて付けていないようだ。軽いお休みのキスをして、眠ることにした。手を握っても良いかと聞いてきたので、右手を貸してあげたら、自分の胸に押し当てて来た。それは不味いかなと思っていたが、いつの間にか眠ってしまった。
夜中、キキちゃんがゴロタの下半身の上に手を伸ばして来たが、知らんぷりをして眠っていた。そういうことに興味があるお年頃みたいだ。
次の日、キキちゃんは中学に行くが、歩いて行くのはかなり遠いので、2頭立馬車を出して貰う。勿論、白馬2頭だ。御者の他に、後部に座席が2名分ある馬車だ。これから、毎日送り迎えが付くことになる。高校は、本人の希望で、王都の魔法学院か騎士学院あるいは、タイタン市のタイタン学院高等部に進学することになるだろう。王都なら、歩いて行ける距離なので良いが、タイタン市の高校だと、ゲートを使うことになる。この屋敷には、ゲート部屋があるが、自由に使われると防犯上の問題もあるので、公設のゲートを使って貰う事になるだろう。
キキちゃんの中学では、大騒ぎだった。それまで歩いて通学していたキキちゃんが、白い2頭立馬車で登校してきたのだ。女友達は、興味深々、あの馬車は誰の馬車が聞いてきた。男の子の中に、貴族の事に詳しい者がいて、あの馬車の紋章はタイタン公爵のものなので、なぜ、タイタン公爵の馬車に乗っていたのか聞きたがっていた。
学校の皆には、婚約予定の事は言わないようにと注意していたが、13歳の女の子が、そんな秘密を守れるわけがない。その日の午後、学校の担任の先生と校長先生が、公爵邸をたずねて来た。
シズは、今日は騎士学校の授業があるので、留守だったので、シロッコさんと二人で対応することになった。今までの経過を細かく説明する。婚約は未だしておらず、当分、その予定もない事。保護者は、このシロッコさんが責任を持ってくれること。今までの保護者のココ君は、今回、結婚するので、しばらくこの屋敷で預かることにしたことなどを説明して納得して貰った。
ついでに、キキちゃんの学業について聞いてみると、かなり優秀な方で、魔力量もそれなりなので、難関の王立魔法学院への進学を進めているが、本人は、中学卒業と同時に冒険者になりたいと言って、あまり勉強をしていないそうだ。それでも成績が良いのは、頭が良い証拠だろう。
ゴロタは、キキちゃんは、高校には必ず行かせるし、本人が望めば大学まで行かせるつもりだと打ち明け、二人を安心させた。
お土産に、皆さんへと大量のケーキを持たせて、中学まで転移させてあげた。校門のところでお別れしたら、是非保護者会の会長をお願いできないかと言われた。しかし、領内の治安維持で忙しいのでと丁重にお断りした。ただし、必要な時には十分な援助をするので、遠慮しないで言って貰いたいと言ったら、非常に喜んでいた。
キキちゃんが、学校から帰ってきたら、シロッコさんに叱られていた。あんなに注意したのに、ゴロタさんの事を直ぐ話すから、担任と校長先生が家庭訪問に来たことを叱っている。キキちゃんが、ベソをかきながら謝っていた。うん、まだまだ子供だと分かった。
次の日、冒険者ギルドで、キキちゃんの能力測定をした。冒険者登録をしない者の測定は禁止されているが、ゴロタの頼みを断る職員はいなかった。
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【ユニーク情報】
名前:キキランド
種族:人間族
生年月日:王国歴2013年8月1日(13歳)
性別:女
父の種族:人間族
母の種族:人間族
職業:中学2年生
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【能力】
レベル 3
体力 20
魔力 110
スキル 30
攻撃力 10
防御力 20
俊敏性 70
魔法適性 土 火
固有スキル
【鉄壁×】
習得魔術 なし
習得武技 なし
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うん、魔力値はかなり高そうだ。スキルの『鉄壁』とは、何だろう。土魔法由来のスキルかも知れない。鍛えれば、冒険者にはなれるかもしれない。帰ったら、ファイアボールを教えよう。
もう、これ以上増えたら、死んでしまいます。ゴロタが。