第301話 グレーテル王都の1日
帝国のタイタン領は、いろいろ問題があるようです。
(5月8日です。)
昨日、新婚旅行から帰って来たゴロタは、シズとともにシロッコさんを連れて、タイタン市に行く事にした。今は、領主館へ行く道の両側にバラやあやめ、つつじが咲き乱れ、見ごたえがある。
シロッコさんは、初めて見るタイタン市に驚いていた。道は、完全舗装され、建物も煉瓦作りや石造りが殆どだ。通りを歩く人たちもオシャレで、活気がある。ゴロタは、『変身』スキルで、ゴロタだという事がばれないようにしている。3人で、クレスタのスイーツ屋『ラ・パティスリ・クレスタ』に行ってみる。
今、人気のスイーツは、梅味のゼリーに大きな梅をお酒で付けたものを要れ、甘い梅酒と一緒に食べるらしいが、基本、アルコールが駄目なゴロタは、チョコバナナパフェにした。
シロッコさんは、3種類位頼んで、ペロリと食べてしまった。今日は、長い緑色の髪を、ストレートに垂らしており、とても90歳オーバーには見えない。しかし、そのミニスカートは何とかなりませんか。
そういえば、最近、シズの能力を測定していなかった。王都に戻って、冒険者ギルドに行く事にした。シロッコさんも一緒に来るそうだ。今まで、冒険者ギルドに行ったことは無いらしい。シズの母親のシロンさんは、若い頃冒険者をやっていたみたいだが、ダッシュさんと知り合ってから、やめてしまったらしいのだ。
早速、王都の冒険者ギルドへ行ってみる。相変わらず、多くの冒険者がおり、入口にはポーターや冒険者見習いが大勢いた。
シズの能力を測定機で測ってみた。
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【ユニーク情報】
名前:シズ・ブレイン・タイタン
種族:ハーフ・エルフ
生年月日:王国歴2008年1月5日(19歳)
性別:女
父の種族:ドワーフ族
母の種族:エルフ族
職業:王国騎士団少尉 冒険者ランク A
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【能力】
レベル 53( 22UP)
体力 420(210UP)
魔力 320(180UP)
スキル 600(320UP)
攻撃力 720(480UP)
防御力 350(250UP)
俊敏性 660(390UP)
魔法適性 火 闇
固有スキル
【地獄の業火】【傀儡】
習得魔術 ファイア・ボール デスペル マリオネット
習得武技 【斬撃】【連射】【誘導射撃】【遠距離射撃】
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シズもゴロタも吃驚した。開いた口がふさがらない。確かに忙しさにかまけて、能力測定を3年近くしていなかったが、この能力値は異常だ。
もう、王国騎士団では、誰も敵う者はいないだろう。いや魔導士協会だって、裸足で逃げ出すレベルだ。
特に、スキルの『傀儡』と習得魔術の『マリオネット』は、似ているようだが、少し違うようだ。『マリオネット』は、操り人形のように人間や魔物を動かすのだが、『傀儡』スキルは、きっと絶対服従の人間にしてしまう恐ろしいスキルなのだろう。使ったのを見たことは無かったが、使い方は教えないでおこう。
早速、冒険者ランクをレベル上げして貰った。10『A』ランク冒険者は、10年に1度出現すれば良い方なのに、最近は『A』ランクラッシュだ。ゴロタのチームだし、シズは王都でも有名人らしく、誰も驚かなかった。
ついでなので、冒険依頼掲示板を見ていたら、後ろから声を掛けられた。
「ゴロタさんではないですか?」
振り向くと、見たことがない青年が立っていた。身長は、180センチ位だろうか。長剣を背中に背負い、銀色のミスリルアーマーを装備している。誰だったろう。
「僕ですよ。僕。ココです。お久しぶりです。」
思い出した。今から、5~6年前、このギルドで、ポーターから冒険者になりたての男の子だった。確か、キキと言う妹さんがいたはずだが。
「今、僕は冒険者ランク『C』ですが、『B』ランクも間もないんですよ。一応、パーティーのリーダーをしているんです。」
「ああ、それは頑張っているね。キキちゃんは元気ですか。」
「はい、キキは今、中学校に通っています。今、2年生なんです。家が近いので、是非寄ってください。キキも喜びます。」
「今日は、妻と祖母がいるので、後で寄らせてもらいます。家を教えてください。」
ココ君は、ゴロタが結構喋るのに吃驚していたようだ。そういえば、あの頃はコミュ障真っ最中だったような気がする。
「ゴロタさんは、結婚されたんですか。お綺麗な奥様ですね。」
なんか、変に寂しそうだった。あれ、おかしいぞ。ゴロタは、まだ独身だと思われていたのか。という事は、絶対に、あのパターンだ。ゴロタは危険なフラグが立っているのに気が付いたが、家に寄ると言ったのだ。もう、断れない。
シズは、敏感に気が付いたようだったが、もう、いちいち気にしていられないので、ニコニコしながら、ココに挨拶をしていた。
「シズさんと言うと、あの王国騎士団の女鬼少尉、あ、いやシズ少尉様ですよね。」
「ええ、その女鬼少尉ですの。」
シズちゃん、こめかみに筋が立っていますよ。
その後、王都の公爵邸に戻り、執事長のレブロンさんやメイド長のダルビさんに、シロッコさんの事で困ったことが無いか聞いてみたところ、見るもの、食べるもの全てに質問されるのですが、答えられないことも多くて困っているとの事だった。
その辺は、今だけだからと我慢して貰った。シロッコさんの食費など経費が増加しているだろうからと、当分の費用として、大金貨1枚を預けておく。当然、シロッコさんには、毎月金貨1枚を渡すことになっている。
シロッコさんから、ゴロタにお願いがあった。自分も何か、役に立ちたいので、仕事を見つけてくれないかというのだ。ゴロタには何も思いつかなかった。シロッコさんが若い時は何をしていたのか聞くと、キノコの採取とキイチゴのジャム作りだそうだ。それではと、ジャム作りをお願いした。
できたジャムは、クレスタの店で売って貰おう。原料は、近くの森に採取に行っても良いが、ギルドに採取をお願いすれば、ランクの低い若い冒険者は喜んで受けるはずだと言った。明日、もう一度、冒険者ギルドに行って、依頼の出し方を教えてあげることにした。
シズは、これから王国騎士団に顔を出すようだ。明日から、また、厳しい稽古を付けてやらなければならないと張り切っていた。だから、女鬼なんかと言う恐ろしい二つ名を貰ってしまうんだと思ったが、当然、何も言わないゴロタだった。
その日の夕方、甘いスイーツを沢山買って、ココ君とキキちゃんの家を訪ねた。小さなアパートだったが、掃除が行き届いており、辺りには良い匂いが漂っている。ドアをノックすると、直ぐに開いてキキちゃんがゴロタに飛びついてきた。ゴロタは、そんなに親しいわけではなかったので、戸惑っていると、ゴロタの口にキスして来た。え、キキちゃん、これは何。久しぶりの再会に喜んでいるのは分かりますが、このキスはやり過ぎです。
さすがに、中学生、舌は入れて来なかったが、ココ君が呆れた顔でキキちゃんを窘めていた。部屋の中に入ると、若い女の人がいた。髪が茶色の綺麗な人だ。ココ君の婚約者だそうだ。冒険者ギルドのレストランで働いているそうだ。
キキちゃんは、当然のようにゴロタの隣にピタッとくっ付いて座った。ゴロタは、お土産のケーキを出した。余分に買ってきて良かった。
キキちゃんが、色々聞いてきた。今、どこに住んでいるのかとか、今日、一緒だった王国騎士団の人とは、どんな関係だとか。ココ君は、シズの事を話したのだろうが、結婚していることは言わなかったらしい。
ゴロタは、今、西の方の田舎に住んでいるが、最近は帝国の方でも仕事をしていると言っておいた。キキちゃんと会った当時は、まだダッシュさんの2階に間借りしていたのだから、その後、どこに行ったのか分かる訳が無かった。ココ君は、ギルドで、ゴロタの事を聞いたらしく、今、王国内でも超有名人だと言うことを知っているようだったが、黙っていた。
どうやら、あの二つ名だけを知っているらしい。タイタン公爵や『SSS』ランクの冒険者の事は、話には聞いているが、まさかそれがゴロタの事だとは思いもしなかったらしい。
ギルドでは、何か聞こうとすると、必ず情報量を取られるので、噂が飛び回る世界だ。
キキちゃんの様子がおかしい。久しぶりに会った知り合いという雰囲気ではないのだ。ベタベタしてくるし、ゴロタの手を握って離さないし。それを見て居たたまれなくなったのか、ココ君が、口を開いた。
「ゴロタさん、お願いがあるのですが。」
ゴロタは、自分一人では答えられないお願いのような気がしたが、一応聞くことにした。
「キキは、6年前、ゴロタさんにチョコレートを渡してから、『絶対にゴロタさんが迎えに来る。お嫁さんになるんだ。』と言い続けていたのです。もう6年も前の事だから、諦めろと言ったのですが、言う事を聞かなくて。」
「それで、今度、僕たちが結婚することになり、キキと一緒に住んでも良いのですが、キキが、ゴロタさんのところへ行くと言ってきかないのです。」
「それで、僕たちの結婚も伸び伸びになってしまって。お願いです。キキの面倒を見ていただけないでしょうか。いや、結婚は、まだまだ早いし、キキの気が変わるかも知れないのですが、とりあえず、2年後の中学を卒業するまでの間、お願いできませんか?」
ああ、シェルが聞いたら何というだろう。今度は中学2年生ですか?あ、そういえば、ノエルやシズと知り合ったのも、彼女達が中学2年生の時だったことを思い出した。
ココ君に少し時間を貰って、シェルに聞きに行った。シェルはキキちゃんの事を知っていて、当時から、怪しいと思っていたらしい。特に、チョコレートの日の出来事は、ゴロタは覚えていないだろうが、シェルは、女の勘で、絶対に怪しい、これは危ないと思っていたらしい。
しかし、その時のキキちゃんは、わずか7歳位だった筈。絶対におかしいと思うのだが、シェルが言うには、女には年齢は関係ないそうだ。
しかし、事情を話したら、しょうがないので、王都の公爵邸に住んで貰い、シロッコさんに保護者をして貰いましょうという事になった。
ゴロタは、ココ君の部屋に戻り、要望通り、キキちゃんを預かることにした。しかし、あくまで預かるだけで、婚約とかはまだまだ先にするので、それでも良いかと言うと、よろしくお願いしますという事だった。
キキちゃんは、目に大粒の涙を浮かべながら喜んでいた。
キキちゃんのことは、完全に忘れていました。